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鉄槌と清風

作者:deburu
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28部分:27:新しい旅へ


27:新しい旅へ

 結果としてはやてが倒れたのは、壊れた夜天の書を無理に使い、しかも初めてで広域殲滅級の魔法まで使ったことによる過労が原因と診断された。
 今は、アースラの医務室でゆっくり寝ているはやて…其処には守護騎士と夜天の守護者…リインフォースだけがはやてを見舞っていた。

 しばらくして、一様に少し暗い顔で出てくる守護騎士とリインフォース…ヴィータははやてに何かを告げるように扉の所で呟いて最後に出て行く。
 艦長室へ向かうのか歩くリインフォースに後ろから良彦が声を掛ける。

 「一寸いいか、えっと…リインフォースだっけ?」

 「ん…あぁ、君はたしか」

 「八坂良彦…リインフォースに判りやすいのは、清風の騎士のほうかな?」

 良彦がそういうと、じっとそのかおを見つめるリインフォース…暫くして少し頷き。

 「青い髪に、黒と緑の虹彩異色…そうか、君はリトの子孫か」

 「まぁ、そうなるかな一応リトの記憶も大体は持ってるから、細かい説明はいいや」

 「そうか、なら私がこれからどうするかも判ってるのか?」

 「記憶が正しければ…防衛プログラムと転生プログラムだけじゃなくて、リインフォース…長いからリインでいいよな…も感染してるんだろ?」

 「そうだな…なら」

 「まぁ、それでも一応聞きたいんだ…本当は居たいんだよな?」

 お互いにはっきりした言葉は使わず、問いかけあう。

 「…そうだな、あそこで皆と共にありたくないと言えば嘘だ、だがそれが主の為ならば私に後悔はない」

 「ん、そっか…判った、あんがとな」

 リインの意志を確認し、頷く良彦。

 「では、艦長に報告しなければいけないので、行くぞ」

 「あぁ、それじゃな」

 歩いていくリインを見送り…

 「そっちに無くても、こっちにゃ大有りだって…さて、クロノに頼んでおいた方はどうなってるかな」

 小さく呟いて、此方も歩き出す。
 その後、リインフォース自身から本人の破壊をなのはとフェイト、良彦が指名され、そこで感染についての真実も明かされる。
 が、良彦はそれを拒否して、やる事があるから、と部屋を出て行く…その様子に怒りなのか、悲しみなのか複雑な表情を見せる、部屋の中の一同。



 数時間後、まだ夜も明けきらぬ時間…はやては自宅で寝かし、海鳴りの丘の上でリインフォースを送る準備が始まる。
 其処には真ん中にリインフォースが白いベルカ式魔法陣を引き、左右にはなのはとフェイトがそれぞれの杖を掲げ、その魔法陣に自分達の魔法陣を接続している。
 三角の頂点の一箇所、リインフォースの後には守護騎士達が見守るように4人で佇む…ヴィータはシグナムに抱きつき、いまにも泣きそうに見える。

 その場に居ない良彦は、その上空で騎士甲冑姿、手には青く光る頭くらいの大きさの球体をもって、そのようすを見下ろしている。
 桃色と金色、白色の魔法陣が輝きを放つなか…其処を目指し進んでくる影が一つ…丘の上、しかも地面は雪で真っ白な其処を車椅子で駆けつけるはやて。

 段差にタイヤを取られたのか転倒しつつ、リインフォースに近づく…駆け出そうとする守護騎士をリインフォースが留め…はやての前でひざまずく。
 数言、おそらく別れと感謝の言葉を延べたであろう後で、リインフォースは中央に戻り。
 レイジングハートとバルディッシュのコアが、数度光りを放ち…リインフォースは光りの粒へと姿を変え、天に立ち上る…少し後ではやての前に落ちてくるちいさな剣十字のペンダント。
 それをしっかりと受け止め、はやてのリインフォースを呼ぶ声が辺りに響く。

 「ほれみろ…そっちに無くてもこっちにはあるじゃないか」

 その叫びを聞き、呟くように言った良彦が、左手に青い球体を捧げ持ち…詩の様に呪を唱える。

 『永久(とこしえ)に流れる風よ、魂を癒す流れよ、その流れで清められし魂よ、魂の記憶よ、今此処に集え…その魂の名は…祝福の風…リインフォース』
 
 一文節毎に二発のカートリッジが使われ、右手で忙しく再装填しながら、全てを唱えきる。
 良彦の周りを優しく風が舞う、それにあわせるように雪も一緒に舞い踊り、其処へ青い魔力光が広がって行き…ゆっくりと収束、手にささげ持っていた青い球体へと吸い込まれていく。
 しばらく、目を瞑っていた良彦が満足げに頷き、上空から姿を消した。



