魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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世にも不思議な世界の冒険?
†††Sideティアナ†††
「ねぇ、ティア」
「なによ」
「なんであたし達、こんなトコにいるんだっけ・・・?」
「こっちが聞きたいわよ」
あたしとスバル、2人揃って気がつけば、そこは異世界だった。だってどう見てもミッドじゃなくて、さっきまで居た六課でもないもの。見た目以上にここは何かが違うと解る。そう、まるでゲームの世界のような・・・気味の悪い綺麗さがある。現実感がない。現実じゃないと断言できる。“違う”と本能が訴えかけてくる。
「エリオとキャロ、あとたぶんだけどヴィヴィオも居るはず・・・。だからまずはみんなと合流するのが最優先。いいわね、スバル」
エリオ達3人を、あたしは意識を手放す前に見た、ような気がする。もしそうならあっちもあたし達を探しているはず。下手に動くのもまずい気がするけど、今は動くしかない。ここで動かなかったらもう二度と戻れないような気がするから。
「う、うん。そうだね!」
スバルが強く頷いた。口に出したくは無いけど、スバルと一緒で良かった。
「まずは人を探しましょ。たぶんあの子たちもそうするはずだし。んで合流したら改めて情報収集、と言ったところね」
見渡す限りの広大な平野。それは地平線の彼方まで続いている。というか人が居るかどうかも判らないし、これは一筋縄にはいかないかも。
「とにかく行きましょ。じっとしてても始まらないわ」
歩き出す。周囲どこを見ても平原だから方角も判らない。当てのない、いつ終わるともしれない移動を始めた。
「ねぇ~、ティア~。何でこうなったんだっけ~?」
無言で歩くのに飽きたのか、隣を歩くスバルが似たようなことをまた聞いてきた。どうしてこんなところにいるのか。それは確か・・・そう、確か昼休み・・・だったはず。まずい、少し記憶が曖昧っぽい。え~っと、あー、午前の訓練を終えて、寮のシャワールームから隊舎へ戻ろうとした時、ヴィヴィオが本を読んでいたんだっけ。それで、声をかけて・・・。
「ヴィヴィオの持っていた本を見せてもらっていたら、突然本に黒い穴が出来て呑み込まれた、はず・・・」
そう、そうだ。あの分厚い本。ヴィヴィオのような子供が読むような本じゃないアレ。開いた本から黒い穴が出て来て、その場に居たあたし達は呑み込まれた。
「あー、そうだったっけ。でもあの本ってなんだったのかな? もしかしたらアレもロストロギアとか・・・?」
「もしそうなら精神転換のオルゴールに続いて、になるわね。でも違うと思うわ。あの本ってたぶんルシルさんのものと思うから」
先日まで起こっていた3日間の精神転換というとんでも事件。原因は最終的にロストロギアと認定されたオルゴールだった。で、その最終日に何があったのか詳しくは知らないけど、ルシルさんが大量の書物を呼びだしたという話だ。2階の共同ロビーいっぱいを埋め尽くした本の山。ヴィヴィオが持っていた本の何冊かは、たぶん未回収のルシルさんの本。
「う~ん、ルシルさんってホントすごいよね。使い魔もそうだし魔導師のレベルとしても」
頭の後ろで手を組みながらスバルがそう口にした。実際はすごいというレベルの遥か上だ。ルシルさんもシャルさんも謎が多すぎる。今までは全然そんな風には考えなかったけど、ここ最近は何故かそういう“思考”が生まれてしまう。
(まるで今までそういう考えが出来ないように、邪魔されていたような感覚・・・)
何かに――誰かに“あたし”の思考が操られている・・・?
