最期の祈り(Fate/Zero)
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Countdown to Zero
前書き
大変お待たせして申し訳ありませんでした。どうも前話のあの流れから本来の流れの話をぶっこむと、なんか調子が狂うような気がしたので。そんなこんなで色々悩んでいたら、ここまでもつれてしまって。
少し法学の初歩について話そう。日本には罪刑法定主義及び法の不遡及、更には刑法に関して容疑者が不利になる場合の法の類推解釈の禁止といった原則がある。つまり、ある人物を刑事法で裁くなら、事前にその人物を裁くための規則が無くてはならず、後に法を整備したとしても事後の件については効力を持たない。では、今現在の法を広く適用しようにも、法を類推解釈して法の明確性を崩すことは禁止されている。まあ、要するにだ。女子校に男性だと偽って入学した女子生徒を刑事告発するための根拠が無いのだ。よって……
「何て言えばいいのかな……廊下掃除三日間で僕のIS学園侵入の件は話がつきました?」
なぜか最後に疑問形で額に汗をダラダラ流すシャルロットが誕生することになった。しかし、なにも戸惑っているのはシャルロットだけでは無い。現にこの話を打ち明けられた一夏、箒、セシリア、鈴音、ラウラも茫然自失としていた。
「ゴ・メ・ン・ナ・サ・イ・ネ。急ニ耳ガ……」
「いや、そんな2011年のセンター試験国語の小説「海辺暮らし」のお婆さん状態にならなくても……」
「ちょっと待って下さい。なんでこのネタに正確なツッコミが出来るのですか?」
「そのネタを使った当のイギリスが言っても説得性が無いからな!?そして箒はなんで猫耳をつけて飛び跳ねてるんだ?」
「いや、なんとなく……。取り敢えずネタに合わせておいただけだ」
場は色々カオスであった。ネタが通じた事に驚くセシリア。シャルロットが無駄に正確なツッコミを返したことに唖然とする一夏。ネタに合わせてジャンプし続ける箒。ネタは解るがここで梶役をやる事に面白みがあるのか悩む鈴。唯一何の話か分からずオロオロするラウラ。要するに、今現在シャルロットの告白を気に留めている人間がいなかった。
「あ、あれ?反応可笑しくない?ていうかこのネタ大丈夫なの……?」
「もう、みんな悪乗りし過ぎだよ……」
結局、場の混乱が収まったのはそれから30分後のことだった。最終的にセシリア作のキムチベースのミートスパゲティーを一夏が食べることで、混乱は収まった。因みに一夏は……重症である。
「で、つまりシャルルは本当は「ぐあっ、舌が、舌があああああああ」――シャルロット君だったのね」
「うん。今まで嘘をついていて本当に「なんだよこれ……なんなんだよこれ!?」――ごめんね」
「気にするな。シャルロットにはシャルロットなり「キムチとミートソースのコラボレーションがあああああああああ」――シャルロットなりの事情があったんだ。今までよく頑張ったな」
……訂正しよう。場の混乱は全然収まっていなかった。
「ああもう!一夏五月蠅い!」
「今大事な話をしているのだ。少しは静かに出来ないのか」
「あ、あんまりだ……」
「敵対していた私が言うのもなんだが、流石に同情するぞ……」
因みにラウラの一件でもひと悶着あったのだが、それはまたの機会に語ろう。
「一夏さん、申し訳ありませんでした……チェルシーに「厨房に立つな」と厳命されていたのを忘れていましたわ……」
流石に一夏の顔色が七変化したことに負い目があったのか、本当に申し訳なさそうにセシリアが謝った。
「い、いや。中々個性的な味、でしたよ?」
「ではもう一皿……」
「やめてくださいしんでしまいます」
「即答ですの!?そんなに不味かったのかしら……」
「いや、もうキムチはいいから……取り敢えず話を戻すわよ」
もうほとんど投げやりに近い感じで鈴音が場の空気を戻そうとする。と言っても、もう誰もシャルロットの正体についてあまり驚いていなかったのだが。
「えーと、改めて。シャルロットは実は女の子だったんだ。わー、驚いたなー」
「ホントダナ。マッタクヨソウガツカナカッタゾ」
「うん。あんたらあからさま過ぎ……と言っても、仕方ないか」
はあ、とため息を一つつくと徐に鈴音はシャルロットに向き直った。
「まあ、という訳でシャルル……じゃない、シャルロットは今回のことはあんまり気にしなくていいわよ」
