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デュエルペット☆ピース!

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デュエルペット☆ピース! 第3話「英雄超克」(後編)

 
前書き
Pixivにも同じ名義、タイトルで連載しています。試験投稿中。 

 
  *     *     *


ガーネアイズ
『さあて……これであたしはターンエンド! 次のターンからはあたし自身の攻撃でいくよ! 止められるもんなら止めて見な!』

・アズサ(手札3 LP:2200)
《デュエルナイト・セイバー》ATK:2500・★4・ORU×1
《スピリットバリア》
・ナナコ(手札0 LP:2400)
《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ATK:4000・☆10・ORU×2
《摩天楼―スカイスクレイパー―》


<ターン7 アズサ>

アズ
(デュエルナイト・セイバーのORUはあと一つ……いくら攻撃力が高くても、スピリットバリアがあるから、ノーダメージで一度は受け流せる……けど……それもその場しのぎにしかならない……!)

アズ
「わたしの……ターン!」

 ドローカードを確認する。これまでのデュエルで引いたことのない、新しいタイプのカードだった。

アズ
(これは……うまくいけば逆転につながるかも……!)

アズ
「わたしは……カードを1枚伏せて……あっ!」
ナイト
『どうしたアズ!?』
アズ
「デュエルピースと諸星さんの身体が同化しているってことは……あのデュエルピースを倒したら諸星さんの身体にも直接ダメージをあたえてしまうのでは!?」
ナイト
『それは……確かに危険だ。攻撃力4000となったヤツを倒すにはこちらもそれ以上の攻撃力で臨むしかないが……それだけの攻撃力を直接ぶつければ……器になっているあの子が助かる可能性は……正直低い』
アズ
「そんな……勝っても……諸星さんを助けられない……?」
ガーネアイズ
『あははッ! そういやあんた、この身体を取り戻すために戦ってたんだっけ? あたしが完全復活した今となってはもうムリムリ!』
アズ
「くっ……いや! わたしはあきらめません! きっと助ける方法が!」
ガーネアイズ
『あんたさぁ? 状況わかってる? この身体より自分の心配すべきだろォ? てかさ、なにもしないならとっととデュエル進めろやァ!!』
アズ
「た、ターンエンドです!」

SET!
 伏せカード×1

・アズサ(手札3 LP:2200)
《デュエルナイト・セイバー》ATK:2500・★4・ORU×1
《スピリットバリア》
 伏せカード×1
・ナナコ(手札0 LP:2400)
《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ATK:4000・☆10・ORU×2
《摩天楼―スカイスクレイパー―》


<ターン8 ナナコ>
ガーネアイズ
『あたしのドローォ! ッ来たァ! これがあたしのデステニードローだ! 装備魔法《アサルト・アーマー》を自分自身に装備! 攻撃力300アップ!』

ACTIVATE!
《アサルト・アーマー》:装備魔法(対象:ガーネアイズ)
《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ATK:4000→4300

ナイト
『だが! いくら攻撃力を上げようと次の一撃は受け流せる!』
ガーネアイズ
『一撃………だけならねェ! あたしは《アサルト・アーマー》を解除!』

 装備されたばかりのカードが、ディスクの上で破壊され砕け散る。

アズ
「装備したカードを自分で破壊!?」
ガーネアイズ
『こいつをオミットすることで、このターン装備モンスターは2回攻撃できる! つまり……あたしは攻撃力4000の連続攻撃ができるのさァ!』

 しなやかな筋肉を伸縮させ、ガーネアイズが跳躍した。そのまま黒の翼を力強く羽ばたかせ、急上昇する。摩天楼の中を縦横無尽に飛行して、魔剣士の上空に達したところから一気に降下を始めた。攻撃の軌道は、先ほどのフレイム・ウィングマンと同じものだったが、今回は―――破壊力が違う。

ATTACK!
《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ATK:4000 ⇒ 《デュエルナイト・セイバー》ATK:2500

アズ
「くぅっ……! デュエルナイト・セイバー! フェアリー・オーラで迎撃です!」

《デュエルナイト・セイバー》ORU×1→0

 上空から振り下ろされる、アンチヒーローの鉤爪を、魔剣士が大剣で受け止める。同時に最後に残されたORUが炸裂し、光の波動がアンチヒーローの攻撃力を殺しにかかる―――が、止めきれない。なおも攻撃は終わらず、大剣に幾度も爪が叩きつけられ、そのたび魔剣士が一歩ずつ押し出され、後ずさっていく。

―――ビキィッ!

 とうとう限界に近づいたのか、大剣の刀身に亀裂が走る。ORUを使用した障壁、フェアリー・オーラがその実体を失い、霧散した。

ガーネアイズ
『しゃぁッ! 第二撃目ッ!』

ATTACK!
《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ATK:4000 ⇒ 《デュエルナイト・セイバー》ATK:2500

 爪の連撃を防がれてなお、オミットされた装備カードの力を受けているアンチヒーローのパワーは潤沢に残されている。それに対し、ORUを全て失い、愛剣も破壊される寸前の魔剣士。勝敗は戦闘前から明らかだった。
 ガーネアイズが両手の鉤爪を投げ捨て、拳を握りかためる。ごうっ―――と風切り音とともに、大剣めがけて撃ち込まれる悪魔の拳。亀裂の中央に拳がめり込み、とうとう刀身が粉々に砕け散った。
 武器を失った魔剣士にもはや勝ち目はない。アンチヒーローが身をひるがえし、長い尾を振りかす。尾の先端には鋭利な鉄器が装着されており、勢いそのまま魔剣士の胸を貫いた。

アズ
「ああっ! デュエルナイト・セイバー!」

 主に瓜二つの魔剣士が、胸を貫かれて苦しむ。ガーネアイズはにやりと笑い、尾を引き抜いた。魔剣士の胸から鮮血が噴き出し、致命的なダメージに実体を維持できなくなって、爆散した。
 エースモンスターの敗北。アズが初めて味わう悲劇であった。強烈な絶望感にとらわれ、その場から一歩も動けなくなる。
 対するガーネアイズは、幾度もヒーローたちの攻撃を阻んできた仇敵をとうとう屠り去った高揚感からか、天に向かって吠え猛った。そして、次の標的―――アズを鋭い視線で貫く。もはやアズは蛇ににらまれたカエルも同然だった。