(そんなことあるわけないわね)
馬鹿な考えだ。
「・・・ア・・・ティ・・・ティア!!」
「っ!?」
あたしのすぐ目の前にあるスバルの顔。あまりにもいきなりだったから、ビクッとしてしまった。
「急になに!? ビックリするじゃない!」
「何度呼んでも返事しないティアが悪い! それより周り!」
「周りって・・・なによこれ!?」
さっきまでは平原を歩いていたはず。なのに、いつの間にか石造りの通路へと光景が変わっていた。あたし達が混乱する中、さらにあたし達を混乱させる要素が通路の奥からやってきた。
ピ~~ヒャラ~~~~~♪
通路の奥から、通路いっぱいの幅を持つ巨大な岩石と、その上に立って変な踊りをしているお爺さんがやってきた。
――キタキタオヤジ&お約束トラップが現れた――
「「っ!?」」
硬直も一瞬。すぐに反対方向へとダッシュで逃げる。いろいろと頭の中が真っ白になってしまっている。それほどのインパクトをあたしに与えた半裸のお爺さん。というか、どうして高速で転がる丸い岩石の上で踊れるのかが不思議でたまらないわ。
「さぁそこのお嬢様方もご一緒にっ。伝統のキタキタ踊りで、世界平和といきましょうぞ!」
ピ~~ヒャララ~~~~~♪
幻聴だ幻聴。きっと幻聴に違いない。もし幻聴じゃないなら、死んでもイヤです。そんな踊り。
「ティア! 魔法でどうにかした方がいいかも・・・!」
隣を全力ダッシュするスバルからの提案。そうだ。何もご丁寧に走って逃げる必要はないんだ。
「そうね! クロスミラージュ!」
「マッハキャリバー!」
「「セットアップ!!」」
待機モードの“クロスミラージュ”を手にして起動しようとしたけど、何の反応もなかった。諦めずに何度も試してみるけど、やっぱり反応はなかった。
「うそーっ!」
「なんでなんでなんでなんでなんで・・・!?」
スバルも同じらしく、“マッハキャリバー”を振ったり指で突いたりしている。推測としてはここでは魔法が使えない、と考えるべき。
「魔法使えないだけでここまで弱体化って・・・」
足を止めることなく走り続ける。いくら鍛えていたとしても魔法が使えなくなれば一般人と変わりない。迫る岩石と踊り続けるお爺さん。そのお爺さんには若干殺意が沸く。
「「・・・え?」」
急に足元から来る衝撃――地を蹴る感覚がなくなって一瞬の浮遊感に襲われる。
「「お・・・」」
スバルとほぼ同時に真下を見て状況を確認。足元に拡がるのは闇。ハッキリと言えば、「落とし穴ぁぁぁぁぁ!」だった。
「「いやああああああ!」」
浮遊感もなくなって真っ逆さまに落ちる。何か! 何か手は・・・!
「スバル! ウイングロード!」
「魔法は使えないよ!!」
そうだった。落ち着け、落ち着くのよティアナ・ランスター。きっと何か良い手があるはず・・・。結局、何も考えつかずに落ちて・・・
「「いっっっったぁぁぁぁぁい!!」」
思いっ切り尻もちをついた。でも不幸中の幸い、あんな高さから落ちておいて傷一つなかった。
「くぁぁぁ・・・お、お尻が・・・」
スバルは未だに痛みに悶えているけど、あたしは周囲を警戒する。もちろんあたしだってお尻が痛いけど、そんな甘いことは言ってられない。
「・・・なに・・・?」
この空間の中央からせり上がるのは、ライトアップされた円柱型のステージ。スモークもものすごいし、どこからかコーラスも流れてくる。
「ティア・・・!」
スバルが立ち上がってあたしのところまで駆け寄ってくる。ステージに最大警戒しながら出口を探そうとした時・・・
「わーっはっはっはっはっはっは!! よく来たな人間どもよ!!」
ステージの上に立つ・・・何アレ? 明らかに人じゃない、甲冑を着こんだ二足歩行の獣が叫んだ。
――魔物カセギゴールドが現れた――
「オレ様を倒しに来るのは勇者と思っていたが、たかが小娘が2人とは! まぁいい! とくとオレ様の爆笑必至の強力な水中バレエを見て、窒息死寸前まで笑い転げた後、このオレ様が直々にお前らの鼻水を面白おかしく飲み尽くしてくれるわっ!」
「「・・・」」
言ってることがメチャクチャと言う次元を遥かに越えている。もし万が一、億が一でも実行してくるのであれば、全力で逃げないとあたし達は二度と表に出られないほどの精神的ダメージを負うことになる。
「・・・・って、なんじゃこりゃぁぁぁぁ! 誰がそんなものを飲み尽くすか馬鹿者ぉぉぉ!」
