剣の世界の銃使い
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
臆病な殺戮者
「れ、レイトさん・・・人数が多すぎます、脱出しないと・・・!」
俺の後ろに隠れていたシリカが小声で囁きかけてきた。
「あー、ごめんね。早くピナ戻してあげたいんだろうけど」
「え・・・?いや、そういうことじゃなくて・・・」
あー、やばい。そろそろ、危ないな。
「ちょっと嫌なところ見せるから、もう少し下がってて。あ、先に帰っててもいいよ?」
多分、もう戻れない。シリカを巻き込むことはないと思うけど、やっぱり心配だなぁ。
シリカの頭をぽんぽんと軽く叩くと、そのまま橋に向って歩いていく。
「レイトさん・・・!」
その声がフィールドに響いた途端─────。
「レイト・・・?」
不意に賊の一人が呟いた。さっきまでの笑いを消して、記憶を手繰るように視線を彷徨わせている。
「朱のコートと両手に短剣・・・────《臆病な殺戮者》・・・?」
急激に顔を蒼白にしながら、男が数歩後ずさる。
「や、やばいよ、ロザリアさん。こいつ・・・攻略組だ・・・」
オレンジたちの顔が一様に強張った。まあ、そうだろう。最前線で未踏破の迷宮に挑み、ボスモンスターを次々と屠り続ける《攻略組》がこんなところにいるのだから。後ろで同じように驚いているシリカみたいな《ビーストテイマー》よりも《攻略組》は珍しいと言われている。まあ、人数で見れば、ビーストテイマーの方が珍しいのだが。
攻略組は言っちゃ悪いが、廃ゲーマーがほとんどだし。俺もそうだけど、攻略組の奴らって、モンスター見たらあっちが何もしなくても、先に攻撃仕掛けるだろうしなぁ。うん、相手に歩み寄ることができるビーストテイマーの方がすごいと思う。
「こ、攻略組がこんなとこをウロウロしてるわけないじゃない!どうせ、名前を騙ってびびらせようってコスプレ野郎に決まってる。それに──もし本当に《臆病な殺戮者》だとしても、近づけばたいしたこと無いわよ!!」
「そ、そうだ!攻略組なら、すげえ金とかアイテムとか持ってんぜ!オイシイ獲物じゃねえかよ!!」
ロザリアの一言で勢いづいたように、オレンジたちが叫んだ。
「こんな事なら、誰か連れてくればよかったかな・・・」
ぼやきながらも、橋がかかっている先端にたどり着くと、またシリカに呼びかけられた。呼びかけられたというよりは、叫ばれたの方が正しいか。
「レイトさん・・・無理だよ、逃げようよ!!」
後ろでまだシリカが何か言ってるが、もう聞こえなくなってきた。そして、両腕をだらりと下げる。それをオレンジたちは諦めと取ったのか、ロザリアなどのグリーンプレイヤーを除いたオレンジたちが武器を構え、猛り狂った笑みを浮かべ、こちらへ向ってきた。
すまんね、限界だ。
プツンと頭の中で何かが切れる。
もう治った、いや克服出来たと思ったんだけど。やっぱり、無理らしい。頭の中に浮かんでくるのは、あの光景―――――――――――――――。
「っ!!」
オレンジたちは短い橋をドカドカと駆け抜け─────
「オラァァァ!」
「死ねやァァァ!!」
半円状に取り囲み、斬りかかろうとして─────
ドサッ・・・
一番最初に斬りつけてこようとした、刀を持った男の腕が落ちる。比喩ではなく、実際に。落ちた腕はポリゴンの欠片となって消えていった。《部位破壊》、HPとは別にある体の各部の耐久度がなくなった時、その部位が消滅するシステム。消滅といっても永久ではなく、街の中などに戻ればすぐに再生はするが。
「は・・・?」
腕を破壊された男が呆けたように呟く。それを見て、一瞬オレンジたちの動きが止まる。その間にまた別な一人の片足が飛ぶ。
「お・・おい、お前・・・今、何しやがった・・!」
「何って、部位破壊だけど?」
斬る、斬る、斬る、斬る―――――――――
