リリカルなのは~優しき狂王~
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第五十六話~すり減らしてゆく力~
前書き
明けましておめでとうございますm(_ _)m
昨年言っていた、完結は無念ながら達成できませんでした。すいません
ですが、STS編がそろそろ終了するのは確かなので四月までには確実に終了すると思います。
そして前話で言っていた通りに上げることができずにすいませんm(_ _)m
では本編どうぞ
ゆりかご・動力部
様々な場所で戦闘が行われている中、ゆりかごの心臓部である動力ルームでこの戦局を左右する戦いが繰り広げられていた。
「でやああああああああああああ!」
「はあああああああああああああ!」
片や鋭利な刃を持つ槍を持つ武人、ゼスト。片や全てを粉砕しようとする鎚を持つ鉄槌の騎士、ヴィータ。
2人は同じ場所を目指して進撃していたが、途中で遭遇。その時に交戦しそうになったが、ゼストがライからの依頼で動いていることを説明すると、2人は目的を果たすまでの間協力をする事を約束していた。
先の襲撃事件の際の禍根がないわけではないが、それを理由に今の目的を見失うほど2人は愚かではなかった。
そして2人が協力することで、進撃速度は上がり2人はかなり早いペースでゆりかごの動力部にたどり着くことに成功する。
だが、ゆりかごの動力炉には最終防衛ラインとしての迎撃システムが存在した。ここに来るまでに2人が交戦していたのは、スカリエッティ陣営が用意していたガジェットとナイトメアフレームのみである。それはゆりかごと言う規格外の兵器が初めて見せた自衛行動。これまでの戦闘が可愛く思えるほどの攻撃が2人の進行を阻んでいた。
「くそ、これじゃあキリがねえ!」
大声で悪態をつくヴィータ。彼女は手に持つ鎚、グラーフアイゼンを握り締め直しながら敵と目標兼目的を睨み据える。
ゼストとヴィータを阻む防衛システムは、複数展開された正六面体の赤いキューブである。そのキューブは一定距離に接近してきた敵に対し、迎撃用の魔力砲を撃ってくる。そしてタチの悪い事にこのキューブは一定時間が経つに連れて分裂を繰り返すのである。
2人はそれが判明した瞬間キューブの破壊と進行を同時に進めようとしていたが、如何せん敵の数が多すぎた。
たった2人では手数が足りず、後退を余儀なくされているのが2人の前に横たわる現実であった。
徐々にキューブが増えていき、広大な動力部の安全地帯が減っていく。真綿で首を絞められるような感覚に歯噛みしながら、ヴィータは焦りを覚え始めていた。
「おい」
「なんだよ?!」
カートリッジを補填しながらゼストはヴィータに声をかける。苛立っていたヴィータは乱暴な返答を返す。
そんな彼女の態度にも特に気にした様子もなく、ゼストは淡々と告げる。
「俺が囮になる。そちらで動力部を潰せ」
「はぁ?!」
自分を蔑ろにする発言にヴィータは頭に来たのか、驚きの声と共にゼストに詰め寄った。
「ふざけんな!」
「ふざけてなどいない。それがベストの選択と判断した」
「それはベストじゃなくて、ベターだろうが!!勝手に1人で決め付けて諦めてんじゃねえ!!」
「ヴィータの言う通りですよ。その意見は却下や」
ヴィータの反応にどうやって彼女を納得させようか、と考え始めていたゼストの背中に新しく声が掛かる。
「はやて!」
「ヴィータ、無事そうやね」
髪が脱色されたような色で瞳が水色になっているはやてが、背中に広げた六枚の黒翼を動かし飛んでくる。髪の色と瞳の色ではやてがユニゾンを行っているのが解る。それはリィンフォースの復帰を意味していたので、ヴィータは内心で安堵の息を吐いた。
「手段を探している暇はない。ベストの案が今すぐ用意できないのなら、ベターを取るべきだ。それに俺にはもう時間は残されていない。残り少ない命を意義あるものとして扱える、与えられたこの機会を私から奪うな」
「っ!」
それはゼストの心からの本音であった。彼は自己満足でしかないと否定され、そして新たに目的を与えられた事をライに感謝していた。そして自分の行いを犬死でないことの照明を彼は最後に残したいと考える。
それは彼の我侭だ。だが、それを捨ててしまえば、それこそ本当に彼は死人以下の亡霊になってしまう。だからこそ彼は望む。それはゼストにとっての生きていることの紛れもない証であった。
はやての意見に異を唱え、尚も自分を犠牲にしろと言ってくるゼストにヴィータは再び噛み付こうとする。だが、ヴィータの隣にいたはやてが片手でそれを制する。
「また、逃げるんですか?」
「なに?」
自分の事を知っているような発言にゼストは眉をひそめる。しかしそんな彼の反応も気にせず、はやては言葉を続ける。
「死ぬことで自分の行ってきた事の責任を誰かに押し付けて、自己満足の理由を他人から貰って……気楽ですね」
