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ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~

作者:神話巡り
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第Ⅰ章:剣の世界の魔法使い
  朝露の少女

 アインクラッド第五十層主街区《アルゲード》。その裏路地に存在する一軒の雑貨屋に、シェリーナとドレイクは来ていた。むろん、エギルの経営する店だ。

 ドレイクとエギルは、先日キリトとアスナの居場所を聞くためにエギルの元へと言った時、既に自己紹介を交わしていた。いかつい風貌からは想像ができないほど人当たりの良いエギルと、人付き合いをコントロールできるというか、そんな空気を纏うドレイクはすぐに打ち解けることができた。

 先日、《エネマリア》からアインクラッドに出てきて以降、ドレイクはすっかり外の世界(アインクラッド)にはまってしまった。以来、シェリーナとドレイクは暇なときにはアインクラッドで過ごしている。

「しっかし……寂しいもんだな」
「何がですか?」

 しみじみと呟いたエギルに、シェリーナは問うた。エギルはにやりと愛嬌のある笑いを浮かべると、

「いや、キリトとアスナが二階にいないことがよ」
「ああ……まぁ、たしかに、寂しくはありますよね……」

 かつて、キリトがこの店の二階に寝泊まりしていた時の事を思い出す。あの時は、アスナとシェリーナが店の手伝いをしたおかげでキリトは追い出されずに済んだのだった。哀れにもエギルは一階で寒々しく寝起きをしていたが、何気にエギルの方でも楽しかったのだろうか。

「私も時々、キリトさんがいないとこに違和感を覚えますよ」

 シェリーナも呟く。

 キリト達が結婚したことは、最小限のプレイヤーにしか知られていない。彼らは二人とも超がつくほどの有名人であり、彼らが――――特にアスナが結婚したなどということが公になれば、どんな反応が返ってくるか分かったものではない。下手をすれば今度はエギルの店に逃げ込むほどでは対処できない可能性がある。

 だから二人は、持っているレアアイテムの多くを売りさばき、アインクラッド全階層中もっとも平和とされる第二十二層に家を買い、そこに移り住んだのだった。もともとそこに住む計画は立てていたらしいが、この計画を実行に移す際に役に立ったのが、ドレイクだった。

 ヒースクリフに匹敵する、膨大な知識で、『どのアイテムがどこでどのようにすれば最も効率的に売れるか』『どの階層のどの場所に有る家が最も二人に適しているか』などの様々な案や候補を上げて、キリトとアスナを驚かせた。キリトが「何でそんなこと知ってるんだ……?」と呟くほどに圧倒的な知識量だった。

 それもそのはず。ドレイクは言ってみれば第二のGMのような存在なのだ。彼がヒースクリフと同等、あるいはそれ以上の知識を持っているのは当然のことと言えた。

「……会いに行ってみますか?」

 ドレイクがシェリーナの隣で言った。

「お二人もそろそろ落ち着いてきた頃のはずです」
「そうですね……エギルさんは?」

 エギルはうーむ、と数秒唸ると、いや、と首を横に振った。

「俺は店があるから行かねぇよ。シェリーナとドレイクだけで行ってくれ」
「わかりました」

 少し残念でもあったが、シェリーナとドレイクはうなずく。

 エギルは二人にキリトとアスナのための差し入れを数点渡すと、

「よろしく頼むぜ」

 と言って非常に似合うサムズアップポーズをとった。

 ――――この人、現実世界では何をやっていた人なんだろうか――――あり得ないことなのに、アメリカン映画のヒットマン風の衣装に身を包んだエギルの姿を想像し、シェリーナはくすっ、と1人笑った。

「さぁ、行きましょうか」

 ドレイクがにっこり笑い、二人は転移門のある広場へと歩を進めた。



 ***


 
 アインクラッド第二十二層は、前述のとおりアインクラッドで最も平和な階層だ。ドレイクによると、今後解放される残り二十五層を合わせても二十二層より平和な階層は存在しないという。理由は至極単純。フィールドに一切のモンスターが出現しないからだ。

