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アマガミフェイト・ZERO

作者:天海サキ
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十五日目 十二月五日(月)

 
前書き
用事がもろもろありまして、更新が遅くなりました。 

 
 屋上に続く扉を開けると、澄んだ青空が見えた。だが外に出て、純一は少し後悔した。屋上は、余程の用が無ければ立ち入らない方が良いくらい、寒くなっていた。震える身体を抱きしめながら屋上に出ると、純一は手すりの側に絢辻司が居るのを見つけた。
「こんにちは、絢辻さん。輝日東山が良く見えると思ったんだけど、さすがにもう、寒いね」
 ゆっくりと振り向いた絢辻司は、少し寂しそうな顔をしていた。
「……橘君? ……そうね。でも、これくらいなら私は平気」
 何だかいつもと少し違う雰囲気に、純一はバツの悪い思いをした。
「えっと、絢辻さんはどうしてここに?」
「あら、生徒がここに居てはいけない理由があるの? それとも橘君が、私が居ると困るのかしら?」
 先ほどの寂しげな表情はどこかへ消え去り、絢辻司がいつもの可愛らしい笑顔を浮かべる。だが今や、彼女の本当の姿を知る純一にとっては、何か薄ら怖い笑顔だった。
「え? いや、ぜんっぜんそんな事は、無いです。ええ、はい」
「あら、その反応、あからさまに怪しいわね。……何しようとしてるの?」
 絢辻の顔付きが変わり、眼光が古の剣士のように鋭くなった。
「えと……あ、あはははは。その……、お宝本を、観賞しようかなって」
「……お宝本? 何よそれ?」
 絢辻の瞳が更に鋭さを増し、純一を睨みつける。口調もきつくなり、声色も何だが重々しくなる。
「ええ? あ、えーと、ああ、ま、漫画なんだ。えと、絢辻さんも知ってるよね? 〝ビーバー三国志″」
「ふーん。手ぶらで漫画観賞って訳?」
 純一は、何も持たずにここまで来ていた事に、今更ながら気が付いた。
「えええ? あ、ああ、それは、後で梅原が持って来る事に……」
 あからさまに疑っている絢辻に、純一は作り笑いを向ける事しか出来なかった。
 だが不意に、彼女の顔から表情が消えた。
「……まぁ、いいわ。タバコとかそいう校則違反、橘君はしなさそうだし」
(……お宝本は間違いなく校則違反、だよね)
「じゃあそろそろあたしは行くわ。橘君も、あまり遅くならないようにね」
「あ、うん。創設祭の仕事?」
「ええ。それに、少し図書館で予習もしときたいしね」
 純一が眼を丸くする。
「ええ!? 予習もするの? でも、それなら家ですればいいんじゃない? 絢辻さん、ただでさえ実行委員会とかで遅くなるんだから、家に帰った方がいいよ」
 純一は不意に、周囲の気温がガクッと下がるのを感じた。絢辻が俯き、顔が髪と影で隠れる。
「……別に、遅くなったって構わないわ」
「そんな! お父さんやお母さんが心配するよ?」
 突然黒い旋風が巻き起こったように感じた。影に顔を隠した絢辻の身体が、小刻みに震え始めた。
「あたしの心配なんて、する訳が無いわっ!」
 顔を上げた絢辻の表情を見て、純一は、ぞっとした。彼女の表情には、ありありとした憎悪が漲っていたのだ。
 