 夜が明けてクリスマス当日、昨日の事や魔法に関することでアリサやすずかに説明をするというのは、なのは、フェイト、はやて、良彦、全員一致で同意した。
 また、なのはは夜に高町家の人とも話をするらしい…当然のように良彦も一緒らしいが。
 と、いうわけで…アリサ、すずかがクリスマス会をすると言うので説明はその時という事にして、まずはやてを迎えに病院へ。

 流石に今回は良彦もバスだ…走るっていったら、なのはとフェイトが今日くらいは、と止めたのだ。
 仕方なくバスに乗ってる良彦…椅子に座らずよく見ると踵が浮いてるのはきっときのせいだろう。

 病室に行くと私服姿で車椅子に乗るはやてがいた。

 「あれ、もう退院なの?」

 「ちゃうよー、今日は外出許可もろてん、もう暫く入院患者さんやな」

 「そっか、パーティの為だね」

 「そういうことや」

 なのはの問いに答えフェイトに微笑を返すはやての胸には、剣十字のペンダント。

 「それ…リインフォースの?」

 「せや、新しいデバイスをこの子に組み込んでもらおうとおもってん」

 「はやてちゃん、魔導師続けるの?」

 「折角あの子が残してくれた力やしなぁ、せやから役立てたいんよ」

 「そうか、いいんじゃないか」

 フェイト、なのはの問いに応えたはやての言葉に、苦笑しながら肯定する良彦。
 全員の視線が一瞬あつまり、ヴィータなんかは一寸怒りの視線だったりするが、全て気にしてない様に受け流す良彦。

 「ほれ、そろそろ出ないと間に合わないぞ」

 その声で再び動き出す皆…病室を出て、であったのはどうやら主治医の先生…シグナム、シャマル、はやてが今日はちゃんと戻るよう言われている。

 「そういえば、昨日無断外泊だったんだよね、どうなったのかな?」

 「めちゃくちゃ怒られた…シグナムとシャマルが」

 「でも、あの先生…本気で心配してくれてるね」

 「あぁ、良い先生だ」

 なのはの問いに、フェイトの呟きに答えるヴィータ。
 すたすたと皆歩き出す…途中、フェイトとシグナムだけ一瞬とまって何か会話した後、シグナムがフェイトの頭をなでていたりした。

 クリスマス会では結局、なのはが魔法に出会った事件…P.S事件…や、フェイトの事情、はやての事情、良彦の事情それに今回に闇の書事件の話などを二人にすることになった。
 ふたりはそれを受け入れ、これからも友人であることに変わりは無いと断言してくれ、会は楽しい雰囲気で終わる。

 高町家では、なのは、フェイト、リンディ、良彦の魔法関係組と、士郎、桃子、恭也、美由希の高町一家に別れ、魔法の事これまでの事件の事…そしてこれからの事を話し合う。
 なのはは、局入りは不明ながら嘱託として魔法を役立てたいと良い、良彦もほぼ同じ答えだが…話だけ聞いているベルカ自治区の方も言ってみたいと言う事を話した。
 驚きながらも、それを聞いて、納得と心配を抱えながらも高町家の人達はなのはと良彦に、頷いてくれた。

 その話の後夕食を食べ、良彦が家に戻ろうとすると士郎が声をかけてくる。
 それは、良彦の祖父の話であり、父母の話だった…祖母も父もかつては要人の警護などの仕事を行っていた人間で、父母が死んだのは対抗する組織の陰謀であったと言う事実。
 その組織も士郎と恭也により既に壊滅させられたという報告だった。

 それを聞いて、士郎へと礼を言って、良彦は家に戻る。
 仏壇に手を合わせながら、少ない父母の記憶や、祖父から受けた修行などを思い出した…布団に入って直ぐに寝たが、久しぶりに家族の夢を見た…。
 父母も祖父もいて、修行は相変わらずながら、皆がいる安心感を思い出した。



