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偽典 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第7章 終わりの始まり
  第参話 いざ、決戦へ

 
前書き
「第57話 そして、最終確認へ・・・」に少しエピソードを加えた内容であることをご容赦願います。  

 
「種の分配は済んだ。
光の玉はテルルに、魔法の玉はタンタルに、まどうしの杖はセレンに、
テルルの盾をドラゴンシールドに変更と」
明日の襲撃に備えて、ラダドームの宿屋で最終確認をしていた。


ステータスを成長させる種については、次のとおり分配している。

力の種は全て武闘家のタンタルに渡して、タンタルの力はほぼ上限に近い状態である。
物理攻撃を与えるのはタンタルが中心となる。

素早さの種は、俺とセレンが使用した。
テルルの素早さは上限に達しており、最大HPの低い俺とセレンの防御力を高める事を目的にしている。
種の力のおかげで、俺の素早さも上限に達している。

スタミナの種は、俺が既に食べている。
スタミナの種で上昇する体力は、最大HPの上昇に関係するのだが、レベルアップして初めてHP上昇の恩恵を受けることができるため、訓練の途中で全て食べた。

そして、最大HPを上昇させる命の木の実は先ほど俺が食べ終わった。
「それでも、セレンよりも低いのだけど」
ステータスシートを眺めながら俺はぼやいてしまった。
「文句言わないの」
テルルは不満そうにいった。

まあ、テルルの不満ももっともである。
今回の種の分配で、テルルは一つも食べて無いのだ。
「ラックの種ならあるけど」
俺は、袋から別の種を取り出す。
「いりません」
テルルはすねてしまった。


次に所持品の確認だ。
ゾーマが身に纏う闇の衣を引きはがすのに必要な光の玉は、最大HPと素早さの高いテルルが持つ事になった。

そして、量産した魔法の玉はタンタルが持つことになった。
ゾーマ戦には、直接使用しないが、事前の準備に必要と考えている。
そして、まどうしの杖をセレンに渡した。
今回、魔法の玉を爆発させる役目をセレンにしてもらった。
セレンはまどうしの杖は装備できないが、アイテムとして使用することで、メラを使うことが出来るようになった。

そして、装備の変更である。
テルルが使用可能な盾でもっとも防御力が高いのは、みかがみの盾である。

しかし、大魔王ゾーマの攻撃で最も恐ろしいのは吹雪攻撃であり、その威力を軽減するためみかがみの盾より少し防御力は落ちるが、吹雪攻撃に耐性のあるドラゴンシールドを用意した。

「タンタルも装備できたらいいのだが」
武闘家のタンタルは、対吹雪性能を持つ防具を身につけることが出来ない。
俺とセレンは、ドラゴンローブを身に纏っており、高い防御力だけでなく、吹雪攻撃の耐性も兼ね備えている。
「根性で耐えますよ」
タンタルは笑って答えた。

タンタルのHPは400に近いので、集中しなければ問題ないはずだ。
とはいえ、ゾーマとの戦闘時には、僧侶セレンに冷熱防御呪文「フバーハ」を唱えてもらうつもりだ。


「そして今回のとっておきは、これ」
俺は、青い正8面体の石を取り出した。
青い石は神秘的な光をはなっている。
「これは、なんですか?」
「俺とソフィアが共同開発した、賢者の石の・・・」
「賢者の石!」
話の途中で、テルルが思わず声を上げる。
賢者の石とは、戦闘中に使用すると、全体回復魔法「ベホマラー」の効果を持つ石のことである。
製法については現在残されておらず、とてつもない貴重な品であった。

「話は終わっていない。これは「賢者の石のようなもの」だ」
「賢者の石のようなもの?」
セレンが首をかしげる。
「残念ながら、この「賢者の石のようなもの」は、完成品ではない」
俺は、残念そうに話す。

賢者の石の効果を再現するために、道具として使うと回復呪文「ベホイミ」の効果がある賢者の杖を解析し、改良を重ねた。
「その結果、この石を作ることができ、ベホマラーも使用出来るようになったのだが、」
「なったのだが?」
タンタルが言葉を重ねる。

「使用回数に制限がある」
「どのくらいですか?」
セレンがたずねる。
「おそらく、約30回分。ゾーマ戦でなんとか使い切る計算だ」
俺は、自信を持って答えた。

「でも、それまではどうするの?」
テルルが質問する。
「とりあえず、「せいすい」と「しのびあし」を使用する。
だが、念のため、準備した」

俺は、袋の中から指輪を取り出した。
「その指輪は」
「ああ、いのりの指輪だ」
俺は、入手の経過を思い出しながら、セレンに手渡した。



俺がかつて訓練場としていた、ノアニール西の洞窟。
その北側に、小さな村がある。
そこは、エルフとよばれる、人間とは異なる種族が、ひっそりと生活していた。

「あなたがた、人間にお売りするものはありません。
お引き取りください」
冷酷な声で、目の前の美女は俺たちに宣告する。

「戻るぞ」
「ああ」
「そうね」
「・・・・・・」
俺たちは、一度近くの誰もいない森に引き返した。

「アーベル、どうするの?
買い物が出来なかったじゃない!」
「そりゃそうだ。だって、人間だもの」
俺は、両手を前に出しながら答える。
「とぼけないで!」

「わざわざ、訓練を中断して森の中に来たのに、出来たのはエルフという美人と会話しただけ。
役得なのは、アーベルくらいよ」
「役得?
意味がわからない。
それに、俺は買い物をあきらめたわけではない」
俺は、かつてアリアハンの西にある、ランシールで入手したアイテムを取り出した。

