魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第39話 バルトマンの過去(中編)
前書き
こんにちはblueoceanです。
クリスマスも過ぎ、12月のクリスマスと言う繁忙期もひとまず終わりを告げました。
新たなパソコンも届き、使い始め、やはりパソコンは良いとつくづく実感しました………
結局過去編中編に分けてしまいました………結局収まらなかった………
年末までには後半を終わりにしたいと思います。
「嘘………手も足も出なかったの?」
優理が思わず呟いたが他の皆も同じく驚いた顔をしていた。
「ああ。ジジイは零治から見るウォーレンみたいな奴だと思ってくれればいい」
「師匠って事ですか?」
「そう思ってたのか!?………まあ確かにジジイから教わった戦い方が今の俺の戦い方になってはいるが………あの娘バカが俺の師匠だとは認められねえ!!」
「いや、まるっきり今の君と同じじゃないか」
スカさんの言う通り、全てを敵に回してもヴィヴィオを守る宣言しているバルトさんは誰がどう見ても親バカ、いや娘バカだと思う。
それを証拠に同じように思った皆が小さくクスクス笑っていた。
かえって隠れて笑われていた方が本人としては恥ずかしいと思う。
こういう時ウェンディは貴重だと思う………あいつは空気を読まずに自分の思ったように言うからな。恐らくあいつがいたら大笑いしていただろう。
「おい、話を続けるぞ!!」
取り敢えずこの空気をどうにかしたいバルトさんは話を話を先に進めることにした様だ………
「………ううん?」
目が覚めると白い天井。首を動かし右を見ると窓から豊かな自然と共に暖かい風が通り過ぎた。
「気が付きましたか?気分は大丈夫ですか?」
「カリムか………ここは?」
「聖王教会の一室です。お父様と戦った後、死んだようにずっと寝ていたんですよ?」
「そうか………ん?聖王教会?聖王教会って何だ?」
「えっ、知らないんですか………?」
「ああ、初めて聞く」
「そうですか………まあざっと言えば管理局と同じく、危険なロストロギアの調査と保守を使命としている宗教団体ってところですね」
「ロストロギア?管理局?」
「………分かりました、一から説明します」
そこからバルトは約2時間程カリムの授業を受けるのだった………
「なるほど、じゃあここは幾多の世界を管理する世界の中心って事だな」
「まあそんな風に思っていただければ良いです」
話を聞いたバルトは体を起こし、ベットから下りて立ち上がる。
「あっ、バルトさんの着ていた服は其処に………」
「ああ、サンキュー」
小さな机に畳んで置いてあった服を取り着替え始める。
「あああ、わ、わ、私外に出てますから!!!」
「ん?ああ、分かった」
そう言って慌てて出て行ったカリムを見送った。
「何だ?」
バルトは首を傾げながら着替えを続けたのだった………
「待たせたな」
「い、いえ………あの………お父様がお呼びです」
そう言って先を歩くカリムだったが顔が真っ赤だったのにバルトも気がついていた。
「カリム、顔が赤いが体調が悪いのか?」
「気にしないでください!!」
強くそう言われたため、バルトもそれ以上気にするのを止めた。
「………しかし色々あるんだな………」
行く道中、様々な物が目に入った。肖像画や油絵など芸術品もあれば聖王教会の歴史を表した年表までもあった。
「………これを売ったらどれだけの金になるか………」
「バルトさん………?」
「冗談だよ冗談」
睨まれて流石に謝るバルト。
(だが一つ位なら………深夜忍び込んで脱出ルートを今の内に考えておけば……)
「バルトさん、着きましたよ」
そうこう考えているうちに目的地に着いた。
「ここは?」
「私の父、騎士団長ロレンス•グラシアが居る部屋です」
「ほう、あのジジイがね………ん?騎士団長!?」
「そうです、言い換えれば騎士団含め、聖王教会最強と思っていただければと」
「なるほど………」
