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モダンな悪魔

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第四章

「そうじゃないからな」
「魂もいらない感じで」
「何処が悪魔なんだよ」
「だからその証拠を見せてるだろ」
 悪魔はチョコレートを食べつつ少年達に反論する。顔は何時の間にかアフリカ系のものに戻ってしまっている。
「魂のことも言っただろ」
「だからそれ位じゃな」
「信じられないんだよ」
「本当にアメリカ人、特にニューヨーカーってのは疑り深いな」
 イグナギウスもやれやれといった顔になった。
「天使を見たとか言って騒いでいたってのにな」
「いや、俺達天使もそう簡単に信じないからな」
「そっちでもな」
「だから幾ら何でも疑い深過ぎるだろ」
「何度も言うけれどその外見でどう信じろってんだよ」
「チョコも美味そうに食ってな」
 今食べ終えた、本当に実に美味そうに食べていた。
「全くな」
「あんた悪魔に見えないよ」
「僕もそう思うよ、確かに中世の格好とは思わなかったけれど」
 それでもだとだ、クラウスもここで言う。
「それでもあんたの格好はね」
「ラッパーじゃ駄目かい」
「せめてスーツで頭に角があるとかだとね」
 信じられたというのだ。
「それなら」
「その格好にもなれるぜ」
「いや、今その姿になられてもね」
「信じられないのかい」
「いきなりラッパーの格好でそんなのだから」
 ステーキだのチョコレートだのだからだ、しかも今度はハンバーガーを出してきてそれも美味そうに食べている。
「今度はそれだし」
「いいよな、ハンバーガー」
 悪魔はハンバーガーの味についても言う。
「これってアメリカ人の作った偉大な料理だぜ」
「悪魔がハンバーガーっていうのも」
「おかしくないだろ、悪魔だってもの食うしな」
「人間とか食べないんだ」
「人間の肉!?」
「悪魔は人間の魂だけでなくその身体や内蔵や爪まで食べるって聞いたけれど」
「そりゃ何処の御伽噺だい?」
 これが悪魔のこの件に対する返答だった。
「悪魔は魔界の食いものが豊富だからそんなの食わないぜ」
「じゃあそのハンバーガーの肉も」
「ビーフさ、百パーセントのな」
 牛肉のハンバーグだというのだ、今彼が食べている肉も。
「ポークやチキンのも好きだけれどな」
「そこもね」
「悪魔じゃないっていうんだな」
「悪魔は魂を取って人間を食って」
「だから魂を貰う様な仕事でないと貰わないんだよ」
 仕事の価値、それに見合うというのだ。
「で、食いものも人間みたいな如何にもまずそうなものは食わないんだよ」
「悪事の限りを尽くして」
「契約にある以外の仕事はしないな」
 悪魔はこのことは実に素っ気なく言った。
「俺達の仕事はあくまで契約の中だけでやること、その外にある仕事をするのは契約違反だからしないぜ」
「じゃあ悪事も」
「仕事ならやるさ」
 ハンバーガーを食べ終えて肩を竦めさせて言う。
「いいことだってな」
「いいこともって」
「悪魔は契約なんだよ、契約の仕事はするんだよ」 
 例えそれが人間の世界では善行と言われるものでもだというのだ。
「けれどな」
「契約にないことはなんだ」
「しないさ、あと契約を破ったらこっちが処罰受けるんだよ」
 このことについても言うのだった、ニューヨークの中を進む少年達の前を飄々とした感じでくるくると回って歩きながら。 
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