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恋よりも、命よりも

作者:ぽてと
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青春の終わり2

それから私は、お父ちゃんにお願いして、宝塚を受験することにした。

周りの皆は「まつが宝塚になんて入れるはずない」と笑ったけど、
お父ちゃんは違った。
「やっと、まつの生きる道が見つかった!まつのためなら、お父ちゃんなんでもしてやるからなぁ」
って、今まで以上に頑張って、お花とお茶の代わりにバレエに通わせてくれるようになった。

あと、味方はお父ちゃんだけかなぁって思ってたけど、実際殆どの人は味方じゃなかったけど、一人だけ、意外な人が味方になってくれた。
「おいもちゃんなら、きっと『行きたい』と言いだすと思ったわ」
と、はんなりと笑った日舞の先生だ。

「どうしてですか?」
と私が聞いたら、先生はニコニコと嬉しそうに答えた。
「おいもちゃんは、きれいなモノが好きだもの。きれいな着物、きれいなお顔の人、きれいなお庭、きれいな心根の人…そんなおいもちゃんが、宝塚を見たらきっと大好きになって、『私も、あのなかで踊りたい!』って言うに違いないと思ったの」
予想が当たって嬉しいわ、と。

それから、こんなことも教えてくれた。
「おいもちゃんは、花嫁修業の一環でここに通ってくる生徒さん達より、よっぽど踊りの才能があると思うの。わたくしのところにずっと通うよりも、いずれは踊りでお給金をいただけるような、そんな人になればいいなぁと、そう思っていたのよ」
でも正直な話、先生のところでは師匠になれるほどの練習はさせてもらえないらしい。
「わたくしの力量や、教える時間がない、というのもあるのだけど…何より個人指導になってしまう事が問題なのよ。おいもちゃんは個人指導を受けれるほどの台所事情ではないでしょう?指導料を頂かない、ということも考えたのだけど、それでは他の生徒さん達に示しがつかないし…」
要するに、お金の話らしい。
確かに、先生がご好意で安く個人指導してくれたとしても、周囲に気づかれてしまえば「なんでまつだけ贔屓するんだ」ということになってしまう。
それは私が我慢すればいいだけかと思ったんだけど、先生はそれだと「おいもちゃんがお教室を持った時に、『まつは贔屓で先生になったから』と生徒さんが来なくなる」と、心配していらっしゃったんだって。

「でもね、宝塚ならいいと思うのよ」
「なにがですか?」
「宝塚では、生徒の間でもお給金が出るし、何より踊りの指導も無償で受ける事が出来るの。タカラジェンヌでいる間に、日舞の免許皆伝をいただいて、退団してからお教室を持つ方だってたくさんいるわ。それなら、かえって箔がつくし、おいもちゃんにピッタリだと思ったのよ」
先生はそこまで考えて、私に宝塚の券をくださったんだ。

感激して涙が出ちゃった私に、先生は今度はうきうきと言い始める。
「おいもちゃん、先生芸名も考えたの」
「…っまっ、まだ、はやくっないですかぁっ…」
私は涙で言葉が上手く出てこないけど、先生はそれでも「大丈夫よ」と続けた。
「わたくしが手塩にかけるおいもちゃんですもの、きっと合格するわ。あのね、芸名は…

『紅花ほのか』

がいいと思うの」

紅花ほのか・・・
「紅花はね、花言葉は「情熱」女性の口紅にも使われているのよ。少しおしゃべりすぎるけど、正義感のあるおいもちゃんにピッタリだと思わない?」
でも、紅花は末摘花とも言うでしょう?
「源氏物語ね?よく知っているわねぇ。でもね、彼女は確かに不美人と言われているけど、その分実直で、一途に旦那さまを思っていた純真な人なの。
おいもちゃんも、タカラジェンヌの中では少し華のない印象になってしまうかもしれないけど、宝塚に一途で、純真にあり続けてほしいって思うの」
よく考えてあるでしょう、と先生はどこか得意げだ。
「ほのかはね、『ほのかに香る』なんてよく言うけど、「いつも私をどこかで香っていてください」という意味で考えたの。『紅花を、いつもどこかでほのかに香っていてくださると嬉しいです』という意味よ。タカラジェンヌの芸名は、退団まで変わることはない。だからこそ、苗字にかけて名前を考えられるのよね」

これからは、私おいもちゃんを「紅」と呼ぶわね。
おいもちゃんはもう、卒業ね。

そう言って先生は、その日から私の事を「紅」と呼びだした。
だから、私の芸名は『紅花ほのか』
たくさんのタカラジェンヌの中でも、受験する前から芸名が決まっていた生徒なんて珍しい、というかほとんどいないに違いない。

っていうか、もうこうなったらタカラジェンヌにならないと恥ずかしい!!

先生に上手く発破をかけられた形で私は猛練習をして、見事宝塚に合格することになったのだった。 
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