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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その12

 
前書き
護衛任務再びその7のナルトが意識を失った直後です。
ちょい、サスナル風味。 

 
「ナルトに近付くな!」

目の前で崩れ落ちたナルトに対する理不尽な命令に激昂したサスケは、敢えてその命令を無視してナルトを抱きかかえた。
強い視線で、命令して来た相手とナルトが苦しむ原因を作った相手を睨み付けた。
不意に、サスケの胸元に誰かがしがみつく。
思わず、その感覚にサスケは声をかけた。

「ナルト!?無事か?しっかりしろ!」

苦しげに顔を歪ませ、瞳に涙を浮かべながら、ナルトは必死に喘いでいる。
めったに誰かに頼ろうとしないナルトの、自分に助けを求める眼差しに、サスケは自分の力不足を痛感した。
少なくとも、今のサスケには、ナルトが陥った状態も、助け方も分からない。
サスケに分かるのは、ナルトは呼吸が出来ず、苦しんでいて、このままならば窒息死するという事だけだ。
そして、このままならば、何もしてやる事も出来ないまま、ナルトも殺されて、サスケの前で死ぬという事だ。
親しい相手が、自分の前でまた死ぬという恐怖と、自分からナルトが奪われる事に対する怒りと、それをする相手に対する憎悪を感じたサスケは、ナルトを胸に抱えながら睨み付けた。
両目が燃えるように熱い。

「その目!まさか、そのガキ!!ちっ。ますますこいつは分が悪い。どうする、カカシ。ガキ共は正直だな。化け物だろうと、自分の仲間を失いたくねぇってよ」

化け物。
ナルトが自称し、周りもそう評する言葉に、サスケは腹が立った。

「こいつは化け物なんかじゃない!化け物にするのはこいつの周りにいる奴だ!こいつを化け物と呼ぶお前らだ!お前にこいつの何が分かる!」

取り引きの結果とはいえ、サスケはずっとナルトを見てきた。
明るく、穏やかに振る舞ってはいても、その裏に、誰にも触れる事が出来ないような闇をナルトは抱えている。
それなのにも関わらず、ナルトはサスケの前で嬉しそうに笑う。
その笑顔に救われている。
そんな自分がいる事をサスケは認めた。
ナルトの泣き顔や、憂い顔など見たくはない。
ナルトは能天気に笑っていればいい。
向かない事を無理やりしようと必死になる事などない。
楽しそうに笑って、穏やかに日々を暮らせば良いのだ。
無理に戦う必要などない!

「うちはのガキ。お前が何を吼えようと、そのガキが自分で言ったように、そいつは化け物だ。チャクラで俺を吹き飛ばすなんざ、人間技じゃねえんだよ。そいつは化け物として生きるしかねえ自分を良く分かっている。小賢しいくらいにな。気に食わねぇ嫌なガキだぜ」

サスケがその言いぐさに怒りに我を忘れかけた時、思わぬ所から反論が上がった。

「お前に俺の仲間をどうこう言われたくはない!!」

怒りが滲むはたけカカシの声に、サスケは驚いた。
ナルトに近付くなという命令をされたので、てっきり、カカシはナルトを化け物だとしか扱って居ないのだとばかり思っていた。
イルカのように、ナルトを可愛がりながら、化け物としても見てしまう自分に苦悩しているというでもなく、ナルトの存在をきっぱりと切り捨てているのだと思っていたのだ。
だが、どうやらそういう訳では無いらしい。
ふと、サスケの腕の中のナルトの気配が薄くなる。

「ナルト!?」

慌ててナルトを覗き込むと、顔を赤黒く染めて、瞳を閉じていた。
サスケの服を掴んでいたナルトの手から力がぬける。

「おい!しっかりしろ!」

どんどん顔色が蒼白になって行く事に恐怖を覚えたサスケは思わず叫んだ。

「死ぬな!俺を独りにするな!」

その声に押し出されるかのように、カカシが低い声で一言告げた。

「…行け」
「甘いな。いずれその甘さを後悔させてやる」
「それはこちらのセリフだ。俺の仲間に手を出した事、必ず後悔させてやる」
「ふん。白、行くぞ」
「はい。再不斬さん」