「え……ああ、うん」
「それより!」
なんとも締らない場であるが、ラウラが思い切ったように声を上げた。
「そもそもお前は女だったのか?なぜそんな事を……か、勘違いするな!別に責めている訳では……」
それは彼女だけでは無く、この場に居るシャルロットを除いた人間全員の疑問だった。そして、ある意味に於いて、その答えの導く結末はシャルロットの核心に最も近い所にあった。
――僕は、僕の今までを受け入れられるのだろうか――
いや、受け入れていいのだろうか。受け入れることを許されるのだろうか。関わって来た全ての人間を裏切り続けてきた自分は、果たして、許されるべき人間なのか。父親に強制されて仕方なくやった、と言えば、恐らく一夏達は納得し彼女を許すだろう。その後で笑って受け入れてくれるだろう。彼は、彼女たちはそういう類の人間だ。
だが、その優しさは決して彼女を救わない。その優しさは、シャルロットが彼女自身を傷つけることになる。どんな理由があったにせよ、そんな優しい人たちを騙し続けていたのは彼女である事には他ならない。仮に一夏たちがもっと残酷な類な人間ならこうも苦しまなかっただろう。詰られて、それで終わりだ。しかし、現実は都合よく残酷であってはくれない。そこから始まっていくのだ。
「僕の父親にはね、奥さんが何人かいたんだ……その内の一人が僕の母親だったんだ」
話している最中も、シャルロットの内心は穏やかでは無かった。全てを語った時、彼女の罪は彼女の意思に関わらずに清算される。それは、決して彼らと対等の関係になる事は意味しない。その優しさを仰ぎ、涙し、そして自分のやった事に永遠と罪悪感を抱き続けるほかない。
――ああ、苦しい。――
――こんなに苦しいと思ったのは、いつぶりだろうか――
――ああそうだ。切嗣に正体がばれたときだ――
そうだった。あの時は辛かったな。でも、嬉しくもあった。
――目に涙を浮かべ、同じように泣いて、悲しんで、抱きしめてくれた……あの感覚が忘れられない――
同情とは違う、人の境遇を本当に悲しんで、同じ目線で泣いく。そんな類の優しさだからこそ、彼女は歩けた。だが……
不意に、誰かがシャルロットを抱きしめた。
「ラウラ……」
身長が足りなくて、胸のあたりで腕が回ってしまうような抱擁だが、それは以前彼の胸で泣いたとき抱きしめられた感覚に似ていた。
「奴なら……衛宮ならこうするだろうと思ってな」
恥ずかしそうに頬を赤らめながら喋るラウラだが、その腕は固く結ばれていた。
「なんで、そんな……」
「私の想いを酌んでくれたのは、衛宮だったからな」
それと教官、と付け加える。
「もう、今日は休め。話はまた明日でいいだろう」
そう言うと、シャルロットの背中を押し、ラウラたちはその場を後にした。そして、一方の一夏達はというと、少しへこんでいた。
「なあ、これどうする?」
鍋いっぱいのキムチミートソースを前に……
その時、部屋の扉が再び開いた。ただし、入って来たのはラウラたちでは無かった。
「ヤッホー。無敵の生徒会長様だよー……って、なにこのバイオ兵器!?」
「会長。威厳が崩れています」
入って来たのは、この学園の生徒会長こと更識楯無と布仏虚だった。だったのだが……物体X(made by セシリア)をみて完全にドン引いていた。
「そ、そんな……私の料理が、バイオ、兵器……」
運命の悪戯かなにか良く知らないが、取り敢えず自分が作った料理がバイオ兵器扱いされて嬉しい女子は居ないだろう。御多分にもれずセシリアも泣き崩れていた。しかし、そんな彼女を放っておけるほど一夏は非道では無かった。
「おい、あんた!」
「ん?何かな?」
余裕の笑顔で応える楯無の視線の先には怒りで肩を震わせる一夏がいた。
「幾らセシリアの料理が常に変色し続ける神代の魔女もびっくりの薬品だとしてもだ!一口も食べずにそれをバイオ兵器だとか腐った海魔だとかこの世全ての悪だとか言うんじゃない!」
「いや、誰もそこまで……」
「あまつさえそれを本人の前で言うなんて……幾らなんでも非道が過ぎるだろう!」
「おいこら。ばっちり本人に言ってるじゃない」
へっ?と振り返った先に居たのは、気を失ったセシリアだった。
「……。…………………。…………………………で、生徒会長が何の用ですか?」
な、
(((流しやがった!)))
