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偽典 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第7章 終わりの始まり
  第肆話 ゾーマ城

ゾーマ城地下、最下層。
静寂と闇に覆われた空間の中で、目の前にある祭壇だけが仄かに灯っていた。

「暗いわね」
「そうだな」

俺たちは、祭壇に向かって歩みを続けていた。
城内での行動は、特筆すべきことはなかった。

あえて、ダイジェストでお届けすると、こんな感じだった。



~だいまじん編~



「!」
タンタルが扉を開けると、そこには巨大な石像が左右に3体づつ、合計6体が直立していた。
巨像は、今にも動き出しそうな状況だ。
ただ、その表情は、来客者を歓迎しているのではなく、不審者を追い払おうとする威圧感を放っていた。

俺は、巨像の表情を無視して、袋から取り出した球状の物体を巨像の足下と先に見える扉に設置していた。


「ねえ、何をしているの?」
俺が黙って作業しているので、テルルが思わず質問していた。
「怪しいので、魔法の玉で爆破してみる」
俺は、準備が終わると立ち上がり、にこやかにテルルに答えた。
「大丈夫ですか?
そんなことをしても」
セレンが心配そうに質問する。
「大丈夫さ。
もともと、俺たちは招かれざる客なんだから」
俺たちは大魔王を倒しに来たのだ。その過程で、巨像や城の一つが滅んでも問題ないだろう。
原作でも、城は崩壊したし。
俺は、呪文を唱えた。
「イオラ」

俺が真上に掲げた右手から放たれた光の玉は、周囲に広がり、巨像の足下に到着する。
「伏せて!」
周囲にあらかじめ設置した巨像が爆破に巻き込まれた。


爆破の炎が静まると、巨像は粉々に砕けていた。
「ああ、すっきりした」
俺は、さわやかな表情で、
「さあ、進むぞ」
破壊した、扉に向かって歩き始めた。



~地下迷宮編~



「ねえ、アーベル?」
「ああ、この仕掛けのことか?
ルビスの塔で見かけた物と一緒のようだが、
仕掛けの種類はわからないな。
それでも、あえて推測するなら・・・・・・」

「そうじゃなくて、地下への階段のことよ」
テルルは、先ほど降りた階段のことを口にした。
「階段?」
「玉座に、大魔王がいなかったから、他の場所にいるのはわかるけど、どうして玉座の後ろに隠し階段があるとわかったの?」
「まあ、勘だな」
「それにしては、一直線に進んでいたけど?」
「まあ、類推はできる。
玉座の間を出入りする扉は、一カ所だけだった。
だけど、避難経路等を考えれば、この部屋のどこかに抜け道を造るしかない。
そうであれば、背後の壁か、玉座の裏辺りが適当だろう。
それに、」
俺は、一息つくと、
「玉座の間は、バリアで覆われていた。
足跡などをたどれば隠し場所を探ることができるが、バリアの床はわかりにくい。
ならば、足下を調べるしかないと思ったのさ」
「・・・・・・わかったわ」
テルルは納得してくれたようだ。


「アーベルさん。
この床はどうしますか?」
タンタルは、目の前の床を指さしながら質問する。
床には、ルビスの塔にもあった、ひし形の文様があちこちに設置されている。
周囲にはモンスターが居ないことから、なんらかの仕掛けがあるのではと、タンタルも懸念しているようだ。
「ああ、まっすぐに進もう!」
「まっすぐ?ですか」
「そう。
まっすぐだ」
俺は、テルルの手をつないで、
「全員で手をつなぎ、ついてこい。
絶対には離すなよ」
「ま、待ちなさい」

俺は、仕掛けを前に足を踏み入れた。
進入したとたん、景色がゆがみだす。
「やはりそうか」
俺は、ゆがんだ景色に惑わされることなく、まっすぐに歩き続ける。


やがて、さらに奥に進む為の下り階段にたどり着いた。

「やはりそうかって、何よ!」
納得いかないという表情のテルルが、声を上げる。

「ここには、モンスターが存在しない」
「そうね」
「ここはおそらく、侵入者を排除するための罠だったのだろう。
普通であれば、周囲にある穴に落ちて、下で待ちかまえているモンスターに襲われるという、筋書きだったはずだ」
「だが、そこに問題が発生した。
モンスター自身が行き来できなくなったということだ」
「そんな、バカな・・・・・・」
「そう思うだろう。
だが、このフロアにモンスターはいない。
それが、現実だ」