霧の忍び達が去っていく気配はあったものの、サスケの動揺は収まらなかた。
ぐったりとしたナルトの身体が、とても重く感じられた。
色々な後悔がサスケに過ぎる。
変な意地を張って、自分の気持ちを認めて来なかった。
ナルトと共にいる時間を大事に思っているなど、認められなかったのだ。
他に大事な物を作ってしまったら、サスケの復讐の邪魔になる。
けれど、里に復讐しようとしているナルトだったら、もしかしたら邪魔にはならなかったのかもしれなかった。
何故ならナルトは、復讐しようとするサスケを肯定してくれたのだから。
もしかしたら、復讐するよりも良い方法を見つける事が出来たのかも知れない。
けれど、それはもう、遅いかも知れないのだ。
気付くのが、遅すぎた。

「サスケ」

失う物の大きさに放心しかけていたサスケは、カカシの呼びかけにびくりと身を震わせた。
弱い所を見せるなど、サスケのプライドが許さない。
それなのに、醜態を曝しかけた事に気付き、サスケは顔に血を登らせかけた。

「ナルトを見せてくれ」

だが、カカシが続けた言葉にサスケははっとなった。
カカシがナルトを見やすいように、抱え込んでいたナルトを抱き直す。
しばらくナルトを検分していたカカシは、やがてポツリと呟いた。

「仮死状態だな…」
「仮死状態?」

隣から聞こえてきたサクラの声に、サスケは更にはっとした。
ここにはサスケとナルトとカカシの三人しか居ない訳では無かった。
依頼人であるタズナと、七班の一員である春野サクラも居たのだ。
まだナルトが死んだ訳ではないと知り、少し緩んだ気持ちは、自分が曝してしまった姿に、羞恥を覚えさせていく。
屈辱に歯を食いしばりながら、サスケはカカシの言葉に耳を澄ませる。
一言も聞き逃す事など出来ないと感じていた。

「自らの意志で新陳代謝を落とし、死と同じ状態を作り出す事だ。上忍の中でも限られた人間しか自由にこの状態を作り出す事は出来ない。これは、上出来だな」

どこか安堵を滲ませたカカシの言葉に、サスケは反感を持った。
今のナルトの状態は、サスケにとっては到底上出来と言える物では無かった。

「何が上出来だ!こいつの意識が無い事には変わりは無い!」

サスケの言葉に、立ち上がったカカシは読めない瞳でサスケを見下ろして告げた。

「お前の言動から察するに、お前はナルトの事を知っているな?ならば分かるはずだ。ナルトの仮死状態はお前を守る為だ。結果として、随分状況は好転した。だが、まずは落ち着ける場所に移動してからだ。ナルトは暫くまともに動けないだろうからな」

カカシの言葉に、サスケは動揺した。
仮死状態が自分を守る為だとは思いもしなかった。
けれど、ナルトの中に封じ込められている物の発露ならば、何度か目にした事がある。
そして今日目にした状態は、修行中に目にした物とは桁違いの物だった。
何より、ナルトらしくもなく、痛めつける事を面白がっていた。
誰かを傷つける事を極端に嫌がるナルトの癖に。

それを思い出したサスケは、背筋に冷たい物が走り抜けた。
理性よりも本能の方が強い。
もしかしたら、ナルトは苦し紛れに、自分の中の九尾を解放してしまう危険があった事に今更気付いた。
それを嫌だとナルトは思ったという事だ。
あの時、ナルトがそうしてしまったとしたら、一番初めに死ぬのはサスケだったのだろうから。

ナルトの中の九尾がどれほどの物だかはしらないが、サスケはナルトに純粋な殺し合いなら負けると感じている。
サスケがナルトに勝てるのは、ナルトが忍びとしてしか行動していないからだ。
そんな拘りも何もかも捨てて、ナルトに殺す事だけを目的に襲って来られたら、サスケはきっと殺される。
そう思わせるだけの力をナルトは秘めていた。
だからこそ、余計に面白く無かったのかもしれない。
自分よりも強い相手に負けを認めるようで。

