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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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03 「叔母と、相棒?」

「セットアップ」

 漆黒の光に包まれ、収束と同時に黒のバリアジャケットが身を包む。数年前から使っている形状であるため違和感は全くない。が、デバイス起動時の初期状態が鞘に入った状態に変化している点には、まだ違和感を覚えてしまう。
 夜空色の剣は、蒼い鞘に納まった状態。抜刀するのと同時にジャリィィン! という高い音が鳴った。手に握られている剣は、前よりも洗練されたフォルムに変わっている。その一方で、前よりもやや大振りになっている印象を受ける。
 剣の形状が変化しているのは、ファラの強化が行われたからだ。
 それが行われた理由は、今までは人型フレームの試作型ということもあって、人間らしさに重点をおいていたが、ジュエルシードの一件もあってデバイスとしての能力も高めておいたほうがいいということになったのだ。
 デバイスである以上はデバイスとしての能力を高めるべきだという声もあると聞いたので、ジュエルシード事件がなくても強化はされていたことだろう。
 剣を鞘に納め直すと、室内に女性の声が流れる。女性といったものの、年齢で言えば少女だが。

『準備はよろしいですか?』
「ああ」
『では、これよりデータ収集を開始します。まずは剣のみでターゲットを破壊してください』

 アナウンスの終了と同時に、前方に複数のターゲットが出現する。右手を背中に走らせながら飛び出すと、ターゲットもこちらへと向かってくる。

「ッ……!」

 無声の気合を発しながら、最初のターゲットを破壊する。次々と独自の行動を取るターゲット達の動きを観察し、的確に破壊していく。
 こちらに向かってくるタイミングに微妙な時間差があるあたり、誘導性の高い魔力弾を迎撃する感覚に似ているな。
 全てのターゲットを破壊し終わる頃、再び室内にアナウンスが響いた。

『やはりあなたの近接技術には目を見張るものがありますね。そろそろ次の段階に移ります。砲撃形態で破壊していってください』

 再度出現するターゲット達。先ほどよりも格段に数が多く、中央部には防御が固めのターゲットが配置されている。
 指示されたとおり砲撃形態にシフト。ファラは剣から槍のような形状に変化する。右手でしっかりと固定し、左手を先端付近のトリガーにかける。
 周囲に散らばるターゲット用の魔力弾を生成・射撃をファラに任せ、俺は中央にそびえるターゲット用に砲撃の準備を行う。

「ファラ、いけるか?」
『もちろん』

 漆黒の魔力弾が流星群のように次々とターゲットに向かっていく。室内に次々と光と音が撒き散らされる中、闇色の閃光が走る。閃光に射抜かれたターゲットは爆ぜ、音と煙を発生させた。室内に立ち込めた煙が晴れ始めると、落ち着きのある声が響く。

『今日のデータ収集はここまでです。お疲れ様でした』

 上がっていいと言われた俺はファラを待機状態――人型に戻す。セットアップ時の形状は変わったものの、待機状態に変化はない。
 いつものようにファラを胸ポケットに入れて部屋から出ると、白衣を着た女性と少女がこちらに歩いてきていた。

「お疲れショウ」

 まず話しかけてきたのは、長い銀髪を無造作にまとめている女性。メガネの下にある瞳は綺麗な青色だが、その下にあるひどい隈のほうが目を引く。
 彼女の名前はレイネル・ナイトルナ。俺や同僚からはレーネという愛称で呼ばれる。はたから見れば黒髪黒目の俺とは血が繋がっていないように見えるだろうが、れっきとした俺の叔母だ。

「お疲れ様です」

 次に話しかけてきたのは、短めにきちんと切り揃えられている栗毛の少女。瞳はレーネさんと同じで青色だが、彼女よりも淡いというか澄んでいる。
 少女の名前はシュテル・スタークス。俺と同い年でありながら、すでにデバイスマイスターの資格を持っている頭脳明晰な少女であり、父さんの研究が興味深かったということが理由でここに来たらしい。
 冷静沈着で喜怒哀楽があまり出ないクールな子、というのが俺や周囲が抱いている印象になる。叔母のレーネさんが言うには、俺と彼女はよく似ているらしい。