ガーネアイズ
『心配なさんなァ! すぐしもべの後を追わせてやるよ! ガーネアイズの効果発動! 相手モンスターをバトルで撃破した時、ORUを一つ使うことで、あたしの攻撃力分のダメージを与える!』
ナイト
『これは!? ダメージ量が相手モンスターの攻撃力に依存していたフレイム・ウィングマンと違って、常に高ダメージを叩き出せる効果! どこまでも攻撃一辺倒というわけか!』

 アンチヒーローが自身の周囲を浮遊するORUをわしづかみにし、握りつぶす。炸裂したエネルギーが、ガーネアイズに更なるパワーを与えた。

《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ORU×2→1
《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ATK:4000→4300

ガーネアイズ
『ORUのモンスターが墓地に落ちたことで、あたしの攻撃力は4300に上昇! これで……あんたは4300のダメージを喰らってジエンドォ!』

 やはり、挙動はアンチヒーローの方がはるかに速かった。アズがホーリーライフバリアを展開する間もなく、長く伸びた尾がしなり、アズの腹部を強打する。

アズ
「あ゛ぐっ!」

 衝撃が内臓を突き抜け、アズの体機能が一瞬停止する。ふわりとアズの身体が浮き上がり、地面に叩きつけられる―――よりも早く、ガーネアイズが飛来し、腹部に拳の一撃を叩きこむ。ナナコが憑りつかれた直後に入れられた拳打とは、段違いの破壊力があった。

―――ごぼっ

 苦痛の悲鳴よりも先に、逆流した胃液の塊が、アズの口から吐き出された。地面に広がった吐瀉物の中には、半分赤い色が混じっている。
 崩れ落ちるアズを、やはりアンチヒーローがその寸前で掴み起こし、自分の膝にもたれさえるようにして無理やり立たせた。背後に回って片腕をアズの首に回し、締め上げる。気管が詰まり、激痛がアズの胸を襲った。

アズ
「……あ゛っ……かぁ……ぁ……」

 目を見開いたアズの全身が小刻みに痙攣し、口の端から血混じりの涎がたれる。助けを求める右手が空中に伸ばされるが、当然それに応えてくれる者はいない。

ガーネアイズ
『このままシメちまうってのも……芸がないねェ……そうだ!』

 気管の拘束が解かれる。アズの肺が必死で酸素を取り込もうとするその隙に、天に向けて伸ばされていた右腕をガーネアイズの両腕が捕らえ、ひじ関節を禍々しい悪魔の手が鷲づかみにする。

ナイト
『やめろっ! アズを放せっ!』

 パートナーの危機に、白獅子が浮遊術を解いてガーネアイズの背後から飛びかかる。だが、アンチヒーローは予想通りといわんばかりに、白獅子の方を見もせず、長い尾で空中の獅子を払い落とす。

ナイト
『ぐわっ!』

 白獅子があっけなく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

ガーネアイズ
『さてェ……これでフィニッシュだ! 敗北の味をあの世でかみしめな! デュエリストには最悪の形で料理してあげるからねェ!』
アズ
「ぅ……ぁ……?」

 処刑の宣告がなされると同時に、右ひじが超常の握力によって圧迫される。アンチヒーローの意図が瞬間的に理解されて、半濁していたアズの意識が覚醒する―――が、腹部に立て続けに痛打を受けて、内臓を傷つけられた今の彼女の力では抵抗もままならず、恐怖に顔を青くする事しかできない。

ガーネアイズ
『腕をバッキリやられちまうってのは……デュエリストにとっては悪夢だろうねェ!』
アズ
「ぃぁ……やめてぇっ……」

 哀願もむなしく、アンチヒーローの握力が一気に強められ―――

―――ぼきぃぃっ!

 骨の砕ける鈍い音とともに、怪力がアズの関節を握りつぶした。関節がありえない方向へ曲がり、一瞬後に、折れかけの枯れ枝のように重力に引かれて垂れ下がる。

アズ
「いぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛ぁァーーーっ!」

 関節の骨を粉々に破壊された激痛に、全身を痙攣させて獣じみた悲鳴を上げるアズ。ガーネアイズは満足げな表情で、アズを押さえつける腕を解き放つ。支えを失ったアズはそのままうつ伏せに倒れ込み、折れた右腕が地面に横たわる。動けないアズの背中から、悪魔のようなヒーローの尾が迫っていた。尾の先端には、彼女のしもべを貫いた鋭利な鉄器がぎらりと月明かりを照り返す。

ガーネアイズ
『デュエル……終了ッ!』

―――ずしゅぅっっっ!

 マントを突き破ってアズの背中の中央に尾が突き刺さり、胸から貫通した先端が飛び出る。

アズ
「あ゛っ、あ゛っ!」

 短く濁った悲鳴と同時に、口腔と背中の傷から鮮血が勢いよく吹き出し、びくっ、びくんっ、とアズの身体が大きく二度跳ね―――そのまま動かなくなった。

 ガーネアイズがアズの身体を貫通している尾を無造作に引き抜く。なおも吹き出す血しぶきが、アンチヒーローの体を染め、あざやかに彩る。

ガーネアイズ
『あらら……ちっとやりすぎたか。ま、ライフゼロと同時に昇天ってのはいい死に方かもねェ』
ガーネット
『何言ってんのよ。相変わらず悪趣味ね』

 不意に背後から響いた聞き覚えのある声に、デュエルピースは振り返る。摩天楼の中に差し込む月明かりに、流麗な足取りで歩み寄ってくるでペルシャの姿が映し出されていた。

ガーネアイズ
『ガーネット……まじィ?』
ガーネット
『久しぶりね。相変わらず変態なんだから。反吐が出るわよ』
ガーネアイズ
『ちょっと……それが昔のパートナーに対する言いぐさなワケェ?』
ガーネット
『昔のパートナー? ずいぶん意訳したもんね、あんたとワタシは―――』
ガーネアイズ
『はいはい、ややこしいコトは言いっこなし。ま、こうして復活記念のデュエルも華々しく勝利で飾ったし、またこれから一緒にデュエルしようよォ。もっとちゃんとした器の身体見つけるからさ!』
ガーネット
『冗談言わないで。ワタシはもうパートナーは持たないって決めてるんだから。それに……寝ボケるのは勝手だけど、デュエルはまだ終わってないわよ』
ガーネアイズ
『へ?』

