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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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第1話 「変化の訪れた日」

 人々が寝静まった真夜中。逃げる黒い何かをひとりの少年が追っている。服装はどこかの民族のような格好だ。
 少年はボートが置かれている橋まで走る。彼の視線の先にある湖の上には、得たいの知れない存在が浮遊している。謎の存在は少年の気配に気づいたように振り返った。少年は手に持つ赤い宝石を握り締め、真っ直ぐに黒い何かを見つめる。

『お前は……こんなところにいちゃいけない』

 少年が謎の存在に向けて腕を伸ばすと、手にある宝石が発光し始める。

『帰るんだ、自分の居場所に……』

 少年の手の先に淡い緑色の魔法陣が展開する。それと同時に、黒い何かに鋭い眼が出現し、咆哮を上げて詠唱する少年に向けて突撃した。魔法陣と衝突し、凄まじい音と衝撃が発生する。
 少年が「封印!」と唱えると謎の存在は消滅し始め、核となっていると思われる青い宝石が姿を表した。だが消滅する直前、謎の存在は姿を取り戻す。それを目撃した少年は驚きの表情を浮かべた。
 少年から距離を取った謎の存在は、散弾のように身体を弾けさせた。弾丸と化した謎の存在の一部一部が少年に襲い掛かる。少年はどうにか回避するが、肉片は橋やボートに着弾し破壊していく。

『くっ……』

 避けるのが困難だと判断したのか、少年は防御魔法を発動させた。そこに複数の肉片が着弾し煙を上げる。あまりの威力に防御魔法を貫通したのか、少年は吹き飛ばされて宙を舞い、林の中に落下していった。
 謎の存在は獰猛な笑みを浮かべた跡、その場から飛び去って行った。
 地面に倒れている少年は追いかけようとするが、体力の限界が来たのか伏した。その直後、少年の身体が発光し、動物へと姿を変えて行った。

 ★

「……嫌な夢だな」

 意識を取り戻した俺は、昨晩見た夢に対して無意識に発していた。
 一般の子供であったならば変な夢だと思うくらいで大して気にしないだろうが、魔法を知っている俺には不吉な予感がしてならない。

「かといって……」

 近くで寝ている(この表現が正しいかは微妙だが)ファラへと視線を移す。起こす気が起きないほどぐっすりと眠っている。
 ファラを身に着けておいたほうが安全ではあるが、彼女を学校に連れて行くのは気が引ける。彼女の大きさは15cmほどなので連れていけないことはないが、彼女がうっかり声を発しようものなら没収される可能性がある。男子が女性の人形を持っているというレッテルを貼られるのはご免だ。

「……気にし過ぎはダメだよな」

 様々なシミュレーションをやっているせいか、これまでに何度かおかしな夢は見たことがある。夢は無意識に自分の考えた方向に進んでしまうこともあるので、昨晩見た夢が単なる夢である可能性は否定できない。

「よし、普段どおりに過ごそう……」

 布団から出た俺は時間を確認する。普段よりも30分ほど早く起きてしまっているが、完全に目が覚めている。
 ランニングと素振りでもしようと思い、着替えを持って静かに部屋から出る。
 時間を潰した俺は汗を流すと上着以外の制服に身を包み、朝食と弁当の製作に入った。これといって食べたいものがあったわけでもなかったため、冷蔵庫にあった材料で適当に作った。
 学校へ行く準備が終わる頃に、ファラが目をこすりながら起きてきた。いつもどおりテレビの前のテーブルの上に乗せてやり、テレビの電源をつける。

「じゃあ俺は行くからな」
「ふぁ~い……行ってらっしゃい」

 本当に人間っぽいな、と内心で思いながら玄関に鍵をかけて学校へと向かう。
 普段使っているバス亭からバスに乗り込む。いつもと変わらず、大半の席は私立聖洋大学付属小学校の生徒達で埋まっていた。空いている席を探して後方へと進んでいくと、視界に3人の女子が映る。

「あっ、夜月くん。おはよう」

 まず声をかけてきたのは、栗毛をツインテールにした女子。名前は高町なのは。穏やかで誰にでも好かれる明るい子、というのは大半の人間が抱く感想だろう。俺にはどこか演じているようにも見えることがあるが。
 彼女の両親は俺の両親のことを知っている。あのふたりが勝手に言うとは思わないが、彼女が俺に興味を示してしまった場合、ヒントになるようなことを言ってしまう可能性はある。
 そのため高町とは、他の子よりも意識的に関わろうとしないように心がけている。

