魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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再臨:酔いの鬼神 ~Advent:Drunk Demon Lord~
†††Sideシャルロッテ†††
「「慰安旅行?」」
部隊長室へ一緒に呼び出されたルシルと声がハモった。まさか六課のような実験部隊にも慰安旅行なんてものがあったなんて・・・。
「そうや。3泊4日の慰安旅行。行先はまだ決まっとらんのやけど、シャルちゃんとルシル君にも伝えとくな」
お茶を飲みつつ気軽に言ってくれるはやて。
「あ、ちなみにシャルさんとルシルさんはわたし達と同じ先発組ですー。で、後発組は交替部隊になっているですよー」
「え? じゃあなに? シグナムは後発になるの?」
六課の交替部隊の部隊長はシグナムだ。つまり別々になるということだ。シグナムひとりが私たちと別というのがなんかつまらない。
「そうやけど・・・。まぁ、しゃあないよ、さすがに。そういうことはしっかりやらんとアカンしねぇ」
「そうですねー。シグナムにはわるいですけど・・・」
そうだよね、やっぱり八神家みんな一緒に行きたいよね。うーん、どうにか出来ないものかなぁ・・・。
「一応、行先についてはアンケートとってるから、シャルちゃん達も行きたいところあったらアンケートに答えてなぁ」
私たちへの要件はこれにて終了。それにしても慰安旅行・・・か。部隊長室を後にして廊下をのんびり歩く私とルシル。私はみんなと旅行に行けるだけで、いやっっっほぉぉぉーーーい!なんだけど・・・
「契約の方は大丈夫・・・?」
「まぁまぁだな。軽いものばかりで少々退屈だが」
ここ最近契約がまた起き始めた。そして契約を執行するためにルシルは六課を空けることもしばしば。
「もし旅行に行けなくなったりでもしたら・・・」
「そのときはそのときだ。それに、旅行ならフェイト達と小さい頃に行っただろう? 私としてはそれだけの思い出があれば十分だ」
そう言ってルシルは仕事に戻っていった。やっぱりこのまま世界に残るつもりはないらしい。
「フェイトとの約束もあるし、何とかしてあげないと」
でもルシルだけでも残す。それが私の最後の仕事だ。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
今日は慰安旅行出発日。最初の2日間の行先はミッド東部にあるテーマパーク。
「鬼だ」
「鬼だな」
「鬼ですね」
シャルちゃんを指してヴィータちゃん、シグナムさん、シャマル先生の口からボソッとそんな単語が出てきた。そんな中、みんなの視界に入っているのは、真っ白に燃え尽きたルシル君。
「なんで!? すっごいグッドアイデアなのに、どうして批判だけ!?」
で、どうしてシャルちゃんが批判を受けているかというと、それは1時間ちょっと前に遡る。
・―・―・回想だよっ☆・―・―・
「なに? 私も一緒に先発組で連れていくだと?」
「そう! シグナムも一緒じゃないと色々つまらない! だから、私はシグナムも先発組として行けるようなグッドアイデアをここに提案します!!」
あと1時間ちょっとで慰安旅行へ出発というところで、元気いっぱいなシャルちゃんの、嫌な予感しかしない計画が私たち隊長陣に発表された。題して“シグナムも先発でGo!作戦”というものだった。
具体的には、シグナムさんをもう1人用意するというもの。普通ならそんな事は出来ない。だけど、六課にはそれを成しえる人がいた。
「というわけでルシル、シグナムの異界英雄スタンバーーーイ♪」
「アホか」
その奇跡の人ルシル君は、シャルちゃんの計画を一言で切り捨てた。それでもシャルちゃんは懸命に説きました。
「はやてやリインだって、シグナムも一緒の方がいいでしょ? 旅行は旅行でも慰安旅行! しかも機動六課で、という最初で最後の慰安旅行なんだよ!? 一生ものだよ一生もの! それなのにシグナムひとり置いてけぼりなんて・・・」
「置いてけぼりっつても、シグナムは交替部隊の部隊長だぜ? いくらなんでもそんな個人的な理由じゃムリだろ、さすがに」
「冷たっ! ヴィータ冷た過ぎ! まるで自信たっぷりのギャグが受けなくて、観客から注がれる冷えた視線、そして友人が他人のフリをするみたいに冷たい!」
喩がさっぱりだ。要するに態度が冷たいってことを言いたいんだと解釈。
「意味わかんねぇ」
「解らないならそれで結構!」
ダメだと思う。みんなもそんな表情だし、ルシル君に至っては完全に無視状態だ。
「楽しまないと損だよ、やっぱり。それが一生に一度の事なら尚更に・・・」
「・・・私だってホンマはシグナムも一緒の方が嬉しいけど・・・」
「でしょ!? というわけで、ルシルも協力して♪」
「・・・はぁ。なら、こう言い変えよう、協力したくないのではなく出来ない、と。4日間連続でエインヘリヤルが残るように召喚したら、私の魔力が涸れるだろうが」
