魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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地上の悲劇
スバル、ティアナ、エリオ、キャロのフォワードの4人はヴィータ達と別れ、地上本部内へと進入した。ヴィータから預かった隊長たちのデバイスを、無事に隊長たちに届けるために通路を駆ける。
「・・・っ! マッハキャリバー!!」
≪Protection≫
先頭を走っていたスバルが何かに気づき、バリアを張る。その次の瞬間、スバルへと放たれた攻撃がバリアに着弾。しかし高い防御力を誇るスバルのバリアを抜くことは出来なかった。
「みんな気を付けてっ!」
突然の奇襲に、ティアナ、エリオ、キャロの3人も身構え周囲を警戒する。スバルもまた周囲を警戒し、自らに接近してきた襲撃者に気づく。その襲撃者の姿を捉えたスバルは驚愕の表情を浮かべ動きを止めるが、その襲撃者の攻撃を咄嗟に両腕を構えて防御する。しかし攻撃の勢いに踏ん張ることが出来ずに蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。壁に叩きつけられ倒れたスバルを見て、ティアナは「スバル!」の名を叫ぶ。だが彼女たちの周囲にいくつものスフィアが展開され、包囲されてしまった。
――フローターマイン――
「ノーヴェ、もしかしてあたしらの仕事忘れてないっスか?」
通路に響く少女の声に、ティアナ達フォワードは声のした方向へと視線を向ける。そこに居たのはウェンディと言う名を持つ、スカリエッティの作品ナンバーズのⅩⅠ。先程スバルを蹴り飛ばしたもう1人のナンバーズのⅨノーヴェが不機嫌そうに「忘れてねぇよ。黙ってろ」とぶっきらぼうに返す。
「捕獲対象3名。生かしたまま持って帰ってくるように言われてるんスから、旧いタイプゼロだからって無茶しないでもらいたいっスね~」
スバルは体を起こし、その視線をナンバーズの2人に向け、「戦闘・・・機人・・・」とよろめきながらもそう口にする。スバルの言葉を聞いたティアナは歯噛みし、エリオとキャロの表情が緊張の色に染まる。そこからフォワードと戦闘機人ナンバーズとの戦闘が開始された。激しい攻防の最中、フォワードの4人は考える。戦闘機人との戦闘より隊長たちとの合流を優先するべきだ、と。
――ブーステッドイリュージョン・フェイクシルエット――
「なんスかコレ!? あたしらの視覚を騙すほどの幻術ってアリっスかっ?」
次々と現れるフォワード4人の姿を模した幻影に、ウェンディは驚愕の声を上げた。ティアナは幻術を駆使して、キャロはその強化。見事戦闘機人の視覚を混乱させていた。あまりの予想外にうろたえるウェンディ。しかし片割れのノーヴェは激高し、身構え、右拳の周囲に6つのスフィアを生成する。
「くっだらねぇんだよっ、全部潰しちまえばそれで終わりだろうが!!」
そのとき、無数の幻影の中から本物のスバルが突撃をし、今度はノーヴェに向けて奇襲をかける。ノーヴェはその奇襲に反応し両腕を構えるが、先程のスバルと同様に殴り飛ばされた。床を何度もバウンドして、床を陥没させながら転がるノーヴェ。
「ノーヴェ!? っく・・・!」
ノーヴェを気遣う間もなく、ウェンディにもエリオの攻撃が迫る。
≪Form Drei. Unwetterform≫
「サンダー・・・レイジ!!」
エリオはウンヴェッターフォルムに変形させた“ストラーダ”を振り下ろす。電撃を纏った“ストラーダ”による小規模ながらの範囲攻撃サンダーレイジをウェンディは真っ向から防いだ。その結果、ウェンディ自身は無事だったものの周囲にいたガジェットⅠ型は全滅した。
「撤退!!」
ティアナの号令の下、フォワード陣は幻影に紛れ撤退を開始、その場からの撤退を完了した。自らの上に圧し掛かる瓦礫を押し除けながらノーヴェが「逃げんなッ、この野郎!」と悪態を吐く。ウェンディもまた爆発の衝撃を受け倒れ付していたが、何とか起き上がろうとしている。そこに通信が入り込む。幼い外見を持つナンバーⅤのチンクからだ。
『もう1機のタイプゼロ・ファーストと戦闘中だ。すまんが手伝ってくれ』
そしてその彼女と対峙しているのがギンガだった。
†††Sideシャルロッテ†††
ガジェット殲滅を開始して僅か数分。私とルシルのもとに2つの通信が入った。
『こちらロングアーチ! 現在、六課は襲撃を受けています! 周辺部隊にも応援を――』
『・・・らギンガ・・・・曹・・・・・闘機人・・・・交戦・・・・応援をお――』
シャーリーから六課の隊舎が襲撃を受けたとの報が入る。それとノイズで全部聞き取れなかったけど、ギンガの方もかなりまずい状況だということが解った。
「ルシル・・・!」
「私が六課へ向かう。シャルはギンガのところへ向かえ。屋内ならシャルの独壇場だろ? そして空は私のテリトリーだ」
「・・・了解!」
私は地上本部内へと防壁が降りているため強制転移する。その所為で結構魔力を持っていかれたけど瑣末なことだ。ロビーに転移してすぐ、外から轟音が聞こえた。たぶんルシルが周辺に居たガジェット群を殲滅したんだろう。
「ギンガの居場所は・・・・・・っと、見つけた!」
AMFがキツくて判りにくかったけど、何とかギンガの魔力の探査に成功。居場所が判れば、あとはそこを目指して走るだけだ。廊下を閃駆の連続使用でダッシュ。数十秒と掛からずギンガの魔力を感知できた居場所へと到着した。
「っ!――ギンガ!!」
