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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その11

 
前書き
その2の続きです。 

 
ミコトさん。

もしかしたら強敵かもしれません。
もしかしなくても強敵です。
おじいちゃんよりひきつけられます。
何せ、教えてくれる事の端々に、私のお母さんとのエピソードを交えてくれて、とっても私の心を惹きつけてくれます。
時たまお父さんのエピソードまで混じるとか反則です!

そして今。
私はうちは家の団欒にお邪魔しています。

なんだこれは。
本当になんだ、この状況。
フガクさんは物心ついて直接会うのは初めてですが、私を見てぎょっとされました。
そこへミコトさんが笑顔で私の存在をごり押ししました。
フガクさん、どうやらミコトさんの尻に敷かれているようです。

「さあ!夕飯にするわよ。今日はナルト君も夕飯の手伝いしてくれたのよ。皆ちゃんと味わって食べてね」

夕飯を食卓に並べ終えたミコトさんの言葉に、サスケ君が私に疑問の眼差しを寄越しました。
けれど、私には曖昧な生暖かい笑いを返す事しか出来ません。
それを見て、何か悟ったような、納得したような表情をサスケ君が浮かべるのが印象的です。

ミコトさん。
家庭内でどんな姿を。
いや、あの笑顔には私も逆らえなかったし、何となく分かった。

もしかして、この家って、というか、木の葉へのクーデターって、ミコトさんが煽動してた?

そんな疑問が頭を掠める。
その時、イタチさんを皮きりに、うちは家の方々が箸を取り始めた。

「頂きます」
「いただきます!」
「頂こう」
「い、いただきます?」
「はいはい。さあ、召し上がれ」

穏やかに微笑むミコトさんだけど、この一年でどんな人柄か何となく掴めているし。
さすが赤い血潮のハバネロと呼ばれたお母さんの親友なだけはあります。
この人、実は結構、鉄火気質で短気な人です。
そして、お母さんの事をとても大事に思ってくれているようでした。
それなのに、私の事も、お母さんの最後の事も、何も知らされず、随分やきもきしていたようでした。
今までの私との会話の言葉の端々にそんな態度が見え隠れしてました。
だから、もしかしたら、うちはのクーデターって、その辺も大きかったんじゃないだろうか、と私は考え始めていました。
それ、もしかしたら本当に間違いじゃないのかもね。
そう思いながら、私も夕飯に手を付け始めました。

「美味しい!」

ミコトさんの料理をごちそうになるのは初めてだけど、というか、誰かの作った家庭料理をご馳走になるのは初めてな事に気が付いた。
気付いた途端、私の目から、堪えきれない涙が零れ落ちた。
ぼろぼろと、涙が止まらなくなる。
後から後から涙が止まらない。
変に思われちゃうのが分かるのに、涙が止められない。

ミコトさんが立ち上がって、いつの間にか私を胸に抱き締めてくれてました。
温かくて優しくて、どこか甘くて柔らかい匂いが、一度だけ抱かれる事のできたお母さんの胸を思い出させる。
止められない涙がさらに増えて、どうにもこうにも制御できなくなってしまってました。

「辛かったわね。一人で苦しかったわね。ごめんなさいね。ずっと気付いてあげられなくて」

きつく私を抱き締めて、ミコトさんが私に謝る。
ずっと昔に私の中で閉じ込められた何かが溶け出して行くのを感じる。
ミコトさんのせいじゃないと言いたいのに、嗚咽で言葉にならない。
必死に首を振る。
でも、それでミコトさんには通じたらしい。

「これからは私達がいるから。私達がクシナとミナト君の替わりに守ってあげるわ。安心して良いのよ。ねえ?あなた」
「あ?あ、ああ」

戸惑ったようなフガクさんの声に、私は我に返る。
いつの間にか、ミコトさんにしがみついてしまっていた事に気付いて、恥ずかしくなった。

「あっ、あの!ごめんなさい!!私っ」

咄嗟に素の言葉使いになりかけてしまったけれど、勢いで誤魔化す事にした。

「こんなの初めてで、嬉しくなってしまいました。突然泣き出したりなんかしてごめんなさい。もう大丈夫です」

ミコトさんの腕の中から抜けだし、涙を拭う。
ぽかんとして私を見つめているサスケ君の視線が痛い。
格好悪い所を見られてばつが悪かった。
だって、こんな、子供みたいに泣きじゃくった事なんて、三代目の前以外ではなかったのに。

「そう。なら、ご飯を食べれるわね。気に入ったのならいつでも食べにいらっしゃい」

ミコトさんはこう言ってくれるけれど。
でも。

思わず私はフガクさんの表情を伺っていた。

「勿論誰も文句を言う人なんか家にはいませんとも。ねえ、あなた?」

ミコトさんの怖い笑顔がフガクさんに向けられます。

「う、うむ」

何だか焦ったようなフガクさんがこくこくと頷きました。
ニコニコと笑うミコトさんがとても綺麗なのに怖い人に見えました。
ミコトさんがとても怖いので、大人しくしてますが、多分私とフガクさんは仲良く出来ません。
だって、フガクさんは私を殴りつけた事のある人間ですから。
だらだらと冷や汗を流すフガクさんを眺めていた私は、ミコトさんに声をかけられた。

「ナルト君?どうしたの?遠慮せずにおあがりなさい」

綺麗で、とても優しい笑顔です。
サスケ君がとってもうらやましいと思いました。
私も、こんなお母さんが欲しかったな。
胸を締め付けられるような寂しさが込み上げてきます。
それを飲み込み、押し殺しながら、私はミコトさんに笑顔で返事を返しました。

「はい」

笑い返してくれるミコトさんの微笑みに、胸がきゅんとなりました。
どうしよう。
もしかしたら、『うちは』は私の敵かもしれないし、私を利用しようとしているかもしれないのに。
私、ミコトさんの事は嫌いになれないかもしれません。

ほんの少し迷いを感じながら、私はミコトさんと一緒に作った料理を食べ始めました。
家族団欒の雰囲気の中、誰かと一緒に食べるって、こんなに温かい気持ちになるんだって、忘れてました。
美味しいのに、切なくて。
私の目から涙がもう一度零れ落ちます。

今度は零れた端から拭い取って、泣いてる事に構わずにご飯を食べ続けました。
誰も何も言いませんでした。
その優しさがとても私の心に沁みてきます。

私の涙に気付いているだろうに、何気ない風に食事を続けてくれるうちは一家に、私は自然に微笑みを浮かべていきました。
フガクさんにもいい所があるのは分かりました。
この家の人達、私、嫌いじゃないかもしれません。
この人達も木の葉の里の人達だけど、この人達は嫌いじゃない。

だから、ちょっとだけ、本格的に試してみようと思います。

この人達を大事に思えるか。
この人達を好きになれるか。
この人達を護りたいと思えるようになれるのか。

そうしたら、私、もしかしたら復讐しないで過ごすことができるかもしれません。
ちょっとだけ、本当に少しだけここの人達に期待してみようと思います。
後で裏切られたり、騙されたと分かったとしても、それは私が選択した事です。

この人達を大事に思えるようになっていたなら、それもありということにしよう。

そんな風な覚悟を胸に秘めながら、私はご飯を口に運びました。  
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