そう答えて自然と笑みがこぼれた。
そんなバルトに気づかず、カリムは扉をノックした。
「失礼します、バルトさんを連れてきました」
『おう、入れ』
扉の中から声が聞こえ、入ると広い部屋に中心に来賓用の椅子と机、そしてその奥にロレンスとメガネをかけた秘書らしき女性がそばに居た。
「其処に座ってくれ。………じゃあシエラ、報告書の提出よろしく頼む」
「………分かりました」
そう言って書類を持ち出口へと向かうシエラ。
「ご苦労様です」
「………ありがとうございます」
すれ違い様に声をかけたカリムにそう言って会釈し、部屋を出て行くシエラ。
「………?」
バルトはその時たまたま見えたシエラの表情に少々違和感を感じたが、気にせずロレンスの方を見た。
「元気そうだな」
「お陰さんで随分とスッキリした目覚めだったよ。………先ず先に聞きたいんだが俺の斧は何処だ?」
「ああ、あの斧なら処分したよ。全く、凄くお粗末なデバイスもどきだ」
「もどき………?」
「ああ、この設定だとただの魔力を喰らう斧だな。データ容量も少ないし、殆どデバイスを使って魔法を使っていないだろお前」
「………最後に使ったボルティックブレイカーだけだ。他は自分の力で魔法を使っている」
「ええっ!?」
「全く、末恐ろしい事を平然とやるなお前は………」
と2人に驚かれるが当の本人は何故そこまでそんな反応になるのかよく分かっていなかった。
「さて、色々お前に興味が湧いた。悪いが検査に付き合ってもらえるか?」
「検査だと?一体何を調べるつもりだ………?」
殺気を込めた目でロレンスを見つめるバルトだが、ロレンスは全く気にせず豪快に笑った。
「ははは!!!安心しろ、別に体をいじくったりしねえさ。ただお前さん自身の実力を知りたくないか?」
「実力?」
「まあ健康診断だと思えばいいさ。カリム、お前も手伝えな」
「あっ、はい………」
とカリムの返事を待たずに通信機で連絡を取り始めるロレンス。
「………お前の親父、自分勝手だろ。俺まだ受けるなんて一言も言ってないだが………」
「……………ごめんなさい」
流石のカリムも庇い様が無かった………
「魔力ランクSランク!?」
「ほう、想像以上だな」
「それに空戦、陸戦どちらもSランクだなんて………管理局でも即スカウトされるレベルですよ」
「そんなに凄いのか………?」
色々と知らない言葉を告げられ、イマイチ理解できないバルト。
「ワシがAAA+と言えば分かるか?」
「………どっちが凄いんだ?」
「Sの方が上です」
「じゃあ俺はお前の親父さんよりも上ってわけか………」
「何嬉しそうな顔してんだ。ワシよりも魔力ランク上ってだけで別にお前の方が強いってわけじゃねえぞ?」
「いや、前は屋内の狭い場所だから負けただけだ。空を含めれば俺のスピードで圧倒してみせる」
「ほう、面白い………ならばやってみるか?」
「今度は確実に潰す!!」
「はっ!?ここは………」
「おはようございますバルトさん」
バルトが目を覚まし、起き上がるとその場所は前と同じ医務室だった。
「カリムか………俺は一体………」
「昨日お父様と戦ったのは覚えています?」
「………ああ、思い出した。お前の親父、化物過ぎるだろう………」
「伊達に騎士団長していませんですから」
昨日の勝負、バルトは自分の自信のあるスピードと圧倒的な攻撃で果敢に攻め続けた。
「だが、あのジジイ、最小限の動きと少ない手数で俺を圧倒しやがった………有り得ないだろ、何故あんなに一撃一撃が重く強いんだ?訳が分からねえ………」
「まあお父様のやる事だから………」
「それでいいのか………?」
「皆が納得してるわ。………それでまたお父様から連れてくるように言われているんですけど………」
「行く」
前回同様着替え、カリムの案内のもと再び団長室へと向かった。
「よっ、調子はどうだ?」
「………お陰様で」
バルトが睨んで見るが相変わらず当人は気にせずバルトの態度を見て笑っている。
