魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep9クロノ・ハラオウン執務官~Administrative bureau~
†††Sideルシリオン†††
茜色に染まっている空を見上げ、発動した“ジュエルシード”の影響で動いている大木を相手に、俺はただ1人で対峙する。なぜこんな状況になっているのかと言うと、俺が“ジュエルシード”の魔力を感じ、この場へと辿り着いた時より少し遡る。
・―・―・回想を始める・―・―・
俺とアルフはフェイトの治療を終え、“時の庭園”よりこの世界・地球の拠点である遠見市のマンションへと帰ってきた。フェイトはあれから気を失ったままだが、制限されていない俺の固有魔術で治癒系術式の“コード・ラファエル”を使用したから、今のフェイトの顔色は“時の庭園”に行くとき以上に良い状態だ。
「それにしてもすごいねぇ、魔術師ってやつは。他の魔術師もそんな簡単に怪我を治せるのかい?」
「いや、あれは俺だけが出来るものだから、他の連中は出来ない」
アルフは俺がラファエルを見てそう聞いてきた。フェイトやアルフに知られても構わない魔術に関しての情報は、すべて教えても良いと判断しているため教えることにしている。確かに他の奴には出来ない。何せこの世界に魔術師は俺とシャルの2人だけなのだから。
それに、シャルは治癒術式を習得していない。彼女は戦闘特化の騎士だ。防性術式や飛翔術式などの補助は持っているが、治癒術式だけは持っていない。だから真実、治癒術式が扱えるのはこの世でただ1人――俺だけということになる。
「ふ~ん、まあいいや。んで、これは一体何なんだい?」
アルフが指差すのは、フェイトの寝ているベッドを覆っている蒼く光るドーム状の結界。俺が先ほどフェイトの治療のために張ったばかりのものだ。
「ああ、この結界には対象者の精神的な疲労などを回復させ、睡眠がよくとれるようにする効果がある。30分もしないうちに万全な状態まで回復できるだろう」
「あたしはどれだけアンタに驚けばいいんだろうねぇ?」
アルフが腕を組みながら俺を見て、感心したような呆れたような複雑な顔をしている。
「う~ん、死ぬまででいいんじゃないか?」
「っ!・・・ということはアンタ、これからもあたし達と一緒にいてくれる、と思っていいのかい?」
冗談のつもりだったんだが、アルフは本気にとってしまったようだ。やはり慣れない冗談などを、結構真面目なアルフに言うのはまずかったか。どう返せばいいか思案しての沈黙。アルフは半眼となって、「何か言いなよ」と急かしてくる。それでも言い淀んでいると、アルフが心配そうに見てきた。
「なぁ、ルシル? おーい?」
おそらくこの“ジュエルシード”の一件が終わったとしても、俺は――たぶんシャルもだが、この世界に残っているままだと推測している。“界律”はわざわざ肉体や戸籍まで用意したのだ。今までの経験上、そういった契約はかなりの長期となる。ならこう答えるのが一番だろう。
「そうだな。出来る限りの間はフェイトやアルフと共にいようと思ってる。迷惑だと言うならいつでも言ってくれ。すぐに出て行くつもりだ」
「そうかい! これからも一緒に居てくれるんだね! いや~、良かったよ! フェイトが聞いたら喜ぶだろうねぇ♪」
そう言うと、アルフが喜びながら俺の両手をとって上下に振りまくる。というかアルフ。もう少し静かにしろ。
「ほら、アルフ。フェイトが起きるから、もう少し声のボリュームを下げろ」
「あ、ああ、っとごめんよ。つい嬉しくてね」
おいおい、泣くほど嬉しいって、どれだけ嬉しく思っていてくれているんだ。
「そんなに喜ぶことなのか? 俺がいなくなったところで困るようなことはないと思うけどな」
俺は背伸びしてアルフの頭を優しく撫でる。アルフは初めは驚いた顔をして、でもすぐにニコニコと笑って喜んでくれた。