私の目に映ったのは、血溜まりに浮かぶボロボロにされたギンガの姿だった。側にはギンガの通信にあった戦闘機人と思しき3人。その3人は私の姿を見て臨戦態勢に移った。
「なんだテメェは?」
「あたしらの邪魔をするっスか?」
赤髪のガキと洋紅色した髪のガキが何かほざいている。そう。お前たちが私の友達を傷つけたわけか・・・さぁどうしてくれようか。
「ふぅ。落ち着け、私」
怒りで沸騰する頭を理性で冷却させて無理やり落ち着かせる。怒りは爆発的な力を発揮できる反面理性が飛ぶ。戦場では一番あってはならないことだ。
「その子は私の大切な友達の1人なんだ。だったら私の言いたいこと・・・解かるよね?」
「「っ!?」」
私がお見舞いしてやった威圧にその少女2人が一歩下がった。下がったのがたった一歩だけというのには少し驚きだけど。普通なら逃げ出すか腰を抜かしてへたり込むかのどちらかなのに・・・・。
「ギンガをどうするつもり? 返答によってはしばらくの病院生活になるから覚悟してよね」
「待ってくれ」
少女2人の背後からさらに小さな子供が歩み出た。右目に眼帯をした銀髪の少女。外見年齢で言えば10~11くらいかな。
「チンク姉・・・」
今気づいたけど、赤髪にチンクって呼ばれた銀髪少女の首下にある装甲にはⅤとある。そして生意気そうな赤髪はⅨ、もう片割れはⅩⅠ。こういう場合はおそらく数が若い方が上だ。だからここでは銀髪少女チンクがリーダーだ、と私は判断した。
「ドクターからは余力があり、なおかつ可能ならタイプゼロ――」
チンクの視線がギンガに向けられた。どうやら目的を聞かせてくれるようだ。
「特にこのファーストを優先的に確保するように、と命を受けている」
「確保が目的なら殺してはいないのよね?」
すでに私とルシルは、スバルとギンガから自分たちも戦闘機人だと聞かされてる。
「そうだ」
だからと言って今のギンガの状態が良いか悪いかで言えば悪いも悪い、極上の最悪だ。だったらギンガを早くマリエルさんのところへ連れて行くべきだ。ならばこの3人をどうにかして、そしてギンガを保護、マリエルさんと連絡を取る。やることは決まった。ならあとは行動あるのみ。
「判った。なら、私を前にしてもうギンガを確保するのは不可能だから、大人しく投降しなさい」
「なんスか、それ? あたしらに勝てるとでも思ってるっスか?」
「チンク姉、さっさとこいつをブッ倒して、そいつを運んじまおうよ」
私の放つ威圧から復活した2人なんだけど、なんかおかしい。さっきから私に勝てると思ってるようだけど、私のことをスカリエッティに聞いていればこういう態度は取らないはずなのに。もしかして聞かされていないのかしら。
「IS発動、ブレイクライナー!!」
「いくっスよ! IS発動、エリアルレイヴ!」
私の思考を中断するかのように、2人の足元にテンプレートが展開される。
――エリアルショット――
ⅩⅠ(面倒だからこれでいいや)が構えたボードからエネルギー弾を立て続けにぶっ放される。でもそんな豆鉄砲なんて、私と“トロイメライ”の前では無意味だ。“トロイメライ”で向かってくるエネルギー弾を斬り裂いていく。
――エアライナー――
そしてⅨなんだけど、どう見てもスバルやギンガのパクリとしか思えないモノを使う。色は違えどもウイングロードのようなものを出したりしてるし、武装も似てる・・・パクリ魔? Ⅸの赤髪の通称、独自判断でパクリ魔に決定。
「待てっ! ノーヴェ、ウェンディ!!」
チンクが2人の名前と思う言葉を叫ぶけどもう手遅れだ。陸戦である以上、お前たちでは私は倒すことは不可能だ。
「もらったーーーーっ!」
パクリ魔がウイングロードもどきで私の背後に回りこんだけど遅いよ、間抜け。振り返ると同時に“トロイメライ”の柄頭をパクリ魔の横っ腹に叩き込む。バキ、メキって音がハッキリと耳に届く。体内の骨格を少々潰したようだ。
「っが・・・!?」
「はーい、一名様入院コースへごあんなーい♪」
「エリアルキャノン!!」
吹き飛んだパクリ魔と入れ替わるようにしてⅩⅠが砲撃を撃ってきた。威力もそれなりだし及第点をあげよう。
「その程度の砲撃で私を――!?」
私は“トロイメライ”で砲撃を裂こうとしたけど、直感が働いて回避へと変更した。私の居た場所に複数のスローイングナイフが突き刺さる。そして続くようにⅩⅠの砲撃も着弾、爆発を引き起こした。
「待てと言ったのに・・・」
どうやら今のスローイングナイフはチンクのモノらしい。だけどおそらくそれだけじゃない。彼女にも何かしらに能力があるはず。
「どうであれ私にケンカを売ったことを病院のベッドの上で後悔しなさい!」
“閃駆”を使い、一気にⅩⅠとの間合いを詰める。
「っく、これでどうっスか!?」
――フローターマイン――
「っとと。これは・・・反応弾ね」
私の周囲に展開された無数の桃色のスフィア。たぶん少しでも触れたら爆発するというものだと思うんだけど。
「IS発動、ランブルデトネイター」
さらに私の周囲にいくつものスローイングナイフが展開された。
「無用な戦いは避けたい。退いてもらえないだろうか? こちらとしても可能な限り人間を傷つけたくはないのだ」
「ギンガを置いて行ってくれるなら考えてもいいけど?」
「退いてはもらえないか。残念だ」
睨み合う私とチンク。そしてチンクは右手を挙げて指を鳴らした。
――オーバーデトネイション――
展開されたスローイングナイフによる集中攻撃。魔力でないため正確な威力は判断できないけどかなりあるかも。これはちゃんと防御しないとまずい。そう一瞬の内に判断を下し・・・
