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ギザギザハートの子守唄

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第八章


第八章

「行くのだったら一緒に行こうぜ」
「今すぐな」
「そうだな」
 俺の言葉が決め手になった感じだった。鬼熊が静かに応えてきた。
「悪くないな、それも」
「じゃあ行くのかよ」
「ああ、折角だしな」 
 鬼熊は少し笑って俺達に答えてきた。
「誘ってもらったからには行くさ」
「そうか。それじゃあな」
「今から一緒に行こうぜ」
「よし」
 俺達の言葉に頷いてみせてきた。
「行くぞ。カルコークにな」
「じゃあな」
「まあ引率ってことでな」
 こうして俺達は鬼熊と一緒に七人でカルコークに向かった。今までの七人とは違う。けれど間違いなく七人でカルコークに向かった。そして店に入ると。
「用心するか」
「そうだな」
 何だかんだで警棒やらチェーンやらは用意しておいた。鉄パイプもだ。とにかく親父さんを警戒していた。この時には散弾銃をマジで覚悟していた。
 店の扉を開ける。しかしそこに親父さんはいなかった。それどころか。
 店のあちこちが派手に飾られてた。色紙の鎖や花が壁に飾られていておまけに。何かでかでかと卒業おめでとうって文字まで見えた。奇麗な看板の言葉だった。
「何だこりゃ」
「パーティーか?」
 店に入った俺達は思わず呟いた。店が明らかに普段とは違っていた。
「誰か予約入れていたんじゃねえのか?」
「だったら俺達が来た意味ねえじゃねえかよ」
「だから。よく見ろ」
 そんな俺達の後ろで鬼熊が言ってきた。
「よくな。店の中をな」
「よくってよ」
「こりゃどう見てもあれだろ」
 俺達は鬼熊に顔を向けて言い返した。どう見ても俺達のものじゃないと思ったからだ。
「卒業パーティーじゃねえか」
「俺達のじゃねえだろ」
「まさかな」
「そのまさかよ」
 この時だった。店の奥から声がしてきた。
「あっ!?」
「その声は」
「ええ、そうよ」
 ここでまたその声がしてきた。
「私よ、私」
「御前・・・・・・」
 あいつだった。駆け落ちしたあいつだった。その親父さんが目の中に入れても痛くない程可愛がってるあいつが。俺達の前に出て来た。信じられないことに。
「いたのか」
「当たり前でしょ。私の家のお店だから」
 俺の方に歩いてきて。こう言ってきた。
「いて当たり前じゃない」
「それはそうだけれどよ」
「言いたいことはわかってるわ」
 今度はこう俺に言ってきた。
「どうして。お店の中がこうなっているのかよね」
「ああ」
 その言葉に頷いた。
「そうだよ。これは一体何なんだよ」
「あんた達の為よ」
 俺達が思いもしなかった言葉がここで出て来た。
「俺達の?」
「そう、そして」
 そしてさらに言葉を続けてきた。
「特にあんたの為のね」
「俺の為か」
「あれから。ずっとお父さんに話したのよ」
 少し俯いてから。申し訳なさそうに俺に言ってきた。
「あの時のこと。私が誘ったって」
「あの時のことをかよ」
「最初は信じてくれなかったけれど」
 それはわかった。あの親父さんはかなり頑固だ。それに娘を何処までも可愛がってる。だからあの時も派手に殴られまくった。その時の記憶も蘇った。
「けれど何度も話して。やっと」
「そうだったのか」
「今度は私が殴られたわ」
「殴られたっておい」
 俺が殴られた時は気絶した。あれを女が受けたらどうなるか。これもすぐにわかった。
「大丈夫だったのか?それで」
「何とかね」
「何とかっておい」
「そのことはどうでもいいの」
 けれどこのことはどうでもいいと。言ってきた。
「大したことじゃないから」
「そうなのかよ」
「そうよ。それでね」
 殴られたことをあっさりと終わらせて。そのうえでまた俺に言ってきた。
「あんたのことも言ったわ」
「俺のこともかよ」
「このことも何度も言って」
 俺のことまで話していたなんて思わなかった。まさかこんなことになるなんても思わなかったから。だから余計に思った。信じられなかった。
 
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