二足歩行の喋る獣が手にしていた本を床に叩きつけたかと思えば、ステージから飛び降りてどこかに走り去っていった。静かになったこの空間にポツンと取り残されたあたしとスバル。
「・・・行くわよ」
「うん」
すでに見つけておいた扉から出る。左右に伸びる石造りの通路。ジャンケンの結果、右を選択。周囲を警戒しながら通路を進んでいると、「・・・あ」スバルがいきなり立ち止まった。その表情は凍りついているように見える。
「ご、ごめんティア。あたしやっちゃったかも・・・」
「やっちゃったって何を・・・?」
そう返すと、スバルがゆっくりと自分の足元を指差した。それに続いてあたしもスバルの足元を見て、何をやったのかが判った。スバルの右足が沈んでいた。それはトラップを動かすスイッチのようなものだ。
「「っ!?」」
直後、何が起きたのかは解らなかった。だけど、そこで意識が途切れたのは確かなことだった。
『GAME OVER』
†††Sideティアナ⇒エリオ†††
「キャロ、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。エリオ君は?」
「僕も大丈夫」
座り込んでいたキャロの手を取って、立たせながらお互いの無事を確認。
「スバルさんとティアさんがいない」
「うん。それとフリードとヴィヴィオも」
ここに来た時のことを思い出す。少し霞みがかかっている記憶だけど、それなりの事は思い出せた。スバルさんが開いた分厚い本から黒い穴が出て来て、そのまま僕たちは呑み込まれた。
「変わった場所・・・だね」
キャロの言う通り変わった場所――というより現実感のない空虚な世界。何故かそう思ってしまう。本能がそう告げてくる。ここは“違う”って。
「キャロ、まずはスバルさん達を探そう。たぶん人のいる場所まで行けば会えるから」
スバルさん達もきっと人のいる場所に行こうとするはずだ。だからまずはここから移動しよう。とした時、どこからともなく爆発音が轟いた。
「エリオ君!」
「うん! 僕から離れないでキャロ!」
キャロの手を取って黒煙が上がっている場所へ向かう。たとえここがどこであっても、管理局員として見過ごすことは出来ない。
「・・・あれは質量兵器!?」
「きゃあっ!」
僕たちの目の前を通過する爆炎。その爆炎の元凶たる、色違いだけど同じ姿の人?達が居た。何て言うか、顔はなのはさん達の出身世界“地球”で見たテレビのような四角い形。後頭部から棒のようなものが生えていて、先端に球体がちょこんと付いている。そしてどこからともなく導火線の付いた丸い爆弾を取り出して、置いては投げて、別の人?達を吹っ飛ばしていた。
「と、止めないと! ケリュケイオン!・・・あれ・・・?」
「そんな・・・! ストラーダ!・・・ダメだ、応えてくれない!」
“ストラーダ”と“ケリュケイオン”が応えてくれない。まさか、ここじゃ魔法は使えないということなんだろうか。
(どうする。魔法が使えない僕たちじゃ何も出来ない・・・!)
魔法が使えないだけで何の力もない普通の子供になってしまった僕たち。こうして手を拱いている間にも次々と爆発が起きて、その衝撃や爆炎で吹っ飛ぶ人?達を見届けるしか出来ない。
「ねぇ、エリオ君。爆発に巻き込まれた人?なんだけど・・・」
キャロの指差す方に目を向けると、この空間を仕切っている壁の上にある乗物から爆弾を投げる何者か。よく見れば、さっき吹っ飛んだ人?だった。
「「・・・」」
どうすればいいのかさっぱり判らなくなってしまった。もう僕たちに出来ることは無い。その上爆発しても生きている人?達なんて・・・。ここはもうそういうところだと割り切るのが一番みたいだ。
「っ、ホイッスルの音・・・?」
ピィーッと音がしたと同時に乗物が消えて、頭上からブロックが落ちてきた。それはものすごい勢いで落ちて来て、プチっ、と爆弾の人?を押し潰した。
「・・・」
「うわぁっ! キャロ!?」
あまりのショッキングな光景にキャロが意識を手放してしまった。
「まずはどこかに避難しな――」
キャロを背負って移動しようとした時、僕たちの真上にブロックが・・・
「あ」
プチっ
――Game Over――
†††Sideエリオ⇒スバル†††
「なんとぉぉぉぉぉぉ!! 飛び入り参加がお2人!」
その男の人の声で目が覚めた。
(あれ・・・? あたし、どうして・・・?)
