皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第51話 「男子の名前」
前書き
立ってる者は親でも使え。
とうとう皇帝陛下にも被害が……。
あと、ようやくアンネローゼの専用機が決まりました。
第51話 「アンネローゼの専用機」
ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウムだ。
この出だしもずいぶん久しぶりだな。まあそれはともかく、アレクシアが子どもを産んだ。
公務の合間を縫って、色々と名前を考えたが、やはりあいつしかないだろう。
エルウィン・ヨーゼフ。
さすがに存在そのものが無くなってしまうのは哀れだ。
もっとも徹底的に鍛えてやるが。
同姓同名で、中身は替えてやる。躾のなっていないガキじゃなくて、どこにだしても恥ずかしくない男にしてやろう。
しかしエルウィンが生まれてから、あちらこちらから贈り物が届いてくる。
まあ色々あったが、一番驚いたのは……。
自由惑星同盟……あいつらから送られてきた本だった。
題名は『権利と自由。-平等を目指して、基本的人権の尊重-』
「嫌味かっ!!」
それとも皮肉か? いやいや、連中の心の叫びが聞こえてきそうなチョイスだった。
しかしながら今だけでなく、前世も含めて思うのだが、権利と義務だろう。どうしてこの手の本という奴は、責任とか義務とかが、おざなりになるんだろうな。
原作でさー。
ヤンが確か、戦いで負けても国がなくなるだけで、個人の自由の方が大事だとか言っていたが、負けたら農奴に落とされるかもしれないだろうに。
戦争に負けても、自分達の生活は変わらないと思う根拠はなんだったんだろうな?
う~む。分からん。
そりゃラインハルトだったら、無茶な事はしないだろうが、門閥貴族だったらやりたい放題にされるぞ。遊び感覚、狩り感覚で、同盟の市民が殺されても不思議じゃないんだ。帝国の捕虜収容所の悲惨さは知っているだろうにさー。貴族の横暴さもさー知らないのかな?
なんか妙にのうてんきな発言だよなー。なんでだ?
自由惑星同盟の成り立ちを忘れてるんじゃねえか? 歴史家志望の癖に。
■宰相府 ジークフリード・キルヒアイス■
宰相閣下に子どもが生まれてからというもの、ベーネミュンデ侯爵夫人はアレクシアさんに付きっ切りになってしまい、マクシミリアン様をよく、宰相府に預けていかれるようになった。
喜んでいるのはラインハルト様だ。
よちよち歩く、マクシミリアン様と(子持ちの貴腐人ではない)エリザベート様の手を引き、遊ぶ。
そしてアンネローゼ様の事を、
「あのお姉さんは怖いから、近づいちゃダメ」
などと教え込んでいた。
ああ、どうしてこうなった? あんなに仲の良い姉弟だったというのに……。
わたしにはわかりません。つ~か、分かりたくありません。
「ラインハルト!!」
「逃げるぞ。マクシミリアン、エリザベート」
アンネローゼ様が軽くこぶしを握り、腕を上げます。
きゃっきゃと笑っている二人の手を引っ張って、逃げるラインハルト様。
いったい何をやっている事やら……。
はぁ~ため息が出てしまいます。
「大丈夫?」
「大丈夫?」
ザビーネ様と(決してあのショタではない方の)マルガレータ様がわたしの頭を撫でてきました。
そしてお互いににらみ合います。
ばちばちと火花が飛びそう。これこそ、どうしてこうなった。
声を大にして叫びたい。
「両手に花で結構な事じゃないか、三角関係の物理的解決は、よそでやってほしいがな」
宰相閣下がこちらをチラッと見ながら、そんな事を言い出す。
なんてお方だろう。
極悪非道を絵に描いたような人だ。
ひどい。ひどすぎる。
こんなお方を相手にしなければいけない同盟が、かわいそうになってきました。
きっと向こうも頭を抱えている事でしょう。けっ。
わたしもずいぶんやさぐれてしまったものです……。
お父さんお母さん。ジークは悪に染まってしまうかもしれません。
■フェザーン自治領 ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ■
皇太子殿下にこどもが生まれてからというもの、帝国は祝賀ムードが漂っている。
ここフェザーンでも、街中のあちらこちらで、宴会が繰り広げられていた。
「空気が明るいな」
「確かに」
俺がそう言うとオーベルシュタインも同意する。
「つい先ほどまでの緊迫した空気が嘘のようだ」
「緊張続きだった反動だろう。しかし宰相閣下の話題はどこかしら、明るさがある」
「振り回される同盟はたまったものではないだろうが、あのお方の動きに銀河が振り回される」
帝国にとっては良い方向に、同盟にとっては悪い方向に振り回されている。
まああのお方は、銀河帝国宰相だからな。
帝国にとって良くなるように動くのは不思議な事ではない。
「そのたまったものではない同盟は、先ほどの強行軍の所為で、軍が責められているそうだ」
「ああ、その話は聞いた」
オーベルシュタインが書類を手に取りつつ、言ってくる。
同盟にとっては良い手だったのだが、それを理解できない市民とやらが騒ぎ立てているらしい。