「きえさり草」
「これで、姿を消して・・・・・・」
「まさか、アーベルがそんな卑劣なことをするなんて」
「卑劣?」
俺は、首を傾げる。

「円滑な商取引をするための下準備に、卑劣と言われるのは心外だな」
「商取引?」
「ああ、そうさ」
俺は、これからの行動を具体的に説明する。



「なるほど」
タンタルは納得し、
「すごいです」
セレンは賞賛し、
「最初から説明しなさいよ!」
なぜか、テルルは怒っていた。



小さな池の側で、静かに佇む、エルフの娘。
「・・・・・・」
娘は、背後から気配を感じて
「姿を変えても私たちにはわかります」
そして、その正体に気づくと、
「ひーっ、人間だわ!
さらわれてしまうわ!」
娘が震え上がっている。

俺は、娘に向かって呪文を唱えた。
「モシャス」
俺は、エルフの娘に変化した。
「さあ、買い物にいくか」
俺は、こうしてエルフの隠れ里で販売している祈りの指輪を大量に入手した。


「ねぇ、アーベル、気になることがあるのだけど」
仲間と合流したときに、テルルから質問を受けた。
「気になること?」
「どうして、あの店で購入出来たの?
エルフは、姿を変えても人間だとわかるのなら、アーベルが変身したことに、店のエルフも気づいたと思うけど」
「気づいていたと思うよ」
俺は、自分の感想を述べた。
「えっ!」
テルルは驚く。
「金の力は偉大だね」
俺は、とぼけた調子で、解説する。

「あの店員は、その職業がら、ホビットなど様々な種族と相手をしていたはずだ。
でなければ、あのように店を開く必要はないだろう。
その証拠に、俺たちに対しても、怯えることなく、きわめて冷静な態度で対応していた」
「だったら、どうして・・・・・・」
人間に物を売らないのか、テルルは重ねて質問する。
「とはいえ、エルフの女王の命令に背くわけにはいかない。
だから、人間の姿では取引できないけど、エルフやホビットなどの姿をしていたら、中身が人間であっても、かまわないとおもったのだろうね」
「だから、円滑な商取引と言ったのね」
「まあ、本人に聞くわけにもいかないから、本当のところはわからないけどね」
俺は再び、両手を前に出して答えた。



「とりあえず、これを身につけて強く念じれば、MPが回復する」
俺は、セレンに3つほど手渡す。
「私の分は?」
テルルが、俺に指輪を要求してきた。
「戦闘中に呪文は使わないだろう?」
俺は、そういいながら自分用に指輪を4つとりだして、ズボンのポケットに入れる。
「わかったわ・・・・・・」
テルルは、少し表情を曇らせたが、それ以上のことは何も言わなかった。


「欲しいのか?」
俺は、タンタルがセレンが持つ指輪に、視線を向けていたことから、問いかけた。
「・・・・・・いや、いい」
タンタルは、セレンとテルルの表情を確認し、首を左右に振った。


そして俺は、ゾーマ戦での戦闘戦術について説明し、翌朝の作戦決行となった。


いよいよ、明日大魔王ゾーマを打ち倒す。
俺はベッドの上で考えていた。
「勇者オルテガは問題ない」
勇者オルテガは現在、ケガの回復のためリハビリを続けている。
だから、ゾーマの居城で何をやっても問題ない。
俺は、問題が無いことを確認し、眠りについた。



翌朝、ラダドームの南ある浜辺に、俺達はいた。
目の前にある海の先に、目指すべき城があった。
ゾーマの居城である。

ゾーマの城は小島の上に存在している。
ゲームでの勇者は、イベントをこなして島へと渡る橋を造った。
俺達は、別の方法で島へ渡るつもりだ。
当然勇者オルテガのように、泳いで渡るという選択肢はとらない。
水着もないし。

ラダドームの住民は、毎日あの城を眺めては、不安と恐怖の日々を過ごす。
そして、その心がもたらす闇の力でゾーマは自らの力の糧としているのだ。

だが、それも今日で終わらせる。
俺達の力で。
俺は、後ろを振り返り、仲間をひとりひとり眺める。

全身を鍛え抜いた筋肉で固めた男。
しかし、その筋肉は飾りではなく、軽やかな動きで敵の急所をねらい打ちすることができるために存在する。
そして、力だけでなく精神の強さは、優しい顔の奥に秘める二つの黒い瞳が物語っている。

その隣には、闇夜に溶けるための黒衣を身に纏った少女。
俺の願いに答える形で、商人から盗賊へ職業を変え、素早い動きを阻害するからと、美しい長髪をためらうことなく犠牲にした。
力、素早さ、体力ともに、高いレベルで維持しているのは、日頃の努力のたまものだ。
獲物をねらう眼光は大魔王相手でも、臆することなく輝いている。

最後に、竜の魂が込められた衣をまといし、青い髪の乙女。
苦難の旅を、愚痴一つこぼさず、ついてきてくれた。
やさしい言葉で、どれだけ仲間達の傷を癒してくれただろうか。
回復のスペシャリストとして、これまで、死者を出さなかったのは、彼女の冷静な判断力だった。

決して、俺ひとりではここまで来ることはできなかった。
そして、全てが終わったら3人に、本当のことを話そう。
たとえ、何を言われても構わない。
それが、みんなをここまでつれてきた俺の責任であるから。


だが、まだ終わってはいない。
そう、魔王ゾーマを倒してからが、終わりの始まりなのだ。
「さあ、始めよう。
ドラゴラム」
俺たちは、大魔王ゾーマ討伐作戦を開始した。
 
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