確かあたしがトラップを発動させて・・・どうなったんだっけ・・・。
「そだ! ティア!? ティア!?」
「スバルうるさい。ちゃんとあんたの隣に居るから」
良かった。ホントにあたしの隣にティアが居てくれた。安心したおかげであたしにも余裕が出来て、周囲を見渡す。
「ティア・・・。えっと、ここって・・・闘技場・・・?」
昔観たことがある映画に出てきた闘技場のような場所。闘うための円いエリア、人がたくさん居る観客席、そしてマイク片手にあたし達のトコまで歩いてきた司会者?の人。その司会者さんがあたし達にマイクを向けて、「可愛らしいお嬢さん方、お名前を」って聞いてきた。どうしようかとティアを見ると、大きく溜息を吐いた、
「ティアナ・ランスター」
「ス、スバル・ナカジマです!」
ティアが堂々と名乗ったからあたしも名乗った。すると観客席から大きな歓声が聞こえてきた。なんか恥ずかしいような嬉しいような、妙な感じ。
「ティアナ嬢にスバル嬢ですね。ありがとうございます。さて! その美少女コンビに対するは、嘘に関して彼の右に出るものはいない!」
紹介からして対戦相手がまともじゃないのが判った。というか完全にあたし達が参加してることになってるんだけど・・・。
「キャプテーーーーーン・・・ウソップーーーーーッ!」
湧き上がる歓声。
「そして! 彼とコンビを組むのは、異性の守備範囲がバリ広っ!その上神父のクセして冒涜心の権化でクサレ外道!!」
うわぁ、酷い言われようだ。
「100戦100敗のナンパ師! アダム・・・ブレイドォォォォッ!!」
歓声じゃなくてブーイングの嵐が巻き起こった。向こう側から、紹介された対戦相手が出てきた。1人はあたし達と同い年くらいの男の子なんだけど鼻が異様に長い。そしてもう1人、上半身裸のムキムキの筋肉質、ロングコートにサングラス。もしあの人が神父だったら引く。
「ねぇ、ティア」
「なに?」
「あたしたち魔法使えないのに勝てるのかな・・・?」
もう戦うという選択肢しか頭に思い浮かばない。
「判らないわ。でも、お願いクロスミラージュ、力を貸して」
その瞬間、ティアの制服がバリアジャケットに変わっていて、手には“クロスミラージュ”が握られていた。
「魔法が使える・・・!」
さっきまでは使えなかったはずの魔法が使える。
「マッハキャリバー!!」
あたしの制服もバリアジャケットへと変わる。右手にはちゃんと“リボルバーナックル”がある。声は聞こえないけど、なんとなく通じてる気がする。これなら戦える。
「では、ティアナ、スバル組対キャプテン・ウソップ、クサレ外道組・・・ファイッ!」
解説席と思う場所から開始の合図。
「よーーーく聞けぇぇぇぇぇ!!」
こっちが動く前に先手を取られた。肩から下げたカバンの中からメガホンを取りだした長鼻君。右手をこちらに向けると、「ウソーーーーップスペル!! 爪と肉の間に針が深く刺さった!!」大声で叫んだ。
「「・・・」」
「俺には100万人の部下がいる! 降参するなら今のう――」
――クロスファイアシュート――
長鼻君の喋ってる途中でティアが“クロスミラージュ”を撃って、ガツンと直撃させた。そしてゆっくりと倒れた長鼻君。
「おおおっとぉぉぉぉ!! キャプテン・ウソップを瞬殺だぁぁぁぁぁ!!」
盛り上がる観客席。
「ぅおおおおおおおおおお!」
残りのクサレ外道さんが雄叫びを上げながら走ってくる。
「行くわよスバル!」
「うん! うおおおおおおお!!」
一気に距離が詰まる。
――リボルバーキャノン――
「甘いぜお嬢ちゃん!!」
――カンダタ・ストリング――
「っ!?」
クサレ外道さんの指から出てきた糸で縛られた。これはバインド・・・じゃない。魔法ですらない。
「ごめん、ティア! そっち行った!」
糸を切ろうとするけど切れない。情けない。あたしはこんなにも簡単に負けた。
「ティアーーーー!」
ティアに視線を向ける。ティアはクロスファイアを撃ってるけど、クサレ外道さんの動きが速過ぎて当たらないどころか追いつけてもいない。強い。強過ぎるよ、あの人。
「しまっ――」
一瞬で懐に入られて、ティアの顔が強張るのが見えた。そして・・・
「結婚してください!!」