「そっちもお疲れ様」
「いえ、仕事ですから」
「それを言うなら、俺も仕事になると思うんだけど?」
「…………」

 少女は黙ってぼんやりとし始める。表情の変化が乏しいにも関わらず、それが分かってきたあたり、彼女とそれなりに親しくなったということか。
 スタークスと出会ったのは、夏休みに入ってすぐ。テストマスターとしての職務を果たすために、ミッドチルダを訪れた日だ。俺の役目はファラの強化が終わってからだったため、その日は簡潔な自己紹介だけの会話だった気がする。ファラの強化が終わるまでの間は、散らかっていた叔母の家の掃除をしていた。
 レーネさんが言うように、性格が似ているのかスタークスと話すのは全く苦ではない。スタークスもそうなのか、同年代が俺くらいしかいないからか、結構話しかけてくる。話の内容はデバイスに関することが主だったりするが。

「ここで立ち話もなんだし、お茶でもどうかな?」
「レーネ、良いのですか?」
「周りから必要のないときは休めと耳にたこができるほど言われていてね」

 ふと周囲を見渡してみると、スタッフの人達がレーネさんを連れて行ってくれといった感じで見ていた。中には合掌している人までいる。仕事量が異常だから心配されているのだろう。俺と一緒にいたいとぼやいていたりしていて、気を遣ってくれているということもあるかもしれない。

「確かにレーネの仕事量は異常ですからね。休めるときは休んだ方がいいでしょう。……私は仕事に戻りますので、ごゆっくり」
「私が誘ったのはショウだけでなく君もだよ」
「私も?」
「ああ、君にも話があるのでね。では行くとしようか。あぁもちろん、私の奢りだから安心していい」
「それならば断る理由はありませんね。夜月翔、行くとしましょう」

 このへんがスタークスとは似ていない部分だと思う。彼女は俺と違って意外とノリがいいというか、茶目っ気がある子なのだ。
 移動し終わった俺達は、それぞれ注文した。レーネさんのおごりだが、食事を取る時間でもないため全員飲み物だけだったが。

「ショウにファラ、改めてお疲れ様。日に日に取れるデータも良くなってきているよ」
「私とマスターですから」
「ふふ、それもそうだね。その調子でこれからも頼むよ」
「はい」

 話す相手によって口調が変わるところもファラの人間らしさを証明するところかもしれない。そこに隣に座っているスタークスも興味を抱いたのか、ファラのことを凝視している。初対面でされていたら、圧力のようなものを感じていてもおかしくないほどに。
 レーネさんはコーヒーを一口飲んだ後、視線をこちらからスタークスへと移した。スタークスもそれに気づいて視線を向ける。

「もう良いのですか?」
「いつ呼び出しがあるか分からないからね。先に大事な話を済ませておきたいんだよ」
「レーネさん……」
「あぁ別に席を外す必要はないよ。というか、外されるのは困るね。君にも関わる話だから」

 スタークスだけでなく、俺にも関わる話というのは人型デバイスに関することしかないだろう。今のところそれくらいしか彼女との共通点はないのだから。

「俺にもってことはファラに関すること?」
「まあそうだね。実は……ショウには悪いんだが、君と一緒に地球に帰るのは難しそうなんだ」

 レーネさんは、普段に比べて深刻そうな顔と声だった。俺とスタークスは、しばしの間無言だった。

「……だそうですが?」
「正直に言えば、だから何? って感じなんだけど。レーネさんがいて変わることって……食事の量くらいだしさ。さらに言うなら、いないほうが家が綺麗……」
「夜月翔、そこは嘘をつくところでしょう。レーネはいつもぼんやりしているようですが、彼女だって内心では傷ついてるはずです」
「シュテル、どちらかといえば君のその狙いすましたタイミングでの発言の方が傷つくのだが」
「レーネさん、それより続きを」
「……私はこの子達にいじめられているのではないだろうか」

