魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第38話 バルトマンの過去(前編)
「第55管理外世界アグラット。10年前に戦争が終結した世界ですね。未だに治安が悪いみたいですが、管理局も管理世界として登録するため、色々と援助を行っているようです」
「………まあ生まれた?場所か分からないけど過酷な子供時代って言うのは分かったわ。だけどシスターヘイトだっけ?話を聞く限り良い人みたいだけどそこから何であんな風になるのよ?」
気遣う言葉も無く率直に言うクアットロ。
「率直だな。………えっと」
「クアットロ!!名前くらい覚えなさいよ!!」
「………ああ、悪い悪い。だが良い所に気がついた」
「えっ?どう言うこと?」
「………長い戦争状態、そしてその中でも激戦区、そんな場所にそんな良心的な場所はおかしい………?」
「夜美、正解だ」
ライの問いを無視し、答えた夜美の解答は正解だった。
………けど。
「結局どう言った場所だったんだ?」
皆が思っている疑問を代表してフェリアが手を上げて聞いた。
「………身寄りの無い子供を使って幼い頃から訓練させ少年兵を作る場所………だったと思う」
「だった?」
「ハッキリは分からねえ。だが今考えるとそう思えるって話だ。OKか優理?」
「う、うん………」
いい加減慣れてほしいものだが………
「取り敢えず続きを話そう………」
「「「「いただきます!!」」」」
「はい、召し上がれ」
食事はかなり質素ではあるが朝、昼、晩三食あった。
「それじゃあ30分の休憩後、A班は戦闘訓練、B班は座学、C班は男女別れて特別授業よ」
バルトの様に集められた子供は男女合わせて大体15人位だったと思う。 男女混合の3グループに分かれ様々な授業を受けた。
魔法を含めた戦闘訓練、それに加えて暗殺術等それぞれの個性に合わせ様々な訓練を行った。
バルトは生まれながらにして電気変換気質を持っていたため、戦闘訓練を重点的に行っていた。
「ここでの戦闘訓練が今の俺の元だな。ここで戦闘訓練を繰り返してきたからこそ今まで生きてこられたんだと思う」
「それほど大変だったの?」
「殺されても可笑しくないほどだな。実際に死んでしまった奴もいる。だが顔はかなり穏やかだった」
「何故?」
「幼い子供に行った刷り込みの効果さ」
「「刷り込み?」」
「どう言うこと?」
アギトやまだ小学生の優理が分からないのはまだ分かる。
だが、沖縄の経験や歴史を勉強しているライが全く分からないのはいかがなものか………
「優理はまだ勉強前からいまいち分からないかもしれないけど、歴史の教科書なんか見れば分かると思う。戦時中あの時代の教科書には戦争に関する題材の内容が多かった。小さいときは好奇心旺盛で、色んな知識をスポンジのように吸収する。そして吸収した様々な知識から自分の自己を得たり、物事の良し悪しを決めていくんだが………もしそれが一方通行な知識だけ詰め込まれたらどうなる?」
深く考える3人、流石にライは勘づいたのか納得した様子だった。
そんな中優理が恐る恐る手を挙げた。
「その事が正しくて他の事が全て嘘だと信じこんでしまう?」
「正解。………ですよねバルトさん」
「ああそうだ。………まあ俺の場合は文字や単語を覚えるのに精一杯で座学での刷り込みなんかは全然頭に入ってなかったがな。………だが奴等はこう教えていたのは覚えている。『戦って死ねば極楽な世界へと旅立てる』と………」
「クズめ………」
「子供達を何だと………」
夜美とフェリアが怒りを込めながら呟いた。
「あのバルトさん………特別授業は………」
「………ハッキリ言って女が大勢いる場所で話したくはない。大雑把に言えば性的な暗殺術を教えたりストレスを溜めないように敵捕虜を使って暴行やレイプ紛いな事を行っていた。そして当然の様にこう言っていた。『これは救い』だと」
そんなバルトさんの言葉に俺も含め誰もが返す言葉を失っていた。
「………当然バルトさんも………」
「ああ。その時の俺はただの人形だったからな。だが幸運にも言葉を知らない俺は刷り込みは効かなかった。それが俺にとって救いだったな」
「救い?」