 ガーネットの視線の対象が自分を離れ、後方に移っていることを感じたデュエルピースは、落命したはずの少女の方へ向き直り―――その認識が誤りだったことに気付いた。
 アズが、立っている。折れた右腕をだらりと下げ、右の乳房の下部に空けられた穴を残る左手で押さえながら、今にも途切れそうな弱々しい息遣いで、それでも立ち上がっていた。あからさまな激痛に顔をゆがめ、口元から胸にかけては吐血で真っ赤に染まり、目の端からぽろぽろと涙がこぼれている。

アズ
「ぁ……っくぅ……ぅ……!」
ガーネアイズ
『な……なんでェ! なんで生きてんのよ! ライフだってゼロに……!』

 そこで、思い当った。少女を痛めつけたことに満足して、ライフポイントの推移の確認をすっかり忘れていたことに。ガーネアイズが目を凝らすと、アズの周囲に胞子状の白い綿のようなものがいくつも浮遊しているのが見て取れた。

ガーネアイズ
『なんだありゃ……雪……いや、綿……?』
ナイト
『アズは手札から《ワタポーション》のモンスター効果を発動していた。このカードは相手がダメージを与える効果を発動した時、手札から捨てることでそのダメージを半分にする事ができる!』

 叩き伏せられていた白獅子が起き上がり、発話もままならないパートナーに代わって顛末を説明する。

ガーネアイズ
『ダメージ半減……ってことはァ!』

ACTIVATE-CHAIN!
チェーン1―――《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》:4300ダメージ
←チェーン2―――《ワタポーション》:効果ダメージ半減

ガーネット
『これであの子が受けるダメージは4300の半分、2150になったってわけね。そして残るライフは―――』

・アズ LP:2200→50(-2150)

ガーネアイズ
『んなッ!? そんなギリギリでェッ!!』
ナイト
『アズ! しっかりするんだ!』

 白獅子がアズの元へ駆け寄る。地面に叩きつけられていた獅子は全身が汚れてぼろぼろになっていたが、それ以上に深い傷を負ったパートナーのために、自分の負傷も顧みず、ありったけの力で治癒魔法をかけ始める。獅子の手から発せられた光がアズを包み、ほのかな暖かさが傷の痛みを少しずつ和らげていく。

ナイト
『ともかく、胸の傷を塞ごう。それから腕も! 早いうちであればあるほど治癒も容易だ!』
アズ
「あり……がとぅ……」

 痛みをこらえてアズが獅子に笑顔を向ける。獅子も笑顔でそれに返し、懸命に少女を元気づけようとする。苦しみを分かち、助け合う二人の姿は、まさにパートナーであった。その光景を、ガーネットはどこかさびしげな瞳で見つめる。彼女が捨ててしまった人間とともに生きる道を、白獅子は選び取ることができたのだ。その事実が、ペルシャにとっては少しだけ重く感じられた。

ガーネアイズ
『ちィッ! 余計な真似を!』
ガーネット
『ワタシとあんたじゃ、ああいう風にはいかないでしょうね。あんたに治癒術かけるとか、お断りよ。アズって子はカワイイから、まだ、考えてあげなくもないけど』

 言い捨てて、たんっ、とペルシャが跳躍し、アンチヒーローの頭上を飛び越えてアズの足元に着地する。

アズ
「あなたは……あなたも、デュエルぺット……?」
ガーネット
『そ。キラキラ・アイ・ラブ・ガーネット。よろしくね、アズちゃん』

 そう言っておどけながらも、ペルシャは冷静にアズの状況を観察していた。貫通された胸の傷は言うに及ばず、砕かれた右腕も、いかにデュエルペットの魔力を用いたところで、そう簡単に完治させることは難しい。ペットが数匹がかりで一晩中治癒術をかけ続けてやっと……といったところか。
 そしてそれ以上に、デュエリストにとって利き腕を折られたことが何を意味するのか、ガーネットはよく知っていた。それはすなわち、新たな未来を引き当て、逆転の一手を導く神聖なる行為、ドローが潰されたということ。デュエリストはたった一度のドローで世界を変えるほどの力を発揮することがあるが、そのドローができない以上、もはや逆転の可能性はないに等しい。

ガーネット
『ねぇ。あなた、まだ勝つ気はあるの?』
アズ
「勝つ……それは……それより、諸星さんを助ける手を……ガーネットさん、何かわかりませんか?」
ガーネット
『絶体絶命のピンチでまだ「助ける」……か。ホント、諦め悪いわね』

 ガーネットは嘆息し、目を閉じて何事か考える。彼女が人間と協力することを捨ててしまった日から、既に二十数年が経過していた。その間、自由を謳歌しながらもどこか満たされない部分を抱えていた彼女の心が、今アズを前にして、少しだけ潤されていくのを感じていた。
 ならば、答えは一つ。ペルシャは覚悟を決めると、二足で立ち上がり、アズと目を合わせた。

ガーネット
『このままあの変態ごと倒してデュエルに勝っても、宿主の子に致命傷を負わせるのは確実……だけど一個だけ、宿主の子を助ける方法があるわ』
アズ
「ホントですか! っ……ぃったぁ……!」
ナイト
『コラ! まだ動くんじゃない!』

