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アマガミフェイト・ZERO

作者:天海サキ
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十七日目 十二月七日(水)前編

 
前書き
久々の更新となりました。毎日数人の方が読んで下さっているようで、作者として嬉しく思います。
今後もあまり更新出来ないと思いますが、よろしくお願いします。 

 
「ウェイバーくん……どこ……? どこ……?」
 か細い呻き声が、わたしを眠りから覚ました。誰かが誰かを呼んでいる。ふぁぁ。でも、瞼がまた重くなってくわ。あら、甘い香りもしてきた。でも、これは呪い。己より強い神が生まれるのを疎んだユピテルの、強い、強い呪い。
「マダム、只今呼んでまいります。少々お待ちを」
 どうやら、わたしに呼びかけてるみたい。でも、頭が重くて上がらない。だから顔は解らない。
 顔。……顔、顔。あの人の顔。眠りから覚めただけでは、あの人には会えないんだったわね。神々が地上を歩いていた時代は、もうとうの昔の事みだいだものね。大いなる方の気紛れじゃあ、どうしようもないわ。
「お待たせしました。ですが、あまりお話する時間はありません。そろそろ彼は、戦いに行かねばなりませぬ故」
 ……駄目。また夢の世界がわたしを飲み込む。どこよりも深い闇が、わたしの身体に絡みついて、深淵へと引き摺り込んでいく。でも、感じるわ。この感覚は、前と同じ。程無くわたしは再び目覚めるでしょう。そしてその時、閉じられし天と地を結ぶ扉は、きっとまたわたしの前に現れる。なら、今はまだ闇の手の内で眠るのも、そう嫌がるものではないのかな……。

 ほの暗い洋室。不気味に灯る数本の蝋燭の明かりだけが、上品な家具が揃う室内を照らす。事務机には、今回の聖杯戦争に参加しているマスター達の顔写真や、びっしり書き込まれたメモが大量に置かれている。
「じゃあな、舞弥。僕らが女神、アイリスフィール様をしっかりお守りしろよ。この前みたいに、アサシン風情に補足されるなんて事があったら、ただじゃおかないからな」
 ウェイバーベルベットが黒いマントを身に付ける。
「あなたも無鉄砲に突っ込み過ぎて、足元をすくわれませんように。お忘れなく。あなたはアインツベルンの希望なのですから」
 暗がりから久宇舞弥が現れる。いつものように無表情で、暗殺者の持つナイフのような鋭利さを漂わせている。
「セイバー、ランサー、ライダー、キャスターの四人は、どうやら同盟を結んだようです。先日から、四人のマスターの位置情報が付かず離れずといった傾向を示しています」
 ウェイバーが不敵な笑みを浮かべる。
「僕に死角はないっ。昨晩アイリスフィール様が、己が身を削って与えて下さったあの力もあれば、僕は無敵だ!」
「……くれぐれも、油断召されぬよう」
 無表情の久宇舞弥が、深々と頭を下げた。
 ウェイバーの眼が涙ぐんだ。
「ああ、アイリスフィール様っ! 僕の為に流されたその血にかけて、必ずや勝利という果実を貴方様に献上致します! ……そう、必ず、今日こそはっ!」
 ポーンポーンと、壁に掛けられら上品な大時計が午後五時を告げる。久宇舞弥は、決意を漲らせて出かけるウェイバーを見送りながら、不意に冷たい微笑を浮かべた。

町内に夕方五時を知らせる時報が流れた。
「今週は寒いな……」
空はあいにくの曇り。先週と同じ季節とは思えない冷え込みに、橘純一は身体を震わせた。
「えっと、美也は商店街でまんま肉まん食べてるんだったな。で、森島先輩と塚原先輩も商店街で買い物っと。……はぁ。どうせなら、先輩達とご一緒すれば良かった。でも、なんかもじもじしてたしなぁ」
「何ぶつぶつ言ってるのよ。こんなに可愛い子が隣に居るのに、サイテーね」
 純一の顔に苦笑が浮かぶ。突然聞こえる毒舌にも大分慣れてきた事が、何だか可笑しかった。
「……セイバー、どうしてサーヴァントは聖杯を求めるんだろう?」
「どうしてそれを今聞くのかしら」
 真顔で問うた純一に対し、制服姿のセイバーが鋭い視線を返す。
「アーサー王って、気高くで、騎士の中の騎士っていう、伝説のイメージ通りの人って、ランサーが言ってただろ? そんな人がさ、バーサーカーみたいになってまで聖杯を欲しがる理由ってなんなんだろって」
「……そうまでしてでも叶えたい願いを、サーヴァントになる者は皆、持っているのよ」
 セイバーの瞼が少し閉じられ、何だか寂しげな表情が浮かんだ。
「……それってセイバーにも、叶えたい願いがあるって事?」
少し躊躇した後、ゆっくりとセイバーが口を開いた。
「ええ、そうよ」
「……もし良かったら、それが何か聞いてもいいかな?」
 セイバーの口は、開かない。沈黙が空気を重くする。
「ごめん、聞かなかった事にしてよ」
「……復讐よ」
「え?」
 日差しが無いからだろうか、純一には今のセイバーがやけに暗く見えた。
「あたしの願い。それはね、神への復讐よ」
「えと、セイバー? それって、どういう……」
 だが純一は最後まで言葉を続ける事が出来なかった。
「来たわ。ライダーのところよ」
「美也!」
 セイバーが、純一の身体を軽々と抱えた。
「じっとしてなさい。行くわよ」
 人間には決して出せないスピードで、セイバーが駆け出した。 
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