「いいじゃん、それくらい。小っさいこと言ってないで、とっとと召喚お願い」
横暴だ。
「魔力を使う場面があるわけでもなし、万が一があるなら私たちもいるし大丈夫だって♪ だから安心して魔力を枯渇でもなんでもして、シグナムを召喚。 ていうかマスター命令❤」
「っ!? バ――はい、よろこんで」
「「「「・・・」」」」
ルシル君陥落。そっかぁ、マスター命令なんてものがあったの忘れてたよ。確かルシル君はそれには逆らえないって以前言ってたっけ。で、その効果は見ての通り絶大だった。
「我が内より出でよ 貴き英雄よ。来たれ、剣の騎士・・・シグナム」
私たちの目の前に現れるルシル君を象徴する十字架の魔法陣。蒼く光り輝いてすぐ、現れたのはシグナムさん。のアレンジバージョン。髪と瞳の色は本物のシグナムさんより若干濃い感じ。でもよく見ないとどっちが本物かは見分けがつかないくらいにそっくりだ。
「きゃあああ! ルシル大丈夫!?」
召喚直後にパタリと倒れたルシル君。召喚時間を4日間ぶっ通しという設定にした所為での魔力枯渇による失神ということ。それから使い魔シグナムさんがどの程度まで本物のシグナムさんに近いかということで試験したら、シグナムさんとは遜色のない実力を発揮した。書類整理だとか何でもシグナムさんと同レベル。いつかの、シャルちゃんのアレンジ使い魔とは決定的に違う。
・―・―・回想終わりだよっ☆・―・―・
そんなこんながあって、ルシル君は燃え尽きてる。そんな命令を平気で下したシャルちゃん。だから鬼って言われてるんだよ。それで結局シグナムさんもまた先発組として出発することになった。だけどこれから行先で起こる事をここで知っていれば、シグナムさんはきっと来なかったかも。
「まぁ出発前にいろいろあったけど、慰安旅行先発組・・・出発や!」
機動六課慰安旅行先発組、ようやく出発です。
・―・―・―・―・―・
慰安旅行初日。
ミッド東部テーマパーク『フェアリーテイルズパーク』エントランス広場。
フェアリーテイルズパークとは、ミッドチルダ有数の巨大テーマパーク。遊園地、動物園、映画館、ショッピングモール、宿泊施設などが揃っている超有名処。別の世界からも来場する常連すらいる超大型施設。
「というわけで、今から自由時間とします。集合時間は18:30。集合はここエントランス広場。それでは解散!!」
先発組リーダーのはやてがそう告げ、“機動六課”の慰安旅行が始まった。それぞれが自然と集まりグループとなって遊園地へと散っていく。だが・・・
「マジでこんなの有り得ねぇ。俺たちのグループ男ばっかりじゃねぇか」
残ったメンバーが全員男だということで、ヴァイスは意気消沈した。実際それも無理はない。何せ“機動六課”における男女の比率では大半が女子。圧倒的に男性は少ない。それゆえにこういうグループ分けとなると、自然と男は孤立する。で、そんな男だけで遊園地を回って楽しいかと訊かれれば、大半がこう答えるだろう。
「男だけで回って何が楽しい!? つうか悲しいだけだ!」
隊内に彼女でもいれば、この慰安旅行はそれはもう楽しいものになっただろう。しかし悲しいかな。ヴァイスを含めてここに残された男性陣は彼女なしな連中だ。そんな彼らにとって、この遊園地での行動は全て苦行となる。駄弁って笑ってアトラクションに並んで遊ぶ・・・男だけで。向けられる生温かい視線に耐えられるのなら問題ないだろうが、耐えられない者には地獄でしかない。
「ちっくしょー。なんで男だけなんだよ! せっかくの旅行なんだぜ? こんなのねぇよ。なんでだよ・・・なぁルシル!? エリオ!?」
「その2人なら当然のごとくいないぞ」
「ちくしょぉぉぉぉーーーッ!」
テーマパーク『フェアリーテイルズパーク遊園地エリア』に彼女なし男の慟哭が木霊する。この時点ですでに生温かい視線を向けられている。だが“グループ漢”はそれには気付かず、そのままある答えへと向かって走り出す。
「こうなったらしゃあねぇな。いくぜ、野郎ども! この旅行で彼女をゲーーーット!!」
「「「「「「「ゲーーーーーット!!!!」」」」」」」
ナンパという行動を起こす“グループ漢”。そんな彼らに幸あれ(涙)
――グループ・フェイト
「あ! あれルシルさんと乗った・・・!」
「フェイトさん! フェイトさん! あれ! 一緒に乗ったカルーセルです!」
エリオとキャロがはしゃぎながら、フェイトとルシリオンの手を引いて駆ける。ここは以前、フェイトとルシリオンとエリオ、またはフェイトとルシリオンとキャロという構成で来たことのある遊園地でもある。それはそう昔な話でもないが、エリオとキャロはそれが懐かしく思えていた。
そんな満面の笑みを浮かべてはしゃぐ2人を見て、フェイトとルシリオンも頬が緩んでいた。六課でいろいろと経験をして大人びてしまったが、やはりまだ年相応の子供だと。
「よし! フェイト! エリオ! キャロ! とことん遊びつくすぞ!」
「うん!」「「はい!」」