「同盟は……いや、これは帝国も同じかもしれないが、戦争とは派手なものだと思っているみたいだ」
「実際は地味で泥臭いものなのだが、な」
「ブルース・アッシュビーのせいだ。あれはまるで大スターのようだったらしい。その印象が強すぎるのだろう」
「分かりやすい形で勝つ。それも完勝する。しなければならない。そんな事はありえないのだが」
「だがやった者がいる。いる以上出来る筈だと思う」
「帝国はそのような感覚が薄れだしている。同盟と帝国では意識がかなり違ってきている」
確かに帝国ではそのような感覚はない。
なくなってきている。
帝国よりも同盟の方が戦争を、ゲーム感覚で行っているのかもしれない。
いったいどこで差がついたのだろうか……。
「皇太子殿下」
「宰相閣下」
俺とオーベルシュタインがほぼ同時に口にした。
俺が頷くとオーベルシュタインが、一つ頷いて口を開く。
「宰相閣下はこの戦争を終わらせる事を、現実のものとして示しておられる。帝国では戦争が終わった後の事を考え出した。貴族や役人だけでなく、平民達ですら、だ」
「百五十年続いた戦争を終わらせるのだ。奇麗事で終わるはずもない」
「それをうすうす感じている者たちと、実感として感じていない者の差だ」
「同盟には強力な指導者がいない。己の意思を通せるような政治家がいない。残念ながら扇動政治家の群れらしい」
「そんな連中を相手にしなければならないのだから、宰相閣下もご苦労な事だ」
こいつも言うようになったものだ。
まあそれはともかく、我々もまだ見ぬ王子の誕生を祝おうじゃないか。
そう言ってとっておきのワインを翳して見せると、オーベルシュタインも軽く笑みを浮かべた。
■ブラウンシュヴァイク領 オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク■
「我がブラウンシュヴァイク領も、クロプシュトック領に負けてはならぬ!!」
壇上で声を張り上げる。
農奴の子どもらに、強制的に教育を受けさせる。それはクロプシュトック領から始まった。
宰相閣下の許可を得たヨハン・フォン・クロプシュトックが動いたのだ。
このままでは後れを取ってしまう。
負けてたまるものかという思いが、わたしとリッテンハイムを動かした。
競うように公務の合間を縫って、準備を行い。ようやく形になったのだ。今頃はリッテンハイム領でも同じように声を張り上げている事だろう。
「学問の重要性はわたしとて、十二分に理解しているつもりだ。一歩先んじられてしまったことを、ここに詫びよう。ようやく諸君が学ぶための用意は整えられた」
農奴の子や貧しい平民の子が並ぶ。
どの顔にも希望が溢れている。明るい未来を夢見ているのだろう。
幼い子どもの特権だ。
壇上の脇で妻のアマーリエが笑みを浮かべている。皇族である妻の存在は彼らには眩しく見えているらしい。
そうだ。そうなのだ。
帝国が、皇帝が、あの皇太子殿下が、彼らを見捨てていない事の何よりの証だ。
「古来より、牛を水飲み場に連れて行くことは出来ても、無理矢理飲ませる事はできないという。わたしに出来るのは、ここまでだ」
壇上から居並ぶ子らを見回す。
「学問という水を無理矢理飲ませる事はできない。だが、飲め。たらふく、貪欲に飲むのだ。それは諸君の血となり、肉となろう」
息を吸い。呼吸を整えた。
そしてこぶしを振り上げる。
「これからの新しい帝国を作り出すのは、君たちなのだからなっ!!」
絶叫にも似た声を腹の底から搾り出す。
この様な声を自分が出せたなどと、今の今まで知らなんだぞ。
絶叫の後、アマーリエの拍手が会場に響いた。
妻の賛辞がなによりの励みだ。わたしは間違ってなどおらぬ。妻が拍手しながら近づいてくる。
わたしに向かい、頷いた。
席を譲ったわたしに笑いかけてから、子どもらに向き直る。
「ブラウンシュヴァイク家は、あなた達が学ぶための準備をしました。成績優秀者にはオーディンの帝国大学にも進学させましょう。我こそはと思うのなら、努力しなさい。もし仮にここにいる全員が優秀となったなら、全員通わせても良いのです。狭き門と思わず、精進しなさい」
わたしと時とは違い、妻のアマーリエに対する歓声の方が大きい。
まあ、むさくるしい親父が声を張り上げるよりも、見目麗しい女性の方が人気が出ても仕方あるまい。
「あなた、この様な場所で、そんな事は言わないようにしてくださいな」
ぼそっと呟いた言葉を聞かれてしまったらしい。
慌てて周囲を見てみると、誰もが笑いを堪えている。いかん、惚気と受け止められてしまったようだ。
■リッテンハイム領 ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム■
「見ろ。このローゼン・○ールを。いずれは諸君の代表者が、これに乗ってザ○・ファイトに出場するのだ」
紫色の機体が日の光を反射して煌いている。
「貴族? 平民? 農奴? そんなもの関係ないっ!! さー諸君、実力を持って、こいつを手に入れるのだ!!」
銀河最強はこのリッテンハイム領だ。
そう声を張り上げる。
ザ○の方が良い?
