少年少女の戦極時代
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第35話 ヘルヘイムの森 光実&咲 ②
龍玄は脱力していた。何から考えていいか分からなかった。
貴虎だった。
確かに、貴虎だった。光実の兄だった。
「ミッチ、くん、だいじょうぶ…?」
『咲ちゃん…!』
龍玄は胸を押さえながら、ふらふらと咲の横に行って膝を突いた。彼からすれば小さきに過ぎる体を抱き起こす。
『ごめん、こんなケガさせて。兄さんが……本当にごめんっ』
「ん…げんきなら、よかった…」
咲は、痛くて堪らないはずなのに、にこりと龍玄に笑んだ。
(碧沙と同じ歳の子に気を遣わせてどうするんだっ)
龍玄は咲の小さな体を抱き上げた。
「ミ、ミッチくん?」
『兄さんを追いかけよう。それできっと拠点に出るはず。手当ての道具もあるだろうから、そこでケガの手当てをしよう』
「……ごめんね。めいわくかけて」
首を横に振る。迷惑などではない。むしろこのゲームに参加させた時点で、光実のほうが咲に迷惑をかけている。
『なるべく揺らさないように歩くつもりだけど、痛かったらすぐ言ってね』
歩き出しながら、ふと龍玄は思いつく。
咲の行動は何を根として現れるものだろうか。
普通の小学生女子が、彼女よりは大人の闘争の場に立ち、一時のパートナーを守るために自爆までするものだろうか。光実なら絶対にしない。
最近の子供はゲーム脳だから、と身も蓋もない片付け方もできるが、咲はそうではない気がする。幼いからといってこのゲームの底流のデッドオアアライブを感じ取れないとは思えない。
もしかすると彼女も、他人のためなら我が身を省みない紘汰のような性格かもしれない。
そう思うと、龍玄は何が何でも咲を助けてやりたい気持ちに駆られた。
兄を尾けて辿り着いたのは、夜襲でも受けたかのような有様のキャンプだった。
龍玄は咲を抱えたまま、幹の陰からキャンプを覗く。無人のようだ。
奥にある大きいクラックから見られないよう、龍玄は木の陰から陰を移動し、潰れたテントの一つに潜り込んだ。
『気分はどう? 咲ちゃん。痛む?』
「ん…さっきよりマシ、かな」
龍玄はテントの崩落でもちょうど潰れてなかった棚を開け、救急箱なり何なり置いていないか調べてみた。するとお誂え向きに、小さな救急医療セットを見つけられた。
光実は一度変身を解いて、医療セットを取り出した。中身は包帯や消毒液、湿布とソーイングセットが入っている。光実はその中からありったけの湿布を出した。
「骨や内臓にダメージがあったら僕にも手が出せないから、とりあえず痛み止めにしかならないけど」
鎮痛全般に効く錠剤を咲に渡し、光実は、トレーナーをめくった咲の肌に湿布を貼っていった。
下腹から鳩尾にかけて湿布を張り終わり、あとは胸部というところで、咲がトレーナーをめくる手を止めた。
「あ、あとは自分でやる、から」
「まだ痛いんでしょ? 遠慮しなくていいんだよ」
「…ょう……けてない、の」
咲は耳まで赤くなって顔を逸らした。その顔は11歳とは思えないほど色めいて。
「今日……ブラ、着けてないの」
「……あ…………ご、ごめんっ!」
光実は急いで咲に湿布を渡し、体ごと後ろを向いた。心なしか光実も暑くなってきた。冬なのに。
(碧沙も同い年だけど、その手の事情って聞いたことないな。ああでも知ってたらさすがに兄でもヤバイか。そういえばその辺、あの子どうしてたんだろう。まさか一人で買いに行ったりさせちゃったのかな。だったら可哀想なことしたなあもう!)
ただ背中を向けているだけでも居た堪れず、光実は立ち上がって倒れたテント周りの散策をすることにした。
後書き
小学5年生はスポブラを着けるか着けないかのちょうど端境期なんですね。慣れない感触がいやである程度育つまで無視するか、小さいけれど慣れるためにも着けるか。咲は前者ですね。ダンスの時もそれほど困らないのは前回の特攻話で「未発育」と書いたのの回収ということで。
Rなんてつけなくても仕事するときはするんだ……ゼ?
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