ここに着くまで白く燃え尽きていたルシリオンだったが、エリオとキャロの笑みを見て、全力で楽しもうとしていた。だがそれは自分のためではなく、その目に映るエリオ達のためにだ。結局、彼は自分以外の事ばかりを優先してしまう存在だった。
「っと、まずはどれから行こうか・・・?」
「「「あれ!」」」
本当に楽しそうな笑顔を見せるグループ・フェイト。その4人の姿は、どこからどう見ても仲の良い家族だった。
――グループ・八神家
「「・・・」」
順番待ちを終え、いざ有名なローラーコースターに乗りこもうとしたヴィータとリインフォースⅡは打ちひしがれていた。何故なら足りていなかったからだ。何が足りていないって? それはもちろん・・・
「元気出してヴィータちゃん、リインちゃん」
「あれだけ並んで、最後は身長が足りずにお引き取りとは・・・。さすがに同情してしまうな・・・。まぁ元気を出せ」
そう、身長が足りていなかったのだ。あと数センチ、ほんの数センチが足りていなかった。そして本気でへこんだ2人をシャマルが慰め、シグナムが同情していた。
「ま、まぁなんや・・・。まだアトラクションはあるし、ゆっくりと乗れるもん探そうな」
「・・・はいです」
「うん・・・」
2人の声に覇気はなかった。それ程までに楽しみにしていたということだ。半ばはやてに手を引かれるようにしてその場を後にする八神家。それから絶叫マシン系で、尚且つヴィータとリインフォースⅡが乗れるものを探すものの・・・
「「・・・」」
「えっと・・・」
なかった。どれも身長がもう少しというところで足りなかった。もちろん乗れるものもあったが、それは本当に小さい子供用のローラーコースター。そんなので納得や楽しめるわけもないということで、ヴィータとリインフォースをⅡは乗らなかった。そうしたらローラーコースター系は全滅となってしまった。
「はやてちゃ~~~ん・・・リインは・・・リインは・・・(泣)」
「マジかよ・・・全滅って・・・そんなのありえねぇ・・・」
その沈みようはハンパじゃなく、2人の背景にはどす黒い曇天が広がっていた。
「・・・この手は使いたくなかったがしゃあねぇ。変身魔法で身長を伸ばすっつう禁じ手を・・・」
「リインも、リインも・・・それしか・・・」
少々思考に問題が発生しつつある2人。そこまでして乗りたいという2人に、はやて達はただ見守ることしか出来なかった。
――グループ・シャルロッテ
「なかなかやりますね、シャルさんっ」
「ティアナこそ。初めてにしてはなかなか・・・!」
「ゲームセンターで鍛えたので・・・!」
「ティアもシャルさんも速ーい!」
「スバルーーー! 頑張れーーー!」
シャルロッテとティアナとスバルの3人は現在、ゴーカートでレース場を疾走中。特にシャルロッテとティアナのは一進一退の激しいバトルを見せている。他の参加者も、2人の激しいデッドヒートに興奮中。シャルロッテ達は上位組で、スバルは何とかそれに追い縋る。そしてレースには参加せず、外から応援に精を出すギンガ。
「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
「「ドリフト!?」」
「マジかよ!」
「あの姉ちゃん、すげぇぇぇっ!」
本来、このようなマシンでは出来ないようなドリフトを華麗にかますシャルロッテ。その鮮やかさに驚愕するスバルとティアナ、そして他のみなさん。
「負けてられないわ・・・!」
ティアナもそれに続いて、ドリフトはかまさないが追走していく。スバルもようやく慣れてきたのか、グングンと順位を上げていく。
「お昼代はあなたたち持ちね・・・!」
「いいえ、シャルさん。あたし達が勝たせてもらいます・・・!」
スバルかティアナが勝てばシャルロッテ持ち、シャルロッテが勝てばティアナたち持ち、という昼食代を賭けてのレース参加。しかしどの道、勝とうが負けようがシャルロッテは払うつもりでいた。ただ、少しでもみんなと楽しむためにこのような提案をした。まぁ他にもちょっとした理由もあるにはあるが・・・。2人はチェッカーフラッグが振られているのを視認した。
「「勝つのは――」」
2台が最終コーナーを同時に立ち上がろうとする・・・
「私だ・・・!」「あたしです・・・!」
そして、レース結果は・・・・
「おめでとうスバル!」
「あ、うん・・・ありがとギン姉・・・」
土壇場で優勝を果たしたスバルにギンガが駆け寄り、両手を握って上下に振るう。それなのに素直に喜べずにいるスバルの視線の先、背を丸くして落ち込んでいるシャルロッテとティアナの2人の姿があった。
「まさかあんなところでクラッシュなんて・・・」
「はぁ、好感度アップ作戦が・・・」
トップを疾走していたシャルロッテとティアナが最終コーナーでクラッシュ。とは言っても軽い接触だったが、スバルに抜かれるには十分な失速だった。そしてシャルロッテの好感度アップ作戦(今さらの上必要なし)。奢らせるとしておきながらカッコよく奢り、3人に大人としてのちょっとした余裕を見せようとする作戦。実に馬鹿馬鹿しい作戦だが、シャルロッテは少し本気だった。