前にいるすべての物を切り落とす。この行動心理に従って、体は動き続ける。
短剣スキル初級間接技、《ショートスラッシュ》。短剣から、薄い水色の小さな衝撃波が目にも止まらぬ速さで飛び、また一人の腕を飛ばす。
これが先ほどの部位破壊のタネだ。ひたすら敏捷力にパラメータを振っている故、俺の使う衝撃波はもう斬撃と呼べるまでの速度と切れ味になっている。さらに腕の中で最も耐久度が低い腕の付け根を狙えば、簡単に部位破壊ができる。
ようやく相手側もタネが分かったのか、残ったオレンジたちが一斉に武器を振り回してくる。だが、
「遅い」
武器の射程に俺を入れた奴から部位破壊をしていく。スキルの待ち時間中に近づいてこようとする奴には投剣で足止めし、そのまま斬り捨てる。俺を中心に衝撃波の嵐が巻き起こる。
これが俺が《臆病な殺戮者》と呼ばれている由来の一つ。絶対に相手の射程に入らず、射程外からひたすら相手を攻撃していき、一撃も食らわずに片付ける。
これが、決して相手から届かない位置から攻撃する臆病者(・・・)で、すべてが終わるまで止まることのない殺戮者(・・・)である俺の戦い方。
斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る―――――――――――
そして由来のもう一つがこれ。オレンジを前にすると、体が止まらなくなる。今でこそまだ頭では冷静でいられるが、この二つ名をつけられた当時はもうひどかった。
それに、どうしてもオレンジは許せない。これだけはいつまでたっても俺の中から消えていないようだ。
目の前のものが全て動かなくなるまで、今の俺は止まらない。というよりも、止めることができない。その間ずっと、頭の中ではあの光景が繰り返される。
―――――だーめ、これは・・・私たちの役目・・なん・・・だから――――――――
「っうう!」
数分もしないうちに、俺に向ってくるオレンジは一人もいなくなった。目の前には腕や足などを切り落とされ、戦意を失ったオレンジたちがいた。彼らの顔には恐怖が張り付いている。
これ以上はダメだ。暴れる体を無理やり押さえ込む。思い出すのはさっきの言葉。止まれ、止まれ・・・!
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
何とか押さえ込むことができた。まだ、自分の意思で戻れるようになっただけまし・・・か。
「む、むちゃくちゃじゃねぇかよ・・・」
「・・・・・ああ・・・そうさ、この世界はたかがゲームだが、だからこそこれだけの差がつく」
レベル差があるだけで、ここまで無茶な差がつく。これがレベル制MMOの決定的な法則。圧倒的で理不尽な、戦略、装備だけではどうにもならない差。
そう、どうしても覆すことができない・・・このゲームの絶対的なルール。
「チッ」
不意にロザリアが舌打ちすると、腰から転移結晶をつかみ出す。それを宙に掲げ、口を開く。
「転移けっ───」
その言葉が言い終わらぬうちに、衝撃波が飛び、転移結晶がバリンと音を立てて砕け散った。
「させるわけ無いだろ?」
「ひっ・・・ど、どうする気だよ畜生!!」
さて、こいつらをどうするか・・・。俺にできることといえば、こいつらを逃がさない事位しかない、それだけだ。ほっとけばまた悪事を再開するだろうし、かといって全員を軍の牢屋までつれてくのも無理。
「おーい、ちょっと待ってくれ!」
いい解決策が浮かばず悩んでいると、街道の方から見覚えがある黒尽くめが走ってくるのが目に入った。
後書き
更新は、月と木、それに余裕があれば土日のどっちかにもの、週2~3回ぐらいになると思います。
今日のランキングで14位になってました!
これからもこの小説をよろしくお願いします!!
感想とか待ってます!!
ページ上へ戻る