「「・・・・」」
クサレ外道さんがどこからともなく取り出したバラの花束。それをティアに差し出して、突然ティアにプロポーズした。ティアはニコッとして、“クロスミラージュ”を突きつけると容赦なくクサレ外道さんを撃った。
「・・・えー、ティアナ、スバル組の勝利ーーーーー!」
なんだろう、何かいろいろと納得行かない。
「続きまして! ジェイド・カーティス大佐と間桐桜の腹黒コンビ!」
「いやぁ、参りましたねぇ」
「腹黒なんてひどいです!」
「対するのは、世界を救う神子さまであり究極の天使なドジっ娘コレット・ブルーネル! そして! 何もないところでコケるのが当たり前、溝があればハマらずにはいられない、早口言葉だと9割5分で舌を噛むクイーン・オブ・ドジ、プリノ・ハーウェルの天然娘コンビ!!」
もう巻き込まれるのも嫌だから、ティアと一緒にコッソリ闘技場を後にした。でも今度の闘いは少し観てみたかったかも。
†††Sideスバル⇒キャロ†††
「エリオ君! 起きてエリオ君!」
気を失って倒れてるエリオ君を揺らす。
「ようこそ、猫王国グレートキャッツビレッジに♪!」
「っ!?」
そこにいきなり現れたのは・・・なんだろう、二頭身猫?ちゃんで、そう話しかけてきた。
「あちしはネコアルク。お困りかにゃ?」
「え? あの・・・キャロ・ル・ルシエです・・・」
わたしは礼儀として名乗り返す。するとネコアルクちゃんは「にゃにゃにゃ」と変わった笑い声を上げた。
「さっきからSOSサインをキャットしていたにゃ。何に困っているのか教えてもらおうかにゃ~」
「えっと、ここから出るためには・・・あ」
疑わしいけど、こんな場所での親切は大助かりだから、脱出方法を聞こうとしたその時・・・
「にゃ゛!?」
「ちょっと! 今帰るから、すぐ帰るから、とっとと帰るから出口開けなさいよ、ブサイクモザイク猫!」
また別の――全てが白い女の子が現れて、ネコアルクちゃんの頭を後ろから踏みつけた。
「あら? なに、あなた達。異界英雄じゃないのね」
ネコアルクちゃんの頭を踏みつけている右足をグリグリしながら、わたしとエリオ君を見てそう言った女の子。エインヘリヤル・・・わたしの知らない言葉。だから「その・・・エインヘリヤルってなんですか・・・?」って聞いてみた。
「そんなことも知らないで、どうして英雄の居館に居るのかしら?」
また知らない言葉が出てきた。でも、この白い女の子はここがどこなのか知っているみたい。
「あのっ、えっと・・・」
「? あぁ、私はレン。他の人たちは白レンとも呼ぶわ」
「じゃあレンちゃん。わたしはキャロ・ル・ルシエといいます。それでその・・・ヴァルハラとかエインヘリヤルのことなんだけど・・・」
「にゃあああああああ!! あたしをシカトとはいい度胸ぉぉぉぉぉッ!!」
「うるさい! 貴方は大人しく出口を開ければいいのよ!」
ネコアルクちゃんとレンちゃんの口げんかが勃発。それはどう見てもしばらく止みそうになかった。それから5分くらいして・・・
「はぁはぁはぁ・・・」
「にゃっにゃっにゃっ。十分楽しめてからもー逝って良し! あでゅー、キャロ・ル・ルシエ! ばぁい、ツンデレマイシスター!」
「「・・・」」
ネコアルクちゃんがロケットと化して空高く飛んで行った。それと同時に周辺の光景が揺らいで、広大な雪原になった。
「や、やっと真夏の雪原に帰れた・・・」
「ん・・・うん・・・」
「エリオ君!」
エリオ君が良いタイミングで目を覚ましてくれた。それで今がどういう状況かを説明した。それから、レンちゃんからここがどこなのか改めて聞いてみた。
「――つまり、エインヘリヤルは私たちのご主人様であるルシリオンの使い魔。そしてヴァルハラというのは、そのエインヘリヤルの存在する世界のことよ」
レンちゃんから聞かされた事実。ここがルシルさんの使い魔さん達の世界だったということ。
「それで、あなた達の話を聞いた限りだと、聖門開書を開いたのだと思うわ」
ヴァルグリンドという本。その本があれば、ルシルさん以外の人でも使い魔さんを召喚できるとのこと。わたし達を呑み込んだあの分厚い本がそれだったみたい。
