チャイナ=タウン
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第五章
第五章
「イタリア料理ね」
「うん。台湾でもあるかな」
「日本程多くはないわ」
「そうなんだ」
「だからあまり食べたことはないの。スパゲティは好きだけれど」
「じゃあそれを食べる?あとピザも」
「ええ。貴方に任せるわ」
「それじゃ」
俺はその言葉に頷いた。そして注文した。ここで彼女が言った。
「あっ、待って」
「何!?」
「この黒いスパゲティだけれど」
彼女はメニューを見ていた。
「これ一体何なの?」
「イカの墨を使ったスパゲティだよ」
俺はそれについて答えた。
「イカの墨」
「うん。イタリアにはそうしたパスタもあるんだ。食べてみる?」
「面白そうね」
乗り気だった。これで決まりだ。
「じゃあそれにするか」
「ええ」
こうして俺達はそのイカ墨のパスタとピザを注文した。程なくしてパスタとピザが運ばれて来た。
「ではいただきます」
フォークを手にしスパゲティをとり皿に入れる。そしてそれを口にした。まず彼女からだ。
「どう?」
俺は尋ねた。彼女は食べ終えてから答えた。
「美味しいわ」
「よかった」
それを聞いて安心した。紹介した料理がまずかったら話にもならない。
「ただ食べた後お口が黒くなっちゃいそう」
「それはあるよ」
「けれどそれでも美味しいわ。面白い味ね」
「そうだろう、一度食べたら病みつきになるんだよ」
実はこのイカ墨のパスタが大好きなのだ。だからこそ彼女に薦めた。そしてそれは成功した。
食べ終えた後慎重に街中を案内した。食べた後はまた色々と話をした。
「暫く日本にいるんだ」
「ええ。大学に入って間もないし」
「どれ位」
「そうねえ。一年程かしら」
「そうなんだ。じゃあこれからも会えるね」
「うん」
またデートに誘えると思った。ここでレコード屋の前からある曲が流れてきた。
「あっ」
彼女はそれを聞いて足を止めた。それは中国風の曲であった。
「どうしたの?」
「この曲」
どうやら知っている曲のようだ。
「台湾の曲よ。あっちで有名な歌手の」
「そうなんだ。じゃあ買ってあげようか?」
「いいの?」
「いいよ」
これ位は先行投資のうちだ。女の子と付き合おうと思ったらお金のことは気にしてはいけない。
「じゃあ入ろう」
そして彼女をレコード屋の中に誘った。
「ええ」
そして俺は彼女にその歌手のCDを渡した。受け取った彼女の顔は朗らかなものであった。
「有り難うね、謝々」
「いいよ、お礼は」
正直言って恥ずかしかった。そう言って誤魔化した。
「後で聴くといいよ」
「うん、わかったわ。そうさせてもらうわ」
彼女はそれに答えた。
「帰ったら楽しみね」
「今のデートは?」
「それも勿論。けれど帰ってからも楽しみがあるのっていいじゃない」
「それはそうだね」
一瞬ギクリとしたがそれならよかった。
俺達はそれからも暫く街を歩きながら話をしていた。そして俺達は中華街に戻り別れた。それが俺達の最初のデートだった。
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