――真紅の両翼――
直撃寸前で紅翼を展開。紅翼で自分を包む防御姿勢を取る。直後に着弾、そして爆発を連続で引き起こした。威力は大したものだけど、私の紅翼を突破するには弱すぎた。
「バカな・・・!?」
「チンク姉の攻撃で、無傷っスか!?」
爆炎の中から私が無傷で現れたのがよほど信じられないみたい。確かに直撃はまずいけど、私の紅翼の防御力なら容易く防げる。
「くっそー。やりやがったな・・・」
パクリ魔が立ち上がるのを確認。やっぱり戦闘機人相手に手加減したのが失敗だったようだ。なら今度はしばらく立ち上がれないようにしてあげよう。
「さてと。それじゃ続きといこ――キャアッ!?」
“閃駆”で再度間合いを詰めようとした瞬間、目の前に居たチンクの背後から無数の白い何かが襲い掛かってきた。私はそれの勢いに負けて、遠く離れた壁にまで吹き飛ばされて叩きつけられてしまった。
「ぅぐ・・・一体何が・・・・あっがっ・・・!?」
突然全身を貫くような痛みに襲われた。単に壁に叩きつけられただけのものならこれほどの痛みは覚えない。ゆっくりと自分の体を確認しようと下へと視線を向ける。
「あぐぅ・・・これは・・・やられ・・・た・・!」
痛みの原因はすぐに解かった。私の腹部を貫いている何か。私を壁に磔にしていたのは、赤黒く染まる四角柱の刀身を持つ剣。見覚えがある。これはルシファーの剣だ。どうやらルシファーがご丁寧にも真正面から襲撃してきたみたい。
「これは予想外。こうも簡単に三番を討つことが出来るなんて」
声が聞こえた後、その姿を捉えた。ルシファーじゃなく、白髪の女だ。灰色のスリーピーススーツに白いクロークを纏っている。別の“ペッカートゥム”というのは解かる。でもそいつの顔もまた知らないヤツだった。
「力が・・・入らな・・・・」
まずい、意識が落ち始めた。それだけじゃなく魔力まで扱えなくなってしまってる。おそらく私を貫いているこの剣の持つ能力か何かが原因だろう。
「っつ・・・ごめ・・・ギンガ・・・」
意識が落ちる寸前、知覚が捉えたのは、白髪の女に重なって見えた邪悪な笑みを浮かべたルシファーの影。そしてここからの角度じゃ見えないけど、間違いなくスバルの叫び声が耳に届いた。
「・・・さいあ・・・く・・・」
そこで私の意識は完全に落ちた。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
シャルがギンガの元へと向かうために地上本部内に転移したのを見届けた。
「シャーリー、すぐに私が向かう。それまで持ち堪えてくれ」
『了解です。お願いします!』
ロングアーチとの通信を切り、六課へ向かう。しかしそれを邪魔しようと私の行く手にさらにガジェット群が増える。
「烏合の衆め、早々に消え失せろ」
――罪ある者に、汝の慈悲を――
上空から蒼雷の十字架群を降らせ、ガジェット群へと着弾させる。ガジェットに直撃した十字架が炸裂し、さらに周囲へと被害を拡大させていく。レミエルによって周囲一体に1機も残っていないことを確認して、空戦形態ヘルモーズへと移行、空へと上がる。海面間近を飛び、最短距離で六課の隊舎を目指す。そして未だはるか遠くだが、うっすらと視界に入ったのは赤く燃え上がる隊舎だった。
「なんてことを・・・!」
一体何が目的だ。こちらで回収してある“レリック”を目的としているのか、それとも別の・・・。いや、まずは襲撃犯を押さえることを優先するべきだ。目的云々なら捕らえたあとでゆっくりと聴き出せばいい。あと僅かで隊舎に着くというところで・・・
「っ! これはサタンか!?」
黄緑色のレーザーのようなものが放たれてきた。シャルから話に聞いているサタンによる砲撃だろう。
「悪いが行かせられねぇな、欠陥品よぉ!?」
「というわけで、ここから先は行き止まりよ」
前方には大鎌を構えたアスモデウス。後方には腕を組んでいるサタン。2対1。だが戦場は空。現在の戦闘形態は空戦仕様。勝率は高いだろうが油断はするな。
「急いでいるんだ。大して時間はかけられない。故に――」
――第三級断罪執行権限、解凍――
「始めから全力でいくぞ! 我が手に携えしは確かなる幻想」
僅かな魔力で神秘による物量攻撃を行うことを選択。引き出すのは自作の銃火器型の神器群。私がかつての大戦時に率いていた後方支援部隊の魔術師たちに与えたモノだ。私の周囲に次々と現れる、現代では質量兵器と捉えられる銃火器群。
「おお! 俺たちと砲撃戦をやろうってか!?」
「飛び道具に頼るのは三流の証よ、欠陥品」
「三流かどうかはその身で確かめてみろ!!」
アサルトライフル、スナイパーライフル、対戦車ライフル、マシンガンの4種をそれぞれ200挺と展開。
――銃軍嬉遊曲――
これだけ展開しても魔力はほとんど消費していない(大体AA+くらいだな)。そして両手に構えるのは“ウィーチェ”と名付けられた(命名はカノンだ)白銀のライフル。本来の名前はウィンチェスターライフルM1873と呼ばれるレバーアクションライフルだ。
私が自作した銃器型神器の中でも単発においては上位に食い込める威力を持ち、星填銃の2挺よりもさらに高い。それでも私の最高傑作・“星填砲シュヴェルトラウテ”には遠く及ばないが。あと、このウィーチェを使用するのにはある一手間掛かってしまうものだが、そこが何となく気に入っていて愛着がある。
「全器ターゲットロックオン。撃てぇぇッ!」
200挺の銃火器型神器が一斉に火を噴いた。火とは言っても神秘弾発射に使用された魔力のカスがそう見えるだけだが。
「面白れぇじゃねぇかよ、欠陥品!」