「で、いちエインヘリヤルの私じゃあなた達を元の世界に返すことは出来ないの。だから、エインヘリヤルの王の居るエリアのところまでは行かせてあげるわ。そこからはあなた達だけで頑張ってちょうだい」
「うん、ありがとう、レンちゃん」
「ありがとう、レン」
「かまわないわ。ルシリオンの知り合いなら助けないとダメだから」
レンちゃんが雪原の少し先まで歩いていって、何も無かった空間に扉を創った。そしてレンちゃんはわたしとエリオ君に振り向いて・・・
「さようなら、キャロ、エリオ。必ず現実世界に戻れるから安心しなさい」
扉の先に指を差して、わたし達が扉を潜るのを見届けてくれようとしてくれた。
「レンちゃん、わたしたち友達だよね・・・?」
「そうね。でも元の世界に戻ればきっと英雄の居館のことは忘れるわ。イレギュラーであるあなた達には記憶は残らないと思うから」
「っ! そん――」
背中をレンちゃんに押されて、わたしとエリオ君は何も言うことが出来ずに、レンちゃんとお別れになった。
†††Sideキャロ⇒????†††
「スバルさん! ティアナさん! エリオさん! キャロさん!」
フリードにまたがって、わたしと一緒に落ちちゃったスバルさん達を探す。だけど見つからない。わたしのせいだ。わたしがルシルパパの本を勝手に持ち出したから。
「・・・なのはママ、ルシルパパ、フェイトママ・・・っく、ひっく・・・」
泣いたらダメなのに、強い子じゃないとダメなのに・・・。
「あの・・・大丈夫ですか・・・?」
「っ!?」
空の上、フリードの上にいるのに声が聞こえた。すぐに周りを見てみると、すごく綺麗な「天使・・・さん・・・?」が隣を飛んでいた。シャルさんのような紅い羽じゃなくて、白と黒の羽を持っている女の人。それに尻尾もあって、その先にはかわいいリボンが結んである。わたしがぼーとしていると・・・
「天使・・・? クス、ありがとうございます。でも私は天使じゃないんですよ。私はディズィーといいます」
「あの、高町ヴィヴィオです。そしてこの子はフリードリヒです」
すごく優しそうな笑顔。この人は悪い人じゃない。フリードにもそれが分かるみたいで、大人しく飛び続けてる。
「ヴィヴィオちゃんとフリードリヒ君ですね。よろしくお願いします。それでヴィヴィオちゃん。何か困っているみたいですけど・・・」
「はい・・・」
それから下に降りて、ディズィーさんはわたしのお話を聞いてくれた。本の中に入ったこと、スバルさん達と離れ離れになったこと、どうすればいいか分からないこと。
「・・・英雄の居館に、ルシリオンさんの意思に関係なく入ってきたということですね」
わたしの話を聞いたディズィーさんが教えてくれた。ここがヴァルハラという場所で、ルシルパパの使い魔さんの世界だということ。
「ごめんなさい、私じゃ帰せないんです。だけど大丈夫。ヴィヴィオちゃんを元の世界に戻すことが出来る方のところまで連れて行ってあげますから」
わたしの手を引いて笑顔を見せてくれるディズィーさん。すごく安心できるから、さっきまであった不安がきれいになくなっていた。
「あの、そんなことが出来る人がいるんですか・・・?」
「ええ、きっと力になってくれるはずです」
「どんな人なんですか・・・?」
「ルシリオンさんのお姉さんで、ゼフィランサスさんという方です」
†††Sideヴィヴィオ⇒ティアナ†††
「もうー、何なのよぉ・・・」
「ティア~、あたし、もうダメっぽいよ~」
スバルと2人してへたり込む。正直なのはさん達の教導よりしんどい。わけの解らない人に追いかけられるわ、闘技場ではプロポーズされるわ、変なクイズに参加させられるわ、心がもう擦り切れそう。
(なによ、マジカ○バナナって・・・)
「海と言ったら青い、青いと言ったら空、空と言ったら広い・・・」
「やめて、スバル。悪夢が蘇りそう・・・」
終わりの見えない連想ゲーム。特にあのシャナって子はとんでもなかった。
「あー・・・でも、マ○カルプッシュとかは結構白熱して面白かったよね~」
「どこがっ!? 面白いってアレのどこがっ!? あたし、もう少しで解体されて死ぬところだったんだけどっ!!」