 身を乗り出したために胸の傷にさわり、痛みに顔を歪めるアズ。治癒術をかけっぱなしのナイトがそれを諌める。ガーネットはほほえましげに二人を見ながら、言葉を続ける。

ガーネット
『デュエルを終わらせる前に、あいつを宿主の子から引きはがすのよ。それでデュエルピースのカードをこっちのフィールドに引きずり出す。そしたら……ワタシが封印するわ』
アズ
「ガーネットさんが……封印?」
ナイト
『そうか……「ガーネアイズ」すなわち柘榴石の瞳……あのデュエルピースの管理権者はあなただったか!』
ガーネット
『そゆこと。ルーキー君も勉強が足りないわね。そもそも「十二至宝」の称号はデュエルピースの管理を担う十二のペットに与えられるものよ』
アズ
「あの……話がよくわからないのですが……ともかくあのデュエルピースを諸星さんのフィールドから引き離して、わたしの手元まで持ってくればいい……ということですか?」
ガーネット
『呑み込みがいいわね。そこまでやってくれたら、後はワタシが何とかするから』
アズ
「……わかりました。ありがとう、協力してくれて」

 アズは先ほどパートナーにそうしたように、ガーネットにも笑顔を向ける。ペルシャは顔の火照りを悟られぬように、ふい、とそっぽを向いた。アズは柔和な表情を浮かべたまま、懸命に治癒魔法を展開し続けるパートナーを左手で制する。

アズ
「ナイト……もう大丈夫です。これで」
ナイト
『なっ、何を言うんだ! まだ胸の傷の応急処置が終わった程度の段階で……』
アズ
「でもこれ以上、諸星さんを待たせておくわけにはいきませんから。それよりナイト……わたしの手札、持っていてもらえませんか?」
ナイト
『わかった……!』

 倒れた時に取り落とした手札が2枚、アズの足元に散らばっている。片腕が使えない以上、手札のキープは困難だった。白獅子はカードを拾い上げ、浮遊術で持ち上げてアズのひじあたりでキープする。
 アズが覚悟を決めたデュエリストの表情に立ち戻り、ガーネアイズと向き合う。デュエルピースは何をするでもなくアズの回復を待っていた。堕ちた英雄を自称しながらも、正面きっての決闘を希求する心が残っているが故かもしれない。

ガーネアイズ
『……もういいの? 右腕折れたまんまでしょォ?』
アズ
「これ以上……諸星さんの身体を好き勝手させるわけにはいきません……あなたはわたしが……追い出します!」
ガーネアイズ
『だったら……やってみなァ! あたしはターンエンドだ!』
アズ
「この瞬間、《ワタポーション》の第二の効果が適用されます! このターンわたしが受けた効果ダメージ1000ポイントにつき、カードを1枚ドローする。このターンわたしが受けたダメージは2150、1000で割った商は2、よって2枚のカードをドローします!」
ガーネアイズ
『よりにもよってドロー効果たァね。けど、その右腕じゃムリ。やっぱ右腕くっつけてもらってきた方がいいんじゃない?』

 だがアズはその忠告には耳を貸さず、既にドローの体勢に移っていた。もちろん右腕は垂れたまま、動かすことはかなわない。ディスクのうち、左手首の真上の部分にデッキがセットされている以上、左手でドローする事もまた不可能―――ならば。
 左手首を口元へ寄せ、デッキの一番上のカードに、下唇を添える。小さな舌を伸ばし、カードの表面にそっと這わせる。唾液の湿りが硬質の紙に浸透して粘性を帯び、舌のざらついた粘膜に引っ張られて、一番上の1枚とその下の1枚、2枚だけがスライドし、突き出た格好になる。その瞬間、それを好機と上下の唇で2枚を挟み込み、唇でカードを抑えたまま、左腕を口元から一気に引き抜く。いわば、少女のリップ・ドローであった。
 アズの思いもよらぬ行動に、ナイトは一瞬自分を失った。なにしろ、右腕を封じることですら、アズのデュエルの可能性を潰すことはできなかったのだ。それほどの可能性が、彼のパートナーには宿っている。
 口先に咥えたカードを、左手で持ち直し、確認する。

アズ
(いける……!)

 アズに勝利の確信が生まれた。対するデュエルピースは、リップ・ドローによって運命を引き寄せたアズを驚きの表情で見つめることしかできないでいる。

・アズサ(手札4 LP:50)
《スピリットバリア》
・ナナコ(手札0 LP:2400)
《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ATK:4300・☆10・ORU×1
《摩天楼―スカイスクレイパー―》

<ターン9 アズサ>
アズ
「わたしのターンっ!」

 はっきりと宣言したのち、もう一度口元にディスクを寄せ、唇でカードを挟む。二度目のリップ・ドローが、アズの全身にめぐるデュエリストの力を高めていった。ドローした計3枚のカードを白獅子に預け、自分の戦術を指示する。獅子は言われた通り、受け取ったカードのうち1枚を、ディスクにセットした。

SET
伏せカード×1

ナイト
『私たちはカードを1枚伏せる!』
アズ
「さらに罠カード、オープン!」
アズ・ナイト
『「《エクシーズ・リボーン》発動!」』

ACTIVATE!
《エクシーズ・リボーン》:蘇生、ORU補充。

 人間とデュエルペットの声が重なり、二人を中心に魔力の奔流が巻き起こる。

アズ・ナイト
『「《エクシーズ・リボーン》は墓地のモンスター・エクシーズ1体を特殊召喚し、蘇生したモンスターのORUとなる! よみがえれ! 《デュエルナイト・セイバー》!」』

 発動した罠カードが空中へ飛び出し、光を帯びて周囲に一つの光球を侍らす大剣へと変化する。大剣がそのまま落下し地面に突き刺さる―――その剣を引き抜き、振りかぶる魔剣士が一人。墓地よりよみがえり再び降り立った、アズの剣たる少女であった。

《デュエルナイト・セイバー》ATK:2500・★4・ORU×1

アズ
「これでターン終了です!」

・アズサ(手札4 LP:50)
《デュエルナイト・セイバー》ATK:2500・★4・ORU×1
《スピリットバリア》
 伏せカード×1
・ナナコ(手札0 LP:2400)
《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ATK:4300・☆10・ORU×1
《摩天楼―スカイスクレイパー―》


<ターン10 ナナコ>
ガーネアイズ
(手札はあっちが4枚、こっちはゼロ……長引くとジリ貧だな……なんとかこのターンで決めたいが……デュエルナイト・セイバーにORUがある以上、一回はノーダメージで攻撃を防がれる……!)