「まあそんな顔するな。お前に良い物をやろう」
そう言ってロレンスは机の上に小さなアクセサリーを置いた。
「これは………?」
「お前のデータを基に作ったデバイス『ガーフォル』だ」
「俺の………デバイス?」
「昨日の使ってたデバイスはお前の癖や戦い方を記憶させるためのデバイスでそれを元に完成させたから機能の奴よりはしっくりくるだろう。どうだ、欲しいか………?」
「………その言い方だと何か裏があるな?」
「まあな。このデバイスは特注品だ、当然タダではやれない」
「俺に何をさせるつもりだ?殺しなら得意だが………潜入なんかは苦手だから難しいぞ?」
「こ、殺し………?せ、潜入………?」
1人、驚いているカリムを置いて、ロレンスはバルトの目を真っ直ぐ見て、こう告げた。
「聖王騎士団に入れ」
「………はぁ?」
「聞いてなかったのか?聖王騎士団に入れって言ったんだ」
「ふ、ふざけるな!!何で俺が軍隊みたいな所に入らなきゃらならない!!」
「軍隊じゃない、聖王教会を守る守護騎士だ」
「尚更だ!!俺は壊すのは得意だが、守るなんて事はした事ねえし、したくねえ!!何故俺よりも弱い奴を守らなきゃならない!!自分を守る為には強くなるしかない!!!世界の法則はこうだろうが!!!」
それはバルトの心の叫びでもあった。
教団から抜けた後、全てが上手くいった訳じゃ無かった。世界という言葉に釣られて出てみたが右も左も知らないバルトがいきなり成功するわけもなく、毎日生きるので精一杯だった。
「だからこそ俺は地べたを這いずり回りながらも生きるために誰も負けない強さを得た。死にそうになっても飢えて助けを求めても誰も助けてはくれない。誰かを守るだと?そんなバカバカしい事できるか!!!」
そんなバルトの言葉に返す言葉が無いカリムは口をもごもごさせるが言葉が出なかった。
バルトの言葉を否定する反論が思い浮かばなかった。
しかしロレンスは違った。
「そうか………だからお前は弱いんだ」
「何だと!?」
「ワシの強さを知りたければ騎士団に入り、学ぶがいい。だが1つ忠告しておく。今のお前のままでは確実にワシ以外の誰かに負ける。………例えこのガーフォルを使ってもな」
「俺がまた負けるだと………?」
「その理由は騎士団でやっていくうちに自ずと分かっていくだろう。………さあ?どうする?」
結果的にバルトの答えを覆すような答えでは無かったが、バルトはその誘いがとても気になっていた………
(俺とジジイ、一体何が違うんだ………)
「それで………?」
「バルトは騎士団に入ったわ」
「バルトさんの言っている事もちょっと分かるわ………私も両親がいなかったし、面倒を見てくれる人はおらんかった。だからこそ私は自分で料理を覚えたし、自分の出来ることは全て覚えた。私とバルトさんが違うのが私には石田先生みたいに助けてくれた人がおったって事やな………」
はやてのそんな言葉に重い雰囲気が更に重くなった。
「………バルトの小さい頃は私も詳しくは知らない。聞いてもつまらないからって教えてくれなかったから………だけどあの時のバルトの言葉は心から発した言葉だと思うの。だからこそあの時、騎士団に入る事を選んだ」
「それからバルトは?」
「元々の実力も含め、みるみる内に実力を付けていったわ。だけど元々あんな態度でしょ?」
「ふふっ………確かにバルトさんが聖王教会にいる騎士みたいにやってたら吹いちゃうかも………」
クスクス笑いながら話すなのはの言葉を聞いて、フェイトや、はやて、ヴィヴィオもそんな光景を思い浮かべて笑みがこぼれた。
「あまりにも騎士とは呼べる振る舞いじゃなかったから中々出世しなかったわ。だけどお父様の次くらいに喰らい付く実力はあったと思う」
「そこはやはりバルトさんって事ですね」
「そしてバルトが騎士団に入ってから3年が経った頃よ………」
「ふあ〜っ、平和だな………」
ミッドチルダの聖王教会の敷地内。
その中にある芝生の上で寝ていたバルト。
「バルトサボり?」