「「シャルさん! ごちそうになります!」」
「すいません、ごちそうになります」
「・・・ま、いっか。いいよ、何でも頼んじゃって!」
――グループ?なのは
「なのはママーっ♪」
「はーい♪」
なのはとヴィヴィオは、2人で乗れるアトラクションをいくつかこなし、昼食を摂るため飲食店へと向かう途中だった。ヴィヴィオにとってテーマパークは全てが初めてなため、そのはしゃぎ様はすごかった。そんなはしゃぐヴィヴィオを見て、来て良かったと思いながら笑みを浮かべるなのは。だったが・・・
「ねぇ、ヴィヴィオ」
「なーに、なのはママ?」
なのはが先を行くヴィヴィオに声をかける。なのはのその表情は笑みだが、どこか惑いのある翳りがあった。
「その・・・ルシル君だけど・・・」
「ルシルパパ・・・?」
ここには居ない、ヴィヴィオにとって父親のルシリオン。なのははそのことでヴィヴィオが寂しい思いをしているんじゃないかと思ったのだ。
「ルシルく――ルシルパパいなくて・・・寂しくない・・・?」
「??・・・わたしは大丈夫だよ、なのはママ」
そう変わらない笑顔で返すヴィヴィオ。しかしなのはには判った。やっぱり寂しいんだと。
(どうしよう。フェイトちゃん達の邪魔したくないし・・・)
なのははフェイトの想いを知っているからこそ遠慮している。でもヴィヴィオに寂しい思いをさせたくないとも思う。
「大丈夫だから。だってなのはママがいてくれるもん」
「ヴィヴィオ・・・」
屈託のない笑顔でそんな嬉しいことを言ってくれたヴィヴィオを見て、なのはは決心した。フェイトに話して、ルシリオンと一緒に回らせてもらおうと。通信端末を取り出し、フェイトにコールしようとしたとき・・・
「なのは、ヴィヴィオ」
「え? ルシル君・・・!?」
「あ、ルシルパパ!」
離れたところから歩いてきたルシリオン。なのははルシリオンの姿に驚愕し、ヴィヴィオは視認と同時に駆け寄っていき抱きついた。
「どうして・・・?」
「ん? あー・・・ああ、エリオとキャロがな。それにフェイトも。ヴィヴィオのところに行ってあげてほしい、と」
苦笑を浮かべつつヴィヴィオを抱きかかえ、なのはへと歩み寄るルシリオン。
「行こう、なのは。急がないと飲食店の席が埋まってしまう」
「え・・・あ、うん」
「さぁて、何を食べようか? ヴィヴィオ」
「んー、オムライス!」
「はは、そうか。ヴィヴィオは本当にオムライスが好きだな」
「大好き!」
ルシリオンは元気いっぱいに答えたヴィヴィオに笑みを浮かべ、ヴィヴィオもまた最高の笑顔だ。そして、なのはは戸惑いつつもヴィヴィオの笑顔を見て、彼女自身も笑顔になっていた。それから3人で一通り園内を回り、その後、グループ・フェイトと合流して集合時間まで遊んだ。
そんなこんなで慰安旅行初日は終了となった。
・―・―・―・―・―・
慰安旅行2日目
フェアリーテイルズパーク:ショッピングモールエリア。
「ルシルさん、ヴァイスさん」
「どうした、エリオ?」
「あ?」
両手いっぱいに持っていた買い物袋をベンチの上に置き、すでに疲労困憊で項垂れているルシリオンと、大してすることのないヴァイスが、2人の間に座るエリオから名前を呼ばれ聞き返した。
「あの、どうして女の人の買い物はこんなにも時間がかかって、男の人は疲れるものなんでしょうか?」
「「・・・」」
エリオの弱音に沈黙するルシリオンとヴァイス。沈黙していたルシリオンが間をおかずに重い口を開いた。
「エリオ、それは男にとって永遠に解の出ない超難問なんだ。だから無理に理解しようとしないでいいんだ」
「ま、その通りだな。女の買い物っつうのはそんなもんだと思っとくのが一番だ」
「そ、そうなんですか・・・。なるほど・・・」
それで納得してしまったエリオ。朝からずっと付き合わされていれば当然の結果である。
「おーい、ルシルー! ちょーっと来てー!」
「エリオー! エリオも一緒に来てー!」
洋服店の中からシャルロッテとフェイトが顔を出して、ルシリオンとエリオを呼んだ。
「おい、お姫様たちが呼んでんぞ。荷物は俺が見てっから行ってこいよ」
「えっとじゃあ・・・お願いします」
「シャルに呼ばれたという時点で嫌な予感しかしないんだが・・・」
エリオはすぐに店内へと入っていき、ルシリオンは行くのを渋っている。
「なんだよそれ。俺は羨ましいっつうのによぉ。もしかすっと、背中のファスナーが閉めれないのぉ。だからお願い、閉・め・て❤・・・かもしれねぇだろ」
「キショいぞヴァイス。フェイト達が居るのにそれは有り得ないだろ。しかもシャルは恋人ではなく姉だ。もしそんな事があったら全力で引くぞ」
「うっせぇなぁ。あんな可愛い姉さんがいて何が不満だっつうんだよ。贅沢だねぇどうも。あーくそっ、そんなお前が憎い」
「意味が判らん。・・・はぁ、仕方ない、行くか」
「ケッ、早く行っちまえ」
そしてルシリオンも店内へと入っていく。それを見送り、ただひたすら待つヴァイス。
(はぁ、こんなことになるなら俺もナンパに行きゃあよかったぜ)