ガーネアイズ
『くそッ! あたしのターン! ドロー!』

 ドローカードを確認し、アンチヒーローの顔に喜びの色が浮かぶ。

ガーネアイズ
(よし! これならこのターンで!)

ガーネアイズ
『速攻魔法《サイクロン》を発動! こいつはフィールドの魔法・罠カード1枚を破壊できる! あんたの《スピリットバリア》を破壊だ!』

ACTIVATE!
《サイクロン》:魔法罠破壊(対象:スピリットバリア)

 カードから魔力の暴風が吹き荒れ、アズのフィールドを包み込む。永続罠の効果で展開されていたモンスターの魂を源とするバリアが、風圧に耐え切れず割れ散った。

アズ
「く……!」
ガーネアイズ
『これであんたは戦闘ダメージを無効にできない! デュエルナイト・セイバーの破壊を無効にしても、このままあんたのライフをぶち抜けばデュエル終了! モンスターを守ってもプレイヤーが倒れちゃ意味ねェってことだ! バトルフェイズ行くぜ! あたしは《デュエルナイト・セイバー》を攻撃だ!』

 ガーネアイズが魔剣士へ向けて走り出す。超常の力で強化された脚力を存分に発揮し、一瞬で魔剣士の懐へ飛び込む。両手に光が集約し、再び鉤爪が形成される。同時に生成したばかりの鉤爪を振りかぶり、魔剣士を大剣ごと切り裂かんとする、その瞬間。

アズ
「今……「攻撃」とおっしゃいましたね……!」
ガーネアイズ
『な、なにッ!?』
アズ
「罠カード、オープン! 《聖なる鎧―ミラーメール―》!」

 振り下ろされた英雄の鉤爪が、罠カードによって発生し、魔剣士を庇うように割り込んだ光り輝くエネルギーに止められる。次の瞬間、鉤爪が撃ち込んだ衝撃が、そのまま跳ね返されてくる。本能的に危機を感じ取って、ガーネアイズが飛び退る。輝くエネルギーが魔剣士の身体を包み込み、透き通った鏡の鎧を形成していた。

ACTIVATE!
《聖なる鎧―ミラーメール―》

アズ
「ミラーメールは、相手モンスターが攻撃宣言した時、攻撃されるモンスターを相手と同じ攻撃力にする! これでデュエルナイト・セイバーはあなたと同じ力を得ます!」

《デュエルナイト・セイバー》:2500→4300

ATTACK!
《DP. 01 柘榴瞳の亜英雄》ATK:4300 ⇒ 《デュエルナイト・セイバー》ATK:4300

アズ
「さらにORUを1つ使用し、フェアリー・オーラを使用!」
ナイト
『攻撃力の同じモンスターは相打ちとなるが、これでデュエルナイト・セイバーは破壊を無効にできる! 破壊されるのはお前一人だ! デュエルピース!』

 大剣のまとう光球が炸裂し、魔剣士に更なる力を与える。鏡の鎧がORUの光を反射して、壮麗な輝きを身にまとった魔剣士が、大剣を頭上に振りかぶる。唐竹一刀のもと、英雄を斬り捨てようとする体勢。

ガーネアイズ
『このッ……くそアマァァァッ!』

 逆上した英雄は、鉤爪を振りかざして魔剣士に襲い掛かる。右の鉤爪、大振りの一撃に対し、魔剣士は自身の攻撃態勢を機敏に解いて反応し、一閃をかわす。英雄が身体全体を捻って、左の爪での第二撃を繰り出す。一撃目の後の隙を潰そうとしての連続攻撃だったが、それこそ魔剣士の狙いだった。
 剣たる少女の真紅の瞳がぎらりと輝き、打ち下ろされる鉤爪を止めるどころか、逆にそちらへ向けて大剣を打ち上げた。急場しのぎの英雄の第二撃は、地に足を着けずに放った分、重さにかけている。それに対して、大地からせりあがる大剣の一撃は、鉤爪を難なく叩き返し、英雄の身体ごと打ち上げた。

ガーネアイズ
『シィッ!』

 もはや小手先の攻撃では勝てない―――頭では英雄にも理解できていたが、それでも感情が付いて行かず、がむしゃらに鉤爪を振り回す。大剣が全てその攻撃を受け止め、いなし、返してくる。高速で斬り結びながら、少しずつ、ガーネアイズが押され、後ずさっていた。
 デュエルナイト・セイバーが徐々に切り返しの速さを釣り上げていく。両の鉤爪を防御のために総動員してもなお、魔剣士の斬撃の速さについていけず、とうとう摩天楼のビルの一角、袋小路に追い詰められる英雄。
 魔剣士が頭上から一直線、大剣を振り下ろす。もはや英雄に避ける余裕はなく、両の鉤爪を交差させて受け止める―――が、衝突の瞬間、鈍い金属音とともに鉤爪に亀裂が入る。

―――ばりいいぃぃぃんっ!

 とうとう、英雄の得物が砕け散った。その時、剣の主たるデュエリストの声が、後方から響く。

アズ
「わたしの剣よ! 悪しきカードを、捕えなさい!」

 もとより承知している、といわんばかりに、魔剣士は迅速に行動に移った。がら空きの英雄に大剣を突きつける。斬撃によって両断される自身の身体が脳裏に浮かび、思わずガーネアイズは眼を閉じたが、向けられたのは斬撃ではなく、膨大な魔力の波動であった。それも、単なる衝撃ではなく、明確な指向性を持った魔力。魔剣士が掲げた大剣の刀身を中心にして、すさまじい吸引力が起こっている。

ガーネアイズ
『なんだこりゃァッ! 吸い寄せられる……!』

 しかし、吸い寄せられているのはガーネアイズのみであり、ナナコの身体自体には何の物理的な力も与えられていなかった。身体に乗り移っている英雄の力だけが、根こそぎ大剣に吸収されていく。

アズ
「デュエルナイト・セイバーの効果! バトルで制した相手を、ORUとして吸収する!」
ナイト
『これでヤツをカードの状態に引き戻したうえで、あの子から引きはがせる! これがアズの逆転の一手……これで、あの子を助けられる!』

ACTIVATE!
《デュエルナイト・セイバー》:ORU吸収

ガーネアイズ
『そんなァ……バカな……ぐぎゃぁぁぁッ!』

―――ずおおっ!