はやての言葉に一瞬殺意を抱いたゼストであったが、叫ぶように続けられた言葉に彼は今度こそ黙り込む。
「あんたにはまだこの先、罪と罰を受ける責任がある。それを死ぬことで逃げようとするんは卑怯で臆病者のすることや!少なくともあんたが死ぬのは勝手やけど、それの理由にライ君の名前を使うんは許さん!」
「……」
「これ見い!」
そう言ってはやてが1つのデータをゼストに見せる。それはゼストの現在の身体データと延命の為の治療データ。
それを見たゼストは驚きの表情を見せる。
「それはライ君が送ってきたデータの中にあったもんや」
「!だが彼は俺を―――」
ライとの契約をした夜の光景がゼストの脳裏を過ぎる。
「ライ君は……彼はあんたに犠牲になってもらうくらいなら、自分が犠牲になることを望むんや。彼は本当に優しいから」
「ならば――」
「でもそれ以上に彼は他人を信じるから、信じていたいから、あんたを信じて、あんたが生きることを諦めないことを信じて戦う場所を与えたんやない?」
「……」
はやての言葉に今度こそゼストは言葉を失くす。
「それにな――」
はやてはヴィータとゼストの前に出る。
「手段が無いわけやない!」
そう叫ぶとはやては夜天の魔道書を開き、右手に持った金色の杖、シュベルトクロイツを敵の集団に向けた。
「夜天の主の名は伊達やないで!」
はやての叫びに呼応するように彼女の足元に白銀の魔法陣が展開される。
「闇に沈め!ディアボリックエミッション!!」
叫びと共に彼女がシュベルトクロイツの指し示した方向、敵の密集地域の中心に黒い魔力の塊が膨れ上がる。その塊は敵を多数巻き込み破壊を生み出した。
それを引き起こした少女の背をゼストはどこか憧れるように、眩しい物を見るように目を細めていた。
ゆりかご・聖王の間
エナジーウイングが飛行の軌跡を描き、虹色の魔力がその部屋の壁や床、天井を破砕していく。
緑色の線が虹色の塊を囲むその光景は、どこか鳥籠を連想させる。そして第三者が見ればとても美しく、神々しさすら感じるその光景を生み出している2人の王には、その美しさを曇らせるほどに苦渋の表情を浮かべていた。
「――ギッ!」
自分の口から溢れ出す音が歯を食いしばる音なのか、それとも苦悶の声なのかライは判断がつかなかった。
「うあああああああ!」
駄々をこねる子供の様に腕を振るうヴィヴィオ。彼女が何らかの動作をする度に、ライの元へ虹色の魔力が破壊の牙となって降りかかる。
「ツッ!」
迫ってくる魔力塊の表面をなぞる様に、ライは自分に損害を被るか、被らないかのギリギリのルートを飛ぶ。
ヴィヴィオに反応される前に仕掛けようと、ライは正面から突っ込み、蒼月の刀身を彼女に向け振るう。かなりの速度が出ていたが、ヴィヴィオは腕を交差させ防ごうとする。減速を全く行わずに攻撃したため、ライは蒼月から確かな手応えを感じながらヴィヴィオのすぐ横を通り過ぎる。
勢いがついたまま、ライは壁に向かって直進する。
「あわや激突か?」と思われるような状況。だがライは空中で姿勢を変え、壁に着地する。
「グッ!」
バリアジャケットが無いために着地の衝撃を吸収しきれず、身体の至るところから痛みと何かが軋む音がする。だが常人ならば耐えられないような衝撃であるが、嘗てブリタニア軍内で肉体を改造されたライはそれに耐え切った。今だけは自分の身体を弄った禿頭の男にライは内心で感謝した。
自分が感じる痛み、不快感を全て無視し、ライはパラディンのカートリッジを一発消費し照準。銃口の先に虹色が映り込んだ瞬間、ほぼ反射的に引き金を引く。
真っ直ぐに進んでいく圧縮魔法により生成された魔力弾がヴィヴィオを捉える。
先のライの斬撃を防御したことによって、若干反応が遅れてしまったヴィヴィオは振り返ると同時に目の前に迫る光弾を視界に収めた。
「ああああああああああ!!!」
光弾に向け、両手を突き出すヴィヴィオ。それに合わせるように虹色の魔力が光弾を相殺しようと動き出す。
「アクセルドライブッ!」
ヴィヴィオが光弾の相殺のために動いた瞬間、ライは既に始動キーを口にしていた。
エナジーウイングの基部から、現在装填されているマガジンに残るカートリッジ、4発ずつが弾き出される。空薬莢が排出の勢いで壁に当たり澄んだ音を鳴らす。
その音がライの耳に届く前にライは再び、その場に魔法陣だけ残し掻き消える。
先ほどの速度を上回る速さでライはヴィヴィオを囲むように飛ぶ。その途中、再びカットリッジを2発消費し、それぞれ別の角度から新たに2発の魔力弾をヴィヴィオに叩き込む。
その2発にヴィヴィオは反応できていなかったが、聖王の鎧がオートで発動しその2発を受け止める。
「これで!!」
声が発せられたのはヴィヴィオの直上。
上下が逆転している状態で天井にしゃがみ込むように着地しているライ。