判らないと思った問題の時は、相手チームに解答を押し付けるっていうゲーム。あたしも判らなかったから相手チームに押し付けようとしたんだけど、向こうもそうだったようで、こっちのボタンを押しに来た。
「んー、ティアだけは確かに。名前、えっと・・・なんだっけ? 赤屍さん?」
「思い出すも嫌だからやめて」
あの怖すぎる第一級超危険指定人物。ニコニコした表情だというのに、あれほどの恐怖は生まれて初めてだった。だからスバル、二度と思い出す必要ないからあんなやつの名前なんか。
「いきなりメス出して怖かったけど、でもセフィロスさんとアティさん、栄琳さんのおかげで勝ったから良かったよね」
それに関してはスバルの言う通りだ。偶然あたし達のチームに入ってくれたセフィロスさん達のおかげで何とか生き残ることが出来た。クイズはアティさんと栄琳さんのおかげで勝てたし、血生臭いことはセフィロスさんのおかげで回避できた。
(あのときのセフィロスさん、カッコよかったなぁ)
って、何を考えてるのあたしっ。
「それより早くゼフィランサスさんって人に会いに行くわよ!」
いろいろと聞き回ったおかげで判ったこの世界の正体。ここはルシルさんの使い魔の世界だということ。だからさっきまで会っていた人はみんな、ルシルさんの使い魔・・・。そして、ヴァルハラというここの管理者がゼフィランサスさんって人ということも判った。その人もルシルさんの使い魔エインヘリヤルで、唯一ヴァルハラ全体に干渉出来る人だということだ。
「もう変な事に巻き込まれないうちに行くわよスバル!」
「うん!」
†††Sideティアナ⇒エリオ†††
「さっきの人たち、エリオ君やスバルさん以上の大食いだったね」
「あはは、うん。僕もさすがにあれは・・・」
レンに教えてもらったヴァルハラ宮殿に向かう途中、お腹が空いていることに気付いて立ち寄った店。そこには僕やスバルさん、ギンガさん以上の大食いさんがいた。僕たちより少しお姉さんのリナ・インバースさん、そして大人のメーベルさん。インデックス(目次、だなんて変わった名前だけど)さんはまだマシな方だったけど。正直あの食事風景は見ているこっちが胸やけしそうな感じだった。
何とかあそこから脱出できたけど、もう少し出るのが遅かったら、僕たちと入れ違いで来た人のように大食い競争に巻き込まれていた。そんな僕とキャロはここまでいろんな人たちと出会ってきた。たとえば・・・
「このバカ犬ぅぅぅぅ!!」
「うわぁっ! やめろルイズ! そんなの食らったら死―――ぎゃあああああ!!」
杖を持って追いかけ回す女の人と、爆発に煽られて吹っ飛んだ男の人。その光景がどうしてかシャルさんとルシルさんのように見えた。それに・・・
「テメェら、黙らねぇと撃ち殺すぞ!」
「三蔵がキレた!?」
「あはははははは!!」
「八戒! 笑ってねぇで、銃ぶっ放すクソ坊主を止めやがれっ!!」
すごく仲が良い男の人たちも見た。でも街中であんなに暴れていても、誰一人として止めようとしないのもすごかった。たぶんああいうのは日常茶飯事なんだと思う。えっと他にも・・・
「この世の理は即ち速さだと思いませんか? 物事を速く成し遂げればその分時間が有効に使えます! 遅い事なら誰でも出来る! 20年かければ馬鹿でも傑作小説が書ける! 有能なのは月刊漫画家より週刊漫画家、週刊より日刊です! つまり速さこそ有能なのが、文化の基本法則! そして俺の持論なんです!!」
「・・・」
「俺はこう思うんですよ、運転するなら助手席に女性を乗せるべきだと。密閉された空間、物理的に近付く距離、美しく流れるBGM。体だけでなく2人の心の距離も縮まっていくナイスなドライブ。早く目的地に行きたい、でもずっとこうしていたい、この甘美なる矛盾。簡単には答えは出てこない、しかしそれに埋もれていたいと思う自分がいるのもまた事実!どうですかぁ?」
「・・・」
「ん~~~~~、俺はこう思ってるんです、人々の出会いは先手必勝だと。どんな魅力的な女性でも、出会いが遅ければ他の男と仲良くなっている可能性もある。なら出会った瞬間に自分が相手に興味があることを即座に伝えた方がいい、速さは力です。興味を持った女性には近づく、好きな女性には好きと言う、相手に自分を知ってもらうことから人間関係は成立するのですから。時にそれが寂しい結果を招くこともあるでしょう、しかし次の出会いがいつまた来るかもしれません!!」