「ショウくん、おはよう」

 次に声をかけてきたのは紫がかった黒髪の女子。名前は月村すずか。大人しい性格をしているが、運動が得意な子だ。彼女は機械関係に興味があり、本も好きなようだ。俺も似たような感じなので、街の図書館で出会う内に声をかけられ、こちらから接しようとしたことはなかったがそれなりに親しくなってしまった。
 俺は知り合いくらいの認識なのだが、彼女は友人だと認識しているようで名前で呼んでくる。俺を名前で呼ぶ人間は少ないので、恥ずかしさに似た微妙な感情を抱いてしまっている。顔には全く出ていないようだが。

「おはよう」

 最後に事務的に声をかけてきたのは金髪の女子。アリサ・バニングスという外国人なのだが、日本育ちなのか流暢な日本語をしゃべる。3人の中で最も強気な性格をしており、リーダー格だと言えるだろう。
 俺が無愛想なせいか、月村と交流があるのに何かしらの感情を抱いているのかあまり好意的ではない。まあ理由もないのに好意的に接せられても違和感しかなく、深く関わるつもりはないのでは逆にありがたくもある。

「ああ、おはよう」

 簡潔に返した俺は、空いている席へと座る。3人は再び会話を始め、俺は黙って窓越しに景色を見る。昨日までと大差のない日常だ、とこのときは徐々に不安が薄れつつあった。

 ★

 将来を考えてみる、といった感じの授業があったこと以外、これといって何もなく学校は終わった。
 冷蔵庫の中身が少なくなっていたので、買出しして帰ろうした。その途中で俺の耳に、ボートが壊されたという話が不意に飛び込んできた。
 今朝抱いていた不安が蘇ってきた俺は買出しを一時中断して足早に聞いた現場に向かうと、警察や関係者と思われる大人たちが片付けを行っていた。偶々ここを通ろうとしたのか、高町たちの姿もあった。

「ここって昨日夢で見た……」

 壊れたボートなどに目を向ける月村やバニングスとは違って、高町は周囲を見渡している。
 一見するとおかしな行動のようにも思えるが、他に壊れている場所がないのか探していると考えればそうでもない。

〔……助けて〕

 突然、頭の中に直接声が響いた。魔法の知識がある俺は、それがすぐに念話だと理解する。胸の中に抱いている不安が大きくなったのは言うまでもない。

「すずかちゃん、今何か聞こえなかった!」
「……何か?」
「……ちょっとごめん!」

 高町は何かを探すように辺りを見渡しながら走り始めた。月村とバニングスは、彼女の行動に小首を傾げたが、急いで彼女のあとを追い始めた。
 先ほどの周囲を確かめる行動……もしも俺と同じ夢を見ていたならば、あのような行動をするのに説明はつく。それに念話が聞こえると同時に走り出した。

 これらから導き出される答えは……高町は魔導師としての資質を持っているのかもしれない。

 昨日の夢が真実であり、高町が少年を助けたならば、彼女は少なからず魔法に関わることになる。少年の傷が治るまでの間だけ関わるのならば、これまでどおりの生活を送れる可能性はある。
 だがもしあの黒い何かに襲われた場合、彼女は……。彼女に何かあれば、桃子さんたちはひどく悲しむだろう。
 そのように考えると、力を持つ自分がどうにかしないという気持ちが湧いてくる。だが危険なことには首を突っ込まないように昨晩注意されたばかりだ。行動を起こすということは、それを無視したことになる。

 ……俺は父さんと母さんとの思い出がある街を壊されたくない。

 高町が自分で関わったとしたら、桃子さんたちには悪いがそれは高町の自己責任だ。だが街に被害が出るのであれば、俺にも叔母の注意を無視して介入する理由ができる。できれば関わりたくないが……。
 そんなことを考えながら俺は現場から離れて買出しを再開し、できるだけ早く家へと帰った。何事も起きないことを願いながら……。


 
 

 
後書き
 街に何かが起ころうとしており、良くしてもらっている人の娘が関わってしまうかもしれない。しかし、危ないことに首を突っ込むなと忠告されている。
 ショウはそれに頭を悩ませるが、きちんと答えを出せずにいた。そこに夢に出ていた少年の念話が聞こえる。

 次回 第2話「魔法とロストロギア」 
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