「………なんだカリムか」
「何だとは何よ。良いのこんな所に居て?」
「休憩中だよ」
「全く、いつまで休憩しているつもりよ………」
呆れながらもカリムはバルトの隣に寝転がる。
「おい、サボりか?」
「私も休憩中よ。ああ〜!いい天気………」
「だな………」
3年の間、バルトはこの聖王教会で時を過ごした。
最初こそロレンスの問いの答えが分かり次第出て行くつもりだったのだが、結局何処へも行かず騎士としてやって来ていた。
その理由として答えがまだ見つかっていないこと、そしてまだ一度たりともロレンスに勝った事が無かったからだ。
「だけどバルトは3年経っても相変わらずね。ぐーたら毎日過ごして………」
「あのな………戦闘でいつも活躍してるだろうが!!」
「じゃあ報告書の方もしっかりやってくれるのよね………?」
「報告書もちゃんと提出してるだろうが!」
「部下のロイズ君がね」
そう言われ、バルトは言葉を失った。
「………あいつ、喋ったのか?」
「いいえ、彼は何も話していないわ。私がチェックしていて気がついただけよ」
「あいつ模写得意なんだぞ?」
「模写でしょ?手本が無くちゃいくら模写が上手くたって気づく人は気づくわよ」
と自信満々に言うカリムに『ストーカーに近いくらいしっかり把握しているんだな』と思ったが、それ言うと話がやたらと長くなりそうなので言うのは止めた。
「そうだ、今日の夜、団長室に来るように言ってたわよ」
「カリムの護衛の件なら断ったはずだが………」
「断ったの!?」
「ああ。俺は守るのは性に合わないんでな………って何でそんなに睨んでるんだ?」
「知りません!!!」
そう言い残して立ち上がったカリムはバルトに「バカ」と言い残して教会へと戻って行った。
「何だあいつ?」
「と、こんな感じでまあ意外と平和な生活に馴染んでいたんだが………何だお前ら?」
そ皆から受ける視線が先程とは違うことに気がついたバルトは一旦話を止めた。
「いや、誰かさんと一緒だと思ってな」
「人の好意にかなり疎い所とか」
「家族や兄弟ってフィルターを一回置くとそうしか思わなくなるところとか」
「お前等一体誰の事を………」
「「「レイの事!!!」」」
3人の揃った言葉に周りのみんなもうんうんと頷いていた。
まあ返す言葉も無いので黙るしかないのだが………
「………まあそれは取り敢えず置いておいて………バルトさんはその後どうなったんです?」
「ログスバインの名を貰った」
「ログスバイン?」
「ドクター知ってますか?」
「確か今は既に途絶えてしまった聖王騎士の名だよね?」
「そうだ。古い家系で、聖王教会発足時から代々聖王家を支えてきたらしい。だからこそ名誉ある名として途絶えた後も優秀な聖王騎士にその名を名乗らせるようにしたんだが………それに俺が選ばれたんだ」
「バルトさんが!?」
「ぐうたら騎士のくせに?」
「アギト、俺だってそんな名前いらなかったんだよ。だけどよ、根回しはジジイが全てやり終えた後だったから断り様が無かった」
「でもそれだったらバルトさん逃げれば良かったのに………」
「俺だってそう考えたさ。だけどこの決定にもちゃんと理由があったんだ」
「ジジイ入るぞ」
他の騎士団のメンバーがだったら卒倒しそうな事を平然とやってしまうバルト。
「おう来たな、こっち来い!」
だが言われた本人も気にすることなく、むしろ親しげにバルトを机の前まで呼び寄せた。
とある日、バルトはロレンスに呼び出され部隊長室へとやって来ていた。
部屋にはバルトが行くと何時も居る秘書のシエラや娘のカリムもいない。
「俺1人か?」
「そうだ、お前さんにちょっと話があってな」
そう言って座っている机の中から古くなった絵本を取り出した。
「何だこれ?」
「見ての通り絵本だ。ちょっと読み聞かせてやろうと思ってな」
「………帰る」
「おい、マジで帰るなって!!この絵本が今回の大事な話で重要になってくるんだからよ!!」
帰ろうとしたバルトを慌てて止めるロレンス。