「俺も同じだったらここにはいなかった、あの時死んできただろう。そう、あの教会での生活は長くは続かなかった…………」
半年後………
「よう、バルト。今回の戦闘訓練凄かったじゃないか!!」
「ああ」
何時ものように戦闘訓練を終え少々休憩しているバルトにケントが話しかけてきた。
「次は特別実習だな、今日も敵捕虜の『救済』かな?」
「………」
首を傾げるバルト。
多少コミュニケーションを取れるまでなれたバルトだったが未だに単語の意味など分からないことばかりだった。
「ああごめん、救済って助けるって意味だよ」
「助ける………?」
「そう、無事天国へ行けるように俺達が手を差し出し、最後に死を持って天に召される。俺はこの瞬間が嬉しいんだ。こんなゴミみたいな俺が人に救いを与えてあげられる人間になれたって」
「………」
バルトはケントの言っていることの半分も分からなかった。
しかし………
(俺達と彼等はなんで違う救いなんだろう………)
その疑問こそ全ての始まりだった。
「俺は特別実習の後、皆が寝静まったのを確認しておもちゃにされている地下へと向かった。その時はたまたま捕まっていた敵の国の女性だった。………まあそれは別で実際は捕虜のふりをして入り込んだスパイだったんだが………」
「もしかしてバルトさん、その人を………」
「ああ、逃がした。不意に疑問を持った俺は、足らない自分の言葉を懸命に使いながら女に話しかけた。『救いって何?』ってな」
興味本意だった。
別に可哀想だとか、救ってやろうとも思っていなかった。
「………誰?」
「………」
問いかけられても何も答えずバルトは女の元へと歩いていく。
女は20代位で両手を鎖で繋がれ、裸であった。
全身傷だらけで、太股に白い線の後ができていた。
「何?もっと相手してほしいの?」
「………」
「それとももっと殴りたい?好きになさい」
自暴自棄になっているように見えたが目には光があった。
何か希望を持っているように見えた。
「気味が悪い、ここに来て初めて話しかけた子がこんな無反応な子だったとはね………」
実際に実習が行われている際は口は塞がれ、言葉を発せられないようにされている。
「………聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「救いって何?」
「えっ!?」
女は驚いていた。
救いだ救いだと好き放題する子供にそれを教える大人。誰もが意味など考えずその行いこそ正義だと言い聞かせている中で、この気味の悪い少年は疑問に思ったのだと。
「救いと言いながら笑顔で死んでいった奴と違って捕虜の人達は皆笑顔で死んでない。………本当に救われてるのか?」
「………何を言ってるの?頭おかしいんじゃ………」
「シスターヘイトからは戦い、笑顔で死ぬことが最高の救いだと言っていた」
「それを鵜呑みにして信じてるの!?バカじゃない!!何も救われていないわ。ただ単にあなた達を利用するために大人達が勝手に言っていることよ!!」
「じゃあ救いって何?」
そんなバルトの問いに女は少し考え込み、何かに閃いた顔をした後、口を開いた。
「困った人を助ける事、救いの手を差し伸べる事。あなた達のやって来た事は救いの手を差し伸べたんじゃない。むしろ追い払っていたのよ」
そう言われたバルトは少し何も喋らず考え込み………
「そうか」
「えっ?ちょっと!?」
そうかと納得したバルトはそのまま部屋から出ようとしたので慌てて女はバルトを止めた。
「どこ行くのよ!!」
「帰って寝るだけだが?」
「助けてくれないの?」
「?何故助ける必要がある?」
「だって貴方、ここの大人達が教えていることに疑問を持ったから私に話しかけたんでしょ!?」
「ああ。で、分かったから帰ろうと………」
「そこがおかしい!!いいからこっち来なさい!!」
あまりにも必死だったのでバルトも渋々女の元へと向かった。
「貴方は大人に良いように利用されることに何とも思わないの!?」
「別に構わない。俺には何も無ければ何かしたいこともない」
「寂しい子。だったら世界も見たこと無いのね?」
「世界………?」