 アインクラッド第二十二層のフィールドには、フィールドボス(たった一体)を除くとモンスターが一切存在しない。ダンジョンもたったふたつ、しかも片方は迷宮区だ。どちらも難易度は最下位といってよく、たった三日という当時最速記録で攻略された。特に面白みのあるクエストもなく、一応名物として大物が釣れる湖などがあるのだが、階層全体衣が湖や海でできているアインクラッド第六十一層やアインクラッド第四十九層の方が人気が高いため、現在は下層プレイヤーや平穏を求めるプレイヤーたちが住むのみだ。

 そんなアインクラッド第二十二層の主街区、《コラル》のはずれに、その丸太造りの家(ログハウス)は存在する。

 決して豪奢な家ではないのだが、作りがよく、周辺の(プレイヤーホーム)としては比較的値段が高かった。キリトとアスナが散々アイテムを売り払ったのは、ドレイクに進められた物件の内、一目でそこを気に入ってしまったアスナのためだった。

 アインクラッドの外周にほど近く、太陽の光が直接入ってくるその家は、SAOの閉鎖的空間の中では珍しい解放感を与えてくれる。キリトもそこが気に入ったようで、ようやくその家を買ったのはつい最近……六日前の出来事だった。

「キリトさーん!アスナさーん!」

 シェリーナはキリトとアスナの家に向かう道中で、肩車をしながら道を歩く二人を見つけ、両手をぶんぶん振った。キリトとアスナが気付き、手を…主にアスナが…振り返してくる。シェリーナとドレイクは二人に駆け寄った。

「お久しぶりです、キリトさん、アスナさん」

 キリトとアスナに向かってぺこりと頭を下げるドレイク。キリトが笑って答える。

「久しぶりだな、ドレイク。シェリーナも」
「はい。お久しぶりです!」
「シェリーナちゃん、ドレイクさん、久しぶり!」
「アスナさんもお変わりなく」

 キリトの上で手を振ってくるアスナにシェリーナも手を振り返す。いいなぁ、とちょっと思ってしまったがそれは仕方がないとしよう。

「ドレイクも私の事肩車とかできないんですか?」
「ごめんなさい。無理です。筋力値が足りません……あ、別にシェリーナが重いとかそういうことではなくですね……」

 焦ったようにワタワタ両手をふるドレイク。最近見られるようになってきたコミカルなドレイクだが、もともとこんなキャラクターだったのだろう。違和感がない。
 
「お二人は、どちらへ?」
「ああ、これからな――――探しに行くんだよ、オバケ」
「「は……?」」

 にやりと笑ったキリトの上で、アスナがぶるりと一瞬だけ震えた気がした。……まぁ、仕方ないだろう。アスナはオバケが非常に苦手だ。アインクラッド六十層後半、幽体(アストラル)系・幽霊(ゴースト)系のモンスターが出現する迷宮区の攻略には、アスナが一切参加していない。……因みに、シェリーナも参加していない。なぜか?……簡単、シェリーナもオバケは嫌いだからだ。

「お、オバケって……出るんですか?本当に」
「ああ。見たっていうプレイヤーが後を絶たないらしいぜ。詳しく聞くか?」

 笑みを今度はいたずらっぽいにやにや笑いに変えたキリトに向かって、

「やめてキリト君!!」
「べ、別にいいです!!」

 という女性二人からの叫びと、攻撃がヒットした。

「ごは!?」

 圏外だったため、キリトのHPが減った。

「あっ……ご、ごめんなさいキリトさん」
「うーいてて……別にいいよ。俺が悪かった」

 キリト達とひとしきり笑いあうと、彼らについてその《オバケが出る》という森に行ってみることにした。



 ***



「……けど……」
「……やっぱり気になるというか、予備知識がないと余計怖いので教えてくださいキリトさん」
「いいぜ?」

 結局オバケ騒ぎの事を聞くことにしたアスナとシェリーナであった。

「一週間くらい前だったかな。商人クラスのプレイヤーが、木を切りに森へ入った。ちょっと深入りしすぎて、気が付いたら夜になっていた。そろそろ帰らなきゃやばい――――そう思ってあたりを見回すと、何か、白いものが」
「……」

