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ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~

作者:神話巡り
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第Ⅰ章:剣の世界の魔法使い
  ヒースクリフ(後編)

「昨日、本部に戻った後に団長に話して、ギルドをお休みさせてもらうことにしたの。で、今日の朝の朝礼で承認されると思ったんだけど……」
「されなかった、と?」

 シェリーナが問うと、アスナはこくんと小さくうなずいた。

「私の一時脱退を認めるには、条件があるって……団長が、キリト君と、立ち合いたいって言うの……」
「立ち合い……?」
「デュエルってことですか……?」

 《血盟騎士団(Knight of Blood)》の団長であるヒースクリフは、フロアボス攻略の時以外はほとんど姿を現さない。アスナをはじめとするKoBの幹部たちにギルド管理を一任させており、自分はそれを承認するだけ。ほとんど『何もしていないをしている』状態なのだ。血盟騎士団の内部の問題にもあまり口出しをせず、彼が直々にすることといえば前述のボス攻略と、あとは新メンバーの勧誘だろうか……。

「しかし珍しいな……あいつが口出ししてくるなんて……」
「ですね。ヒースクリフさんならすぐに了承すると思ってましたが……」

 KoBは一般プレイヤーが思っているより自由度が高い。ギルドのノルマも特にないし、基本的に攻略活動も自由、デュエルを吹っ掛けたり吹っ掛けられたりしてもそうそう咎められないらしい。アスナほどの重鎮でなければ、恐らく脱退もそんなに重要な話にはならないのではないだろうか。

「ともかく、いったんグランザムまで行ってみよう。ヒースクリフと直談判してみる」
「ごめんね。迷惑かけちゃって……」
「いや。いいさ。大事な……攻略パートナーのためだからな」

 少しだけ不満そうに唇を尖らせたあと、アスナは小さく笑った。

 シェリーナはそれを見て、何か自分の心の中に空ろなものが生まれるのを感じた。かつては、自分もあそこにいたのだ。キリトについて行けなくなって、あの場所を捨てた。捨ててしまったのだ。自分には覚悟がなかった――――ただそれだけの事だったのに。

「(私には、キリトさんの隣にいる資格はないのかもしれない)」

 薄々気づいていたことではあったが、改めて思ってみると、それはより確定した事実のように思えてきた。

「(……っ!いけない!!)」

 こんなのだから、あの時―――――

「シェリーナ?」
「っ……はい!」
「置いていくぞ~」
「待ってください!」

 ともかく、今はヒースクリフの思惑に集中しよう。あの赤衣の聖騎士は何をたくらんでいるのか……


 ***


 アインクラッド第五十五層主街区《グランザム》。別名《鉄の都》。多くの町が石造りの中世風な街並みなのに対し、この町は全て黒っぽい鋼鉄でできている。この層のフィールドは氷や雪で覆われており、空も曇っているのも合わせて第五十五層は全体的に寒々しい街となっていた。

「おお寒っ……シェリーナはいいなぁ。フード付きローブ(フーデッドローブ)で。俺なんかこの一張羅……」
「嘘言わないでくださいキリトさん。そのコート地味に断熱効果あるの知ってるんですからね」
「おお、よく知ってるな……それにしてもこの町は寒々しいなぁ……」

 キリトがあたりを見回す。雪が降り積もり、氷で凍てついたグランザムの鉄だけの町は、余計に寒々しく見えた。

「昔は三十九層にあった小さい家が本部だったのよ」

 アスナが苦笑する。

 アインクラッド第三十九層は、ほとんど何もない田舎町だ。第八層、第二十二層と並んで『のどかな街』であり、出現モンスターは非常に弱く、上層下層から住む為にやって来るプレイヤーが後を絶たない。特に三十九層はほかの層に一層増してやることがないエリアで……第八層にはいろいろな愉快なクエストが、第二十二層には釣りができる池がある……恐らくアインクラッドで最も人気が無い階層である。

「みんな狭い狭いって喚いててね。ギルドの発展は嫌じゃないけど……この町は、寒くてキライかな」
「俺も嫌だなぁ、こんな町に住むのは。なんであのカタブツはここを本部に選んだのか……」

 キリトの愚痴に、シェリーナは思い当たる回答があったので答える。

「グランザムには大型の建造物が多いんです。ギルドホームなどが探しやすいだけでなく、高価な反面広いプレイヤーホームを購入することもできます。《血盟騎士団》はメンバーが多いですから、ヒースクリフさんはできるだけ広い建物がある階層を選んだんでしょうね。大きいギルドホームがあればそれだけ宣伝にもなりますし」
「確かになぁ。《聖竜連合》のあのドデカい本部は宣伝効果激大だしな……」

 アインクラッド最大のギルド、《聖竜連合》は《最強》のギルドである《血盟騎士団》を一方的にライバル視している。このグランザムがあるアインクラッド第五十五層よりきっかり一つ上のアインクラッド第五十六層につくられた《聖竜連合》本部はまるで要塞のような威容を誇る。どう考えても《血盟騎士団》と張り合おうとしたとしか思えない。

「しっかしシェリーナ。お前そういうの詳しいよな。何でだ?」
「え!?え~っと……」

 言えない……キリトにどうかと思って、かつて城のように巨大なプレイヤーホームを買おうとしたことなんて言えない……!!

