ギザギザハートの子守唄
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第二章
第二章
「ただの屑さ」
「俺達も屑じゃないのか?」
「不良だぜ、俺達」
「不良でもな。外道じゃないさ」
その自信はあった。それだけは。
「だからいいだろ」
「まあそうだな。じゃあこれから何処行く?」
「カルコーク行くか」
行き着けの喫茶店の名前だった。実はそこのバイトの高校生の娘は俺の彼女だ。これがまた随分と可愛い。俺の自慢の彼女だった。
「そこでちょっとコーラでもやってな」
「ああ、それいいな」
「じゃあカルコークだな」
そんな話をしながら喫茶店に向かった。それで中間達とだべっていると。不意にその彼女が俺に声をかけてきた。聖子ちゃんカットにセーラー服の上から白いエプロンを着た彼女が。
「あのね」
「あっ、何だ?」
その彼女に顔を向けて応えた。仲間は皆煙草にコーラで適当にやっている。そこの中で俺のところに来て声をかけてきた。何か彼女だけ場違いだった。
「今日、時間ある?」
「時間?」
「夜、話があるの」
思い詰めた顔で俺に言ってきた。
「だから。いいかしら」
「何か知らねえが時間ならあるぜ」
俺は煙草を一旦口から離して煙を吐きながら答えた。
「幾らでもな。夜だよな」
「うん」
俺の言葉にこくりと頷いてきた。
「今夜。いいわね」
「ああ、いいぜ」
あらためて答えた。
「バイクで行くぜ。いいな」
「御願い。待ってるから」
「わかった。じゃあまたな」
「ええ」
ここまで話して俺から離れた。何か随分カウンターにいる親父さんの方をちらちらと見ていた。どうもかなり気にしているらしい。それはわかった。
「何だよ、彼女と何かあったのか?」
「浮気か、浮気」
仲間達が笑いながら俺をからかってきた。
「御前も隅に置けないな」
「あの娘一人だけじゃなかったのかよ」
「馬鹿言え、馬鹿」
俺はその仲間達も言い返した。そういう俺も笑っていた。
「俺は浮気なんかしてねえよ」
「してないのか」
「ああ、神に誓って言うぜ」
これは本気の言葉だった。嘘かんか全然ついていなかった。
「あの娘一人だけさ。ずっとな」
「ずっとか」
「ああ、ずっとだ」
また言ってみせた。
「あの娘一人だけだ。今もこれからもな」
「そうか。じゃあ頑張れ」
「その意気ならな」
皆も俺のその言葉を受けてはっきりと言ってくれた。それが正直嬉しかった。
「とことんまでいけばいいさ」
「気合入れていけよ」
「ああ、それにしても」
あの娘の言葉がやけに気になる。今夜一体何があるのか。それが気になって仕方がなかった。けれどあれこれと考えているうちに時間が過ぎて。その夜になった。
俺は喫茶店に来た。店の前まで来るともうそこにはあいつがいた。真夜中で道の灯りと遠くのネオンの光が見える青い暗さの中で。あの娘が一人立っていた。
「待っていたのか」
「ええ」
俺の言葉にこくりと頷いてきた。その顔が強張っているのが見える。
「来てくれるって思っていたわ。絶対に」
「絶対にかよ」
「そうよ。もう準備はしているし」
「準備!?」
今の言葉には眉を顰めさせた。けれどこいつが何か決めているのはわかった。
「何だよ、準備って」
「私、もう出たいの」
強張った顔を俯けさせた。表情が夜の暗がりの中で見えなくなった。それでも少しだけ表情が見えた。それを見ながら俺はこいつの話を聞いていた。
「この街を」
「この街をかよ」
「ええ、この街とは何処か別の場所に行きたいの」
俯いたまままた言ってきた。
「何処かね。それで」
「それで俺を誘ったのかよ」
「駄目、かしら」
ここで顔をあげてきた。そのうえで俺に問うてきた。
「二人で。駄目かしら」
「二人か」
俺は話を聞きながらとりあえずは懐から煙草を出した。それを咥えてライターで火を点けて少し味わいながら言葉を返した。
「一人だったらどうしようもないよな」
「御免なさい、私一人じゃとても」
「そうだよな。家出だからな」
俺の方から家出という言葉を出してみせた。俺がわざと自分から出してやった言葉だ。
「一人じゃ寂しいよな」
「それで。駄目かしら」
「あのな」
俺は相変わらず煙草を吸い続けていた。そのうえであいつに答えてみせた。
「俺、御前の言うことで何か言ったことがあるか?」
「えっ!?」
「ないよな」
こう問い返してみせた。
「ないな。じゃあわかるな」
「・・・・・・いいのね」
「今からだよな」
静かにこいつを見ながら尋ねてみせた。顔はやっと上げてきているがまだ強張ったままだ。
「今から。街を出るんだよな」
「もうすぐ終電だから」
返事はこうだった。
「だから。いいわよね」
「今から行けば間に合うな」
俺は言ってやった。
「行くなら早くな。荷物は俺が持ってやる」
「あんたのはいいの?」
「ないものは買えばいいさ」
俺はこう言葉を返してやった。
「バイトしてるからな。金もあるしな」
「バイト。してるの?」
「当たり前だろ。じゃあ何で金あるんだよ」
また問い返してやった。強がりの言葉だったがこれは事実だった。
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