サタンがそれに対抗するように、数えるのも馬鹿らしいほどのレーザーを真っ向からぶつけ、相殺していく。アスモデウスは回避を繰り返しては神秘弾を大鎌で斬り裂いていく。だがアスモデウス、サタン。私の手にも銃器があることを忘れてはいないだろうな。
「避けてばっかりではなく反撃の1つでもしたらどうだ!?」
“ウィーチェ”を前方へ向け交差させて構え、強力な一撃をそれぞれからぶっ放す。奴らは射線上から離脱して直撃を逃れる。だが展開されている200挺からの一斉掃射が続いているために一箇所には居続けられない。その2体の行動を見ながら、両手の“ウィーチェ”を指で回転させてコッキングレバーを操作。
「調子に乗るのも大概にしておきなさいよ、欠陥品!」
アスモデウスが無理やり神秘弾の雨を突破してきた。振るわれた大鎌を、右手に持つ“ウィーチェ”の銃身に備え付けられた剣で防ぐ。
「ぐっ! 馬鹿力だな・・・!」
「レディに対して馬鹿力なんて、お前には躾が必要のよう・・・ね!!」
数秒間の拮抗の果てに“ウィーチェ”が真っ二つに切断される。最高位の“神造兵装”を弾き返すほどの代物だ。“概念兵装”で防げるわけもないか。
「捉えた!」
下げられていた大鎌を今度は振り上げようとしている。だがこの位置関係はまずいと思うぞ、アスモデウス。
「残念だったな」
大鎌の刃が届く前に“星填銃オルトリンデ”を腰のホルスターから引き抜き、アスモデウスの腹部に照準を合わせる。
「それはどうかしら?」
だがここでまた邪魔が入る。
――Mors certa/死は確実――
隊舎の方から放たれたすみれ色の閃光が、私とアスモデウスの間を抜けていった。
「助かったわ、許されざる嫉妬」
「・・・そっちはそっちで・・・・勝手にやってほしいのに・・・・」
海面に立つのはレヴィヤタン。だが明らかに不機嫌そうなのは何故だろうか。考える暇もなく状況は変わっていく。様々な場所に展開していた銃火器群が破壊されていっているのに気付く。
「なかなか面白かったぜ。銃ってのはよ」
纏っていたインバネスコートは見るも無残にボロボロだが、サタンは無傷だ。なるほど。これは結構まずい状況だ、なんてことはない。
「3対1。お前たちが相手で陸戦であったなら、私が圧倒的な不利な立場となっただろう。しかし現状は空での戦闘だ。制限のない空間戦闘。完勝とはいかずとも私に敗北はない」
未だに残っている約50挺の銃火器群を一斉掃射。私自身は左手の“ウィーチェ”と右手の“オルトリンデ”でレヴィヤタンを狙撃する。アスモデウスは大鎌による切断。サタンはレーザーによる相殺。レヴィヤタンは「直撃で無傷!?」だった。
「・・・撃って」
――Mors certa/死は確実――
驚愕に体を固めてしまった私に向けて、レヴィヤタンからすみれ色の閃光が放たれる。その閃光をギリギリで躱す。もし空戦形態でなければ今ので終わっていた。
「あー惜しいな、レヴィヤタン」
「どういうことだ、アスモデウス、サタン!?」
私は愚かにも敵であるアスモデウスとサタンに問い質した。神秘弾をその身に受けながらのカウンター砲撃もさることながら、速さで大罪一、それだけではなく防御力でも大罪一・・・、何故ここまで強いんだ、このレヴィヤタンは。
「・・・知る必要なんて・・・ない」
このとき私は――いや、“界律の守護神テスタメント”全体が知らなかった。こいつらは代替わりをすればするほど、その“概念”が強化されていくということを。
「そんなこと教える必要なんてないでしょう?」
問い質してはしてみたものの、真っ当な返事なんてものは始めから期待していない。
「・・・ならばダメージを負わせることの出来る方法を取るだけだ」
神器――概念兵装程度ではレヴィヤタンにダメージを負わせられないということだ。“グングニル”ともう1つ何かの神器を取り出すために、オリジナルスペルを唱えようとしたところで、強烈な胸騒ぎが起こった。脳裏に浮かんだのはシャルの姿。
『・・・シャル? おい、シャル。シャル!?』
リンクを通してもシャルからの返答が来ない。
「うそ・・・だろ? シャルが・・・負けた・・・?」
ありえない。シャルが陸戦で完全敗北するなんてことが。大戦時、もし戦って負けるならシャルロッテが良いと思うまでに認めた唯一の敵だった。その彼女が・・・・負けた?・・・・信じるものか。
「いや、以前の地下でのようにリンクを妨害する術を持つペッカートゥムがいるかもしれない。ああ、そう考えればどうってことはない」
今はそう信じるしかないだろう。シャルの安否確認や六課襲撃犯の捕縛のために今は・・・・。
「貴様らを斃すのみ!!」
・―・―・―・―・
「これは予想外。こうも簡単に三番を討つことが出来るなんて」
許されざる怠惰たるベルフェゴールは、壁に磔にしたシャルロッテを見据えそう口にした。ナンバーズⅤであるチンクからの応援要請を受け、すぐさまこの場所へと転移。そしてシャルロッテの真正面から書物のページによる視覚遮断、そして昨夜取り込んだ許されざる傲慢ルシファーの剣による一撃。ベルフェゴールはこれで決まるとは思ってはいなかった。もう少しシャルロッテが粘ると考えていたが、結果は今の奇襲で終了。
「ああああああああああああああッッ!!」
あまりのつまらない状況にベルフェゴールは嘆息。しかしそれもルシファーの“力”を取り込んだことでの勝利だった。もし彼女1体分だけの“力”であれば、結果もまた変わっていただろう。シャルロッテに止めを刺そうとしたところで、出入り口付近から少女の絶叫が響いた。
(なに?)