 レーネさんはぶつぶつと何か呟いた後、もう一度コーヒーを飲む。そっとカップを置くと、普段どおりのぼんやりとした口調で話し始める。

「ショウだけを……」
「む……」
「言い方が悪かったね、ファラ。君達だけを地球に返すのは、保護者として心苦しい。だが山場を迎えている研究も多くてね。悪いとは思うが理解してほしい」
「別に構わないよ。レーネさんが忙しいのは分かっているし」
「……そこに先ほどの本音はいらないのですか?」
「話が脱線する可能性があるから言わないよ」
「それもそうですね」

 視線をレーネさんに戻すと、意味深な目で俺とスタークスを見ていた。怒っているのかとも思ったが、経験測で導き出される答えは違うと出ている。

「すみません、話の邪魔をしてしまいました」
「いや構わないよ。君達の仲が良さそうだから、かえって話しやすくなったからね」
「私達の仲? ……レーネ、あなたは何を話すつもりなのですか?」
「簡潔に言えば……シュテル、君にはショウと一緒に地球に行って生活してほしい」
「はあぁぁ!?」

 真っ先に声を上げたのは、俺でもスタークスでもなくファラだった。彼女はよほど興奮しているのか、胸ポケットから出てレーネさんの目の前に移動する。

「ど、どどどういうことですか?」
「どうもこうもそのままの意味だよ。研究の段階が進んだ以上、君のデータは前よりも必要になる。私がいない以上、誰かに頼むしかないだろう?」

 突然のことに内心には戸惑いもあったが、今のが理由ならば納得するしかない。
 ジュエルシード事件以降、資格を取るために勉強に励んでいるが取れるのはまだまだ先だ。ファラのメンテやデータの送信をする場合、誰かに協力してもらわなければならない。

「だけど……だからって、この子じゃなくてもいいんじゃないですか!」
「あいにく研究に携わっている者の中で、地球に行かせられるのはシュテルだけなんだ。来て間もないということもあって、任せていることが少ないからね。それにシュテルは若い。色んな経験をしておいたほうが今後のためにもなるだろう。まあ、本人への確認はまだしていないのだが」

 全員の視線がスタークスに集中する。スタークスは何かしら考えているようだが、表情からは読み取ることができない。

「…………」
「……シュテル、どうかな?」
「……知り合いが心配するでしょうが、仕事の一環として行くわけですから納得してくれるでしょう。ですので私は構いませんよ」
「そうか……ショウ、君はどうかな?」

 レーネさん以外と暮らすと考えると違和感を覚えるが、スタークスはファラのために住み込みで働くようなものだ。それに彼女は研究に携わっている以上、レーネさんが俺の母親ではなく叔母であることを知っている。
 おそらく地球に帰るのは夏休みの下旬。もうしばらくはこっちで過ごすだろうから、スタークスとの仲も少しは進展するだろう。地球での生活を考えると色々と思うところはあるが、少しすれば慣れるはずだ。
 高町のレイジングハートのように携帯に優れていないことから、ファラには留守番してもらっていることが多い。誰かが一緒にいてくれるのは、こちらとしても安心できる。

「まあ、理由が理由だから仕方ないかな」
「マ、マスター!? マママスターは、そそその子に……!」
「ふ……」
「な、何笑ってるのよ!」
「気にしないでください。大した理由ではありませんので」

 似たようなことを言っているのを今までに何度か聞いたことがあるのでファラはいいとして……スタークスのやつ、わざとファラがより騒ぐような言い方をしてるよな。
 まあ、俺がそういうことをすることがないからファラの人間らしさに刺激を与えるかもしれないから放っておくけど。

