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フェアリーテイルの終わり方

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七幕 羽根がなくてもいいですか?
  8幕

 
前書き
 妖精 は 一つ 知る 

 
 攻撃を防いだ時、〈妖精〉であるからこその感知能力でフェイは知ってしまった。それをセルシウスに告げた。

「あなたは一度人間に使役されたことがある。ジュードが作ったのと同じ機械で。その時にほとんど命を吸われちゃってる」
『何故それを――!?』
「分かるよ。精霊のことなら、何だって分かる」

 皮肉にも〈妖精〉のその異能は、ジュードの言葉が正しかったとフェイに痛感させた。

「あなたはちゃんと自分の気持ちで、ますたーに仕えたかった。一番に会った人もトクベツ大事だけど、現世に蘇らせてくれたますたーも同じくらい大事だった。だから自分を道具としてしか見ないますたーの扱い方がカナシカッタのね」

 くっとセルシウスは面を伏せた。

 ――セルシウスの前の契約者がどんな人物かは分からない。だが、セルシウスにとってそれは二の次で、彼女は彼女の心を由として仕えたいと望んでいた。相手がどうあれ、自分の意思で決めて誇りを貫きたいと。そのために必要な心も意思も、未完成の源霊匣(オリジン)が押し潰してしまった。

(本当に、先にイタくさせたのはわたしたちだったんだ)

 自分が正しいのだと心をコーティングしたのに、それを壊され、お前は間違っている、と突きつけられた、やるせなさ。これが罪悪感というものだろうか。

「スキだったの? ますたーのこと」
『好きか嫌いか、〈妖精〉よ、そういう判断をする知能さえ、あの頃の私にはなかったのだ。ただ、もし私がマスターと共にいた頃に知性を保てていたのなら――私は、あの人の生き方を、汚らしいけれど、きっと肯定した上で、この手を血で汚したと思う』

 想いたかったのに、望みたかったのに、寄り添いたかったのに、そのための心がなかった。それは何て残酷な仕打ちだろう。

(もしフェイがセルシウスと同じになって、ルドガーやお姉ちゃんに何も伝えられなくなったら――考えるだけで息が停まりそう)

 ジュードの造ったモノだからといって、実体験したセルシウスの証言をフェイは貶めて責めた。これはフェイの非だ。話を聞いて、自分だったらと置き換えて想像して、ようやく理解した。

 悪かったなら悪いほうが頭を下げなければならない。〈温室〉にいた頃にマルシアが教えてくれた。
 それでも10年も自分を凌辱してきた精霊に頭を下げることはどうしてもできなくて。

 フェイはセルシウスの眼前まで迫り、セルシウスの額に額を重ね、霊力野(ゲート)を開いた。

『! お前、今、私にマナを与えたのか?』
「これでしばらくダイジョウブだよね」

 フェイは初めて自分の意思で精霊に笑顔を向けた。きっとぎこちないと自覚していても。

「わたし、あなたにヒドイ言葉ぶつけた。だからゴメンナサイの代わりに。フェイ、この程度しかできないから」

 対するセルシウスはわなわなと全身を震わせている。氷の精のはずが、今のセルシウスは自身の熱で溶けるのではと心配になるほどに真っ赤だ。

『こんな……こんな形で直接使役されるなんて……私の意思も聞かず、無理やりっ』

 浅黒い腕がびしっとフェイを指さした。

『フェイ・メア・オベローン! この責任は取ってもらうからなっ!』
「へ? ハ、ハイ」




「何でああなるんだ?」
「……精霊の感覚は僕らにもよく分かりません」

 1年前から解の出ていない難問の再来に、ジュードは頭を押さえた。 
 

 
後書き
 セルシウスと仲直りする話でした。
 〈妖精〉は何でもお見通し。普段は知りたくもないと思うからシャットアウトしてるだけで、本気を出せばこのくらいはいけちゃうんです。
 オリ主の価値観が大きく変動する回その1でした。その2、その3とまだ続くんですけどね。

 セルシウスがジランドをどう思っていたかは完璧に作者の願望です。フェイスチャットで「マスターはやらせません」と言った彼女もまた一つの本心だったと思いたい。 
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