「この世界は多数あって様々な生物や人々が暮らしている。魔法の全く無い文化もあればここよりかなり進んだ文明を持つ世界もある。貴方はそういう世界、見たいと思わない?」
「その誘いはあの時の無気力の俺に何かを芽生えさせたのは確かだった。感情も録に無い俺が初めて自分の意思を持った瞬間だった………」
そう言ったバルトさんの目はその時を懐かしんでいるように見えた。
世界………同じように子供だったのなら世界という広い世界を見て見たいと思うのも必然だったのかもしれない。
「で、どうしたんです?」
「女に提案されてな、『私に協力してくれればその手伝いをするわ』と。俺は迷わず女を解放し、逃げる手伝いをした。全員寝静まっているし、起きてるやつは気づかれる前に後ろから電気ショックで気絶させた」
「電気ショックとは………威力を弱めるのも相当技術が必要な筈だ。………元々天才的な戦闘スキルを持っていたって事だね」
そんなスカさんの説明に納得する皆。
「そして大体1週間後、その教会は敵側の国に襲撃を受けた。俺も戦ったが、レベルが違いすぎた。いつの間にか気を失っていた俺は気がつけば大きな茂みの中にいた。吹っ飛ばされたのか分からないが、取り敢えず大きな怪我もなく身体に深刻な影響はなかった。静かすぎる周りの様子を見るため、起き上がると、そこにあったはずの教会が廃墟となっていた。シスターヘイトもケントも誰もいない。ただ、教会の焼き後がそこにあるだけだった」
「そんな………」
「じゃあその女は約束を破ったってことか!?」
「酷い………!!」
「そんなものさアギト、優理。所詮口約束って事だ。それにあの場所は無くなった方が良い」
経験した本人にそう言われ、押し黙ってしまうアギトと優理。
「それで………バルトさんはその後どうしたんです?」
「その後の俺は傭兵として各地を回り、自分の名を上げた。あの時は両方の国はこぞって強い奴を傭兵として雇用したがっていたからな。俺は戦闘訓練もしていたし、電気変換気質でもあったから高く売れた、後は殺し、逃げ、戦い、生き残る。その繰り返しだ。その内に金も貯まっていってな。その金でこのアグラットから出ようとした。あの女が言っていたように色んな世界を見るために。そして恐らく10年位たった後か………年齢で恐らく15、6位か?ジジイに会ったのは………」
「アグラット………想像以上に酷い国だったな……」
「そうですね、お父様………」
アグラットの一国、アルドルトのバーストロ空港。
戦場から遠くはなれたこの空港は他世界から来た者を向かい入れられる唯一の空港であった。
「この戦争を早期終結するために管理局と合同で戦争に介入することを上は決断したようだ」
「じゃあお父様が今日ここに立ち寄ったのも………」
「ああ、視察だ。………お前には危険なこの世界に連れてきてしまったのには申し訳なく………」
「いいえ。私も将来騎士として戦う以上、こう言った世界の事は見ておかなければなりませんから……お前には」
「ワシとしてはお前を騎士になどしたくはないのだが………」
「いいえ、もう決めましたから」
そんな事を金髪の少女に言われ、初老の男性は困った顔で目頭を押さえた。
(我が娘ながら勇ましく育ったのもよ………だがカリムのレアスキルはこれから先、聖王教会だけでなく、世界にとって役に立つ能力となるだろう。ワシは職務上ずっとくっついて守ってやる訳にはいかぬし、出来れば護衛を付けて守ってほしいのだが………)
そう思いながら自分の顎髭を触りながら天井を見上げる。
聖王教会騎士団長、ロレンス・グラシアは昨日行った騎士選抜試験を思い出していた。
自分の1人娘、カリム・グラシアの騎士として誰を選ぶかの試験である。
本来そんな事はしない聖王教会であったが、カリムのレアスキル『プロフェーティン・シュリフテン』の重要性を考慮した結果、専属騎士と言った例外が通ったのだった。
………一人娘の溺愛っぷりが有名のロレンスが多少強引に認めさせたのは言うまでもない。
「さて、後は聖王教会に戻りミーティングだな………全く何時になったら休めるのか………さっさと引退して余生をのんびり過ごしたいものだ………」
「お父様より強い者が現れたらかもしれませんね」