 根元から魔力が引き抜かれる轟音とともに、デュエルピースが完全にORUとなって剣の周囲を浮遊する光球に姿を変えた。同時に、悪魔のごとき変化を遂げていたナナコの姿が光とともに元に戻り、ばたりとその場に倒れ込む。倒れたナナコのディスクから一枚のカードが吐き出され、アズの左手に吸い込まれるように収まった。

アズ
「ガーネットさん!」
ガーネット
『任せなさい……!』

 アズからカードを受け取ったペルシャが、真紅の瞳を輝かせ、その力を解き放つ。デュエルペットの力に反応し、カードに戻ったデュエルピースが赤い光をまとい、まき散らした悪意ある魔力を札の中に吸い込んでいく。

ガーネット
『デュエルピース01、シーリングっ!』

 真紅の光が収束し、あたりが静寂に包まれる。デュエルピースの波動が完全に途切れ、ガーネットの手に力を封じられ暴走状態を解かれたカード一枚が残った。

ガーネット
『さ、これで暴走状態は解消。あとはあんたが管理しなさい、ルーキー君』

 ガーネットがナイトにデュエルピースを投げ渡す。アズの手札をキープしていて両手がふさがっていたナイトは、危うくとり落としそうになりながら、かろうじてカードを受け取った。デュエルピースが光の粒子に分解され、グラナイトの瞳に吸い込まれて消失する。

ナイト
『よし、これで回収完了だ。ガーネット、協力感謝します』
アズ
「あの……これって、後はどうすれば?」
ガーネット
『どうするも、これであの子はフィールド魔法一枚でモンスターなし、手札もゼロでターンエンド。残りライフ2400で、次のあなたのターン、デュエルナイト・セイバーの4300ダイレクトアタック、終了。アズちゃんの勝ちね』
アズ
「えっ!? それじゃ諸星さんがダメージを受けてしまうんじゃ」
ガーネット
『でも、一度始めたデュエルを終えるには決着をつけるしかないし……デュエルで勝てば、折れた腕も胸の傷も、ダメージは全部あの子に押し付られるから、すぐ直るわよ?』
アズ
「ガーネットさん! なんてことを!」
ガーネット
『冗談よ。あと、デュエルを終わらせるには……そうだ、サレンダーする?』
アズ
「されん……?」
ナイト
『サレンダー、つまり降参だ。敗北を認めて自分のライフを0にする……だがそれは、アズの負けになってしまう。君の傷はそのまま回復しないし、あの子がこのデュエルで受けた1600ポイントのダメージもすべて君が負うことになるが……』
アズ
「わかりました。それで行きましょう」
ガーネット
『ちょっとは悩みなさいよ。ったく、ホント救えないわね』
アズ
「それでも、諸星さんを傷つけてしまうより……ずっといいですから」

 アズが晴々した笑顔になり、降伏の意思を念じる。敗者の少女は女神のごとく柔らかに微笑み、勝者である少女はいまだ気を失って倒れている。勝者と敗者を分かつというゲームの本質から見れば、あまりに奇異な光景であったが、それがアズの選んだ決着であった。

・アズ LP:50→0(-50)

                【決闘終了 勝者:諸星ナナコ(サレンダー)】

 デュエルフォームが解除されるとともに、アズの身体を急激な脱力感が襲う。集中的な治癒術によって止血されていた胸の傷がうずき、服の胸部にみるみる赤い染みができた。
 思わず膝をつくアズだったが、それと同時に浮遊していたグラナイトから突然魔力が失せ、落下して地面に落ちた。

「な……ナイト……!?」
『……大丈夫だ……!』

 白獅子がゆっくりと起き上がる。白い毛並みはぼろぼろにほつれ、砂ぼこりに汚れて灰色に染まっていた。獅子の表情には、はっきりと疲労と苦痛が浮かんでいるが、それでも二足で立ち上がる。

『デュエルペットはパートナーのデュエリストが敗北した時、その身に受けるダメージを分かち合うことができる……この先、君がデュエルで傷つくことがあっても、私がその傷を治し、痛みはこの身に半分引き受ける……!』
「ナイト……でもそれじゃあなたが……」
『これまでの2度のデュエルは、どちらも君ばかり苦しませて、重荷を背負わせてきた……だから、これからは私も一緒に背負わせてほしいんだ。そのほうが、私もうれしい』

 同じ痛みに耐えながら、微笑みをかわしあう二人の姿に、ガーネットは不思議と充足感を覚える。だが、暗がりに血塗れで微笑むアズの姿は、少々おどろおどろしくもあり。

『ホラホラ、イチャつくのは後にして、アズちゃんとっとと手当するわよ! ワタシが特別に治癒術かけてあげるから! あとルーキー君は毛布もってきなさい。二枚!』
『毛布……と言われても、そんなもの何処に?』
『どこでもいいから、ひとっ飛びして転移術で取ってきなさい。夜空の下で女の子2人、身体冷やしたら大変じゃないの。アズちゃんなんか、体温下がると本気で危険なんだからね!』
『それはそうですが、私も体力が……』
『ぁによ。アズちゃんはあんなに頑張ったのに、隣で見てただけのあんたは音を上げるっての?』
「あ、あの……ガーネットさん、あまりスパルタなことは……教育上よろしくないとも言いますし……」
『い、いや! 確かにガーネットの言う通りだ! 今すぐ取ってくる! すぐに転移術で送るので、受領の用意を願います、ガーネット!』