ベルフェゴールは当然知らないが、絶叫しているのはスバルだ。姉ギンガの変わり果てた姿を見、怒り、絶叫したのだ。その怒りを表すかのように彼女の周囲には水色の、魔力ではないエネルギーが噴出している。
「・・・ギン姉を・・・かえせぇぇぇぇーーーーッ!」
突撃してきたスバルを迎撃するのはナンバーズⅨ、ノーヴェ。ノーヴェは右手に装着した籠手・“ガンナックル”からエネルギー弾を撃つ。しかしスバルは回避も防御もせず突撃を続行。突撃の勢いのままスバルは右手の“リボルバーナックル”をノーヴェに向かって打つ。
「ぐっ・・・!(さっきのダメージで踏ん張れねぇ・・・!)」
ノーヴェはバリアを張り防ぐ。が、スバルの戦闘機人としての能力・振動破砕により容易くバリアが粉砕された。ノーヴェが苦悶の表情に染まる。先ほどシャルロッテに受けたダメージの所為だ。
「邪魔をするなぁぁぁぁーーーーッ!」
スバルの怒りの叫びは止まらない。半ば暴走しているスバルの“マッハキャリバー”の一撃と合わせるように、ノーヴェは足の武装・“ジェットエッジ”で応戦する。しかしその強力な一撃によって至近で爆発。2人とも後方へと吹き飛ばされた。ベルフェゴールはその戦いを横目にシャルロッテの側へと無意識に歩み寄る。
「っ!?」
気を失っているシャルロッテの側まで来たとき、ベルフェゴールは驚愕する。いつの間にかシャルロッテの側へと来ていたことに。明らかに自分の意志ではない行動に戸惑いを見せる。
「これは・・・一体・・・どういうこと?」
『俺を取り込んだのが失敗だった、ということだ、ベルフェゴール』
「ルシファー!?」
ベルフェゴールの呟きに答えたのは、昨夜彼女に戦いを挑み敗れ、逆に彼女に取り込まれたルシファーだった。
『知っているか? 傲慢は罪としては軽いが、その在り方としては重いということを・・・』
「?・・・ぐっ!? な、なにを・・・?」
急に意識が朦朧とし始めたベルフェゴール。
『俺は言った。三番だろうと四番だろうと取り込むと。今が良い機会だ。今なら三番を取り込め、俺の力とすることが出来る』
「ばか・・・な。いくら・・・霊格が落ちて・・・ぅぐ・・・人間になっていようと・・・彼らはテスタメント。大罪がどうにか出来るモノ・・・じゃない・・・あぐっ」
ベルフェゴールに取り込まれてもなお存在し続けたルシファー。このままでは危険と判断したベルフェゴールはその場から転移、退却する。しかし、この転移が彼女の自我による最期の行動となってしまった。ベルフェゴールの自我は完全に消失。彼女はルシファーに完全に乗っ取られてしまった。
“大罪ペッカートゥム”内の問題を他所に、スバルと戦闘機人ナンバーズの戦いは続いていた。スバルと現在対峙しているのはチンク。すでにギンガはウェンディによって拉致され、ノーヴェもそれについて行った。
「邪魔だって言ってるだろぉぉぉーーーッ!」
チンクに行く手を妨害されたスバルが再度叫ぶ。スバルの足元には水色のテンプレートが展開。チンクは己の武装である防御機構を備えた灰色のコート・“シェルコート”の支援によるバリア・ハードシェルを展開。しかしその強力なバリアもスバルの振動破砕を受け粉砕され、チンクは吹き飛ばされる。
「ギン姉!」
スバルはギンガを連れ去ったウェンディ達を追いかけようとするも、チンクがそれを許さない。チンクのもう1つの武装スローイングナイフ・“スティンガー”。スバルの前面に展開されたそれに、スバルを足を止めざるを得ない。
≪Protection≫
次の瞬間に襲い来るであろう“スティンガー”に備え、スバルの相棒“マッハキャリバー”がバリアを展開する。バリア目掛けて“スティンガー”が放たれた。
――ランブルデトネイター――
そして起こった爆発がスバルとチンクの2人を巻き込む。爆発によって起きた煙の中、スバルが覚束ない足取りで姿を現す。防護服はボロボロで、左腕に大きなダメージを受けている。それだけでなく“マッハキャリバー”も火花が散るほどの損害を受けていた。
「・・・かえせ・・・ギン姉を・・・かえせよぉぉぉぉ!!」
チンクはすぐそこまで来たスバルを見て目を瞑る。それはスバルの激しい感情に堪えたゆえか、それとも己の死を悟ったためか。
「セインさん、ただいま到着!」
その時、チンクには希望を、スバルにとっては絶望を運んできた新手が現れた。水色の髪をしたナンバーズのⅥ、セインだ。チンクはセインの救援に心底安堵して「助かったよ、セイン」と呟いた。そしてセインのISディープダイバーによって、チンクとセインがこの場から消えた。それを見ていることしか出来なかったスバルはついに膝を折り、地に跪く。
≪The main body was... The system rests≫
“マッハキャリバー”も損害レベルの激しさにより機能停止した。戦闘によって荒れ果てたこの空間に、ただただスバルの慟哭の声だけが響き渡る。
「スバル!?」
ここにきてようやくティアナを抱えたなのはが現れた。あと少し。ほんの少し彼女たちが早く来てくれていれば、状況は変わっていたかもしれない。なのはとティアナは、スバルの姿とこの空間の有様を見て悟った。すべてが終わり、間に合わなかったのだと。
「スバル・・・・」
「・・・スバル。・・・?」
なのはは視覚の端に何か光ったものを捉え、ゆっくりと警戒しながら近づいていく。“レイジングハート”を構え、いつでも戦闘に対応できるように。ティアナもスバルに寄り添いながら、片手で“クロスミラージュ”を構える。
「・・・っ!」
そしてなのはは見た。腹部を剣で貫かれ、壁に磔にされていた大切な親友の姿を。
「あ・・ああ・・・ああああ・・・・シャルちゃん!」