けれど、もしかしたらナルトの中で、自分は特別な位置にあるのかもしれないと気付いた。
少なくとも、殺したくないと思われている。
極限状態で助けを求めて縋られるくらいには、心を許されていた。
サスケはそれを薄々は知っていて、今まで敢えて見て見ぬ振りをしていた。
ナルトの助けになるには、サスケの力では不足している。
少なくとも、どうやったらナルトの助けになるのか分からない。
それに、一族を全員殺した相手に対する復讐すら、後回しにしなければならないかもしれないのだ。
しかし、こうして冷たくなったナルトを抱えたサスケは、そんな風に尻込みしていた弱気な自分に腹が立った。
いずれにしても、サスケは力不足なのに間違いはない。
タズナに事態の説明と謝罪をし終えたカカシに向かい、サスケは声をかけた。

「カカシ。あんたに頼みがある」
「人に物を頼む態度じゃないね、それは」

カカシのぼやきが聞こえて来たが、殊勝な態度など取れる自分ではない。

「オレはこいつを護れるようになりたい」

悔しいが、その為に何をどうしたらいいのか、サスケには分からない。
検討すらつかないのだ。
力不足である事だけはひしひしと感じられる。
そして、目の前に教えを乞える相手がいる。
なりふり構ってなど居られなかった。

そもそも、ナルトが再不斬に何かされたのは、サスケを庇ったせいだ。
二度とあんな風に庇われたりなどもしたくない。

胸の中に広がる悔しさと憤りをかみ殺して、サスケはナルトを抱えて立ち上がった。
サスケよりも背が低いナルトだが、完全に意識を失い脱力しているナルトは重かった。
重いと感じる自分が悔しかった。
だから。

「オレを強くしてくれ。あんたはオレ達の担当上忍だろう」

血を吐くような屈辱を感じながら、サスケは望みを口にした。

「私も、です」

不意に、隣でサスケに同意する声があがり、サスケは意外な気持ちで声をあげた相手を見た。

「私、もっと強くなりたいです!今の私じゃ、ナルトやサスケ君のフォローすら出来なくて、足手まといにしかならないっ!こんなに、ナルトと実力に差があるなんて思ってなかった。同じくアカデミーを卒業したばかりなんだから、実力に違いは無いって思ってた。でも、違かった」

悔しげに涙を浮かべて、サクラはカカシに懇願した。

「私、もっと忍びとしてサスケ君達に追い付きたいです!追い付かなきゃ、私…」

泣き出しそうになるサクラの頭に手を置いて、カカシは笑みを浮かべた。

「お前らの気持ちは分かった。それじゃ、タズナさんの家についたら、修行開始で良いのかな?」

カカシの返答にサスケは口の端がつり上がるのを感じた。

「望む所だ」
「も、勿論です!」

強くなれるというのならば、何も文句はない。
出来れば、護る方法も盗み取れればいい。
そうすれば、わざわざ頭を下げる必要などない。
それでもどうしても分からなければ。
その時こそ頭を下げねばならないだろう。
相手はこの上忍かも知れないし、もしくは、一度会ったきりの、自分が弟子入りを志願した相手かもしれない。
どちらにしろ、自分の目の前で易々と誰かを害されるのを黙って見ているだけの自分ではなくなれればいい。
もう二度と、こんな風に自分は何も出来ない子供だと突きつけられるのはごめんだった。
サスケは、もう何も分からず、ただ守られ、甘やかされて甘えていた子供ではない。
あの頃よりも強くなった。
それなのにサスケの前でナルトを奪われる所だった。
そんな事を許せる訳がない。
それに、ナルトを失ってしまったら、サスケはどうしたらいいのか分からなくなる。

サスケが一度、それまでの全てを失ってしまった時、サスケを慰めてくれていたのはナルトだった。
ナルトを失いかけたからこそ分かる。
自分はずっとナルトに守られていた。
少なくとも、独りになってしまった事や寂しさを感じさせないように気を使われていた。
サスケの気持ちが落ち込みかけていると、いつも気付けばナルトの気配が近くにあった。
サスケはナルトに腹を立てて、力を競う楽しみを感じていれば良かった。
だが、サスケだけが守られているのは、腹が立つ。
同じ年の女に守られていたなどと許せる訳がない。
無意識の行動なのだとしても同じ事だ。
ひんやりとして冷たく硬直した誰かを抱き締めるのは、これが最後だ。
固い決意を胸に秘めて、サスケはカカシの顔を見上げた。 
 

 
後書き
ちょっぴりサスケの闇落ちフラグを叩き折ってみたりなんかしてみたり。
 
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