 明けて26日、クリスマス仕様から正月仕様へと一晩で変化した街を良彦と、フードの付いたジャンバーを着てフードを深く被る人物…身長は150程度…が一緒に歩く、目標は病院。
 先にシャマルにメールを居れ守護騎士にも待ってもらっている、何度も足を運んだはやての病室…ノックの後扉を開ける。
 守護騎士4人とはやての合計5人の視線が入口に集まり、良彦とフードを被った人物に集まる。

 「おいっす、昨日ぶりだな」

 「せやね、面会時間になって直ぐとか、どないしてん良彦君…それにそっちは?」

 「そうだな、聞き分けが良すぎる融合騎…その今の姿かな、既に融合騎じゃないけど」

 とぼけたように言う良彦に、はやては、守護騎士は、驚いたようにフードの人物を凝視する。
 ゆっくりと外されるフードから溢れる銀色の長い髪の毛、開かれる瞳の色は赤…そして、飛び出す白い獣耳の12歳位の少女。

 「リイン、フォース?」

 思わず耳の辺りで疑問系になるはやて。
 ゆっくりとそれに頷く、少女…よく見るとベルトのように白い尻尾が腰に巻きついていて

 「はい…はずかしながら、戻ってきてしまいました」

 「恥ずかしくないよ、でもどうして」

 驚きと嬉しさで混乱するはやて。

 「説明してくれるな良彦」

 「そうだ、どういうことだ!」

 静かに脅迫気味な迫力のシグナムに、詰め寄るヴィータ。
 シャマルとザフィーラも困惑気味だ。

 「おちつけ、ちゃんと説明するから」

 ヴィータの頭を押さえとめる良彦、反対の手には翠屋の箱を持ってる。

 「ま、少し長くなるかもだしこれ約束のケーキな、皆の分もあるから」

 箱をヴィータに渡しどかっと椅子に座る、皆を見渡しゆっくりと話だす。

 「俺が受け継いだリト…リヒトヴェッテル・ベシュテンバーグの記憶の中に、彼が地球に着てから作った魔法がある…まぁ、特殊な考えを持った人とあったから考え付いたらしいけど」

 「【風は過去から未来まで常に流れ、人は死して風の中に魂をとかし、この世界を流転する、何時しか風は又一つになり、魂に新たな命を与える、風には今までの全てとこれからの全てが流れている】」

 「こんな考え方だ…で、リトは風の資質を持ち魔力も高い騎士だった、魔法構築は苦手でその魔法作るのに何年も掛かったらしいけど」

 一気に語り一息

 「どういう魔法なんだよ、結局、ちゃんと言えって」

 ヴィータが焦れる、それに苦笑しつつ

 「魂が風に溶けるなら、記憶もって考えて…媒介、俺の場合はゼピュロスだな…に死んで直ぐに風に溶けた記憶を記録させる、そんな魔法だ」

 「魔法構築とか俺には良くわからないんで、細かい事は言えないけど、それでもリトはそれを完成させ、俺が受け継いで…昨日の朝、リインフォースの記憶を集めた」

 「今回媒介にしたのは、ある管理世界で保護された狐型の子供だ、アルピノで保護先でも死に掛けてたんで…管理局と交渉して助けるために魔法の媒介にした」

 「事後承諾だったんで、昨日はクロノに預けて、交渉してもらったんだけどな」

 なんともいえない顔で良彦を見る守護騎士、はやても呆れ気味だ…それを見てリインフォースが

 「本来消えるはずだった記憶や感情など、大半が残っています…蒐集していた魔法はほとんど残っていませんが、問題…だったでしょうか?」

 「いや、そんなことないよ、でもその…今ってリインフォース、もしかして」

 「はい、良彦の守護獣になっています…申しわけありません、主はやて」

 すまなそうな顔で詫びるリインフォースに慌てて首を振るはやて。

 「っていうか良彦君、なんでこれだまっててん!」

 「そうだよ、良彦、お前ちゃんと言っとけば昨日だって!」

 何故か矛先が向く良彦、だが

 「一応前々から計画してたけど成功するかわからなかったんだよ、ぬか喜びさせたくなかったんだっての…家族を失うのは辛い、それが助かるかもって所から、やっぱだめでしたじゃいやだろ?」

