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最後の大舞台

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2部分:第二章


第二章

 それでも彼のひたむきなプレイは変わらなかった。そんな彼もプロ入り初のホームランを打てた。
 お立ち台に上がった。彼はそこで泣いた。
「あの、山本さん」
 アナウンサーが声をかかえる。だがそれでも涙が止まらなかった。
「嬉しいです・・・・・・」
 大粒の涙がボロボロと零れてくる。彼はそれを抑えることができなかった。
 そしてまた代打稼業を続けた。しかし芽が出ず遂に解雇となった。
「それでも野球を続けたい」
 彼は思った。そしてバッティングセンターで働きながらトレーニングを続けた。もう一度プロのユニフォームに袖を通す為にだ。
 そんな彼に声がかかった。あの仰木だ。
「御前ヤクルトに入る気あるか」 
 当時ヤクルトには仰木の西鉄時代のチームメイト中西太がいた。そのつてで入ってはどうかというのだ。
「ヤクルトですか」
 またしても断る理由はない。彼はそれを快諾しようとした。だがここで他に彼を誘う者がいた。
 南海の穴吹義雄である。彼もまた山本に目をつけていたのだ。
「どうしようかな」
 彼は考えた。だが彼の家は関西にある。それを考えると南海の方がよかった。
「よし」
 彼は南海に入ることにした。これで彼はまたプロ野球に戻ってきた。
 南海ではレギュラーだった。当時の南海は弱小球団でしかなかった。彼はその中で外野手として活躍した。
 実は彼は難聴の気があった。それで打球の反応が遅れることが危惧された。だが彼はそれを果敢なプレイで補った。これには元々の守備勘も助けてくれた。そして勝負強いバッティングを頼りにされるようになってきた。何時しか彼は南海にとって不可欠な選手となっていた。
 南海が身売りされダイエーになると福岡に移った。ここでも彼のひたむきなプレイは変わらなかった。
 顔は怖かった。だがその心は誰よりも優しく笑顔は誰よりも誠実であった。
 そのプレーは何時しか多くの野球ファンに知られるようになり彼は人気選手となっていた。
「わしってこんなに人気があったんか」
 記者やファンから声がかかる度にそう言って苦笑した。だが彼の態度は変わることはなかった。いつも優しく誠実な人柄で愛されていた。
 ある時自分の子供が虐められていると聞いた。自分の仇名のせいだという。
 お世辞にも美男子とは言えない。付いた仇名がドラキュラだ。とにかく一目では怖い顔であった。
「そうか」
 それを聞いた彼はグラウンド名を変えることにした。サッカーの人気選手カズにちなんでカズ山本とした。
「これで虐められへんで済むやろ」
 これで彼の子供は虐められなくなった。それどころか優しくひたむきな野球選手の父親がいるということで子供も人気者になった。そしてサインをねだられるようにまでなった。彼はそのサインにも快く応じた。
 そんな彼がオールスターに出場した。平和台球場でのオールスターである。
 彼はチームでただ一人の出場選手であった。ダイエーの当時の本拠地である。
「お客さんの為にもやったるか」
 彼はそう決意して試合に挑んだ。だがそのやる気が空回りした。
 ことごとく凡打に終わる。その原因は空回りだけではなかった。
 肩が傷むのだ。守備には就けないほどだった。だが彼は平和台に来てくれたファンの為にライトに入った。
「あの人ホンマは肩が痛くて仕方ないのに」
 パリーグの選手達はそんな彼を見てそう思っていた。だが彼はそれを顔に出すことはなかった。
 最後の打席、ここで彼は四球を選んだ。
 類に出る。ここで勝負に出ることにした。
「よし」
 何と走ったのだ。オールスターは基本的にノーサインである。それで走ったのだ。
 俊足という程でもない。普通といったところだ。だが彼はあえて走ったのだ。
「ダイエーで出とるのはわしだけや」
 彼はそう思いライトスタンドにいる平和台のファン達のことを思った。
「だからそのわしが活躍せんとお客さんに悪い」
 その一念で走ったのだ。
 二塁を陥とした。これでファンから拍手が鳴り響いた。
 
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