「なぁ、ルシル?」
「ん? どうし――む!」
どこかで強力な魔力が生まれ、俺の魔力探査に引っかかった。この感じは、間違いなく“ジュエルシード”が発動したものだ。俺は「アルフ」と、目の前で満足げに笑う彼女の名を呼ぶ。
「どうしたんだい?」
「ジュエルシードの魔力を感知した。俺ひとりで行くから、アルフはフェイトを看ていてくれ」
「ちょっ!? アンタだけで!? フェイトを起こして――」
アルフがそう言ってくるが、君はフェイトの使い魔だろう。だから最後まで言わさずに、こちらが先に言葉を紡いでやる。
「おい、アルフ。俺はフェイトを休ませるために寝かせているんだ。それなのに使い魔である君が、主であるフェイトを起こしてジュエルシードの封印に向かわせる、なんて言うものじゃないと思うぞ」
「じ、じゃあ、あたしも一緒に行くよ!」
「だから。主の元から使い魔が無断で離れるのはまずい。 それに俺だけでも何とか出来るはずだ。だからアルフは、フェイトが起きるのを待っているんだ。もしフェイトが起きてもまだ俺が帰ってこない場合は、俺は海鳴臨海公園という場所に居るから来てくれ」
念のために“ジュエルシード”の魔力を感じる場所の名前を教えておく。まぁ、フェイトが起きる頃には終わるだろうが。それにしても、俺の魔力感知レベルがかなり高くなってきている。ここまで離れた場所にいるのに判るなんて、どういうことだ。
「判ったよ。無茶はするんじゃないよ」
「行ってくる」
とにかく俺は、シャル達が現れる前に事を終わらせる為、急いで公園へと向かった。
・―・―・回想終わりだ・―・―・
そして見つけたのが、“ジュエルシード”を取り込んだ怪物大樹。俺のことを自分を害する敵と認識した大樹が、勢いよくいくつもの根や枝を伸ばしてきた。
「我が手に携えしは確かなる幻想」
ステップで回避を続けながら呪文を詠唱。攻撃の手が緩んだその隙を見逃さず、「受けてみろ。こいつは結構すごいぞ」と大樹に向け・・・
――サンダースマッシャー――
フェイトの雷撃砲を放った。それで終わりだ。直撃を受けたことで大樹に巣くっていた“ジュエルシード”は停止した。さて、どうやって再起動させずにフェイトのところへ持って行こうか。何か良い術式や武装がないかを探してみよう。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
私となのはとユーノは、“ジュエルシード”が発動したのが判ったため、発動場所だと踏んだ海鳴臨海公園に向かっていた。そして公園に辿り着き、“ジュエルシード”の反応のあった場所に赴いてみると、「あれ? ゼフィちゃん・・・だけ?」そこに居たのはゼフィと名乗るルシルだけだった。そんなルシルのすぐ近くには、“ジュエルシード”がいつでも封印できるような状態で浮遊していた。
「フェイトとアルフが・・・居ないみたいね、どういうこと?」
おかしい。ルシルが単独で“ジュエルシード”の封印に来るなんて。なのはが「聞いてみよう!」ルシルの元へと歩き始めたから、私とユーノもそれに続く。
「ゼフィちゃん!」
なのはが背を向けているルシルを呼ぶ。ルシルは振り向き、私たちに始めから気付いていたのか驚きもせずに気軽に挨拶してきた。
「こんにちは、なのは、ユーノ。・・・シャルロッテ」
「こ、こんにちは。あの、フェイトちゃんとアルフさんは?」
私も聞いておきたい疑問をなのはが先に口にした。素直に答えてくれるとは思えないけどなのはからの問いということで、なのはの純粋さにルシルは大人しく答えそうな気もするわ。
「あの2人は今日は休み、最近は忙しいからね、休ませているんだ。だから元気な私だけでジュエルシードの探索をして、こうして押さえているんだよ」
ルシルは今でも声と口調を少女のように変更している。随分と慣れたものだわ。そろそろ素顔とかバラしてもいいと思うのだけどね。
「そ、そうなんだ・・・えっと・・・」