†††Sideフェイト†††
私たちライトニングは六課に向けて空を翔けていた。ロングアーチとの通信で隊舎が襲撃を受けていることが判ったからだ。グリフィスよると、ルシルが救援に行くと通信したものの未だ着いていないとのことだった。
(それはつまりルシルの方で何か問題が起きたということ)
だぶんそれは“ペッカートゥム”の仕業だと私は思った。ルシルが連中に行く手を妨害されているなら、私たちが六課に向かわないといけない。遠く離れたところで光る何かに気付き、私はそれを瞬時に攻撃による光だと判断してバリアを展開した。案の定それは砲撃という攻撃だった。
「戦闘機人・・・!」
視線の先には2人の戦闘機人。自由に飛んでいるところをみると、航空部隊はあの2人によって墜とされたとみていい。
「エリオ、キャロ。先に行って」
フリードに乗る2人に告げる。ここで3人が足止めを受ける必要はない。それに空戦である以上、エリオとキャロの2人には荷が重過ぎる。エリオも解ってくれて、「そんな、フェイトさん」って私を心配してくれたキャロを、「フェイトさんなら大丈夫!」そう説得して六課に向かってくれた。すぐにでも決着をつけたいがため、“バルディッシュ”を大剣状のサードフォーム、ザンバーフォームへと変形させる。
「スカリエッティはどこだ!? 一体何を目的でこんな事件を起こした、答えろっ!」
私のその言葉を合図に戦闘が開始される。紫色の髪をした戦闘機人は私の速さと大して変わらない。
「お望みであるなら、いつでもドクターの元へとご案内します。もちろん、フェイトお嬢様がドクターの為に協力してくれるのなら、と条件が付きますが・・・」
「彼は最悪の犯罪者だ。協力なんてするわけがないだろっ!」
攻防の最中のやり取り。そんな馬鹿なことはありえない。だからこそ協力なんて選択肢はない。
「どうしてそのような悲しいことを仰るのですか? ドクターは言わばあなたの生みの親のようなものですよ?」
「あのエリオ・モンディアルと言う少年もそう。ドクターがプロジェクトFの基礎を組み立てたからこそ、あなた方はこうして生きて――」
「黙れ!」
「・・・今は何を言っても無駄なようですね」
そう告げた桃色の髪をした戦闘機人。私たちの周辺に小さな光がいくつも立ち上っていく。
「またいずれお会いすると思います。その時こそはゆっくりとお話をしましょう、フェイトお嬢様・・・」
小さな光が集まって一気に発光、視界が戻ったときにはそこに戦闘機人の影はなかった。逃げられた。不愉快さに歯噛みするけど、今はエリオ達を追いかけないと。それに、ルシルの事も心配だ。
†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††
「おらぁぁぁっ!」
サタンの強力なレーザーが、私の背後にある六課に向けて放たれる。私はそれを相殺、もしくは防御して六課へ向かうそれを止める。その最中に「サタンばかりに気を取られていると死ぬわよ?」アスモデウスの振るう大鎌を“グングニル”で受け止める。この夜闇を照らし出す火花が散る中、レヴィヤタンのすみれ色の砲撃が迫る。
――Mors certa/死は確実――
――女神の聖楯――
上級防性術式を展開。砲撃を真正面から受けるのではなく、逸らすようにすることで拮抗時間を減らし、リンの展開に必要な消費魔力を抑える。
「・・・すごい・・・」
「なかなかやるのね、欠陥品!」
「それはどうも!」
「うぐっ!」
大鎌にさらに力を加えたアスモデウス。“グングニル”でそれをいなし、アスモデウスの腹に魔力を込めた蹴りをかます。アスモデウスは踏ん張りきれずに海面に落下。だがすぐに脱出してきた。
「そんなことも出来るんだな欠陥品よぉ!?」
「チッ」
――知らしめよ、汝の忠誠――
サタンのレーザー一斉掃射に対処するため、上下の穂先から5mとある蒼い魔力刃アブディエルを伸ばし、全長12m弱とした“グングニル”を前面で回転させることでレーザーを弾く。
「ほら、そっちばかりだとお前の大切な居場所が消し飛ぶわよ?」
水を滴る良い女ではないが、海水に濡れたアスモデウスはレヴィヤタンの肩に手を置きながら告げた。レヴィヤタンがぬいぐるみを持つ手をかざしている方向には六課隊舎。
「貴様らぁぁぁーーーーッ!」
先程からこの3体は私への攻撃より六課隊舎を狙うような攻撃を繰り返す。それが私にとっての弱点と知っているためだ。こうなれば創世結界でも展開しようかと思った時、私の耳に届いてほしくなった声が届いた。
「「ルシルさん!?」」
「エリオ、キャロ!?」
フリードリヒに乗ったエリオとキャロの2人が上空に滞空していた。まずい。私と六課だけでなく、エリオとキャロまでが標的となってしまった。そして私は見た。凶悪な笑みを浮かべたアスモデウスとサタンを・・・。
「「さぁ、どれを守る欠陥品?」」
レヴィヤタンのぬいぐるみにすみれ色の閃光が集束。狙いは・・・くそ、判らない。サタンの前面にも黄緑色の閃光が生み出されていく。狙いは攻撃の性質上全てだ。アスモデウスは大鎌を振り上げるように構えた。視線からしてエリオとキャロの2人が狙いだ。
「どれが今宵で消えるのかな?」
アスモデウス、レヴィヤタン、サタンの3体から攻撃が放たれた。私はあとのことを考えずに行動。六課に向けられて放たれたサタンのレーザー群はリンで防御。レヴィヤタンとアスモデウスの攻撃がエリオとキャロに向けられたことを瞬時に判断。フリードリヒを庇うようにして、術式の性質上、どうしても効果の弱くなってしまうもう1つのリンを展開。リンとフリードリヒの間にこの身を挟み盾とした。そして襲い来る爆発と激痛。
「「ルシ・・さん!?・・・シルさん・・・ル・・ル・・・さ・・・!?」」