「分かった!分かったから抱きつくんじゃねえ!!!」
最初こそ抱きつかれ、流石にぶん殴ってでも帰ろうかと思ったが後が怖いので話を聞くことにした。
「さて、聖王オリヴィエが最終的に戦争に勝利し、その後混乱していた世界を聖王教会に所属していた者達が徐々に世界の安定へと導いて行った。管理局側は認めないが、管理局に聖王器がある点から見てもこの仮説は正しいのではないかと言われている」
「聖王器?」
「……お前座学ちゃんと聞いているか………?聖王器とは聖王オリヴィエを支えた5人の騎士に送られたデバイスの事だ」
「知らねえな………」
「全く………まあだからこそ今回の件に関してはお前が最適なんだが………」
「今回の件?」
バルトが聞き返すと辺りを見回すロレンス。
『実は内輪揉めでもしかしたら色んな犯罪組織とも繋がっているって事が分かったんだが………そいつは俺の事を邪魔だと思っていてな、お前と始めてあった時もどうやら裏工作があったみたいなんだ』
念話でバルトに話すロレンス。
それを察したバルトはロレンスから資料を受け取り資料を読むふりをしながら念話で話しかけた。
『ジジイとカリムを消そうとしてか?』
『ワシは騎士団長だから、奴らにとっても邪魔な立場だからな』
『じゃあカリムはどうなんだ………?』
『カリムのレアスキルだ。あれを危険視している奴も教会内にいる』
『あんな当たるかイマイチ信用できない占いをか?………神経質な奴が多いな』
『古代ベルカのレアスキルなんだ、神経質になるのは分かる。だがその為に殺すなど言語道断!!!』
『うるさい、念話で叫ぶな』
『取り敢えずそういうことで本格的に俺達を狙っている奴をあぶり出そうと思ってな。お前にログスバインの名を与えようと思う』
『ログスバイン?』
『そうだ。聖王教会ができた後、その発展の務めた騎士。聖騎士亡き後もずっと教会を支えてきた家系だ。
今はもうその血筋はいないが象徴として名は残っている』
そう言われ、資料を受け取った際、一緒に受け取った絵本を読んでみる。
『このゲーハルトって奴は誰なんだ?』
『裏切りの忠義の騎士………そいつはログスバインの親友で親友と教会の為に敵に回った騎士の事だ』
ゲーハルトの絵をバルトは見る。
『内で醜い権力争いを始めた聖王教会。それをやめさせるにはどうすればいいのか?ログスバインはずっと悩んでいた。そんな時親友だったゲーハルトが言った。「俺が全てを正す」と』
そんな説明をされながら絵本を見てみるバルトだったが絵本にはそんな事一言も書かれていなかった。
『そしてゲーハルトはログスバインに対抗する者全てを裁いた。当然権力争いも無くなった。裁かれるのが怖いからだ。だがログスバインはそんな事望んでいなかった。ゲーハルトがこんな事をするとは思っていなかった。だからこそゲーハルトを危険視した周りはゲーハルトのしてきた事を明るみにし、処刑することにした。ログスバインは周りの意見を覆す事が出来ず、ゲーハルトは処刑されることになった。ゲーハルトも特に抵抗することもなく、「お前の力で正しき聖王教会を作ってくれ」と言い残して処刑された』
確かに絵本も同じ形で処刑された。しかし絵本では互いに聖王教会の未来を案じた2人は進むにつれ道が分かれていき、結局ぶつかる形でゲーハルトが負け、ゲーハルトは後を託した事になっている。
そして最終的に英雄として結果を残していったログスバインは英雄として後世にも語られる存在になったのだという結末で終わっていた。
『ログスバインもゲーハルトに言ったそうだ「友よ、お前の願い確かに受け取った。必ず聖王教会に生涯尽力すると誓おう。しかしそれでは私の気が済まぬ。私は己の幸せを得ず、全てを終えればお前の元へ向かおう」ってな。これが聖王教会に尽力したにも関わらずログスバインの名が消えてしまった原因だな。だがそれを良しとしない上の奴等が2人のやり取りを捻じ曲げ、ログスバインを英雄にした物語をでっち上げた』
