剣の世界の銃使い
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長かった一日の終わり
街道の方から走ってきたのは、昨日会ったばかりの黒の剣士ことキリトだった。キリトは橋の近くまでくると、いったんぎょっとした様子であたりの惨状を見てから、こちらに顔を向けた。
「よっす、クロノ。お前がこんな中層まで降りてくるのは珍しいな」
「よっすって・・・これ、やっぱりお前がやったのか?」
辺りには、四肢が切り落とされたプレイヤーたち。その中で一人立っている俺。現実世界だったら返り血でも浴びていそうな光景だな。
「やっぱりって非道いなぁ、俺だって自制した方だぞ」
嘘は言ってない。俺のレベルとスキル熟練度、それにこの武器があれば、オレンジたちの四肢全て切り落とすことも簡単にできる。ただ、これ以上は必要ないと判断しただけだ。まあ、それでも少しやりすぎな気もするが、止まれなかったんだから仕方ない。
「レイト、こいつらの処遇、俺に任せてくれないか?」
「お前に?まあ、俺も決めかねてたから別にいいけど」
キリトは俺の返事を聞くと、腰のポーチから青い結晶を取り出した。転移結晶も青色をしているが、それはもっと濃い青だった。回廊結晶、基本は転移結晶と同じだが、転移結晶はその層の転移門にしか戻って来れないが、回廊結晶は出口を自分で指定でき、自分の好きな場所に移動できる優れものだ。その分、回廊結晶は転移結晶とは比べ物にならないほど高価でNPCのショップでは売っていない物なのだが。
「あるギルドのリーダーから、これであんたらを黒鉄宮の牢獄に入れてくれと依頼を受けてな。あとは《軍》が面倒見てくれるさ。コリドーオープン!」
キリトが叫ぶと、瞬時に結晶が砕け散り、その前の空間に青い光の渦が出現する。
オレンジプレイヤーたちが、部位破壊が戻った順に、ある者は毒づきながら、ある者は無言で光の中へ飛び込んでいった。盗聴役であろうのグリーンプレイヤーもそれに続き、ロザリア一人が残るだけとなった。
だが彼女は一向に動く気配を見せず、それどころか挑戦的な視線を投げかけてきた。
「・・・やりたきゃ、やってみなよ。グリーンのアタシに傷をつけたら、今度はあんたがオレンジに・・」
「オレンジに、って別に傷つけなくても、つかんで投げ飛ばせばいいだけの話だろ?てな訳で、よろしくクロノ」
「俺かよ!」
システム的に、ダメージを与えなければいいだけなのだ。それなら、ただ単にそこまで引っ張っていけば
それですむ。自分でやらない理由?それはな・・・
「舐めるなよクロノ。俺の筋力値は、武器と防具が装備できるギリギリのラインまでしかないからな。よって、俺ではこいつを動かせん」
「それ、自慢でもなんでもないぞ・・・」
キリトがぶつくさ言いながらも、ロザリアの襟首をつかんで回廊の方へ歩いていく。ロザリアは最後のまで抗っていたが、キリトが力任せに回廊に放り込むと、その姿は消えていった。
回廊結晶の光が消え、辺りが何もなかったかのように静かになる。聞きたい事も色々あったので、俺から話を切り出した。
「それで、クロノ。結局何があったんだ?」
「うーん、どっから話せばいいんだ・・・。ほら、昨日レイトと別れた後・・・」
「あ、ちょっと待ってろ」
話し始めようとしていたキリトを制して、シリカをこっちに呼ぶ。彼女が来ると、キリトが聞いてきた。
「その子は?」
「今回の一番の被害者、になるのかな。クロノ、彼女はシリカ。まあ色々あって俺とパーティを組んでる。さっきのオレンジたちに目をつけられていたのも、シリカだったし」
次に、シリカのほうを向いて言う。
「シリカ、この全身黒いのがクロ・・じゃなくてキリト。攻略組の一人で、俺の友人。まあ、悪い奴じゃない」
「初めまして、キリトさん」
「全身黒いのってな・・・まあ、よろしくシリカ」
二人の自己紹介が終わるとキリトが話の続きを話し始めた。攻略組のトップ戦力がなぜこんな所にと思ったが、話を聞くと理解できた。
「簡単にまとめると、さっきのオレンジ達が別の中層ギルド襲って、その仇討ちをお前が引き受けた、ってことでいいか?」
お前もたいがいお人好しだな・・。まあ、それがこいつのいいところなんだが。
「そんなところだ。とりあえず悪かったな、レイト」
キリトが頭を下げてくる。そんな頭下げられるようなことはしてないんだが・・・
「んーん、謝るなら俺じゃなくてシリカに。俺の方は貸し一でいいから」
「あ、いえ、大丈夫です。レイトさんが全部片付けてくれましたし」
それでこの話は打ち切りになり、キリトは依頼者に報告してくると言って帰っていった。キリトの姿が見えなくなると、シリカが話しかけてきた。
「レイトさん、ありがとうございます」
「いや、だからそんな礼を言われるようなことはしてないって。それよりも、早く街に戻ってピナ蘇生させようか」
それを指摘すると、シリカはそのことをすっかり忘れていたようで、あ、と声を出した。