 アスナがもう限界、とでも言いたげな表情をつくる。たぶんシェリーナも同じような顔をしているだろう。

「モンスター、と思ったけど、どうやらそうじゃない。プレイヤー……それも、小さな女の子に見えたんだそうだ。黒い髪で、白い服の。んで、目を合わせてみたら――――カーソルが出ない」
「なっ……」
「ひっ……」
「……!」

 隣で、ドレイクすらが息をのむ気配。当然だ。アインクラッドでは、プレイヤー、モンスター、NPC、どれをとっても人型のものには必ずカーソルが出る。人型ではなくても出てくる者もいるが。

「んで、よせばいいのに声をかけた。すると、その子がゆっくりとプレイヤーの側を見た。そこで彼は気が付いた。服が……透けて見える」
「ひぃぃ……」
「プレイヤーは走った。走って走って、もうここまでくれば大丈夫だろうというところでゆっくりと後ろを振り返ると……」
「――――――っ!?」
「誰もいなかったとさ。めでたしめでたし」

 あっけない展開に、思わずずっこけそうになってから、

「「き、き、キリト(さん)の馬鹿―――――――――っ!!」」

 アスナとシェリーナは、ぴったりリンクした動きで再びキリトをぶん殴った。HPが減る。その時だった。

 不意に、何者かの気配を感じた。こっちを見ている。恐る恐るそちらの方向に視線を向けると、そこにはキリトの話と寸分たがわぬ特徴の少女が、ぼんやりと立っていた。

「ひっ!……き、キリト君、あそこ……」
「おいおい……嘘だろ……」

 呆然と二人が呟いたその瞬間。少女が、どさりと倒れた。そして同時に、

「うっ……!?」

 ドレイクが、突然顔をしかめたかと思うと、頭を押さえて跪いた。

「ドレイク!?」
「これは……一体……!?」

 シェリーナは苦しげにうめくドレイクのそばに跪くと、その肩に触れた。その瞬間。

 ざざざざざ、とシェリーナの視界にノイズが走る。同時に、脳内に直接声が響いてくる。

『いやだ、いやだぁああ!!』
『嘘だ!こんな……こんなこと嘘に決まってる!!』
『死にたくない!!死にたくないよぉ!!』
『帰りたい……帰りたいよ……』
『何でこんなことになっちゃったの?何でゲームから出られないの……?』
『うわぁぁああああああ!!!』

「う、わぁ……!?」

 耐え切れずに、シェリーナは頭を押さえる。心に……否、魂に、じっとりとそれはしみこんでくる。シェリーナにも、絶望が伝染する。四肢の感覚がなくなる。意識が遠くなる。これは――――これは――――

 プレイヤーたちの負の感情だ。約二年間にわたってこの電子の世界に、鋼鉄の浮遊城にとらえられ続けたプレイヤーたちの絶望の感情――――それが、今、なぜかドレイクを通してシェリーナの脳に、いや、(フラクトライト)に直接アクセスしている。


「あれは……幽霊なんかじゃないぞ!」
「ちょ、ちょっと、キリト君!!」

 キリトとアスナが、倒れた少女を抱き起す。同時に、シェリーナとドレイクの視界も元に戻る。

「はぁ……はぁ……」
「な、何だったんでしょうか、今の……」

 ドレイクの表情は、疲労の一色に染まっていた。強い、強い、疲労の色だった。

「……今のは、この世界そのものに記録された《負の記憶》です。どうして今現れたのかはわかりませんが……強すぎる。これほどの絶望を、プレイヤー達が蓄えていただなんて……」

 ドレイクが立ち上がる。ふらついた彼をあわててシェリーナは抱き留めた。ドレイクの魂は、シェリーナのものよりも純度のようなものが高いらしい。そのため、絶望などの感情に弱いのだ。きっとシェリーナの何倍も今の現象で精神的にダメージを受けているに違いない。

「……キリトさんに頼んで、少し休ませてもらいましょう」
「お願いします……」

 シェリーナは、黒髪の少女をせおってこちらに向かってくるキリトとアスナに向かって手を振った。


 これが、後にシェリーナ達の運命を大きく変える《心意システム》との出会いだった。 
 

 
後書き
自動更新プログラム「作者は受験なので自動更新プログラムが更新いたします」←嘘 
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