ガチョウの物語
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第一章
第一章
ガチョウの物語
森のガチョウの一家。お父さんとお母さんが卵達が孵るのを今か今かと待っています。そのうち一つが割れてそれを合図にするかのように次々と割れていきます。最後に残った一つは。
「お父さん、この卵」
「そうだよなあ」
お父さんガチョウはお母さんガチョウの言葉に苦い顔になっています。卵から出て来た他のガチョウ達がもうパパやママの周りでぴよぴよ鳴いているのにこの卵だけは。割れないですししかも一際大きいのです。
「何なのかしら、この卵」
「わし等の子供なのは間違いないがな」
「ええ。こんなに大きいし」
「割れないし。何なんだろう」
生まれたばかりの兄弟達も興味深そうにその卵を見ています。すると暫く経ってから。遂に卵がビキビキと割れだしそこから出て来ました。それは。
「うわ・・・・・・」
「これはまた」
「やあお父さんお母さん」
出て来たのはとんでもなく大きな雛鳥でした。兄弟達はおろかお父さんやお母さんよりもずっと大きいです。もうガチョウの大きさではありません。
「おいどんは生まれたでごわすよ」
「生まれたでごわすじゃないよ」
「御前本当にガチョウか!?」
兄弟達も目を丸くさせてその大きなガチョウに尋ねます。
「そんなに大きくてな」
「しかも何だよ、その喋り方」
「気にすることはないでごわす」
けれどこのガチョウはこう兄弟達に告げて一向に平気な顔です。
「おいどんはただのガチョウでごわすからな」
「ただのガチョウかね」
「全然そうは思えないけれどね」
「とにかくでごわす」
やっぱりここでも兄弟達の話は全然聞いていません。大きなガチョウはただ自分の話だけをします。随分と強引な性格の持ち主です。
「おいどんは皆の兄弟でごわす」
「ううん、そうなんだ」
「今でも信じられないけれど」
「お父さん、お母さん」
いぶかしむどころではない兄弟達を置いてまた両親に尋ねます。やっぱりガチョウにはとても思えない大きさです。
「では早速」
「早速?」
「散歩に行くでごわす」
こう提案するのでした。しかしここでお母さんは気付きました。自分が腰を抜かしてしまっていることを。自分の息子を見てこうなってしまうとは流石に思っていませんでした。
「それでいいでごわすな」
「まあいいけれど」
「では行くでごわず」
「ええ」
「じゃあ行くか」
何とか立ち上がったお母さんを気遣いつつお父さんが皆に声をかけます。
「お散歩にな。皆泳げるよな」
「うん、勿論だよ」
「僕達ガチョウだし」
他の子供達は笑顔で答えます。けれど大きなガチョウだけは平気な顔で。これがまた随分と変わった感じであります。むしろ異様と言うべきでしょうか。
「御前もいいよな」
「勿論でごわす」
自分がガチョウだと確信しているので断ることはありませんでした。こうしてガチョウの一家はお父さんとお母さんを先頭として生まれてはじめての森のお散歩に出発しました。
大きなガチョウは最後尾です。その歩く姿を見て森の皆はびっくりです。誰もがガチョウの一家を見て大騒ぎです。
「また随分と大きなガチョウの子供だな」
「ありゃガチョウか!?」
熊も狐も小鳥もリスもムササビも狸も兎も皆驚いています。こんなガチョウは見たこともなかったからです。
「ガチョウさんのお家のところにいるのを見るとそうらしいけれど」
「何なんだあれは」
「しかも見ろよ」
狐が大きなガチョウを見るように皆に言います。
「あの歩き方」
「うわっ・・・・・・」
芋虫が驚きの声をあげます。
「でかい尻振ってな」
「あれがガチョウの歩き方かね」
「さあ」70
芋虫や狐だけでなく皆首を捻ります。とても真っ当なガチョウには見えません。その変な歩き方も。けれど当の大きなガチョウはそんな周りの言葉や視線を全く気にせず平気な顔で歩いています。一家は森のお池に来ました。ガチョウの得意な泳ぎの見せどころです。
まずはお父さんとお母さん、続いて子供達がお池に入って見事な泳ぎを見せます。子供達は生まれたばかりですがそれでも流石はガチョウと言うべき見事な泳ぎを見せます。ところが。
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