「ならば一生現役だなワシは」
「まあ、お父様ったら!!」
そんな風に楽しげに会話をしていた2人。
しかしそんな楽しい時間も大きな爆発と共に終わりを迎えた。
「何事だ!!」
「て、敵が!!」
「くそっ!?何でこんな戦地から離れた場所に………!!」
慌てる職員達を尻目にロレンスはカリムと共に壁ぎわに移動し身を屈めた。
「カリム、あっちで待っている俺の船に連絡は取れそうか………?」
「………駄目です、電波障害か、もしくはAMFを使われているのかノイズが激しいです」
「準備が良いじゃねえか、これはもしかしたら機会をうかがっていたな………だから傭兵を多用し続けるのは危険なんだよ」
実際傭兵だけではない。住んでいる人々も長期化する戦争の影響で住んでいる場所を転々としている。
その際、潜入した敵のスパイが内から崩そうと誘ったり誘導したりする。
「お父様、あれ!!」
滑走路では既に魔法戦が始まっているが、予想以上に敵の数が多い為、かなり押されていた。
「………これは中で戦闘が始まるのも時間の問題だな」
「お父様………?」
「非常時だ、敵を制圧する」
「いくらお父様でもこの数は!!」
「カリム、危険だからお前は何処か見つからない場所で隠れていろ」
「お父様!!」
「ヴィンデルブレンバーセットアップ」
そう言うと両腕に沿うように長い双剣が現れる。
「さて増援が望めない以上、何とかカリムの脱出路だけは確保せんとな………ならば少々危険だがワシが囮になって敵を引き付けるしかなさそうだな………」
「お父様!?お父様がいなくなってしまったら聖王教会はどうなるのです!!」
「確かに未だに私利私欲の為に教会を使おうとする者はいる。だがソイツでは結局何も出来んよ」
「ですが………」
「時にカリム」
「えっ?はい?」
「何故ワシが死ぬ前提なんだ?あれくらいの人数にワシが殺られると思っているのか?」
「………………出来ません」
長々と考えた結論がそれだった。
「と言うことだ。お前はワシが敵を引き連れている内にさっさと脱出しろ」
「えっ?お父様!?」
止めるカリムを無視し、外へと向かっていったロレンス。
「脱出しろって言われても………」
周りを見ても出口は入ってきた入り口のみ。
その入り口は全てシャッターが降りており完全に逃げられないように塞いでいた。
「入り口は駄目、だからって滑走路に出ても敵に狙われて終わり。後は職員用の非常口かな?」
職員に聞こうとしても逃げまとい混乱していて話しかけられる状況でもなく、他のお客もその場でうずくまっていた。
「自力で探すしか………きゃああ!!!」
大きな爆発があり、その場が大きく揺れた。
「何………?」
隠れている場所から恐る恐る顔を出すと、先ほどまで普通に歩いていた場所に人が地だらけで倒れており、上から光が指していた。
(天井を爆破して………?)
「きゃああ!!!」
「た、たすけ………がふっ!?」
上からゆっくりと降りてきた魔導師達はお客、職員を問答無用で射殺。
(質量兵器!?魔法じゃないの!?)
その後も逃げ惑う人達を容赦なく射殺していく魔導師達。
(酷い………無抵抗の人達をここまで………!!)
悲惨な光景に声を上げたくなるのを抑え、必死に恐怖に耐えた。
『………デルタチーム、滑走路に目標魔導師が出現。かなり手強い、至急救援を求む』
「デルタリーダー了解。デルタ1、2、3をそちらに送る」
(お父様だ………やっぱりこの場はAMFが施してある。まだ研究段階って聞いていたのに何故………)
「デルタ4、5、6は俺と共にカリム・グラシアを捜索する。見つけ次第始末しろ」
「「「了解!」」」
(狙いは私!?AMFを知っていて私達を狙う人物………まさか!!)
そんな風に考えていた時だった。
「た、助け………」
「えっ!?きゃあ!!」
カリムの隠れていた場所に助けを求めてはってきた男が居た。
「た、助けて………」
そう声を出した後、直ぐに射殺される男。
そして先程の悲鳴は聞かれてしまい、敵の魔導師がカリムの所までやって来た。
「ターゲット発見。これより射殺します」
「あ、ああ………」
恐怖のあまりすくんで逃げることも出来なくなってしまうカリム。
(お父様………!!)