「いい加減にしてください!」
すごく早口な男の人が女の人にフラれてた。ビンタをその長身な男の人に食らわせて立ち去る女の人。それを頬を押さえながら見送っている男の人が、
「そ・・・そんな・・! 何故だぁぁーー! キャラが濃すぎるのか!?」
残像を残す勢いで走り去っていった。あの人もまたルシルさんの使い魔エインヘリヤルなんだろう・・・。
「もう一度だけでも抱き締めたかったなぁ、ピカチュウ」
キャロが残念そうに呟いた。ここに来るまでに出会った動物で、電気ネズミとか言われていた。そんなピカチュウが集団で踊っていたのを見たキャロの暴走っぷリはすごかった。
「でも、ビリリダマって子の自爆には参ったよ・・・」
そんな中現れた球体の子。それも生物と聞いてかなり驚いた。どんな感じの子なんだろうと思って触れたら、ドカンッ、だった。あまりにも不意打ち気味な自爆攻撃。僕たちにあの子たちの名前を教えてくれたクリフ・フィッターさんもそれを見て大爆笑。
――すまんすまん。そいつらのこともまぁ許してやってくれ――
本当にいろいろあった。でもここでの記憶がレンの言っていた通りに無くなるんだとしたら、それは寂しいと思う。
†††Sideエリオ⇒ヴィヴィオ†††
ディズィーさんに案内されたヴァルハラ宮殿。ディズィーさんとは入口の扉でお別れして、今はわたしひとりで宮殿の中を歩いてる。だけどこのヴァルハラはすごく大きい。外から見たら、塀の端が見えなかった。そんな大きなところで1人で住んでいるルシルパパのお姉さん。
「どうぞ、入ってきて」
「っ! あ、あの・・・!」
ルシルパパのお姉さんだということはすぐに分かった。だってルシルパパと同じ、すごく綺麗な銀色の髪に紅と蒼の瞳だから。
「ようこそヴァルハラへ、高町ヴィヴィオちゃん。フリードリヒ君」
「え?」
「フフ、英雄の居館でのことなら何でも知っているのよ? 私は一応、英雄の居館の管理者だから、ね♪」
そう言って微笑むルシルパパのお姉さんが指を鳴らした。するとわたしの前に椅子が出てきて、座るように促してくれた。
「あの・・・ルシルパパのお姉さん」
「っ!? ねぇ、もう一度、さっき何て言ったのか教えてくれるかな?」
椅子に座ってそう言うと、ルシルパパのお姉さんがすごく驚いた顔して、すぐに面白いものを聞いた、みたいな顔になった。
「その・・・ルシルパパのお姉さん・・・?」
「・・・クスクス、そう、ルシルパパ・・・フフ」
少しこわい。
「あの子ってば、いつの間にパパになったのかしら? そういうことは、すぐにお姉ちゃんに教えてほしかったなぁ」
「あの・・・」
「そっかぁ、パパかぁ。シェフィリス達も喜ぶよね、きっと。あの娘たちはルシルの幸せをホントに望んでいるから」
ルシルパパのお姉さんの独り言。よく聞こえなかったけど、たぶん大切なことなんだと思った。
「えっと、元の世界に帰る方法、だったっけ。ちょーっと待ってね。今ヴィヴィオちゃんの仲間の居場所を探るから」
スバルさん達のことだ。
「・・・なるほどなるほど。よし! それじゃあ今すぐにでも帰すね」
急に眠たくなってきた。頭がクラクラする。
「じゃあね、ヴィヴィオちゃん」
最後にルシルパパのお姉さんが、わたしの頭を撫でてくれた。
「・・・オ・・・ヴィ・・・オ・・・」
声が聞こえる。
「ヴィヴィ・・・」
この声・・・ルシルパパ・・・?
「ヴィヴィオ」
「ルシル・・・パパ・・・?」
「こんなところで寝て、風邪でも引いたらなのはママ達が暴走してしまうぞ。それにしても、スバル達も一緒か・・・。なかなか戻ってこないと思ったら寝ているとは。それほど今日の午前訓練は辛かったのか・・・?」
まったく、って言いながらスバルさん達を起こしていくルシルパパ。
(わたし、どうしてこんなところで寝ていたのかなぁ・・・?)
思い出せない。だけど、すごくいい夢を見ていた気がする。
「ヴィヴィオ、顔を洗ってすぐに食堂においで」
「うん!」
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