練習用のザ○はいくらでも用意してやるわー。
妻のクリスティーヌが呆れたような表情を浮かべていた。
どうしてこうなった?
最初は学問の必要性、重要性を語り、次には彼らの将来について語っていたというのに……。
勢い余ってしまった。
ええい。もはや引けぬ。引けぬのだ。
リッテンハイムは銀河最強を目指す。
■オーディン フリードリヒ四世■
ルードヴィヒとアレクシア、そして誕生した赤子を乗せた地上車がオーディンの街中を走っていく。パレードじゃ。
歓声の声が大きいのー。
ちっ、息子の人気には腹は立たぬが、わしに仕事を押し付けている事には腹が立つわ。
しかも隠れた人材を掘り起こすのに、なぜわしが面談せねばならぬのじゃ。
予は皇帝じゃぞ。
立っている者は親でも使えというが、皇帝に対する敬意がまったく感じられぬわ。
「のう。そう思うであろう」
「さようですな~」
おのれー。リヒテンラーデの投げやりな事と言ったら、ルードヴィヒの悪影響をうけておるとしか思えぬわ。
「そなたはそれでも国務尚書かっ」
「帝国宰相には逆らえませぬ」
「そこをなんとかするのが、国務尚書の役目であろう?」
「皇太子殿下に直接仰られては?」
「あやつに言うても、右から左じゃー」
予が憤っておると、女官達が台車で追加の書類を持ってきよった。
いったいこれで何箱目じゃ。多い。多すぎるわ。
「宰相閣下はこの五倍はこなされておられます」
おのれー。ルードヴィヒめ。
しかも女官達の目のきらきらしてる事と言ったら、そんなにそなたらもルードヴィヒの事を。
「心から敬愛しておりますよー」
「その半分で良いから、予にも敬愛の情があっても良かろうに」
「愚痴っていても仕事は減らないものです」
言うようになったものじゃ。
ええい、さっさと人材を掘り起こして、丸投げしてくれるわー。
「その意気でございますぞ」
うぬぬ……がっでむじゃ。
■MS開発局 アンネローゼ・フォン・ミューゼル■
ふっふっふ。やってきました開発局に。
目的はただ一つ。
「これはこれはミューゼル様。いかがなされましたか?」
「わたし専用のMSが欲しいのです。そして皇太子殿下と一緒に、ふっふっふ」
開発局員がおずおずと挨拶してくるのを押しとどめ、言います。
言った途端、局員の顔がにやぁ~っと笑みを浮かべました。
格納庫を見て回りますと、一機のMSが目に入りました。素敵です。皇太子殿下の専用機にも似た四枚の羽。
「これは?」
「ふふふ。さすがはミューゼル様。お目が高い。これこそ、わが開発局が総力を結集して作り出した一品。その名もキュベレイ。ダークワインレッドパールの色彩がミューゼル様に良くお似合いです」
「これにしましょう。これがいいです。ふふふ」
「はっはっは」
格納庫の中で笑い声が響いていきます。
アレクシアさんには悪いですけど、皇太子殿下と一緒に宇宙遊泳と行きましょうか。
MSに乗れるのであれば、皇太子殿下も話に乗ってくるはずですー。
後書き
友人Aにすき焼きを食べに行こうと誘われ、ついていった先は……。
吉○家でした。
確かにすき焼きだけどさー。
Aの趣味はB級グルメめぐりです。
そういえば、おそばを食べに行こうと誘われていった先が、
立ち食いそばだったことも……。
そんなAが最近、恋をしたらしい。
相手の魅力を延々とBを相手に語っていた。
わたしはねぎを噛み締めながら、虚ろな目でそれを見ている事しかできなかった。
なぜならわたしは知っている。
Aの恋のお相手が……火○准教授だという事を。
ちなみにBは京○堂が好きらしい。
まったく持って嘆かわしい。
森○春策の魅力に気づいていないとは。
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