他の男性隊員は昨日と同じくナンパに繰り出していた。それなのにヴァイスはついて行かなかった。慰安旅行に来て、それでナンパしに行くということが虚しく思えていたからだ。
「・・・」
「ん? 随分と早いご帰還だな」
ルシリオンが店から出て来て、無言のまま一直線にヴァイスの居るベンチにまで歩いてきた。そしてそのままベンチに座り、「はぁ」大きく溜息をついて頭を両手で抱え出した。
「な、何があったんだよ」
僅か1、2分で変わり果てたルシリオンの様子に、ヴァイスが戸惑う。
「・・・シャルがな、まぁ可愛らしい服を手にして、私に見せてきたんだ。お世辞じゃなくその服はシャルに似合うと思った。それは確かだ」
「んだよ、だったら良いじゃねぇか」
「そうだな。それで終わりなら良かった。良かったんだ。だがシャルはその服を私の胸に押し当ててきてこう言ったんだ。うん、似合う似合う、と・・・」
「・・・そうか。大変だったな」
ルシリオンの肩を叩き、ヴァイスは何度も頷いた。
「もう・・・なんだ。髪を短くしてしまえばいいのか・・・?」
以前切ったのは半年前。ルシリオンの髪が伸びる速さはかなりのもので、すでに後ろ髪を束ねることが出来るまでに伸びている。その問題の後ろ髪をいじりながら溜息をひとつ。それからもルシリオンとヴァイスとエリオは、女性陣の買い物に1日中振り回された。
その夜、3人はホテルの部屋に到着と同時に眠りについた。
・―・―・―・―・
慰安旅行3日目
ミッド北部ベルカ自治領、観光地。
「やっぱりいつ来ても感動するね」
ベルカ自治領の景観は素晴らしく、観光地として有名だ。そのため結婚式場ランキングでも常にトップという、若者に大人気な地区である。女性陣がその景観に見惚れている時、男性陣は死んでいた。特に昨日、散々買い物、完全荷物持ちに付き合わされていた3人は。
エリオはまだ元気だが、ルシリオンはまだ疲れが取れず、ヴァイスに至ってはホテルで待機状態だ。他の男性隊員たちも裏切り者がどうとかと騒ぎ、女性陣に強制的に黙らされた。そして今はひっそりと別行動で観光している。もちろん男だけで。
「ねぇ、フェイト。あっちに結婚式場あるから、ルシルと行ってきたら」
「!!」
シャルロッテのいきなりな爆弾発言にフェイトがパニックを起こす。一気に顔を赤くし、オロオロし始めた。
「な、ななななな何をいきなり・・・そのけ、けけけけ結婚式場だなんて・・・!」
「そこまでどもるって・・・。しょうがないなぁ。おーい、みんなで結婚式場とか観に行ってみない?」
シャルロッテがその場にいた女性陣に対しそう提案すると、「行く!」と満場一致で決定した。
「あはは、やっぱりみんな女の子だねぇ。さてと、ルシルー!」
「何だ・・・? 行くなら君たちだけで行ってこい。私はここで休んでいるから」
「は? なに寝惚けたこと言ってんの? ルシルも一緒に行くに決まってるでしょ」
「随分と横暴だな」
「大人しく一緒に来なさい。この場で男ひとり取り残されて、周囲から優しい視線受けたくないでしょ?」
「それでも構わない。昨日散々付き合わされたんだ、今日くらい休ませてもらいたいものだ」
「しょうがないなぁ。マスター命令ってことで♪」
「待っ――はい、よろこんで・・・。本当に横暴だな!」
「はいはーい。とっとと行くよー!」
「好きにしてくれ・・・」
ルシリオンの涙がスルーされつつ3日目も無事に終了。とはいかなかった。慰安旅行最後の夜。ホテルの大ホールでの夕食時、奴は再びその姿を現したのだ。
・―・―・―・―・―・
「「「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」」」
「なによなによ、みんなしてつまらん顔をして。つまらん、実ぅぅぅ~~~~~につまらん。いーや、つまらんのなら楽しくすればいいだけのことぉぉ☆」
完全に酔っぱらってしまったシャルロッテ。何故このような事になったのか。それは事故だった。今回はシャルロッテも悪くはない。悪いとすれば間違って運ばれてきた酒に気付かなかったその場の全員だ。
「つうわけで、ルシル! 例のモノをっ!」
「イィィィィ!!」
そして、彼女の義弟であるルシリオン。彼はシャルロッテの言われるがままに動いていた。こればかりはシャルロッテの所為ではあるが・・・。彼女が酔っぱらったと判ると、ルシリオンはすぐさま捕縛するために動いた。だが先読みされていたことで・・・
――我が手に携えしは確かなる幻想・・・! シャルロッテ・フライハイトが命ず。今宵は我に従うシ〇ッカー戦闘員となれ!――
――イィィィィ!――
絶対順守の能力を受け、ルシリオンはシャルロッテの命令を聞くショ〇カー戦闘員となってしまった。その変わり果てたルシリオンに、哀れみの視線が送られた――
「我が手に携えしは確かなる幻想イィィィィィ!」
そんなルシリオンがお馴染の呪文を詠唱し、その手に青銅の筒を取り出していた。ちなみに魔力はシャルロッテから強制供給されているため、魔術が使用可能だ。そしてその筒を仰々しくシャルロッテに差し出した。