 「むぅ、ま、まぁそうだけどよ…あ、でもそれじゃ良彦とリインフォースって一緒に暮らすのか?」

 「んぁ、はやての家で生活してもらう予定だけど、まずいか?」

 「私はええけど、良彦君はええの?」

 「リインとは守護獣の契約で繋がってるし、近くというか、隣が高町町家だからな、こっちは平気だ」

 「そうか…ふーん」

 良彦の説明に納得するはやてとヴィータ。

 「でもさっきの魔法って魔法力もそうだけど、制御も難しかったんじゃ?」

 「そうだな、話だけ聞くと簡単そうだが、ありえない系統の魔法だ」

 シャマルとザフィーラが首を傾げる。

 「良彦の家系、この場合はベシュテンバーグ家だな…は、戦闘の素質がある魔導師は、皆制御力の素質が高い…で、なければ『凪』は使いこなせない」

 「どういうことだ?」

 リインフォースの答えにシグナムが疑問を投げる。

 「ええと、『凪』っていうのは…ザフィーラは青い球で俺が自分覆うのみたよな?」

 「あぁ、蒐集のときだな…あの結界のような魔法か」

 「そう、まぁあの境界を越える攻撃なんか…射撃なら魔力を相殺して、実体なら風で止める…まぁ、実際には実体の場合は動きを少し遅らせる程度だけどな」

 説明していると、ヴィータが顔をあげ。

 「なぁ、前に戦った時それ使ってたか?」

 「あぁ、シュワルベフリーゲ投げ帰したり、アイゼンの動きが急に遅くなったろ」

 「でも、そんときはナンも見えなかったぞ?」

 「そこが、ベシュテンバーグ…【風王】の家系の制御力が無いと使えない要因だ…本来『凪』とは無色でなければ意味がない」

 「なるほど、俺の時のように魔力光が見えれば簡単に魔法を使っているとばれるな」

 ヴィータの問いに良彦、リインフォースが答え、ザフィーラは納得する。

 「魔力の高い制御力により、『凪』を不可視状態のまま使う…これが【風王】の武の基本だ」

 「…それだけ高い制御力があるなら、射撃や砲撃は?」

 リインフォースの答えに、シャマルが再び疑問。

 「【風王】の家系は、えてして射撃、砲撃の素質は皆無だ」

 言われた良彦はがっくりしているが

 「だが、闇の書の闇に使った魔法があるのでは?」

 「あれは、射撃でも砲撃でもない…風を集めて作ったプラズマを本来なら無差別広範囲にばら撒く、ただそれだけの対軍魔法だ」

 「だが、あの時は」

 シグナムの問いに非情に答えるリインフォース…食い下がるシグナムに

 「道を作って、その先に結界まではったんだよ、あれ…プラズマ砲撃にみえて、実際はただの力技、だから威力も今一だったし」

 「そうなのか」

 「そうなんだよ…というか、ザフィーラもヴィータも俺と戦った時、俺から肉弾戦以外しかけたか?」

 「…しかけてないな」

 「ねーな、シュワルベフリーゲン投げ返したのはあれはただの投擲だしな」

 「そういうことだ」

 悲しそうに答える良彦、ザフィーラ、ヴィータも納得した様子。

 「ともあれや、リインフォースも予想外の格好やけどもどってきた、八神家全員集合やな」

 「そうですね、はやてちゃん」

 「はい、主はやて」

 「…ん」

 「おう、よろしくなリインフォース」

 はやて、守護騎士一同の歓待を受け、嬉しそうに微笑むリインフォース。

 「てか、話して喉渇いたし飲み物買ってくるからケーキ食おうぜ、一日遅れだけどそれ、桃子さんに頼んで今朝つくってもらったんだからよ」

 「良彦は空気読め!」

 「あぁん、んじゃヴィータはケーキいらねーのか?」

 「んなわけねーだろ、あたしも食うにきまってんじゃねーか!」

 「だったら、文句言わずつきあえ、飲みもん買って来るぞ」

 「ったく、しゃぁねーな」

 いつもの用にじゃれあいながら病室をでる良彦とヴィータ…はやて、リインフォース、シグナム、シャマル、ザフィーラはそれを苦笑しながら見送っていた。
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駆け足ながら、闇の書の闇破壊後のお話です…リインは、最後までデバイスコアにするか守護獣にするか悩みましたが、きちんと生活できる守護獣にしました…ご都合主義万歳。

一応A'sは完結です。
次回からは空白期で、聖王教会への訪問とか書こうかと思います。
 
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