「まあ、いいわ。自己紹介は……要らないみたいだね。それよりも一夏君達に伝えないといけない事があるの」
今夜12時、つまり今から一時間後に地下15階にきて。そう言い残すと、彼女はあっさりと部屋を出て行った。
「地下15階……何があるんだ?」
時間は夜も更けた12時、一夏達は楯無の言う通り地下15階へと続くエレベーターに乗っていた。
「学級裁判じゃない?」
「鈴、間違ってもそれは無い」
そんな会話をしているうちに、彼女たちの予想より早くエレベーターは地下15階に着いた。エレベーターを出た先にいたのは更識楯無だった。
「来て」
それだけを短く言うと、楯無はいつもと変わらないように歩き始めた。ただ、その足取りはお世辞にも軽快とは言えなかった。そのただならぬ気配に、流石になにもいう事ができず一夏、箒、鈴音、セシリアはただついて行った。
しばらく歩いていると、彼らは大きな扉の前に立っていた。
「先に渡しておくものがあるわ。一夏君、これを」
そう言うと、楯無は小さな小箱を差し出した。訝しげながらもその中身を確認する。
「これは、白式!?」
入っていたのは、多少破損はしているが一夏が見慣れた白式、その待機状態のコアだった。
「今日の夕方頃に発見された織斑先生が持っていたものよ。まだ意識は戻ってないけど、命に別状は無いそうよ」
「良かった……」
心の底から安心したように良かったという一夏だが、他の三人の表情は険しかった。地下という単語だけでは想像がつかなかったが、今は嫌な予感が頭の中をひしめいていた。この独特の感覚、さながら病院の地下に似ていた……
「まさか……退いてくれ!」
一番最初に動いたのは箒だった。楯無を押しのけるようにドアの前に立つと、一気にその扉を押し開けて中に入った。
「あ……そ、そんな……」
そして、そこにあったものを見た瞬間顔を青ざめさせた。
「箒!一体何が……っ!?」
普段大抵のことでは顔色を変えない友人の動揺を見て駆け寄った一夏だが、箒が目にしたものを見た瞬間……
「遺体の損壊が激しくて……顔の方は隠させてもらったわよ」
そこにあったのは、顔に布をかけられた遺体だった。楯無の言う通り損壊が激しかったのか、所々が欠けていた。ただし、その遺体の身元に一夏達は覚えがあった。それが着ているものは、血塗られた黒いスーツにコート……最後に一夏達が見た衛宮切嗣の来ていた服、そのものだった。
後書き
これを書いていたのは1/29日なんですが、前半を書いている時に何かが舞い降りてきてこんな感じになってしまいましたorz
「なんかネタないかなー」
ネタ→とんでもフィルター→センター試験国語!→あとキムチ!
トラウマを抉ってしまった方、申し訳ありません。他意は無いんです。
次話についてですが、次は大体一週間後を目指している予定です。
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