「まあ、検証するのは後回しだ。
先に進もう」

俺たちは、問題なく下へ降りる階段までたどり着いた。



~キングヒドラ編?~


地下の四階に俺たちはたどり着いた。
俺は、壁に耳をあて、音を確認していた。

「この音は・・・・・・?」
「おそらく、川の流れの音ですね」
セレンの質問に、タンタルが答える。

「こんなところに、川なんてあるの?」
「あるのでしょうね。
はじめてきた所ですから知りませんが」
俺は、作業をしながらテルルの質問に答える。

「ねぇ、アーベル何をやっているの?」
「見てのとおりだが?」
俺は、作業が終わると、立ち上がりテルルに視線を移す。

「こんなところに、モンスターが居るの?」
「いや、いないと思うよ」

強力なモンスターなら、この先の突き当たりを左に曲がった所にある橋を渡った先にいる。
本来であれば、勇者オルテガが戦い、命を落としてしまうほどの強敵ではあるのだが、今回は戦う予定はない。
「だったら、何をしているの?」
「本来の目的を忘れたの?」
「大魔王を倒すこと?」
「そっちじゃなくて、魔法の玉の本来の目的」
「・・・・・・それは、壁を、壊す!」
「そういうこと、後ろに下がって」
テルルは俺の指示に従って。

「いくぞ!」
「はい!」
俺は、MPの節約のため、まどうしの杖をもったセレンに指示を出す。


「上手くいったな」
俺は、壊れた壁から進入して、右側をみてつぶやいた。

その先には、下へと続く階段が見える。
「さあ、いくぞ」

俺は、振り返り、仲間に指示を出す。
「・・・・・・そうだな」
「はい」
「なんで、知っているの?」
「は?」
「だって、こんなこと知らないとできないわよ」
「まあ、耳をすまして空洞があることを確認したからね」
俺は、うそぶく。

そして、歩みを進める前に、後ろを確認する。
その先には、タンタルの言うとおり、川があるはずだ。
その上にある橋を渡れば、モンスターが待ちかまえたはずだ。

キングヒドラと呼ばれるそれは、かなり強力なモンスターだった。
あの勇者オルテガを倒した力を持っている。
だから、戦うことを回避した。
まあ、後で戦うことになるかもしれないが。



「・・・・・・」
俺の回想が終わるころには、暗闇に慣れたのか、こちらに向かう大きな物体を確認することができた。
そして、物体が祭壇のすぐそばまで到着すると、周囲のに火が灯り、正体が明らかとなった。

その姿は、巨体をマントで身にまとい、胸に骸骨の首飾りを身につけ、頭には二本の角と巨大な目玉がついている。
青い顔は、邪悪に満ちていて、視線の先にある俺たちを哀れで脆弱な生物のように眺めていた。
「大魔王か」
俺は、ゆっくりとつぶやいた。


「アーベルよ!
我が生け贄の祭壇によくぞきた!」
大魔王は俺の名前を何故か知っているようだった。
どこかの街に、スパイでもいたのだろうか?
もしかしたら、バラモスを撃退したときに、覚えられたかもしれない。

「我こそはすべてを滅ぼすもの!
すべての生命を我が生け贄とし、絶望で世界を覆い尽くしてやろう!」
死んでしまったら、絶望する事は出来ないと思ったが、死んだまま魂がとどまることもあったな。
「アーベルよ我が生け贄となれい!」
わざわざ、ここまで待つとは、お疲れさまです。
「出でよ、我がしもべ!
こやつらを滅ぼしその苦しみを我にささげよ!」
そうか、自分の手を汚さないで、遠くから高見の見物か。
そう考えながら、俺は武器を持ち身構えた。
 
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