そう願って目を瞑ったその時だった。
「ぎゃああああああああ!!」
突然悲鳴をあげた目の前の男。見ると感電した後のように全身黒焦げでそのまま横に倒れてしまった。
「えっ!?これは………」
「………全く、これから新天地へ旅立つところで何で邪魔が入るかね………ここしか他世界に行けねえんだぞ?分かっているのか、ああ?」
そう言ったのは黒いマントで体を隠した銀色の髪の褐色の男だった。
顔立ちはまだ幼さが見えるものの、逞しい体つきと背丈並みに大きな斧が少々アンバランスに見せている。
まるでチンピラの様に倒れている男に睨む少年。
「あなたは………?」
「ん?生き残りか?俺はバルト。お前は?」
「カ、カリム•グラシアです………」
「………それが彼、バルトマン•ゲーハルトとの出会いよ」
懐かしむように思い出しながら話すカリム。
現在彼女ははやての連絡で急遽六課へと赴いていた。
はやては今回六課で起きた事件を見て意見を聞こうとしていただけであった。
しかし映像を見たカリムが静かに涙を流していた事で話が変わる。
落ち着いたのを見計らい、カリムは静かに話し始めたのだった………
「その時、バルトマンはバルトって名乗ったんやな」
「と言うよりバルトが本名よ。バルトマンは事件を起こした後、名乗っていた名前」
「じゃあ今バルトさんが名乗っていたバルト•ベルバインが本当の名前?」
はやての部隊長室で話しているカリムだったが、そこにははやて以外になのは、ヴィヴィオ、フェイト。そしてカリムのつきそいで修道女シャッハ•ヌエラが居た。
「いいえ、彼は名前しか無いって言ってたわ。だからお父様はその後ログスバインの名字を与えたのよ」
「ログスバイン?」
「ねえシスター、その名前って有名なの?」
「ヴィヴィオちゃん、シャッハで良いですよ。で、ログスバインと言うのは長年先祖代々聖王家に仕えていたとされる騎士の家系の名ですよ。確か100年くらい前に跡継ぎがいなくなった後、家系は断絶して血筋もいないとされている。その家も今や歴史に刻まれているだけって聞きましたけど………もしかしてゲーハルトも………」
「ええ。お父様はあの話が大好きでしたから。『ログスバインとゲーハルトの伝説』………バルトもそれを知っていたからゲーハルトと名乗っているのよ」
「裏切りの忠義の騎士ですね………」
「裏切りの忠義の騎士?それって矛盾しているんじゃ………」
「いいえフェイトさん、間違っていないわ。彼の生き方がそう言える生き方なのよ………」
そんなカリムの言葉にフェイト達4人はそろって首をかしげた。
「………取り敢えずその話は後や。続きの話を聞いてええか?」
「ええ、続きを話すわね………」
「あ、あの………バルトさん………」
「うるせえ、話しかけるな。………しかしバカスカ撃ってくるな。………だが何故奴等は魔法を使ってこないんだ?普通に魔法の方が簡単に殺れるだろうに………」
「あの………」
「黙ってろっての!!」
激しい銃撃の中、バルトはカリムを庇うように後ろに待機させ、逃げたカウンターの横から辺りの様子を見ていた。
「ボルティックランサー!!」
展開した雷の槍が近づいてきた男の肩を貫く。
「うぐっ!?」
「デルタ4、下がれ!!試作のAMF下でこれほどの魔法を………想像以上の手練だ!!デルタ3は後退と同時に援軍を要請してくれ」
「わ、分かりました!!」
そうして何とか敵を近づかせないようにしていたバルト。しかし敵の攻撃で中々動くことが出来ないでいた。
(1人ならどうにでもやりようはあるが………)
ふと後ろで何も喋らない様に口を塞ぐカリムを見てそう思ったが、その考えは直ぐに消え去った。
(別に何かの義理があるわけじゃねえが何かの縁だ………それに良い家の娘っぽいし、もしかしたらこの世界を抜け出すのに役に立つかも知れねえ………)
そう思いながら一旦射撃が終わった敵の方を確認する。
(現在敵は3人。増援が来る前にやるか………!!)