「あの・・・シャルちゃん、ソレは・・・?」
出来るだけルシリオンを見ずに、シャルロッテへと尋ねるなのは。正直、酔っぱらっているシャルロッテにまともな返答を期待はしていなかったなのはだったが。
「こういう場に定番な神器・・・王様ゲーーーーム!」
ルシリオンが取り出し、シャルロッテが手にしている青銅の筒。その筒に入っている青銀の棒がいくつか。これでも立派な神器の1つで、王を引いた者の命令には逆らえないという術式が組まれている。シャルロッテの返答に、みんなは一様に「・・・」口を閉ざした。
「フフフ、驚いて声も出ないというわけね。いいわぁ、その表情♪ つうわけで、参加したまえよ、なのは達!」
「しゃあないか。ルシル君があんなんじゃもう止められへんし」
はやてが渋々参加することを承諾したことで、なのは達も参加することを決めた。
「王様だーれだ!」
シャルロッテの掛け声とともに、一斉に青銀の棒を引き抜く隊長陣含めた前線メンバー+α。
「フフン、やはり私の今日の運は最高のようだな」
王冠の刻まれた棒に口づけしながら笑みを浮かべるシャルロッテ。それを見たなのは達は、一体どんな命令を下されるのかと一斉に絶望した。
「そうだな~・・・よし、全員モノマネだ!」
まさかの人数指定に「全員!?」と一同驚愕。しかしそれを完全スルーする酔いの鬼神・シャルロッテが命令発動の一言を告げる。
「命令だ!!」
強制命令が発動。
「い、1番ギンガ・ナカジマ・・・いきます。え~っと・・・N〇MCO x CA〇COMのム〇の鳴き声・・・。“ムゥムゥ”」
「失格ぅぅぅ!」
「きゃん!?」
ギンガの頭上から金タライが落ちて来て、見事にクリーンヒットした。
「次っ!」
頭を押さえながら悶絶するギンガをスルーしつつ、2番手へと指差すシャルロッテ。
「2番、えっと・・・高町ヴィヴィオ・・・です。えっと、その、バカと〇ストと召喚〇の島田〇波・・・。“アンタの指を折るわ。小指から順に、綺麗に”」
「ヴィヴィオ・・・なんて残酷な・・・(涙)」
なのはが若干泣いた。
「しっかーく! でも可愛いから許す!」
ヴィヴィオに抱きついて頭を撫でまくる酔いの鬼神シャルロッテ。一通り楽しんでからヴィヴィオを解放し、3番手を指差した。
「次っ!」
「げっ! 次は俺かよ・・・あー3番ヴァイス・グランセニック。えー、機動〇士ガン〇ム00のグラ〇ム・エ〇カー・・・。“グラハ○・エーカ○、君の存在に心奪われた男だ!!”」
「ああそう」
「ぐふっ、うがっ、のぉっ」
シャルロッテが嘆息しつつ指を鳴らすと、ヴァイスの頭に金タライが3連発クリーンヒット。ヴァイスは綺麗なふかふかカーペットへと沈んだ。
「次っ!」
「っ! よ、4番スバル・ナカジマ! えっとえっとえっと・・・。A〇IA・・・藍華・〇・グラン〇ェスタ・・・。“恥ずかしいセリフ禁止!!”」
「ダーメ♪」
「ぎゃん!」
「次っ!」
「む、次は私か・・・。5番シグナム。そうだな・・・。星〇の戦旗、エク〇ュア・ウェフ=〇リュズ・ノール。“撃つ!!”」
「ふむ・・・もう一声」
「なに?・・・むぅ。極上○徒会・副会長、銀○久遠ですわ」
「失・格!」
「っ」
シグナムは金タライを余裕で回避。シャルロッテが「チッ、空気読まねぇなぁ」と呟いた後、「まぁよい。次っ!」と6番手へ指を差した。
「ろ、6番シャマル・・・。えっと・・・武〇練金、津川斗〇子・・・。“臓物をブチ撒けろ!!”」
「う~~~ん・・・」
「えっとえっとえっと、じゃあ、うたわれ○もののエル○ゥで――」
「あぁもういいや」
金ダライがシャマルの頭上を強襲した。
「キャ!? 痛った~い!」
「次っ!」
「7番、高町なのは・・・。えっと・・・ひぐらし〇なく頃に、古〇梨花。“にぱー☆ わたしは大丈夫なのですよぉ、みぃ☆”」
「う~~ん・・・可愛いのだが・・・」
「え、えっとえっと、“消え失せろ三下が。その程度で私の運命を邪魔立てでき――」
「アウトォォォ!!」
「痛いっ!?」
最後まで言い切ることが出来ずに沈まされたなのは。
「はぁはぁはぁ・・・次っ!」
「僕・・・ですね。8番エリオ・モンディアル。その・・・ハ〇テのごとく!の橘ワ〇ルいきます。“貧相な顔で話しかけんなバーカ”」
「エ、エリオがぁ(泣)」
「ごめん、アウト」
「はい・・・っ!」
甘んじて金タライを受け、エリオも撃沈。
「次。もう少し頑張ってほしいなぁ」
「8番、キャロ・ル・ルシエ。エレメ〇タル・ジェレ〇ド、レヴ〇リー・メザーラ〇ス。“あなたは、人間の匂いがする。だから、嫌い”」
「・・・アウト」
「あぅ・・・」
「次」
「真打ち登場やね。9番、八神はやて。F〇te/stay ni〇ht、遠さ――」
「アウト」
「ええぇっ!? あいた!?」
問答無用ではやてを沈めたシャルロッテ。
「いつぅ~・・・なんでなん!?」
「なんとなく彼女は、ね。次」
「10番フェイト・T・ハラオウン。テガミ〇チ、シル〇ット・スエード。“黙って月末まで待ちなさい! このボケナス!”」