 満身創痍のはずの白獅子が、浮遊術を使って飛び出していく。残されたアズは呆気にとられるばかりだったが、ガーネットはそんなアズに向けて、ぱちりとウィンクを飛ばした。

『男なんてバカよね。女の子のためだって焚き付ければすぐ飛んでいくんだから。これから、ちゃんとあいつを飼い馴らすのよ、アズちゃん』
「は、はぁ……」

 ガーネットの治癒術の光に包まれながら、ひとまず苦笑いするしかなかった。

『あ、それから、アズちゃん』
「はい、なんですか? ガーネットさん」
『ガーネット「さん」はいらないわ。ワタシ自分の名前には自信があるの。余計なモノくっつけないで、名前だけで呼んでね』
「……はい、ガーネット」

 満足のいったペルシャがもう一度ウィンクを飛ばす。自然とアズも笑顔になった。


                     *     *     *


 数分の後、ガーネットの足元に光り輝く魔法陣が展開し、そこから毛布が二枚飛び出した。遠方のものをワープさせる術で、ナイトが送ってきたものらしい。毛布に値札が付いているのを見てアズは顔を青くしたが、この際だからと倫理観をかなぐり捨て、おとなしく毛布にくるまって治癒術を受けることにした。もう一枚は、すぐ隣で眠っているナナコにかけてやる。
 さらに数分の後、空から転がり込むようにして白獅子が帰還する。治癒術の使用、デュエルのダメージ、浮遊術に転移術の連続使用が累積して、相当体力を消耗しているらしく、肩で息をしていた。しかしそれでも、無理やり微笑みを携えてパートナーを元気づけるのは忘れない。獅子はまぎれもなく紳士であり、それがまた可愛らしくなって、アズは膝の上に白獅子を乗せて左手で撫でまわした。

『はい、胸の傷は一通り終わったわ。傷自体はふさがったし、体組織も治ってるから。しばらくは痛いかもだけど、あとは自然治癒で何とかなるわ』
「も、もうですか? 刺されたのに……」
『デュエルペットの治癒術は、この世界の医療技術をはるかに凌駕しているんだ。しかし、それでもあれほどの傷をこの短時間で治すとは……さすがは十二至宝といったところですか』
『ま、それほどでも、あるわね。ルーキー君とは年季が違うのよ。さ、次は腕よ。右手はそのまま伸ばして……動かしちゃだめよ』

 ガーネットの手から明るい光が放たれ、折れた右腕を包み込む。

「あの、デュエル中にも出てきましたが、「じゅうにしほう」というのは一体……?」
『デュエルペットの中でも特に実力と位の高い十二のデュエルペットを「十二至宝」と呼んでいるんだ。ガーネットはそのうちの一人なんだよ』
「そんなにすごい人……ネコさんだったんですか?」
『そうだ。十二至宝はそれぞれ一枚ずつデュエルピースの管理権を女神から授かっていて、さっきのように暴走したデュエルピースを鎮める特殊な力を持っている。今回は相手がたまたまガーネットの管理対象だったからうまくいったが、次からはこうはいかない……気を引き締めておいてくれ』
「……はい!」


                     *     *     *


「ん……ぅ」
「あ……気が付きましたか?」

 諸星ナナコが目覚めると、転校生の少女の顔があった。ぼんやりとした頭で記憶を掘り起し―――すぐに思い出した。自分が一体何をしていたのか。
 光るカードを手にした途端意識を乗っ取られ、異形の怪物に姿を変えられて―――同じく超常の力を操る眼前の少女と激闘を繰り広げた、その記憶が全て鮮明にナナコの脳裏によみがえる。

「諸星さん、身体に異常はありませんか?」

 そう言って、アズは左手をナナコの方へ伸ばしてくる。右腕はだらりと地べたに横たえたまま、真紅の瞳を持つペルシャが無言でその腕に向けて光の粒子を放っている。

「ひッ……!」

 超常の力がそばにあることを感じ取って、反射的にナナコは身を引きずってアズから距離を取ってしまう。

「あ……」

 アズの顔に寂しげな色が浮かんだ。

「そう……ですよね」

 誰にともなく、アズがつぶやく。白獅子は何か言いたげにアズを見上げたが、ガーネットが眼でそれを制した。これは、人間同士の問題なのだ。
 悲しさと寂しさをできるだけ押し殺して、アズは笑顔を作った。

「あの、諸星さん、怖い思いをさせてしまって、ごめんなさい」

 アズはぺこりと頭を下げる。顔を上げたアズの瞳は閉じられていた。

「その、少しだけ……聞いてください。衛士先生を……斬ったのは……わたしです」
「ぁ……ッ!?」

 ナナコの顔が驚愕に染まった。アズはそれでも続ける。

「先生もさっきまでの諸星さんみたいに、デュエルピースに憑りつかれていて……わたし、先生は悪くないのに……頭に血が上って、手加減なしに攻撃して……それで……」

 言葉の端が震える。もうそれ以上の句は必要なかった。

「今日は……ガーネットがいたから偶然うまくいったけど、これからもそうとは限らないから……だから……わたしには、もう近づかないほうがいいと、思い、ます」

 震えながらやっと紡いだアズのその言葉に、白獅子は黙ってうつむき、ガーネットは治癒術に集中しながらも、目をひそめた。

「あと……あと……今日はほんとにうれしかった……一緒に遊んでくれて……わたし、救われました。諸星さんが無事で……ほんとによかっ、た……」

 ぽろぽろと涙をこぼしながら、めいっぱいの笑顔をナナコに向ける。
 ナナコは、唇をかみしめ、ぎゅっと拳を握りしめて、すぐにそれをほどくと―――ふわりとアズの頭を自分の胸の中に包み込み、抱きしめた。

「諸星さん……?」
「あたし、全部覚えてるよ。あんたがあたしのこと、必死になって助けてくれたの」

 ナナコの瞳にも、涙が浮かんでいた。

「それにあたし、あんたにあんな酷いこと……しちゃって……」
「そんな……そんなのっ」
「あたしのほうこそ、本当にごめん……許して、なんていう資格ない、けど……」

 ナナコの声も震えてきている。アズは左腕をしっかりとナナコの背中に回して、精一杯抱擁に応える。

「衛士のヤツのことなんか関係ねぇよ……あたし、あんたと友達でいたい。だから、近づくななんて……いわないでよぉ……」
「諸星さん……ありがと……ほん、とにっ……ありがとう……」