聴覚を少しやられたようで、エリオとキャロの声が聞こえづらい。でも2人の声が聞こえるということは、2人を無事に守れたということだ。そこだけは喜んでいいだろう。
「・・・無事か・・・2人・・・とも・・・?」
声が出しづらい。思っているよりダメージが深刻そうだ。
「僕たちは大丈夫です! でも・・・でもルシルさんが・・・!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・ルシルさん! わたし達を・・・庇って・・・」
聴覚が戻ってきたことで、エリオの辛そうな声もキャロのすすり泣く声が聞こえる。安心させて、2人を六課に向かわせないといけないな・・・・。
「大丈夫・・・だから。泣くな、キャロ。六課へ急ぐんだろ? 早く行ってみんなを・・・助けてあげてくれ・・・」
私は笑えているだろうか。
「ルシル・・さん。・・・はい、必ず! 行くよ、キャロ!」
「エリオ君・・・。うん・・・ルシルさん・・・・」
フリードリヒの翼の羽ばたき音が聞こえる。2人はちゃんと六課へ向かったようだ。
「・・・そんなボロボロの姿ではもう勝てないわよ?」
「その根性だけは認めてやるけどな」
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。貴様たちはあの子たちを狙い、そして泣かした。
「はぁはぁはぁはぁ・・・っ、楽に死ねると思うなよっ!」
――第二級粛清執行権限、制限15秒時限解凍――
現状において解凍を許可されていない第二級権限を、時間制限を設けての強制解凍。使用する魔力はSSSランクより2ランク上のXランク。二級権限の魔力で発動出来るのは、大戦時に活躍した名高い英雄たちの武装と高位術式・能力。
「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想! くたばれぇぇぇぇッ!! 真技!!」
――雷神天震墜――
“英知の書庫アルヴィト”から引き出したのは、私と蒼雪姫シェフィの戦天使の1人、プリメーラ・ランドグリーズ・ヴァルキュリアの誇る真技の1つ。プリムの魔力光である黄金に輝く巨大な雷撃の塊を対象の頭上に落とす、必殺の一撃。
「「なに!?」」
「・・あ・・・あぶない・・・」
アスモデウスとサタンは驚愕の声を上げ、レヴィヤタンは静かに効果範囲から1人離脱。そして雷球が海面と衝突。その瞬間、世界から音と光が消え失せた。実際には、あまりの発光量と爆音の所為で五感が狂ってそう錯覚しているに過ぎないが。
残り7秒―――
視覚が麻痺している分、知覚を研ぎ澄まして“ペッカートゥム”の居場所を探る。ギリギリでアスモデウスとサタンが回避したことは判っているからだ。
残り4秒―――
反応あり。全速力で“ペッカートゥム”の居る居場所へと飛ぶ。
「・・・っ!? うがぁっ!?」
捕らえたのはサタンの首。苦悶の声を上げるが知ったことか。覚悟しろ。貴様の終焉は今この場に訪れた。
残り2秒―――
「消えろ!」
――真技・火葬煉棺――
サタンの首を鷲掴みしにしていた右手から紅蓮の業火を噴出、奴を包み込む。
使用したのはプリムと同じ戦天使の1人、ティーナ・ヒルド・ヴァルキュリアの真技。数億度の炎熱で対象を包み込み、一気に焼失させる術式だ。それによってサタンは抵抗する暇もなく消滅した。
「よし・・・」
気付けばアスモデウスとレヴィヤタンの2体の姿がない。どうやら撤退したようだ。あとは六課をどうにかしないといけないな。急いで隊舎へと向かう――ことが出来ない。“界律”に課された制限を4つも破ったツケに襲われた。第二級権限の無断解放、上級術式の無断発動、使用が認められていない複製術式2つを発動。それによって、心身ともにボロボロにされてしまっている。
「待っていてくれ・・・エリオ、キャロ、みんな・・・」
フラフラと何とか飛行を続け、そして見てしまった。エリオとキャロが、敵の攻撃とバインドによって海に沈んだのを。またプツンと頭の中にあるキレてはいけないものが切れた音がした。
「どれだけ私から奪って行けばいいんだ・・・!」
もう何も考えられない。ただ体が動くままに。弓矢を構える姿勢を取る。
――弓神の狩猟――
上級術式の1つ、ウルを発動させる。頭の中で警鐘がガンガン鳴り響く。逸脱した行動をとる私への警告だ。だがそんなもの知ったことか。槍の如く長い矢を放つ。矢は少し進んだところで無数の光線と化し、この空域を勝手に飛び回るガジェットを自動ロックオン、追尾して確実に破壊していく。さらにもう1発というところで・・・
――黒き第四の力・4th・テスタメント・ルシリオンに通達。現状、使用制限されている能力の使用を繰り返すことへのペナルティーを行う――
「ごふっ? ふざ・・・けるなぁぁぁーーーーっ!」
下級・中級・上級、全ての固有術式を封印された。それによって空戦形態であるヘルモーズが解除され、エリオ達と同じように海面へと落下することになった。なす術なく落ち、海中から空を見上げることになる。ふと、海上へ上がろうと必死になっているキャロが見えた。
左腕に抱えているのはエリオとフリードだ。一気にクールダウンする。怒りに任せて敵を滅ぼすより、まずは2人を助けることが先決だ。魔術は使えないが、体は動かすことが出来る。水を掻き、キャロの元へと向かう。キャロに代わってエリオを左腕に抱きかかえ、もちろんキャロも右腕に抱きかかえて海上へと上がる。
「エリオ、しっかりしろっ、エリオ!」
完全に気を失っているな。とりあえず海上シミュレータへと這い上がる。まずは意識のないエリオとフリードリヒの容体を確認。両方とも水を飲んでいるため吐かせる。呼吸音に異常はないから最悪な事にはならないだろう。
