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フェアリーテイルの終わり方

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六幕 張子のトリコロジー
  9幕

 
前書き
 精霊 から 見た 人間 

 
 ルドガーに背負われているエルと、そのエルと話すミラ。――胸の辺りがじくじくする。

「話したいなら混ざって来たらどうだ?」

 話しかけてくれたのはユリウスだった。

 フェイは俯く。自分などがあの輪に入っていいのか。それ以前に、フェイはあの輪に入りたいのか。姉がフェイではない「妹」に優しくしているあの輪に。

「――おじさんは行かないの?」
「俺はいいんだ。今話しても反発されるだけだから」
「ルドガーに?」
「ああ」
「そっか。フクザツなんだね」
「そうだな。どこでこうなってしまったんだか……」

 ふと思いつく。この中できょうだいがいると判明しているのはユリウスだけなので(ミラは関係的にカウントしない)、彼に尋ねてみた。

「ねえ、おじさん。おじさんは、キョーダイのかたっぽだけが親にトクベツに可愛がられてたら、どうする?」
「難しい質問だな。そうだな……ルドガーが愛されてるなら、それだけで俺にとっては充分だよ。俺は兄貴だから」
「ナァ~……」
「アニキが理由になるの? お兄ちゃんだったら、アイされてなくてもいいの?」
「そうだよ。大事な人が幸せだと、自分も幸せな気分になれる」
「よく分かんない」
「君は『妹』だからな」

 ユリウスがフェイの頭に手を置こうとした。フェイはさっと身を引いた。エルを斬ろうとした人間に触れられるなど御免だ。
 ユリウスも察したらしく、苦笑して手を引っ込めた。




 フェイたちはついにニ・アケリア霊山の山頂に着いた。

 崖の突端にミュゼの姿を認める。ミュゼは祈りを捧げるように何かに語りかけている。

「ミラたちのパパかも」
「分からない。絶対教えてくれないから」

 ――もし本当にミュゼが父親に語りかけているのなら、何故ミラも一緒にさせないのだろう。何故ミラにそのことを隠すのだろう。

 疑問とも言えない疑問の答えは簡単。そもそもミラが人間になった時点で何故ミュゼは精霊のままだったのかを考えれば自ずと答えは出る。

(この精霊、ミラを――ううん、人間を、見下してる)

 〈温室〉にいた頃に散々、大精霊からいたぶり抜かれたフェイだからこそ気づいた、ミュゼの本心。

 証拠に、出て行ったミラの訴えにミュゼは耳を貸さない。「お前なんか」と見下す台詞を連発している。

(でも、言っちゃだめ。言ったらミラがイタイから)


「どうして……姉さんはっ!」

 ミラは手から火球を撃ち出した。レイアに放った時の倍はある火勢。火球はミュゼの足元で爆ぜて火柱となる。
 隙を創る、というレベルを超えた攻撃だった。

「今よ!!」

 ルドガーたちが駆け出す。だが、彼らが射程に入る前に火柱が消えた。
 どんな仕掛けか、ミュゼは、腕の一振りで炎を打ち消したのだ。

 火はない。ミュゼは音とにおいで周囲を識別しているとミラが言った。
 つまり今のミュゼには、ミラの後ろにいる自分たちの存在が分かっている。

「お前――――私を裏切ったなッ!!」

 ミュゼの全身が黒く染まった。 
 

 
後書き
 マクスウェルはミラとミュゼを造った精霊なので「パパ」と呼んでも差し支えないのですが、作者はあれを「父親」と認めるのはどうしても抵抗があったりします。 
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