 そこから先は、二人とも言葉にならなかった。少女たちの嗚咽だけが、夜の空に溶けて消えていく。それを二頭のペットが、微笑みをたたえて見守っていた。
 涙で顔を濡らしながら、こんなにも幸せな涙がこの世界に存在したのかと、アズは思った。


                        <第3話・了>

■ あとがき ~あとのわるあがき~
 もうR-15タグはデフォにしようかと思う今日この頃。リョナタグもいる? 3月に入ってすこし暇ができたので、ちょっと頑張って書こうと思ったらこれだよ……。

<ストーリー的なお話>
 今回デュエル中盤を書いているときに、突然郷愁の念に襲われた。何かと思って記憶の糸をたどっていくと、ある有名な台詞にたどり着いた。

「フォックス! ヤツの腕を全部吹き飛ばしてやれ!」「よし、遠慮はいらん、胸をブチ抜いてやれ!」

 懐かしくてスターフォックス3DS版を買ってしまったのが運のつきであったか……アズちゃんの。それはさておき、今回は「右腕ぶっつぶれる」→「リップ・ドロー!」のコンボを思いついたので、これで行こうと思ってたらなぜか串刺しオプションがついてきてしまった。今回はアズちゃんにとっては、パートナーと親友を同時に手に入れて、3話目にして初のハッピーエンドといえるのだが、その代償が串刺し+腕一本とは、よく見ると報われているか微妙なラインである。
 ちなみに今回、「ウ・ルトラマン」、「融合処女」、「リップ・ドロー」といった意味不明のテクニカルターム(?)が登場したが、こういうの考えるのは結構楽しい。今後も思いついたら入れたいところ。

追記:休日なので昼間っから読み直していたら、「ゲロイン」という言葉が頭に浮かんだ。今回女の子2人とも吐いてるな……。昔から私の作品に登場する女はゲロイン率がとても高い。たしか処女作が、まさにヒロイン吐いてたような。まいったなぁ……今のところ次話か次々話でアズちゃんもっかい吐く予定なんだけど。

<キャラクター的な話>
 新キャラクター、諸星ナナコ。思いっきりウルトラセブンなネーミングだが、そのせいで円谷特撮ファンといういらん設定が出てきてしまった。今回は対戦相手になってしまったが、今後は基本的にデュエルはせず、アズの親友として彼女のサポートに回る役回りの予定。
 今回活躍著しい新ペット、ガーネット。ナイトの大先輩という設定のため、かなりの万能っぷりを見せつけた。彼女もその信条からデュエルの予定は基本的になし。
 そしてある意味今回の主役ともいえる、自我を持つデュエルピース、ガーネアイズ。彼女は「非道だが、デュエルを楽しむ心はむしろ原作キャラに近い」という造形であり、ヒーロー使いということもあって、言動は二代目主人公、遊城十代にかなり似せている。いろいろ十代めいたセリフをしゃべっているのはそのため。

<遊戯王的なお話>
 前回が攻撃力をマイナス化するという変則的な効果をめぐる攻防だったため、今回はもっとシンプルに殴り合いを描こうというコンセプトでゲーム構成を始めた……はずが、ほとんど効果ダメージばっかりに。フレイム・ウィングマンのような直火焼き効果は、一発逆転の描写には使いやすいが、殴って殴られての攻防をするにはあまりにライフを消費しすぎるため、4000ライフ制では扱いに難儀して、このような結果に。
 とはいえ、今回登場したスピリットバリアやミラーメールは、破壊耐性を持つデュエルナイト・セイバーとのコンボで演出上かなりおいしい動きができた。この点は満足。
 デュエルピースの性能については、もろシャイニング・フレア・ウィングマンなので、あまり言うことがないといいう酷い有様。でも常時4000超えの攻撃力ってのは存在感がある。

<オリジナルカード>
 本編中に登場したオリジナルカードを、コメントともに掲載。

《DP.01 柘榴瞳の亜英雄》(デュエルピース・ワン ガーネアイズ・アンチヒーロー)
デュエルピース・効果モンスター
☆10/炎属性/戦士族
ATK:2500・DEF:2100
[ル]このカードは、ORUを持つことができる。自分フィールド上・墓地に存在する融合モンスターまたはゲームから除外されている融合モンスター2体以上をこのカードの下に重ねてORUとし、手札からこのカードを特殊召喚する。
[永]ORUを持つこのカードの攻撃力は、自分の墓地に存在するモンスターの数×300ポイントアップする。
[誘]このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地に送った時、ORUを1つ使用して発動する。このカードの攻撃力の数値分のダメージを相手ライフに与える。

コメント:デュエルピースその3.そんな読み方あるか、というのが感想。一応除外されている融合モンスターも素材にできたりと、隠された効果はあるが、活かす場所がない。

《ワタポーション》
効果モンスター
☆1/水属性/天使族
ATK:200・DEF:300
[即]自分にダメージを与える魔法・罠・効果モンスターの効果を相手が発動した時、手札のこのカードを墓地に送って発動する。その効果によって受けるダメージを半分にする。また、このターンのエンドフェイズ時、このターン中に相手によって自分が受けた効果ダメージ1000ポイントにつき、カードを1枚ドローする。

コメント:効果ダメージ半減とリップ・ドローのためのドロー効果が必要になり、でっち上げてみた。効果ダメージメタはハネワタが、ドローはワタポンがモチーフ。最初は通常罠の予定だったが、ダメージステップ中の発動に対応するために手札誘発に。しかし、手札誘発でもダメステ中に発動できるかは裁定次第だったり……だめじゃん。
それとは別に、この作品における「クリボー」ポジションは、ワタポンシリーズにお願いしようかと考えている。

 とまれ、またどこかで。
 
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