「なんで・・・こんなひどい事をするの・・・?」
次にキャロを診ようとしたら、彼女がそう呟いた。そんな中に聞こえてくる、これより5分後に隊舎を破壊するという放送。キャロはそれを聞き、「もうやめて・・・やめてよ・・・」と涙を流す。そしてキャロを中心に召喚魔法陣が展開された。
「竜騎・・・召喚・・・。ヴォルテェェーーーール!」
キャロの背後にさらに巨大な召喚魔法陣が展開。そこから人型の巨大な竜・ヴォルテールが姿を現した。凄まじい存在感。キャロは完全に暴走してしまっているが、魔術の使えない私に止める手立てはない。
「わたし達の居場所を壊さないでぇぇぇぇーーーーッ!」
キャロの叫びに応えるかのようにヴォルテールの口と両翼に集束されていく光。そして放たれた3つの砲撃は、増援として現れたガジェットを一瞬で薙ぎ払っていく。ガジェットという戦力が完全に失われたことで、隊舎がこれ以上破壊されることはなくなった。
それから少しして、魔術の使用制限が解かれた私は、エリオとキャロとフリードリヒに治癒術式ラファエルをかけた。治療が終わったら、隊舎を焼く火を消しに行かないとな。
†††Sideルシリオン⇒フェイト†††
私が六課に着いた時の光景は、たぶん二度と忘れないと思う。エリオは気を失っているのか座り込むルシルの左腕に抱かれていて、キャロはエリオとは逆の右側で、ルシルにしがみ付いて泣いていた。そんなルシルもまた防護服はボロボロで、上半身はほとんど裸の状態だった。
「・・・エリオ・・・キャロ・・・、ルシル・・・」
「フェイトさん・・・わたし・・・わたし・・・ヴィヴィオが・・・」
泣き続けるキャロのところにまで駆け寄って、私はキャロをルシルと一緒に抱き締めた。私が・・・私がもう少し早く来ていればこんなことにはならなかった。
「フェイト。キャロとエリオを頼む」
「ルシル!? そんな体で何するの!?」
「決まっている。六課が燃えている姿なんてもう見ていたくない」
ルシルは私たちに振り返らず、六課へと飛んだ。そしてここから見えたのは、六課を包み込んでいた炎が全てある一箇所に吸い込まれていき、遥か上空へと炎柱となって放たれて消えていった光景だった。
・―・―・―・―・
どこかの森の中、所々が砕け落ちた許されざる憤怒サタンが居た。サタンはルシリオンの攻撃をその身に受けながらも未だに存在していたのだ。彼は背を木に預け、もうどこにも無い右半身を崩れた目で見て、悪態をつく。
「ヤリヤガッタナ・・・ケッカンヒンノ・・・ヤロウ・・・」
そのサタンに近づく1つの影。
「・・・ア? ベルフェゴール・・・チョウドイイ。オマエノ・・・サイセイノチカラデ・・・オレヲナオセ・・・」
サタンの言葉に、ベルフェゴールは応えない。先程から微笑を浮かべ、無言を続けているだけだ。
「オイ・・・ベルフェゴール・・・ナニカイッタラ――オゴォアッ!?」
サタンの体が宙に浮く。ベルフェゴールの腕に心臓付近を貫かれて掲げ上げられているためだ。
「ナンノツモリダ!?・・・ベルフェ・・・ルシ・・・ファー・・・ダト!?」
先程まではベルフェゴールだった姿がルシファーとなっていた。左半分だけとなっているサタンの顔が驚愕に染まる。
「オマエハ、ベルフェゴールニ・・・マケテ・・・」
――死んだ。と最後まで口にすることは叶わなかった。今度こそサタンは消滅した。“力”だけを奪われて。ルシファーの姿が揺らぎ、次の瞬間にはベルフェゴールに戻っていた。微笑みは次第に深くなり、最後は大きく口を開けて笑いだした。
「ククク・・・ンフフフ・・・ハァーッハッハッハッハッハッ!」
ベルフェゴールを模したルシファーの笑い声は暫く止むことはなかった。
・―・―・シャルシル先生の魔法術講座・―・―・
ルシル
「こんな状況でもやらなければいけないとはな。
今回は休みとなるシャルに代わり、私ルシリオンがこのコーナーを取り仕切る。
そしてもう1つ。本来ならフェイトやなのはと言ったメンバーも参加するんだが、今話の事もあってみんなは不参加となった。申し訳ないが、今回だけは私1人だけとなる。さて、長々と男の話を聞いていても面白くないだろうから本題へ行こう。
私の魔術の新出はこの3つだ。
――女神の聖楯――
まず、私の有する防性術式の中でも第3位の防御力を誇る、女神の聖楯コード・リン。
リンは、蒼い円の中に女神の祈る姿が描かれた、軽く芸術的な盾だ。大きさや展開できる場所は任意で決定できるんだが、あまりに複雑な術式なため、複数展開することが非常に難しい。
――知らしめよ、汝の忠誠――
次は、魔力刃を生み出したり武装に付加する攻性・補助術式、知らしめよ、汝の忠誠コード・アブディエル。
展開する際の状況によっては効果を変化させられる。防御に使いたいときは硬度を。攻撃に使いたいときは威力や貫通性・障壁破壊など。とな。
――執行権限――
最後に、私の魔力を4段階に分けて制限しているリミッター、それが執行権限だ。
00%~25%の魔力を制限する、第四級審判執行権限。
26%~50%の魔力を制限する、第三級断罪執行権限。
51%~75%の魔力を制限する、第二級粛清執行権限。
76%以上の魔力を制限する、第一級神罰執行権限。
第三級までの解放で、この世界における最高ランクSSSを使うことが出来る。
第二級からが、大戦時では当たり前に使っていたX-からEXランクとなる。
大体こんなところか。それではまた次回、今度はシャルやフェイト達と一緒にやろうと思う」
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