そう決めた後のバルトの行動は早かった。
カリムに何も言わず飛び出すバルト。
「来たぞ撃て!!」
リーダーの合図で銃を構える敵3人。
「遅えよ!!」
それに対し、バルトは相手が構えるより前に目の前にいる敵に自身の斧を投擲。
「がっ!?」
「デルタ5!?」
斧は真っ直ぐ構えた敵に直撃。斬るというより、大きな斧の質量で押しつぶした形で男は倒れた。
「この………あがっ!?」
「死ね!!」
そして更にもう一方の敵の目の前まで移動していたバルト。
敵の顔を掴み、高電力の電気を直接流した。
「デルタ6!!このぉ!!」
リーダーの男はバルトに向かって発砲するが、バルトは先ほど掴んだ男を盾代わりにした。
「貴様!!」
「怒るな、ほら、返してやるよ!!」
そう言ったバルトはリーダーに向かって盾に使っていた敵を投げつけた。
「き、貴様!?」
「終わりだ雑魚が」
リーダーが投げつけられた部下を抑え、バルトを見たときには既に斧が振り下ろされた瞬間であった………
「あの時はびっくりしたわ。全く魔法を使わず、銃を持っていた相手を制しちゃうんですもの」
「ああ、バルトさんならやりかねへんわぁ………」
「確かに………」
「バルトは昔からやんちゃだったんだね!!」
「まあ………ちょっとやんちゃとは違うと思うよヴィヴィオ」
フェイトがそう訂正するが当の本人はまるで聞いていなかった。
「やっぱりバルトは昔から強かったんだなぁ………」
「うれしい?」
「うん、一応パパだからね!!」
シャッハに元気よく答えるヴィヴィオ。
(娘か………あの人は子供苦手だと思っていたけどちゃんとパパやれてるんだ………)
とヴィヴィオの様子を見ながらそう思うカリム。
「それで………その後どうなったんですか?」
「その後ね………バルトにとってもしかしたら思い出したくない事かもね………」
「おかしい………」
「あの………何がですか?」
「人の気配が全くしない………奴の部下が援軍を要請した筈だ。………にしてはあまりにも時間がかかりすぎている」
「遠くから来ているんじゃないんですか?」
「敵国からか?しかもここは位置的に大体中心部。ここまで援軍を出せるとは考えられないし、だからこそここまでしっかり準備をして決行したんだろう。………となれば援軍は外で戦っている奴を呼ぶのが定石だろう。だからそんなに時間が掛からずに援軍が来るもんだと俺は考えていた。だが………」
「来ないですね………」
「外もさっきから静か過ぎる………一体どうなってるんだ?」
そう話しながらも警戒して一緒に歩く2人。
「お父様は大丈夫かしら………?」
「さあな。………だが敵の方が圧倒的に数が多い以上高望みはしない事だな」
「お父様………」
俯くカリムを無視し、辺りを警戒するバルト。
「ん?誰か来る」
「て、敵ですか!?」
「分からん。………だが、1人のようだ」
「1人………ですか?」
「カリムー!!!居たら返事をしてくれ-!!!」
「お父様!?お父様ー!!!」
「カリム!?カリムー!!!」
互いに呼ぶ声が聞こえたせいか声の主は徐々に近づいてくる。
「よかったな無事で」
「はい、ありがとうございます!!」
「そうか、ありがとうか。………だったら俺の願いを1つ………!?何!!」
不意に斧で受け止めるバルト。
その衝撃は今まで味わった事の無い、重い一撃だった。
「くそっ、誰だ!!」
「貴様………ワシの可愛い娘を人質に取るとは………生かしてはおけん!!」
「「は?」」
思わず声がかぶってしまうほど呆気に取られていた2人。
「………あれが親父か?」
「はい、すいません………」
「謝らんでいいが、デバイスを展開してるぞ?」
「嘘っ!?お父様、やめて!!」
「聞いちゃいねえな、取り敢えず黙らせる、悪いが多少の怪我は許せよ!!」
そう言って斧を構え、身構えるバルト。
そんなバルトに対してロレンスは容赦無く襲いかかった。
「うぐっ!?」
移動する際のスピードは自分よりも遅いとバルトは感じた。
だからこそ相手を甘く見てしまった。
「ほう、ワシの一撃をしっかり受け止めたのは貴様が初めてだ、先程の奴等とは違うみたいだな」
「そいつはどうも」
そう余裕そうに答えたものの、バルトには全く余裕は無かった。
(腕が痺れてやがる………なんて重い攻撃なんだよ………!!)