「面白い。もう一度だ」
「そ、そんな・・・ひどいよ・・・。じゃあ、けん○ファーで。“おだまりっ、堀江○衣声がっ。クサレではありません。カンデン○マネコですわ”」
「残念、アウト」
「きゃん!」
「はい、次」
「あたしか・・・。11番ヴィータ。デ・ジ・キ〇ラット、で〇こ。“目からビィィーーーム!!”」
「プッ、アウト」
「あ゛あ゛!? あだっ!」
「次」
「12番リインフォースⅡですー。えっと・・・フルメ〇ル・パニック、テレサ・テスタ〇ッサ・・・です。“マジボケェェェェェ!?”」
「可愛い。だから、もう1回、もう1回♪」
「そんなぁぁ~。うぅ・・・。テ、テイルズ・オブ・○・アビス。ティア・グ○ンツ。“調子に乗らないで”」
リインフォースⅡは髪を後ろに払いながらそうモノマネをやってのけた。
「ほう。もう1回、もう1回❤」
「うぐ・・・。むぅ・・・。が、学級王○マザキ、姫野き○き。“友情があれば年の差なんて関係ないわよねっ♪”」
「古すぎるっ! 解る人なんているのか!? いや、しかしなかなか・・・それではもう1回☆」
「ぬあ!? 何でですかぁぁ~~っ!」
「リインフォースⅡよ。ルシルの手料理の中で好きなものを所望するがよい。我の言うことを聞けば、ルシルに作らせてやる」
「ルシルさんの手料理、好きなものですかぁ~」
「返答は?」
「やりますっ☆」
リインフォースⅡは、自分の好物をルシリオンに作ってもらうという条件をのんだ。
「それじゃあですね~・・・う~~ん・・・。あっ。おとぎストーリー・天○のしっぽからです。うさぎのミ○。“ご主人様ぁ~~ん❤!”」
「リインが・・・リインが・・・、シャルちゃんに穢されてく・・・(涙)」
「はやて。諦めた方がいいよ。酔いの鬼神モードのフライハイトに逆らったら、何されるかわかんねぇから。それにさ、セインテストの手料理を餌にされちまったんだ。しゃあねぇよ」
「はぁ・・・そうやね」
「なんて愛らしいのだっ、リインフォースⅡ! だからもう1回だっ!」
「うええええ!? さ、さすがにリインばかり過ぎでは・・・?」
「ふむ。残念だが、その通りだ。仕方ない。では次に行こう・・・次で最後か」
シャルロッテが最後の1人、ティアナへ目をやった。
「じ、13番ティアナ・ランスター。ひぐらしの〇く頃に、竜宮〇ナ。“はぅ~、お持ち帰りぃ~~!”」
「失格、アウト」
「“嘘だッ!!!”」
「ごめんなさい!?」
あまりの迫力に逆に折れたシャルロッテが全力で謝った。その姿に、「え? あ、その、シャルさん?」と逆に戸惑うティアナ。
「ハッ!・・・や、やるなティアナ・ランスター。フフン、ま、まぁ楽しませてもらった。では、ルシル!」
「イィィィ!!」
ルシリオンが参加者へと再度筒を向ける。なのは達はすでに心が折れかけているが、仕方なく棒を選んでいく。
「んー? そこで見学しているシャーリー以下数十名。観ているだけじゃつまらないよね~? 参加してみないっすかぁ? あぁ?」
そんな中、シャルロッテが離れたところにいる見学者に声をかける。すると、「観ているだけで十分です!」と全力で参加することを拒否する他の隊員たち。そんな彼らに羨むような視線を向けるなのたたち参加者一同。シャルロッテは「つまらんのー」と呟きながら、視線を元に戻した。
「王様だーれだ!?」
それを無視して王様ゲームを再開するシャルロッテ。そして王になったのは、「ほほう、2回連続とは。恐ろしい強運だなぁ私」シャルロッテだった。参加者一同は再び絶望をその胸に抱くことになった。
「今度は・・・あぁ、そうしよう。2番、5番、6番、9番、11番、12番、13番」
「「「「「「「・・・」」」」」」」
そこからさらに絶望する7人は、シグナム、ヴィータ、シャマル、リイン、キャロ、スバル、ギンガ。選ばれなかった残りは安堵の表情で、本当に幸せそうな笑みを浮かべている。
「その7人には、もっ〇け!セー〇ー服かハレ晴〇ユカイのどっちかを歌って踊ってもらおう」
「何だそれはっ!?」
シグナムが猛抗議。
「ルシルー、どっちがいい?」
「イィィィ!!」
「ほう、も〇てけ、か。良いセンスだ」
「セインテストは、イィィィ、しか言ってねぇし! てかそれ以前に選んでもいねぇだろっ!」
ヴィータも猛抗議に参加。しかしシャルロッテは、「ふむ、七人ともチアユニフォーム着て、もって〇!〇ーラー服を踊れ。命令だ」と、その抗議に耳を貸すことなく命令を下した。この後、7人は青を基調としたチアユニフォームに強制着替えされ、知らないはずの歌と踊りを笑顔でやっちまいましたとさ。
「どうした諸君、元気がないぞ?」
もう一度棒に手をかけるシャルロッテ。他の参加者、特にさっき歌って踊った7人はかなりの勢いでテンションが低下中だ。
「さぁいこう。王様だーれだ!?」
一斉に引き抜かれる棒。
「二度あることは三度ある。それを今ここに実証してしまった。あぁ、私はどこまで神に愛されているんだろう。逆にこわ~い❤」
