少年少女の戦極時代
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第16話 あなたは優しい
季節は12月。並木道のイチョウもだいぶ裸木に近づいている。
落ち葉が減るのは、リトルスターマインにとってステージ掃除が楽に済んでいいので大歓迎だ。
ステージと客席をほうきで掃き清めて、すり鉢型の劇場のベンチは、濡らした雑巾で拭く。そして、これまたトレーナーと同じで手作りの看板を垣根の割れ目前に置く。
最後に客席前にCDプレイヤーを置いて、リトルスターマインのステージ準備は完了だ。
咲とヘキサをセンターに仲間は並ぶ。
観客はすでに、満員御礼というほどではないが、集まってキラキラした目でこちらを見上げている。
ヘキサがリモコンを持ってCDプレイヤーを最大音量で起動した。
わっ、とちびっこばかりの観客のボルテージが上がったのを肌で感じる。この瞬間は何度経験しても気持ちよく、楽しい。
咲たちは踊る。全身を上下左右前後に動かして。どちらかといえば緩やかでスローペースな振り付け、少ないステップのくり返し。
決して巧くはないと自覚している。チームバロンやチーム鎧武には及ぶべくもない。
それでも、そんなことは関係ない。
咲は楽しいから踊っている。仲間もそうだ。今日が楽しい、この世界は楽しいと伝えるために踊る。
(あれ? なんかいつもとちがう感じのお客さんだ)
足を着けたまま体を横にずらす振りの時に咲は気づいた。
観客の中にオトナがいる。めずらしい。たまに近くにおさんぽに来たご老人が立ち寄ることはあるが、あの観客ほど若い人は初めてだった。
曲が終わり、咲たちがポーズを決めた時、その若いオトナの観客は、ちびっこに劣らぬ拍手を贈ってくれた。
野外劇場の片付けで、咲がビニール袋で客席のゴミを集めていると、咲の前にぬっと空き缶が差し出された。
「あ。ありがとうございま…」
顔を上げて、驚いた。
「どもっ。久しぶり」
「あなた……」
チーム鎧武の葛葉紘汰だった。
この日のリトルスターマインのステージは解散とし、咲は紘汰と海浜公園を歩いていた。
「前はありがとな。ミッチのこと助けてくれて」
「――それ言うために、わざわざ来てくれたの?」
「この前はちゃんと話せなかったからね」
律儀な人だ。真っ先にそう感じた。
「ヘキサの…トモダチのお兄さんだから。それにバロンのやり方、なんかヤだったもん。数で勝つのがヒキョーとは言えないけどさ。でも…やだったんだもん」
「そっか。うん。やっぱ、ありがとう」
親以外のオトナから、何かお手伝いをしたわけでもないのに礼を言われるのは、初めての経験だった。
咲は妙にぽかぽかしてきた頬を隠したくて俯いた。
「ところでさ。何で咲ちゃんはビートライダーズなんてやってるんだ? 小学生なのに」
それは学校の教師からも尋問されたことだった。反社会的な若者の真似など、ごっこ遊びでも許しがたい、いずれ本物の非行少年少女になる、というのが教師側の主張だった。
その時はあれこれ濁したが、同じビートライダーズの紘汰になら。
「ヘキサがやりたいって言ったから」
後書き
どこにでも頭の硬い大人っているんですよって話。
学校生活なんてしていると、大人から「ありがとう」と言われる機会はめったにないと作者は思います。学校側からは手伝いなんかは「できて当たり前」「そういう人間になるために教育してる」という目で見られて、言われなくてもできるようになれ的な空気があるんですよねえ。
そもそも小学校ともなれば周りは自分と同い年の人間しかいないわけですから。
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