 あの後、感情をあらわにしたのを気まずく思ってか、絢辻は無言で立ち去って行った。屋上にただ一人残された橘純一の心は、かき乱されていた。
(絢辻さん、何であんな事を……)
「あら、修羅場だったかしら」
「わぉ、橘君、大人ねぇ。これが修羅場ってやつなのね」
「……塚原先輩に森島先輩、一応お聞きしますが、いつから居たんですか?」
「さっき来たところよ。ね? はるか」
「ええ、そうよ。私達、何にも見てないわよ~。修羅場とか」
 にこやかな笑顔を浮かべる先輩二人。明らかに最初から居た事を物語っている微笑みだった。
「にぃにったら、どんな悪い事したの!?」
「……美也、意味が解らん」
「だって、にぃにが、あの優しくて素敵な絢辻先輩と仲良くしてるんだよ!? どんな悪い手を使ったの? にぃに、これ以上はやめて! 犯罪者になっちゃうよっ!」
 先輩二人の後ろから、美也が飛び出て来る。慌てている様子で、かなり早口だ。
「……お前は、俺を何だと」
「ちょっと。余計な話は終わりにして」
 純一が美也につっかかろうとした時、制服姿のセイバーが現れた。しかめっ面をしており、機嫌は良くなさそうだ。
「マスターが揃ったって事は、皆居るのかしら?」
 純一ら四人を見渡すセイバー。
「ああ、もちろんだ」
「よぉ、大将、元気そうで何よりだぜ」
「まさか、バーサーカーの正体が、騎士王とはな。まったく、今回も胸糞が悪い事が続きおる」
 屋上に、ランサーとライダー、それにキャスターがこの場に相応しい格好で現れた。
「……何で、皆制服着てるんですか?」
 現れたサーヴァント三人は、皆制服姿だったのだ。ランサーは美男子だけあって、身体に合った制服が良く似合っている。ライダーはどこから調達したのか、五Lサイズくらいの巨大な制服を身に付け、如何にも番長といった風情だ。キャスターは、まんま背が伸びた梅原だった。
「それはね、純一君。私のお兄ちゃんと弟の制服を貸してあげたのよ。ランちゃんとライちゃんにね。もう、ぴったりで、わぉ、ミラクルって思っちゃった」
「キャスターのは、監査役の二人にお願いしたわ」
(森島先輩……。あの二人とぴったりって、いったいどんなご兄弟なんですか……)
「こほん。話を始めるけど、いいわよね」
 雑談がやみ、皆がセイバーを見た。
「さて、今回皆に集まってもらったのは、バーサーカーに対する共同戦線を提案するためよ。バーサーカーの正体は、あの伝説のアーサー王だった。名が世に知られている程に強力なステータスを得れる聖杯戦争に置いて、あまりに有名なアーサー王の能力は最高クラス。おまけに身体能力がバーサーカーのスキル〈狂化〉で向上していて、伝説のエクスカリバーも放てる。人の思いが魔力変換される今回の聖杯戦争においては、魔力消費を誘う作戦も使えない。どう考えても、バーサーカーは頭一つ抜きん出ているわ。出る杭は打たれる。その言葉通りに、バーサーカーを倒す為の同盟を提案したいの」
「応じよう。〈狂化〉に飲み込まれた今のアーサーを救うには、倒すしか術はない」
「この前、助けてもらった借りがあるしな、俺も異論はないぜ」
「あの娘は、余が正してやらねばならんのだ。王としてな。その提案、乗らせてもらう」
 制服姿の四人のサーヴァントが、互いの顔を見合い、頷き合う。言葉は少なくとも、思いは一つといった感じだ。四人のマスターは皆、生死に関わる争いには素人。ただ、己がサーヴァントを信ずるのみ。マスターも同意し、ここに、セイバー、ランサー、キャスター、ライダーによる対バーサーカーの同盟が締結された。
「ところでセイバー、具体的な策はあるのか? 聖剣を打たれては負け、ではちと心許ないぞ」
 セイバーが、何だか少し複雑な顔をする。
「……はぁ、どうせ黙っていても、解っちゃうでしょうしね。いいわ、ライダー。あなたにも教えます。あたしには、飛行能力と炎の加護があるの」
 ほぅ、っとライダーが眼を細めた。
「……なるほどな。そういう訳か。だが、炎の加護があるとて、聖剣を防ぎきれる訳ではあるまい? 今回のバーサーカーのエクスカリバーは、確かに炎の属性となっているようだが、加護程度では防げまい」
「それは解っているわ。もって一分というところね。でも一瞬では無いわ。それだけの時があれば、あなた方なら敵を倒すのに充分ではないかしら?」
 ライダーが、豪快に笑う。
「言ってくれるな、セイバー。そこまで言われては、余も最強宝具を使わねばなるまい」
 セイバーとランサーが、顔をはっとさせる。
「ライダー、あなたまだ宝具があるの?」
「おうともよ。お主が真名を明かしたも同然の情報への、礼よ。余にもまだ、皆には見せていない宝具がある。その宝具を、対バーサーカー戦では惜しみなく使う事を約束しようぞ」
 にかぁっと猛々しく笑みを浮かべたライダーが、右手をグーの形にし、親指だけ下に向けて立てて、セーバーの前に突き出した
「……なによそれ」
「グーサインというやつだと聞いた」
「親指は上!」
 一斉に皆が同じフレーズを言った。小気味良いハーモ二―が、澄んだ空に響き渡った。 
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