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少年少女の戦極時代

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第8話 ××碧沙の二重生活

 リトルスターマインのステージ、そしてダンススクールのレッスンを終えたヘキサは、自宅に一人帰り着いた。

「ただいま」

 がらんとしたエントランス。豪奢なだけで応える人がいない。ヘキサにとってはこれこそ無駄でしかない装飾。

 ヘキサは鞄をぎゅっと握り、部屋に向かうため階段に足をかけた。

(へき)()

 上から声がして、ヘキサ――呉島碧沙は顔を上げた。2階から長兄が階段を降りて来ていた。

「貴虎兄さん」
「今日も遅かったな。またダンススクールで無駄な時間を使ったのか」

 前に「スクールの同期生とおしゃべりが長引いた」という言い訳を使って以来、貴虎は決まってこの文句をつけるようになった。

「ごめんなさい、貴兄さん」

 貴虎はとくとくと語りながら階段を降りてくる。

「所詮は住む世界が違う連中だ。必要以上に馴れ合うな。お前に悪影響しか与えない。光実のように右腕とはいわないが、碧沙、お前もいずれはユグドラシルの要職に就く身だ」

 呉島碧沙の生まれに課せられた義務と、そのための教育。正直、重苦しかった。


「はい。気をつけます」
「分かっているならいい」

 下りてきた貴虎は、碧沙の頭を骨張った掌で撫でた。
 こうして不意に親愛を示すから、碧沙は貴虎を恨みきれない。
 次兄のように騙しきれない。

 兄の掌に甘んじていた碧沙は、ふと貴虎が発するものに気づいて顔を上げた。

「どこか、けがしたの?」
「してないが、何故だ?」
「血のにおいがするわ」


 ――去年かもっと前かは忘れた。貴虎はたまにこんなふうに「血のにおい」を付けて帰ることがあった。
 ケガをしたのかと尋ねてもはぐらかされるばかり。それでも碧沙は問うことをやめられない。ひょっとしたら今度こそ答えてもらえるかもしれないという期待を捨てきれない。

「何もない。お前の気のせいだろう」
「……そう」

 また今日も答えてくれなかった。

「じゃあ、食事にします。貴兄さんは夕飯は」
「もう食べた」
「そう。じゃあわたしだけ食べるわ。着替えてくる」

 傷ついていないフリばかり上手くなる。そう思いながら、碧沙は階段を登って行った。





 一人きりの夕食を終え、部屋に戻った碧沙は、今日のダンスを踊って一人反省会をしていた。

 すると、ドアがノックされた。碧沙は急いでプレイヤーを切り、タブレットを勉強机の抽斗に隠してから、応対に出た。

「光兄さんっ」
「ただいま、碧沙」

 来客は次兄の光実だった。

 碧沙は笑って光実を部屋に招き入れた。光実も勝手知ったる妹の部屋、入るやベッドに腰を下ろして荷物を床に置いた。

「今日も上手くやれた?」

 碧沙は笑顔でOKサインを作った。光実が微笑む。それが碧沙には嬉しい。

「光兄さんもだいじょうぶだった?」

 光実も同じくOKサインを出して笑った。兄妹はふふふ、と笑い合った。

 碧沙は光実が、光実は碧沙が、それぞれビートライダーズ活動をしているのを知っている。自分と光実を結ぶ、とても大きな秘密を共有するこの時間が、碧沙は大好きだった。

 碧沙は語る。光実も語る。その日のステージの楽しさ、明るさ。仲間の愉快さ、大切さ。
 けれども互いに自分の所属するチームの名だけは隠して。まるで虚構遊びのように。

「あのさ、ちょっと聞いてもいい?」
「なあに?」
「最近でいいんだ。アーマードライダー鎧武かバロンを見かけたりしなかった? 碧沙じゃなくても、チームの子たちとか」
「いいえ、見てないわ。わたしたちがアーマードライダーを見る機会なんて、ネットラジオを観てる時くらい」
「そうか……うん。ないならいいんだ」

 碧沙は光実の手の上に小さなてのひらを重ねた。

「何かこまってる?」
「ちょっとね。でも大丈夫。僕たちのチームのことだから」
「兄さんがそう言うなら……でも、ほんとに困ったら言ってね。わたし、がんばるから」
「ありがとう」

 光実は碧沙の頭を撫でてくれた。掌の感覚が貴虎と似ているのは、やはり兄弟だ、と思った。 
 

 
後書き
 やあああああ…っと!! ヒロイン②を出すことができました。実は呉島家の子でした。な、なんだってー!?

 ミッチこと光実がビートライダーズをしていると知っている妹ちゃん。そして光実も妹の秘密を知っている。お互い兄さんの教育方針でガチガチに縛られてそうですので、兄妹して同じ趣味に走っちゃってます。……まるで貴虎兄さんぼっち化包囲網(ボソッ

 ちなみに「血のにおい」なんてするわけは貴虎さんの仕事だと当然ですよねっていう(*^_^*)
 ヒント:オレンジフルボッコ 
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