「そうでした!早く戻りましょう!」
シリカは俺の腕をいきなり引っ張り、凄い勢いで街への道を走り始めた。すると、さっきも言ったとおりこの装備ができるギリギリの筋力値しかない俺は、中層プレイヤーにも筋力地が劣る。つまり、なすすべも無くシリカに引っ張られるわけで。かなり体制が崩れたまま街まで走ることになった。
それから、十数分くらい経って俺たちは35層の《風見鶏亭》に戻ってきていた。
「足がつる・・・・」
全力疾走を終えた俺はベットに突っ伏していた。システム的にこの世界では息切れなどは起こらないが、感覚的な問題だ。それに今も眠り続けている現実世界の体は心拍数は上がっていることだろう。
「す、すいません・・・」
シリカも宿について、やっと俺を引っ張って走っているということに気づいたらしい。ピナの事で頭がいっぱいだったのだろうから、しょうがないけどさ。
「いいから、いいから。それより、さっさとピナ蘇生してやりな」
体勢を直して、ベッドの縁に座りなおす。
シリカが花の滴をピナの心に振りかけると、羽が光りはじめた。光はだんだん大きくなっていき、シリカの両手ぐらいの大きさになると、光がひときわ強く光り、中から水色のフワフワとした小竜が現れた。
「ピナ・・・!」
シリカが再び会えた自分の使い魔をギュッと抱きしめる。蘇生は成功したようだった。
ピナの容姿を見るに、種族名はフェザーリドラだろう。元々出現率も低く、エンカウントするだけでも大変なはずなのだが、それをテイムしているシリカの強運にも俺は驚いていた。
「とりあえず、おめでとう」
俺が声をかけるとシリカはありがとうございます、と元気よく返したのだが、その直後、何かに気づいたかのように口を閉じてしまった。
「どうかしたか?」
「あの・・レイトさん・・・行っちゃうんですか?」
「行く・・・?ああ、最前線に戻るって事?」
一応俺も攻略組だ。攻略といっても、普通の攻略組の人たちからは、かなり逸れたことをしているけど。それに・・・
「あー、戻るのはもう少し後になるかな・・・」
よっぽど俺の答えが意外だったのか、シリカはぽかんと口を開けてしまった。
「え?攻略に戻らなくてもいいんですか?」
「不謹慎だとは思うんだけど、はっきり言って、俺はこの世界では、自分のしたいことしかして無いからさ」
シリカは俺の意図がつかめていないようで、首をひねっている。
「前に言ったかもしれないけど、俺は楽しむことを第一に考えてるから。だからこう、毎日最前線でひたすらレベル上げしたり、大規模ギルドでまとまって行動したりするのは、性に合わないというか」
それでも俺がレベルで攻略組と並べているのは、ユニークスキルとクエストクリアボーナスのおかげなのだが。
「じゃあ、まだここにいるんですか?」
「んー、明日からは、ここよりもっと下に行くことになるかなー。まだ何個かやっておきたいことがあるからさ」
それを聞くと、シリカが何かを考え始めた。そして、すぐにこちらに顔を向けて、
「えと、もし良かったらなんですけど・・・」
「ん?」
どうかしたのだろうか。俺に出来ることであるなら、協力はできるが・・。
「あの・・・このまま私とパーティを組んでくれませんか?」
「えーと、それは継続的にってこと?それとも定期的にってこと?」
「継続的に、です。レイトさんの手伝いみたいなのでいいですし、足手まといだと思ったらすぐ切り捨ててもらってもいいので・・・」
「俺のしたいことってつまらないかもよ?」
俺のしていることは、ただの自分の目的を達成するためだけだ。他の誰のためにもならないし、俺はそこまでむきになって、この世界から脱出しようとしているわけでも無い。
「それでも?」
すぐに頷かれた。
正直、シリカのことは足手まといだとは思っていない。今日一日組んでみて分かったが、なかなか戦闘はうまいし、連携もスムーズにできた。だからこそ・・・
「んじゃ、俺から一つ条件だすね。それ守れるんだったら、別に構わない」
「はい!」
「条件は、俺と普通に接すること。上下関係なんて、俺にとっては何の意味もないしね。だから、俺と対等であること」
だからこそ、彼女とは普通にパーティを組みたい。
「え?」
「だから、そう謙んなってことだよ。俺はシリカとは、変な関係では付き合いたくないしね」
俺のほうがレベルが上だからって何の関係もない。逆にそれでギクシャクしたくないし。
「それなら、全然問題ないんですけど・・・、でも」
「なら決定。できれば敬語も無くしてほしいが?」
「うう・・これは元々なんで・・・」
だろうな、タメ口で話す姿が想像できない。
俺はシリカに向って、手を出した。
「これからも、よろしく」
「はい!」
後書き
黒の剣士しゅーりょー
次回からは、オリ話となります
感想とか待ってます!!
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