『ほう………で、これがでっち上げの絵本か』
絵本を閉じ、机に置くバルト。
『そうだ。実際に絵本の言う通り今でもログスバインの名前は騎士としては憧れで、その名は最高の名誉とも言える。その決定は騎士団長と上院で9人中5人の了承が得られれば確定となる。そして俺は今度その議題を出し、お前をログスバインにしようと思う』
『いいのか?仮にも最高の名誉とも言われる名を俺に与えるなんて………』
『お前の腕っぷし自身は誰もが認めるほどの強さだ。この前の任務も良くやってくれたしな、今では騎士団の中ではワシを除いて1番を名乗っても不思議でない強さは持っている。………まあそれ以外はあまりにも騎士らしくは無いが、そんなもの問題ない。………まあ一応根回しは終えているがな………』
そう言ってニヤリと笑うロレンス。
『全く、このジジイは………』
呆れらながらも笑みがこぼれるバルト。
『で、まあ俺がログスバインを継げたとしよう、その後はどうするつもりだ?』
『カリムの騎士として娘を守ってもらいたい』
『おい、それは………』
『………近々、管理局と合同でお前と出会ったあの星に介入する事を決定した。それに俺自身も出立して欲しいとの事だ』
『………なるほど、ジジイを離した後、そこでジジイとカリムを始末するってか。敵さんも中々過激にやるじゃないか』
『そう行動を起こして貰うためにお前の事を利用させてもらう。俺が提案し可決に持ち込ませる事で不満を爆発させ、行動にださせる。そうすればしっぽも掴め、後は徐々に捕まえていけば万事解決だ』
『………そんな強引なやり方でうまくいくのか?』
『分からん。こればかりはやってみなくてはな』
『味方からも反発があるかもしれないぞ?』
『………まあその時は辞職でもして責任を取るさ』
『………それで良いのか?』
『良いさ。既に隠居生活も考えてる位だ』
「全くお気楽な事だ………」
そう呟いたバルトはロレンスに背を向け、歩き出した。
「あんたに任せる。好きにするがいいさ」
バルトはそう言い残して団長室を出た………
「ああ………だるかった………」
ロレンスに全て丸投げしたバルトだったが、結果バルトにとって後悔する様な結果となった。
先ずは名を受け取るに当たって偉い方々のありがたい言葉を騎士の敬礼の構えで長時間聞きつつ、その場から動けないでいるというバルトにとって拷問に近い時間を暴れそうな自我を抑えつつ何とか耐えきったバルト。
しかしその溜まったストレスは過去に言った事を後悔するのに時間はかからなかった。
「おいジジイ!!」
「何だログスバイン?」
「ああっ!?誰の事を言ってるんだ!?」
「自分自身の事だろうが、さっきまで式典までしてたのを忘れたのか?」
「そんな話聞いてねえよ!!」
「聞いたらお前は絶対に拒否したろ?」
「当たり前だ!!!!」
そんなバルトの叫びをロレンスは耳の穴を指で塞いで防いだのだった。
「ギャーギャー騒ぐな。今のお前は団長に次ぐ立場でもあるんだぞ?」
「マジか。あのうるさい副団長よりも上か!!じゃあこれから奴に色々言われず仕事も下に回して………」
「ああ、副団長のセシリアにはしっかりバルトを教育してくれと言ってある」
「マジか………」
「それが嫌ならカリムの騎士、受けるんだな」
「テメエ………やっぱり全部仕組んでるだろ………」
そんな睨むバルトをロレンスはニヤリと笑って「カリムの事宜しくな~」と言い残し去って行った………
「………で、おめでたく私の騎士になったと………」
「ああ、宜しくな~」
そう軽い口調でカリムに手を振るバルト。ぐったりと椅子にもたれかかっている姿からはやる気が全く感じられなかった。
「………あの、ログスバインって名前になったんだしもう少し騎士らしくしたら………」
「カリム、おかわり」
「はぁ………分かったからせめてその組んだ足位下ろしてね」
そうカリムに言われ、椅子に座って組んでいた足を下ろす。
