SIREN2-End Of Destiny-
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夜見島と怪異
絶望の始まり
大野真 -9:00 『出航』 中迂半島/三逗港
日本某所、四開地方にある中迂半島・三逗市。
住民が少ない小さな土地。
漁業が盛んな場所で、港の三逗港には多くの漁船が集まる。
その地の1つの漁船が、出航準備をしていた。
しかし漁に出る訳では無い。
「そろそろ出航するぞー」
運転席から船内を覗き込む少年・島田優助。
港で働く大学生でありこの船の運転手である。
「まだ出ないの?」
優助に問いかける女性・藤田朝子が船内でそわそわしながら座っている。
「もうすぐ出ますよ。あとちょっと待ってください」
優助は笑いながら答えた。
そんな朝子の隣には静かに外を眺める女性・竹内恭香がいる。
東京でかなり名の通ったイラストレーター。
小説本の表紙絵や挿絵を描いたり、バンドなどのチラシの制作も手掛けている。
「もう15時になる。あまり遅くなると島での取材時間が短くなっちまう」
本を読んでいた青年が時計を見ながら言い放った。
大野真。
週刊紙・アトランティス編集部に今年から配属になった新人だ。
真はかけていた眼鏡を外し、優助に向き直る。
「こっちに何日か滞在するつもりなんですよね。多少時間くってもいいじゃないですか」
適当に優助はあしらって甲板へと歩いて行った。
真もずっと座って本を読んでいたため、少し疲れている。
「俺も甲板に行くか……」
朝子と恭香を置いて、真は本を持って甲板に向かう。
甲板には先ほどここへ向かっていた優助と、同じ船に乗り合わせた内藤武が話し込んでいる。
「まさかあの有名小説家の内藤さんが、ここにいるとは思いませんでしたよ」
「有名だなんて……」
「デビュー作の“オリオンの星”で一躍有名人になったじゃないですか。俺も読みましたよ」
「ありがとうございます」
照れくさそうに内藤は頭を下げた。
真はそれを聞いて思い出す。
5年前、デビュー作の“オリオンの星”が空前の大ヒット。
沢山の賞をもらい、いつしか10年前に同じような大ヒット作を生み出した三上脩が再来したのではないかと世間で騒がれるようになった。
その内藤が、今ここにいる。
「あの子は……?」
内藤は真を指さしながら優助に聞いていた。
ビックリしながらも深々とお辞儀しながら自己紹介する。
「は……初めまして、雑誌編集者見習いの大野真といいます」
「よろしくな、真君。そこまで固くならなくてもいいよ」
「は……はい」
挨拶を終えると、再び優助との会話を始めた。
有名人に会えたと喜ぶ一方、小さな疑問が生まれる。
それは行先。
優助と内藤の間から見える島。
―――――――夜見島――――――――――
今から39年前、昭和51年。
四開地方にある小さな島があった。
島民は独自の文化を築いており、外部との接触は無いに等しかった。
しかし、そんな島に惨劇が起きる。
島民消失事件……。
本土と夜見島を繋ぐ海底ケーブルが、事故で切断。
夜見島全体に供給していた電力が無くなり、島全体が闇に包まれたのだ。
そのケーブルの復旧の為に島に作業員がやってきた頃には、島民全員居なくなってしまう。
それからというもの、あの島には誰も近づかなくなってしまった。
誰もが忌み嫌う夜見島。
真は雑誌の取材の為に向かうのだが、他の人はどうだろう。
送ってくれる優助はともかく、フリーターの朝子、小説家の内藤、イラストレーターの恭香。
夜見島にはどうも縁遠い人々ばかりである。
「優助くん、そろそろ行かないかね?」
「ええ……ですが1人足りなくて」
「足りない?」
「安田恵さんという方がまだ来て無くて……」
「だがしかし時間がそろそろヤバい。それに天気が悪くなるうちに行きたいんでね」
内藤が空を見上げれば、分厚い雲が空を覆っていた。
時計を見ながら優助は、悩んでしまう。
だが時間も時間だ。
約束の15時を既に20分は過ぎている。
優助は「よし」と呟き、運転席へと向かった。
「わかりました、行きましょう。お二人は危ないので船内へ」
「中へ行きましょう、真くん」
「は……はい」
2人は船内へ入り、それぞれ空いている席へ座った。
「出航します」
大きなエンジンの音を出した後、船は夜見島へと出航する。
船が出港してしばらくの事。
船内は和やかな空気になっていた。
それぞれ自分の事を話し、かなり打ち解けていた。
真も内藤とすっかり仲良くなり、“オリオンの星”の制作秘話など聞いている。
夜見島はもうすぐそこ。
そんな時だった。
…………ガクンと船が大きく揺れた。
「うわっ!!」
「キャッ!!」
それぞれが掴まれそうな場所を探し、そこを必死に掴む。
小さな揺れはどんどん大きくなり、やがてまともに座っていられないほどの揺れに。
「時化でも無いのに……この波の揺れは何だ……!?」
優助も必死に舵を取ろうとするが、波に船は弄ばれ続ける。
真は思わず船内から手探りで外に出てしまう。
「こ……れは……!?」
「ダメだ!!大野さん、中へ!!」
その言葉は、耳には届かなかった。
波の音でかき消され、その波は船ですら飲み込んでしまう。
「う……ああぁぁ!!」
真は海に弾き出され、波に遊ばれる中意識を失ってしまう。
瞼を閉じる前に見た、何か巨大な生物の正体も解らぬまま……。
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