チャイナ=タウン
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第四章
第四章
「何か日本とあまり変わらないな」
「そうでもないわよ」
話を聞くだけだと日本に似ているが違うらしい。
「細かいところはね。色々と」
「そうなんだ」
「例えば受験なんて凄いんだから」
「それは日本でも同じだよ」
俺もそれなりに受験勉強では苦労してきた経験がある。だからこそこう言えた。
「日本の比じゃないのよ」
「まさか」
「私だってね、凄く勉強したんだから。もう一日中よ」
「それで大学に受かったんだね」
「ええ。けれどこれで終わりじゃないわ」
「大学に入ったら終わりじゃないの!?」
「台湾では違うのよ」
「どう違うの?」
「大学院にも行かなくちゃいけないし。留学も大事なのよ」
「それで日本に来たんだ」
「そうよ」
得意気にそう語った。
「どう、だから日本語上手いでしょ」
「まあね」
本当を言うとまだかなりたどたどしいと思う。けれどそれは言わないことにした。
だがそれはすぐにばれてしまった。
「あ、今違うと思ってるでしょ」
「え、いや」
図星を衝かれて思わず焦った。
「違うよ」
「顔に書いてあるわよ」
彼女は俺の顔を見上げてそう言った。
「嘘が下手な人ね、貴方って」
「ううっ」
「けどいいわ」
しかしここでうっすらと微笑んだ。
「悪意はないから。親切で言ったんでしょ?」
「まあそうなるかな」
「日本人らしいわ。日本人ってそういう人が多いのよ」
「否定はしないよ」
実際そうだと思うからである。いいか悪いかは全く別問題として日本人は嘘をつくのが下手だと個人的に思っている。
「はっきり言わないところもあるわね」
「それも否定しないよ」
世界中から言われているような気がする言葉だ。何回聞いたかわからない。
「けれどそれがいいわ」
彼女はそう言ってにいっと笑った。
「日本人のそういったところも好きなのよ」
「本当に!?」
世界中から批判されていることなのでこれには正直驚いた。
「ええ」
彼女は答えた。
「少なくとも私はね。そういうのを全部知ってから来たんだもの」
「日本に」
「そうよ。留学先もわざわざここにしたの。台湾での留学はアメリカが一番人気があるんだけれど」
「やっぱり」
これはわかる気がする。
「ええ。それでもね。日本にしたの。日本語もお爺ちゃんから勉強して」
「あっ、昔日本だったからね」
「そうなの。お爺ちゃんは今でも日本だった頃を懐かしい、って言ってるわよ」
「それは意外だなあ」
「そうかしら」
「うん」
俺は答えた。
「僕が子供の頃は日本は悪いことばかりしてきたって教えられてきたからね」
「随分偏った教育ね」
「学校の先生なんてそんなもんさ。狭い世界だからね」
本当にそう思う。全てがそうではないが教師というのは本当に視野が狭い人間が時々いる。中には人間性も疑わしい者までいる。これはどの社会でもそうかも知れないが閉鎖的な社会ではそうした人物が多いように思える。俺はたまたま学校でそうした教師を見てきたからそう思うだけかも知れないが。
「台湾だってそれは一緒だったわ」
「そうなんだ」
「ええ、最近までね。国民党だったから」
「ああ、成程」
これは少し聞いたことがある。何でもかなり酷いことをやっていたらしい。
「もう終わったけれどね。それでもお父さんやお母さんの頃は酷かったらしいわ」
そう語る彼女の目に怒気が漂った。
「私はそうした二人に小さい頃から勉強しろ、勉強しろと言われてきたのよ」
「色々あったみたいだね」
「台湾では何かを言うのにも学歴が必要だから」
「本当に極端だね」
「日本じゃそこまでいかないでしょ」
「まあ」
大卒が何かにつけて有利なのは事実だがそこまではいかないと思う。高校、いや中学卒業でも言える人間はちゃんと言う。俺の友人でもそうだ。
「そこはいいと思うわ。私も今まで勉強ばかりだったから」
「それで今ここに来れたんだね」
「あっ、そうね」
それを聞いて以外そうな顔をした。
「そういう考えもあるわね」
「うん」
「で、今ここを歩いていられると」
「そうそう」
「そう考えると不思議ね。何か気が楽になってきちゃった」
何か急に日本語が上手くなったように感じた。いや、本音を出したからだろうか。
言葉よりも本音を出した方がいいのだろうか。
「ねえ、よかったら」
「うん」
「ここ案内して。あまり来たことなくて詳しくないのよ」
「いいの、僕で」
「折角だからね。貴方もそのつもりで私を誘ったんでしょ?」
「ご名答」
やはり鋭い。ここまで手の内を読まれているとは。
「けれどいいわ。乗るわ、そのお誘い」
「乗るの」
「そうよ。お願いね」
「わかったよ」
といってもここは案内するには注意が必要だ。少し出ればホテル街がある。幾ら何でもそんなところを見せるわけにはいかない。風俗も多い。よくよく考えればこんな場所を子供の頃から遊び場にしていた俺も俺だ。
とりあえずは腹ごしらえをすることにした。スパゲティの店に入った。チェーン店で味は一定している。特に量が多いことで有名な店だ。
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