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ギザギザハートの子守唄

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第三章


第三章

「俺はカツアゲとかしないのは知ってるだろ」
「それはそうだけれど」
「だったらバイトしかないよな。そういうことだよ」
「そうなの。それじゃあ」
「ああ、行くぜ」
 今度は俺から言ってやった。
「何処までも付き合ってやるさ」
 最後は笑ってやった。それで終電の駅まで二人で行った。そこで暫くその終電の電車を待っていた。すると電車が着くより前に。駅の階段を何人も駆け下りてきた。
「んっ!?何だよ」
「えっ、まさか」
「いたか、そこか!」
 聴き慣れた声だった。カルコークのマスター、こいつの親父さんの声だった。
「捕まえたぞ、行かせるか!」
「お父さん、どうして!」
「御前のことなんかすぐにわかる!」
 やっぱり親父さんだった。目を怒らせて俺達のところに来た。ここでやっと電車が来た。
 飛び乗ればいい。後は電車が何処かに連れて行ってくれる。筈だった。けれどそれはできなかった。その電車に飛び乗るより前に。俺もあいつも捕まった。電車の扉が俺の目の前で空しく閉じられた。そうして電車は俺達を残して走り去って行った。
「行った・・・・・・」
「おい!」
 俺の上には親父さんがいた。俺の上で馬乗りになって怒り狂った顔を夜の中で見せていた。
「御前か!」
「何だよ」
 この親父さんにも悪びれずに言葉を返した。
「俺が何だよ」
「御前があいつを!あいつを!」
「だったらどうだってんだよ」
 いつもの調子の売り言葉に買い言葉で。俺は言葉を返してやった。これが間違いだった。
「俺だったらどうするんだ?」
「死ね!」
 その言葉と一緒に拳が来た。思いきりその顔をぶん殴られた。
「御前があいつを騙したんだな!許せん!」
「違うの、お父さん!」
「御前は何も言うな!」
 完全にドラマだった。親父さんは頭に血が登っていてもう言葉が耳に入らなくなっていた。
「こいつが!こいつが!」
「止めて!止めて!!」
「御前は悪くない!」
 親馬鹿だった。娘が悪くないと頭から決めていやがった。力任せにとことんまで殴られながら俺はその親馬鹿を聞いていた。聞いているうちに気が遠くなって。気付いた時には病院のベッドの上だった。枕元にいたのはあいつじゃなくて仲間達だった。心配そうに俺を見ていた。
「気付いたな」
「俺、気を失ったんだな」
「ああ。大丈夫か?」
「って言いたいけれどな」
 ここですぐに全身に鈍い痛みが走った。かなりきつかった。
「無理だな。痛えよ」
「痛いか」
「かなりな。顔、どうなってる?」
「言わなくてもわかるだろ」
「酷いものだぜ」
 仲間達の言葉が苦笑いになった。それでもう充分わかった。
「そうか。ボコボコか」
「たこ焼き幾つもくっつけたみたいだぜ」
「物凄いな」
「道理で痛い筈だぜ。それであいつは?」
「喫茶店に連れ戻されたさ。御前がそそのかしたことになってな」
「そうか」
 そう言われても別に頭にはこなかった。親父さんがあいつを大事に思っているのは知っていたから。だから意地でも認めたくはないとわかっていたからだ。
「じゃあもうあの店には行けねえな」
「そうだな」
「他の店に行こうぜ」
「そうするか」
 このことはすぐに決まった。しかしそれでもまだ。話は終わっちゃいなかった。仲間の一人が俺に対して言ってきた言葉がそれを教えていた。
「で、このことな」
「ああ」
「学校に伝わったぜ」
「学校にか」
「親父さんが言ったんだ」
「だろうな」
 あの親父さんしかいなかった。そんなことをするのは。それもこれもやっぱり親馬鹿からだ。悪いのはとことんまで俺、そんなに悪いのかと思える程だ。
「じゃあ俺は退学か?」
「いや、それはないらしい」
「おいおい、また随分と変な話だな」
 俺は仲間の一人の言葉を聞いて痛みに耐えながら笑ってやった。何とかいつものふてぶてしさを出してやろうと思ったからだ。
「俺が全部悪いんだろ。それでどうしてなんだよ」
「鬼熊が庇ってくれたんだよ」
「鬼熊が!?」
 最初にこの言葉を聞いた時。俺は我が耳を疑った。
 
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