「あぁ最後に……前から言おうと思っていたのだが、君達はお互いを他人行儀な言い方をするね。まだ先だが一緒に生活をするのだから、名前で呼ぶようにしたらどうかな?」
「名前ですか?」
「ああ。ショウ次第ではあるが、将来的には研究をショウに任せることになるかもしれない。そのときまでシュテル――君がいたならば、君はショウのパートナーと呼べる存在になっているだろうからね」
「マスターのパートナーは私だもん!」
「ファラ、私が言っているのは仕事のパートナーという意味だよ。まあ年頃の男女になったら、この子達が付き合うということになっても不思議ではないが」

 レーネさんは当人を前にして何を言っているのだろうか。スタークスはぼんやりと聞き流しているようなので問題ないようだ。しかし、彼女がクールな性格でなかったら騒がしくなっていたことだろう。
 こういうとき俺と同じように無反応だから、彼女に対して話しやすいといったことを思うのかもしれない。
 しばらくレーネさんに噛み付いていたファラだったが、オーバーヒートでもしたのか俯いて動かなくなってしまった。レーネさんはチャンスとばかりに話しかけてくる。

「ふたりともどうかな? 君達が積極的に他人と距離を詰めようするタイプではないということは分かっているが、おそらく長い付き合いになるはずだ。他人行儀なのも変だろう?」
「レーネ、互いに信頼し合っているのなら別に呼び方は問題ないと思います。そもそもの話ですが……異性を名前で呼ぶというのは恥ずかしいです」

 彼女の言っていることは理解できる……が、後半の部分は無表情で言われると恥ずかしがっているようには全く見えない。

「……冗談ですが」
「シュテル、冗談ならばもっと分かりやすく……まあいい。君をショウと生活させようと思ったのは、そこを治したいと思ったからだしね」
「レーネ、私は至って健康ですが?」
「ああ確かに健康だろうね。ただ、君の表情だけは不健康だ」

 レーネさんはスタークスの頬を動かして笑みを作るが、本人に意思がないせいかぎこちないものになってしまっている。レーネさんの言うように表情筋が固まっている可能性もあるが。

「……レーネ、遊んでるように思うのは私の勘違いでしょうか?」
「いや、勘違いではないね」
「そうですか……やめないと怒りますよ」
「ふむ……君が怒った姿は見たことがないね。怒りの感情は表情に出るのか検証してみようか」
「……ショウ、レーネをどうにかしてください」

 あまりにもさらりと言われたため、自分に言っているのだと理解するのに少し時間がかかった。名前で呼ばれるのに慣れていないことも理由ではあるが。
 どうやって助けようか考えていると、遠くで叔母を呼んでいる声が聞こえた。ちょうどいいタイミングだと思いつつ、叔母に話しかける。

「レーネさん、呼ばれてるよ」
「ん、そうか……名残惜しいが呼ばれてる以上は行かないわけにもいかない」

 レーネさんは立ち上がると自分を呼ぶ声がする方へ、ふらつきながら歩いて行った。もう少し休憩するなり、睡眠時間を増やしたほうがいいはず。だがあんな状態でも叔母の仕事量は変わらない。いったい彼女の頭はどうなっているのだろうか。普通ならば思考力は低下するはずなのに。

「……あなたも大変ですね」
「……まあ慣れればそうでもないよ」
「そうですか……話は変わるのですが、あなたはまだ私の名前を呼んでいませんよ」
「……君から振ってくるとは思わなかったよ」
「油断大敵です」
「……呼ばないとダメか?」
「私は呼びましたよ?」

 粘らずにさらっと言ってしまえばよかったと後悔する。粘ったせいで変に意識してしまい、普段よりも格段に恥ずかしさを感じてしまっているからだ。

「……シュテル」
「……ふ」
「君が言わせたんだろ」
「すみません、そうではないんです。レーネが言っていたとおり、私達は似ているのかもしれないと思ったらつい……。正直に言えば、こう見えて私も恥ずかしかったんです」

 続けて「同年代の異性とあまり接したことがないので」という彼女の顔は、ほんの少しだが笑っているように見えた。

「……まだ時間はありますし、お互い徐々に慣れていきましょう」
「そうだな……君は表情も努力しないと」
「あなたに言われたくありません」


 
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