「ぜってぇイカサマだろ、テメェ!」
「お、落ち着きぃヴィータ!」
「おいセインテスト! 明らかにイカサマしてんだろうコイツ!」
「イィィィ!!」
「くぁぁぁぁ! 言葉が通じねぇぇぇぇッ!」
散々ヴィータは暴れたが、結局命令を受けたルシリオンによって無理やり押さえこまれた。
「ちょ、おい! どこ触ってんだ!」
「イィィィ!!」
「・・・ルシル・・・何してるのかな・・・?」
ヴィータに抱きつき押さえているルシリオンへとフェイトが近付いて行く。それに振り返ったことでルシリオンに隙が生まれ、ヴィータが強力な一撃を彼の鳩尾に叩き込んだ。
「イ゛!?」
ルシリオン・・・撃破。
「はぁはぁはぁ・・・」
顔を赤くしながら肩で息をするヴィータ。その姿に全員が無意識に距離を取っていた。
「ルシル・・・我が手下として見事な最期であった(笑)よし! 我が手に携えしは確かなる幻想・・・」
ルシリオンにそれだけを告げ、何事もなかったように続行するシャルロッテ。そしてルシリオンは、なのはとヴィヴィオとティアナによって介抱された。
「今度は一発芸を見せてもらおう。ここに用意した小道具を使ってもらう。ナンバーはそうだな・・・。1番、2番を引いた可愛い小羊たちとしよう。命令だ」
ヴァイス、はやての2人が前に出て、丸テーブルの上に用意された小道具を選んでいく。そしてヴァイスがボロボロのぬいぐるみを手に取って、「・・・脳みそ」とぬいぐるみの頭に開いた穴から綿を取り出し、そんなことをほざく。当然一同ドン引き。ヴィヴィオに至っては少し涙目だ。
「引っこめ」
「誰だ!? 今ボソッと引っこめっつった奴は!?」
「ヴァイス、お前にはガッカリだ」
「シャルさんの酒癖の悪さの方がガッカリっすよ!」
ごもっともな意見だった。
「次」
「う~ん・・・じゃあこれとこれで」
はやてがマネキンの顔を二つ手にして、それを自分の顔の両サイドにセット。
「阿修羅」
「あの、はやてちゃん。阿修羅って言われても・・・」
「・・・穴があるんなら今すぐ入りたいなぁ・・・(涙)」
はやてとヴァイスの心にかなりのダメージを与えつつ4回戦。
「王様だーれだ!?」
「来た来た来た来た来たぁぁぁぁ!」
王冠が刻まれた棒を手にしているのはヴァイス。そのハイテンションさと、男であるヴァイスに何を命令されるのかという不安で、女性陣はシャルロッテの時とは違う絶望を抱いた。
「ほとんどが女の子っつうこの最高のシチュエーション!! ひょっほ~~~いっ! たまんねぇなぁ、これはっ!!」
「ふむ、残念だがこの神器の物質化限界、つまり時間切れが来た。王様ゲームはこれで終わりとしよう。異議は?」
「「「「「「「「「「ありません!!」」」」」」」」」」
「納得いくかぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!!」
女性陣は迷うことなく即決。そしてヴァイスはあまりなタイミングでの終了に絶叫。
「では、次はどんなゲームを――」
「させると思っているのかこの馬鹿・・・!」
「――ッ!? バカなっ!?」
「ルシル君!!」
シャルロッテが次のゲームを考案しようとした時、ついにルシリオン(正常)が立ちはだかる。ルシリオンは、シャルロッテから受けた絶対順守を僅かに残った理性で徐々に、しかし確実に解除したのだ。
「さぁ、シャル義姉さん。私と楽しい楽しい時間を過ごしましょうか」
表情は笑みだが、確実に怒りの臨界点を超えている。酔っぱらっていても――いや、酔いすら醒める勢いでシャルロッテが怯え始めた。
「あ、いや、その、あの、だから、だって、でも・・・」
「・・・みんなは食事を続けてくれ。私と義姉さんは少し席を外す」
「助けてぇぇぇぇぇーーーーッ!!」
ルシリオンに襟首を掴まれ引き摺られながら大ホールの出入り口から消えるシャルロッテ。最後まで彼女は「助けて」と叫んでいたが、誰一人として助けなかった。このとき、この場にいる全員の思いは一つだった。いわく、自業自得だ、と。こうして最後の夜は終わった。
・―・―・―・―・―・
慰安旅行最終日。ミッド東部温泉地から六課隊舎。
ここではもう多くは語るまい。温泉。そこで起きるハプニングはお約束だからだ。時間帯によって混浴となる事を知らなかった前線メンバーと、ルシリオンとエリオとヴァイスが出くわしたというくらいなものだ。もちろんエリオを除くルシリオンとヴァイスがどうなったのかも・・・お約束だ。
「なぁ、ルシルよ」
「どうした・・・?」
「見えたか?」
「見えるわけもないし見るつもりもなかった。それ以前に、彼女たちがこちらを視認した瞬間、一斉に魔法を放ったきたからな。・・・ふぅ、今こうして生きて話しているのが奇跡だ」
「へっ、まったくだ」
慰安旅行から帰り、六課隊舎の庭先の木に蓑虫のように簀巻きにされて吊られているルシリオンとヴァイス。そんな2人の声が、庭に悲しく聞こえていた。
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