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第一章 ~囚われの少女~
千一夜の夢
前書き
久々の更新です。
今年も何卒よろしくお願い致します!
ようやくやる気が戻ってきました(汗)
ランプに灯った一本の火。その火が消えると、私の一日は終わり。
――ただ火の消えゆくのを見つめながらその日を終える。
そんな夜を何千夜と過ごしたのだろう。
一本のろうそくは、私の舞台照明。
暗闇の中で唯一、私を見てくれていた存在だった。
――凍える夜は指先を温めて、寂しい夜は揺れる火に慰められる。
その火の生み出す影は、数々の物語を生んだ。
それによって私は、幾夜となく癒された。
自分に与えられた、ただ一つの光。色々な物語を教えてくれたその光は、一本のろうそくは、どれほど私の支えとなっただろう。
しかしそれにも、別れの時がやってくる。
――
“レナ・オレリア”――姫と同じ名を名乗った少女は、最後のその夜、なかなか眠れないようだった。
あれからさらに夜が更け、もうすでに明かりは消えていた。
――どうせなら最後は、最高の夢を見たい。
でも。もしかしたら、今日に限って何も見られないかもしれない。
暗闇の中で目だけは冴えていて、明日自分が死ぬという事実と向き合わざるを得なかった。
考えるだけでも恐ろしい。けれど、今はどうしてもそんな事ばかりを考えてしまう。
――命が尽きた後はどうなるのだろう。永遠に夢の中を彷徨うのだろうか。
明日は永遠の夢が始まる。
どうせ生まれ変われるのなら。次は、自由に空を飛べる鳥になろう。それなら命も惜しくはない。
こんな人生なら、失っても何も嘆くことはない。惜しむべき命もどこにもない。
在っても無くても変わらない。そんな人生は、一体どんな風に終わるというのだろう。
果たして私は鳥になれるのだろうか。未練を残したままの魂は、この世に浮遊し続けてしまうのだろうか。
そう。在るのか無いのか分からない、こうして生まれた世への未練を残して。
考えるのは最期の瞬間の事ばかり。明日はどんな結末を強いられるのだろう。
民衆たちの晒し物にされ、首を胴体から切り離されて。
木の箱に詰められ、無数の剣に刺し貫かれて。そうしてその骸は、見たこともない恐ろしい魔物の餌にされるのか。
狂った脳裏が映し出す映像に、恐怖どころかひきつった笑いさえも沸いてくるようだった。
膝を抱え、顔をそこに突っ伏した。
死ぬという恐怖を前に、少女は泣いているのだろうか。
泣きたいのだろうか。
それともそんな感情さえ、もはや消え失せてしまったというのか。
自分自身が感情を殺すのは、とうの昔に慣れたはずだった。
(ああ……私が死んで、誰か悲しんでくれますか?)
――悲しんでくれる?
「誰が……」
――それは一体……誰が。
祈りとも願いとも言えないような、そんな皮肉を少女は呟く。誰に言うでもなく、自らを嘲笑うかのように。
少女は思う。望んでもないのに生まれる事を強いられ、勝手に奪われるというのか。
「何て自分勝手なの?」
吐き捨てる。
「命とは何ですか? 運命とはどこまで勝手なのですか!?」
天に嘆く。
そして少女は嘲笑した。
「ああ、神様……。運命によって私を弄び、掌で命を転がし、そして握りつぶす。それで満足でしょうか? さぞ滑稽な事でしょう? こんな姿を見て、お笑いになっているのですか?」
――そうだというなら、それも本望。それでも、暇つぶし程度でしかないのだろうけれど。
そう思う事で自分に暗示をかける。
「せめて――それならせめて、あなた様の涙を下さい」
心の底にある、隠しきれない感情が湧き上がってくるような気がした。
彼方の空を仰ぎ、恵みの雨を待ち望む。勿論雨などは見たこともないのだが。
「一滴ばかりで構いません。花のように短い人生を演じた私へ、一滴ばかりの憐れみを」
(淡く、優しい。終わりのない夢をください……)
少女は何かを求めてか、虚空へ手を伸べる。
「お望みとあれば。今すぐにでも、あなたの元へと飛んでいきたい」
――姿を鳥に変えて。
生まれ変われるのならば。何も知らない、不自由や自由でさえも知らない、罪深き鳥の姿に生まれ変わりたい。
少女の手のひらにあったのは、一滴のしずく。
――
そうしてさらに夜は更け、空には赤く燃える火が登ろうとしていた。
その頃王宮には、何やらざわざわと風が吹き始めていた。
「女王様、大変です! ――」
-第八幕へ-
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