「それにしてもこの仕事楽だな。カリムに引っ付いてのんびりしてりゃいいんだろ?」
「違います、ちゃんと私のボディーガードするんですよ?」
「だって、お前あのジジイの娘だろ?別に俺がいなくても必殺の右と幻の左でかき消しちまうだろうが」
「あれ?私いつそんな必殺技使いましたっけ?」
「いや、使いそうだなと………うん、悪い。運動神経皆無のひ弱なお前にそんな芸当無理だよな………」
「ひ弱!?私は平均レベルです!!」
「50代のか?」
「バルト!!」
コーヒーカップを持ち上げ、振り下ろそうとするカリムだが、バルトは余裕そうな顔でその動きを見ていた。
「ううっ………」
いとも簡単に掴まれてしまうと予想したカリムは渋々その手を下すのだった。
「まあカリムいじりはこれくらいにしておいて………こいつの使い道って言えば、当たるか分かんねえ解読困難な電波占いだろ?後の使い道って言えばその容姿を利用して、5年後位に娼館に売り飛ばして………」
「………バルト?」
「あ、すいません………悪ノリが過ぎました………」
ロレンスとは違う押し潰す様なオーラを感じてバルトは土下座をして謝った。
「全く、はいコーヒー」
「おう、サンキュー。全く、コーヒーを入れるのだけは美味いんだからな………これなら良い嫁になれそうだ」
「誰の………ですか?」
「あん?………金持ちの上の連中か?」
そんなバルトの答えを聞いたカリムは静かに背を向けた。
「何だ?どうした?」
「何でも無いわよ………バルトのバカ………」
「?変な奴………コーヒーは美味いがな」
そんなカリムの様子は気にする事なく、バルトはコーヒーを飲むのだった………
「あの………」
「何なのはさん?」
「カリムさんはバルトに会ったんですよね?バルトマンだとは思わなかったんですか?」
不意に手を挙げたなのはは恐る恐るそんな質問をした。
「最初はもしかしたらと思ったわ。あの事件の後、あの人が死んだと報告は上がらなかったから生きているかもって。初めて会った時もあの人はカリムって驚きながら名前で呼んだわ。まさか鉢合わせるとは思っていなかったのね」
「バルトさん………」
少し悲しそうな顔をして俯くなのは。
「だけどあの人は今じゃあんなに若いわけ無かったし、世の中には似た人が3人いるって言うでしょ?だから別人だなって思う事にしたの。………だけどあの人が訪れる様になってあの時の日常が戻ったように感じて嬉しかったわ………だけど………」
「だけど………?」
「話す内容がヴィヴィオちゃんとあなたの話題ばかり。思わず嫉妬しちゃうくらい話してたわ。私の事を見て欲しかったのに他の女性の話ばかりなんですもの………まあそこもバルトらしいけど」
「カリムさん………」
「心配しなくて良いわ、バルト・ベルバインの心の中にはヴィヴィオちゃんとなのはさんだけしか無いわ。だから自信を持ちなさい」
「………はい、ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言うなのは、その顔は少し晴れやかだった。
「話を戻すで。………でもそんな時間は長く続かなかったんやな?」
「そう。ログスバインの名前を貰ってから2ヶ月後、私の父が大勢の騎士を連れ、バルトの故郷の星へと向かったわ。管理局と共同の任務だって。………私もその時気が付けば良かった。バルトはいつもとは違う真面目な顔をしてた時点で何かが起こっていると警戒していれば良かった。良くも悪くも平和ボケしていたのよ。………私は結果的に2人の足を引っ張ってしまった………」
「カリムさん………?」
俯いて話すカリムに心配してフェイトが先に声をかけるが、カリムは「大丈夫」と言って顔を上げ、
「私はその日、相手側に捕まってお父様に気づかれる事なく、一緒にあの星に行ったのよ………不測の事態の時の保険として………」
そう、辛そうに話し始めるのだった………
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