赤城と烈風

　史実と異なる極東情勢の要因、分岐点《クロス・ポイント》は明治38年に遡る。
　日本陸軍の長老、山県元帥が《歴史》を変えた。

　元・奇兵隊の青年参謀は諜報活動、情報戦を重視する。
　明石元次郎に渡す軍資金、工作費も鶴の一声で数倍に増額させた。
　奉天掌握後の膠着状態を憂い、視察の動機は越後長岡藩の教訓かもしれない。

　最前線に着いた数時間後、敵が動く。
　30年式野砲は射撃の度に数m後退、人力複座、再照準を繰り返す。
　帝政ロシア陸軍の野砲は射程距離に優り、駐退器も兼備。
　5～6倍の榴散弾を撃ち捲り、為す術が無い。

　長老は急遽帰国、山本権兵衛と直談判。
　緩衝地帯の構築を前提に撤兵、大陸利権放棄が軌道に乗る。
　鉄道王ハリマン氏に有償で譲渡の後、合州国総領事ストレート氏が鉄嶺に着任。
　法庫門～新民屯鉄道の敷設権も譲渡され、経済勢力圏の膨張が進む。
　渤海沿岸の錦州港と露清国境、愛琿(アイグン)間の鉄道敷設案も練った。

　合州国海軍は戦艦16隻地球一周、大航海訓練公表で権益獲得を援護。
　1908年10月、大白色艦隊(グレイト・ホワイト・フリート)が遼東半島に着く。
　翌年ロシア皇帝は黒海南岸を望み、哈爾浜(ハルビン)以南の鉄道を高値で譲渡。
　旅順出港の戦艦16隻が台湾海峡を南下、実弾射撃訓練を実施の影響と説く論者は数多い。


　1689年に帝政ロシア東方進出最前線、阿爾巴津(アルバジン)砦が陥ちた。
　ネルチンスク条約明記の露清国境は額爾古納(アルグン)河、外興安嶺(スタノヴォイ)山脈。
　乌第(ウダ)河地方帰属は譲らず、アルグン河以南ロシア人退去後も獲得の道を探る。

　第二次アヘン戦争の最中、1858年の愛琿(アイグン)条約締結で黒竜江省北側を奪った。
　北京条約締結時1860年《共同管理地》も奪い、日本海北岸に軍港を築く。

　1917年ロシア革命の勃発後、鉄嶺軍の最高指導者は東三省の実権を握った。
　2月ザバイカル軍指導者セミョーノフ配下、シュテルンベルク男爵が鉄嶺を訪れる。
　外モンゴル掌握の援軍を得て、スタノヴォイ山脈以東も実効支配の構想は潰えた。

「合州国大統領の調停で連合軍が撤退の場合、ウラル山脈以東を貴国勢力圏と認める」
　英仏連合軍の侵攻、競争者支援に評議会(ソヴィエト)議長は焦った。
　合州国首都に特使派遣の画策は実らず、密約提示後に黒竜江渡河、沿海州進撃の準備が進む。
　1920年1月10日《国際連盟》発足時、スタノヴォイ山脈以南の領有権に異議は確認されていない。


・大白色艦隊(グレイト・ホワイト・フリート)主力、戦艦16隻（排水量、備砲、最大速力）
『ミズーリ』『オハイオ』（1万2500㌧、35口径335㍉砲2基4門、50口径152㍉速射砲16門、18㌩）下記16隻、合州国製
『キアサージ』『ケンタッキー』（1万1540㌧、㊦〃、㊤35口径203㍉砲2基4門、40口径127㍉速射砲18門、16㌩）
『イリノイ』『ウィスコンシン』（1万1565㌧、〃、45口径152㍉速射砲14門、17㌩）
『ヴァージニア』『ジョージア』『ネブラスカ』『ニュージャージー』『ロード・アイランド』（1万4980㌧、㊦40口径305㍉砲2基4門、㊤45口径203㍉砲6基12門、50口径152㍉速射砲12門、19㌩）
『コネチカット』『ルイジアナ』『バーモント』『カンザス』『ミネソタ』（1万6千㌧、45口径305㍉砲2基4門、〃4基8門、50口径178㍉速射砲12門、18㌩）
※㊦主砲上部㊤副砲連結、通称《二階建て砲塔》2基（左右旋回角度共通、同一目標を射撃可能）


・日本海軍の戦艦、装甲巡洋艦、防護巡洋艦
『朝日』（1万5200㌧、①40口径305㍉砲2基4門、40口径152㍉速射砲14門、18㌩）
『富士』『八島』（1万2649/1万2320㌧、③〃、〃10門、〃）1906年、主砲換装
『和泉』『丹後』（1万1800㌧、②45口径254㍉砲2基4門、45口径152㍉速射砲14門、19㌩）
『周防』（1万6400㌧、③〃、〃、20.5㌩）

『浅間』『常磐』（9700㌧、④45口径203㍉砲2基4門、40口径152㍉速射砲14門、21.5㌩）
『八雲』（9646㌧、〃、〃12門、20.5㌩）
『吾妻』（9456㌧、〃、〃、20㌩）
『出雲』『磐手』（9706㌧、〃、〃、20.8㌩）
『鞍馬』（1万3750㌧、⑤45口径203㍉砲8基16門、40口径120㍉速射砲14門、21.25㌩）

『笠置』（4155㌧、④〃2門、〃8門、22.5㌩）1906年、主砲換装
『阿蘇』『千歳』（4862/4760㌧、〃、〃10門、〃）〃

備砲要目
①最大仰角13.5度、射程・約1万2300m、射撃間隔・約60秒
②〃、〃1万3530m、〃40秒
③〃23度、〃2万2千m、〃改修後(1905年型)
④〃13.5度、〃1万m、〃30秒
⑤〃30度、〃1万8千m、〃（明治41年式）