「見えてきたよ」

 今日この瞬間だけはアスナに感謝しながら、シェリーナはアスナの指差す方向を見る。そこには、黒鉄色の尖塔。間違いない。《血盟騎士団(Knight of Blood)》本部だ。入口には恐ろしく長い槍を構えた衛兵が二人、たっている。彼らはアスナに気付くと、ガシャリと鎧を鳴らしながら敬礼した。

「任務ご苦労」

 アスナも敬礼を返す。先ほどまでエギルの店の二階でしょんぼりしていたアスナとは同一人物とは思えないほどしっかりしていた。

「さ、行こうか」
「お、おう」

 アスナに促され、いよいよ《血盟騎士団》本部へと入る。

 本部の中は、ランプの明るい光で照らされていた。白系統の色の壁紙のあいまってか、外ほどの冷たさは感じない。しかしそれでも、拭い切れないプレッシャーが漂っていた。

 キリトがごくりとつばを飲み込む。やはり彼も緊張しているのだろうか。それもそうだろう。これから会うのは、この世界最強の男なのだから。

 しかしキリトは、一応ヒースクリフと話をしたことがあるはずだ。一年は立たないが、十カ月ほど前に起こった《圏内事件》の折の事だ。本来、アインクラッドの町は《犯罪防止(アンチクリミナル)コード》というモノに守られている。これはその名の通り、犯罪を防止するコードで、このコード《圏内》では、窃盗や、他人を傷つけるPKができない仕組みになっている。また、このコード内に入り込んだ犯罪者プレイヤー…カーソルの色から《オレンジプレイヤー》とよばれる…は、村人型ガーディアンNPCに町から追い出されてしまう。「村人ごときが何だ」と思うかもしれない。しかし彼らを侮ってはいけない。このガーディアンNPC、一体一体がそれはそれは冗談のように強いのだ。殺されかけたプレイヤーを一人知っている。

 そんな《犯罪防止(アンチクリミナル)コード圏内》で起こった殺人事件が《圏内事件》だ。結局は《圏内殺人》などは存在せず、巧妙なトリックを使った当事者たちの演技だったのだが、今から半年前に討伐された最凶の殺人(レッド)ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》が出張る重大な事件となった。もちろん、一般にはラフコフの介入は伏せられたのだが。

 その時に、キリトとシェリーナ、アスナ、そしてヒースクリフがことの解決に当たった。その時にキリトが連れて行ってくれた素朴な味わいの定食屋、《アルゲードそば》はシェリーナのツボにはまり、今もたまにそば(という名目の通称『偽ラーメン』)を食べに行っている。

 あの時対峙したヒースクリフは、「厳格な博士」といった感じだった。攻略の時には赤い鎧を身につけている彼だが、あの時の普段着と思しきローブに身を包んだ姿は、つい昨日知り合ったばかりのこの世界たった一人の魔術師、ドレイクによく似ていた気がする。

「ついたよ」

 筋力値の低いものなら音をあげそうなほど段数の多い螺旋階段を上りきった先にあったドアの前で、アスナが立ち止まって言った。

 純白のドアの中央には、目がいたくなるほどの真紅の十字。よく見ると大理石のようなものでできているらしいドアには、細かい豪奢な彫刻が施されていた。アスナがそのドアをノックすると、答えを待たずに開く。

 部屋の中は、背後の巨大なガラス窓から差し込む光によって満たされていた。窓の真ん前には半円形のテーブルが置かれ、七つの席がある。左右の四つには重装備の男たち…血盟騎士団の幹部だ…が座る。その隣、中央に近い方の二席はあいていて、そして中央の一際背もたれの高い椅子のある席には、赤衣の男が座っていた。

 銀色の長髪をオールバックにし、首筋で結っている。角ばった学者めいた顔つきに、金属めいた真鍮色の冷たい眼。魔術師然としたローブに身を包んだこの男こそ、《血盟騎士団》団長にしてアインクラッド最強の男、《聖騎士》ヒースクリフである。

「久しぶりだね、キリト君。いつ以来だろうか」
「六十七層の攻略会議以来だ」

 キリトはヒースクリフの問いかけにも、落ち着いた声で答える。しかしシェリーナには、キリトが緊張を隠そうと努力しているのが感じられた。

 ヒースクリフが苦笑する。

「あれは我々にとってもつらい戦いだった。《最強》と言われていながらも、戦力は常にギリギリだよ。そんな私たちから、君は貴重な副団長を引き抜こうというのだ」

 ヒースクリフが一泊あけて、堂々と言い放つ。真鍮色の眼が一瞬、面白がるように光る。


「キリト君。欲しければ剣で……《二刀流》で奪うがいい。君が勝ったら、アスナ君を連れていくがいい。しかし、もし君が負けたなら……君が、《血盟騎士団》に入るのだ」 
 

 
後書き
 次回はいよいよキリト君VSヒースクリフ。まぁ、大して原作と変わりませんが。 
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