ヴィヴィオがこちらに意識を向ける前に攻撃を続けるべく、ライはすぐさまデバイスに格納していた残りのマガジンを取り出し、ヴィヴィオに向けて投擲する。
聖王の鎧がそのマガジンに反応する前にライはそれを打ち抜いた。
「?!」
打ち抜かれたマガジンに装填されていた、計6発のカートリッジに内包されていた魔力が瞬間的にではあるが、ヴィヴィオの周囲を包む。それにより、敵の魔力にオートで反応した聖王の鎧がヴィヴィオを中心に全方位に展開される。
いきなり自分に向けて全方位から攻撃を受けたと錯覚したヴィヴィオが冷静さを失い、隙を見せた。
その直後、全身のバネとエナジーウイングに残されている全ての推進力を使い、直下にいるヴィヴィオに突撃する。
その度を超えた加速により、とうとう身体の骨が数箇所折れたがライはそれさえも無視。
左腕に持ったヴァリス形態のパラディンをヴィヴィオに向ける。いつの間にか、蒼月を待機状態にしていた為に空いた右手を左腕に添え固定。そしてヴァリスに装填された残りのカートリッジ3発を使い、残りの魔力を吐き出させる。
「モード――」
『コンプレッション』
「スピア!!」
ライの叫びとパラディンの機械音声が重なる。
その叫びと共にパラディンの銃身が縦に割れ、その間から高圧縮された銀色の魔力が伸びる。その形成された魔力は戦端が鋭利なもので、ライが口にした通り一種の槍を連想させた。
それはティアナのクロスミラージュを参考にしてライが考えた攻撃方法。MVSよりも耐久性が高いヴァリスだからこそできる運用で、それは今のライにとってできる最も突破力に優れた魔法であった。
三方向からの攻撃の防御と全方位に展開された事により、部分的な守りが薄くなった鎧にライはその槍を突き入れる。
その槍は虹色の魔力の鎧に深々と突き刺さる。だがヴィヴィオには届ききらず、ライは空中でその動きを止めた。
「とど――」
ここで引くわけにはいかないライは自然と口を開け叫ぶ。
「けえええええええええええええええええええ!!!」
「うあああああああああああああああああああ!!!」
2人の叫びが木霊する。
ライはただ攻撃を通すために進もうとし、ヴィヴィオはそれを拒むように弾こうとする。
銀色の魔力と虹色の魔力が擦過し、火花と異音を散らす。そしてそれはライの槍がジリジリとヴィヴィオに近づいていっていることを意味した。
「「!」」
ライは自分が押している事に、ヴィヴィオは攻撃が止まらないことに反応を見せる。
(このまま―――?!)
残り数センチで届くと勝機が見えた瞬間、自分の中で何かが切れる音をライは確かに聞いた。
「……え?」
グラリと身体が傾き、ライは間抜けな声を洩らすことしかできなかった。
空中で干渉していた為、それが無くなるとライは真っ逆さまに床に吸い込まれるように落ちていく。それでも何とか受身を取ることができたのは、身体が覚えていたからだろう。
ライは派手な音を立てながらも床の上で態勢を立て直す。しかし、床に降りた瞬間、身体にのしかかるように脱力感が襲ってくる。そのせいで、ライは中途半端に身体を起こすことしかできず、その結果俯いた状態で四つん這いになっていた。
「魔力が……」
思わずといった風にライの口から言葉が溢れる。
起こったことは至極簡単で、だがだからこそライにとっては絶望的であった。ここに来てとうとうライの魔力が尽きたのだ。しかも、予備のカートリッジも全て使い切り今のライは文字通りガス欠状態である。
「ハァハァ……ハァハァ……」
先ほどと似た構図。ライは地に膝をつき、ヴィヴィオは息を上げながらもライを見下ろしている。先ほどと違うのはヴィヴィオがライに向けて近づいていっていることであった。
たったそれだけの違いではあるが、この光景を見ていた六課のメンバーの心に絶望を落とす。
『ヴィヴィオ、ダメーーーーーーーー!!!!』
なのはは画面越しに叫ぶが、ヴィヴィオはそちらに視線すら向けない。
血の雫を落としながら未だ立ち上がることのできないライの前にヴィヴィオは立つ。そして未だに頭を上げないライに向けて拳を振り下ろすために、腕を上げ――
「―――限定接続」
――ようとしたが、それはライの呟きと、それと同時に突如発生した魔力の暴風によって阻まれた。
「な、何が?」
その暴風が起こった瞬間、咄嗟にライとの距離を取ったヴィヴィオ。彼女は反射的に閉じた目を開ける。そして映りこんできた視界の先には――――
これまでのライトグリーンではなく、“白銀”の翼を広げるライの姿があった。
後書き
という感じで、次回はライのレアスキル(?)が登場します。
……というかこんな感じの引きを多用している気がして申し訳ないです(^_^;)
ではこんな作者ですが、今年もよろしくお願いします。
ご意見・ご感想をお待ちしておりますm(_ _)m
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