「さて、そのままの体制で居ると言う事はこのまま攻撃して良いという事かの?」
「まさか!!あまり俺を舐めんなよジジイ!!」
その言葉と同じタイミングで一気に放電するバルト。
「電気変換気質か!!」
直ぐに離れたロレンスは大事になる前に攻撃から逃げることが出来たため、あまりダメージを受けることは無かった。
しかし当然それを見逃すバルトでは無かった。
「もらった!!」
完全に後ろをとったバルトはそのまま斧で叩き切ろうとしたが………
「電気を使って動きを封じた後、その斧で一閃………暗殺術か………ますます放っておけんな」
バルトは理解出来なかった。
「かはっ!?」
完全に裏を取り、そのままとどめを刺すはずだった。
しかし腹部を見てみれば相手のデバイスが腹部を付いていた。
「甘いの………お前くらいの魔導師とは何度も戦っている。どう攻撃してくるかなんて手に取るように分かるんだよ」
「くっ、このお!!」
膝を地面に付きそうなのを何とか耐え、横薙ぎに斧を振るった。
「おっと」
「ボルティックランサー!!」
ステップして避けるロレンスに向かって飛んでいく。
「なんの!!」
しかしボルティックランサー全てを自分の双剣で斬り裂いた。
「はああああ!!」
スピードは自分の方が上。その事を忘れていなかったバルトは今度は自分から向かって行った。
「良い度胸だ!!退くのでは無く、あえて向かってくるとは!!」
「凄い力だがスピードは俺の方が上だ!!」
加速した勢いそのままにロレンスに向かって斬りかかった。
「なっ………!?」
「悪くはない。………だが、それだけではワシには勝てんよ!!」
そんな渾身の一振りもロレンスは何事も無く受け止めた。
弾かれ、上手く着地したバルト。その顔は驚きで戸惑っていた。
「バカな………こんな事が………」
「どうした、もう終わりか?」
「くそっ………!!」
斧を振り上げ、構えるバルト。
「俺のとっておきだ、今度こそ殺してやる!!」
「ほう………良いだろう、来い」
そう言ってその場で構えるロレンス。
「馬鹿め!!死ね、ボルティックブレイカー!!」
斧に溜めた魔力を振り下ろすと同時に放出。
巨大な高威力の斬撃を生み出した。
「相当な威力の巨大な斬撃………武器からクロスレンジとミドルレンジに特化した魔導師だと思ったが、そうでもないみたいだな。………だが!!」
そう言うと半身になり右腕に力を入れるロレンス。
「はあああああ!!!」
ロレンスは大きな咆哮と共にバルトの砲撃を下からのすくい上げるように一刀両断した。
「そんな事が出来るのか………!?」
「これはただ単に魔力で刃をコーティングし打ち消したにすぎん。魔力操作が得意であれば最小限の魔力で高威力の攻撃を防ぐことだって可能だ。………まあ攻撃にもよるがな」
「俺はそこまで弱いと………」
「お前は弱くない。だが相手が悪かったな、ワシが強すぎるんだよ。………さて、話は終わりだ。何か言い残すことは?」
「世界を見るために俺は死ねない」
「この状況で助かるとでも?」
既にロレンスはバルトの目の前にいて、刃をバルトの首筋に付けていた。
「お父様………」
「カリム少し待ってくれ、今こいつの始末を………あがっ!?」
振り下ろされたチョップはかなり痛いようで頭を抑えながら地面をのたうち回っていた。
「何をするんだ!!お父さん、頭が割れるかと思ったぞ!!!」
「お父様こそ何考えてるの!!この人は私の命の恩人なのに!!」
「………えっ?」
「バルト、大丈夫!?」
「………初めて手も足も出なかった………本当に世界は広い………」
そう言って静かに目を瞑るバルト。
「バルト………?バルト………!!」
「ま、まさか………やり過ぎたか………?」
「……………」
「………寝てる」
バルトの寝顔はとても満足そうだった………
後書き
やっとパソコンネットで注文しました。
これで寒い中漫画喫茶に行かなくても済む………だけど漫画読むためには行かないと………
と、クリスマスが近いのに虚しくそんな事考えてました。
独り身なのに仕事は休み………何しようかな………
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