なのはが話すことがなくなったのか、視線を彷徨わせている。私たちが何をしに来たか忘れたんじゃないのかしら? 仕方ないわね、助け舟を出しましょうか。
「もう判っていると思うけど、私たちはそのジュエルシードを確保しに来たの。黙って渡してくれると嬉しいのだけど」
「そ、そうだ! アレは昨日みたいな危険なことを起こすことのある物なんだ! だから僕たちはジュエルシードを集めないといけないんだ。だから、お願いだから・・・渡して欲しい!」
「・・・ごめん。私にもジュエルシードを集める理由があるんだ。フェイトとアルフのために、あの2人の幸せのためなら・・・私は!」
ルシルの魔力が膨れ上がる。戦う気満々だけど、私たち3人を相手に勝てるわけがないのは判っているはずよ。なにせ昨日は私ひとりに苦戦したのだから。それでもなお戦いの道を選ぶというのなら・・・。
「なのは、ユーノ、やるわよ」
「でも、ゼフィちゃんともちゃんとお話をして・・・」
「なのは、彼女はまずい。まずはジュエルシードを封印した方がいい」
なのはがルシルと話がしたいというけど、ユーノが“ジュエルシード”の封印を優先するように言う。私もそれには同感だわ。今のルシルは、ひょっとしたらフェイト以上に話が通用しないかもしれないもの。
「そういうこと。私がゼフィを抑えるから、封印の方は任せたわよ」
「う~ん・・・判った。ゼフィちゃん、あとでお話してもらうからね!」
「・・・ごめん」
――鎖縄結界陣――
こちらが臨戦態勢に入ったと同時、ルシルは一言謝罪を口にし、“ジュエルシード”を無数の鎖で覆った。
「え?」「な!?」
その光景に驚くなのはとユーノ。そろそろ慣れたらどうなの? 魔術は魔法とは似て非なるモノ。魔導師の常識は一切通用しない。
「これで昨日のように暴走することはなくなった。だから、お互い全力で戦える。シャルロッテ。昨日は遅れをとったけど今日は負けない、負けられない」
ルシルがいつも以上の敵意を剥き出しにしている。一体何があったっていうの? ここまでやる気をみせるなんて。それにフェイトとアルフの幸せのためって?
「そこまで言うのだったら、こっちも本気を出すわよ」
でも考えるのは後。捕まえた後できっちり話を聞かせてもらうわ。“キルシュブリューテ”を構え、ルシルと対峙する。
『なのは、ユーノ。ゼフィの様子がどうもおかしい。何をしてくるのか判らないから、少し離れていて』
「「うん」」
「我が手に携えしは確かなる幻想」
その呪文と共に現れたのは、ルシルの体を覆う紅蓮の炎。背には一対の炎の翼が現れて、空気を焼いている。そして左手には同じ紅蓮の炎を纏った長刀が握られていた。
「いくよ・・・!」
――飛焔――
ルシルが刀を振ると、炎で出来た剣が扇状に拡がりながら飛んできた。かなり威力が高い。これは結構な高ランクの術式らしい。
「甘い。雷牙――・・・」
術式を発動させようとした瞬間、ルシルが炎の中から現れて斬りかかって来た。
(馬鹿な!? 私を相手に剣で戦うつもり!?)
咄嗟に跳躍して炎を回避するけど、ルシルが追撃をかけてきた。
――龍翔閃――
「くっ、この・・・!」
刀を頭上で水平に構えて、峰に空いてる右手の平に添えてそのまま跳躍、私を斬り上げようとしてきた。その一撃に対してこちらは“キルシュブリューテ”を振るって弾く。何とか捌くことが出来たのだけれど、ルシルはさらに追撃をかけてきた。
「「はぁぁぁぁーーーーッ!」
――空破斬――
――風牙真空刃――
落下し始めたルシルが放つ真空の刃と、落下を始める直前の私の放つ真空の刃が衝突する。ドンッ!という大きな音と共に周囲に衝撃波が拡がり、私はさらに上空へと押し上げられた。私がその一瞬目を閉じたのを最大の隙として、ルシルは炎と刀を消す。今度は両手に風が集まり竜巻となるのを見た。そして私に向かって跳躍。
「風牙裂千 空帝 双嵐掌!」
膨大な力を誇る竜巻を纏った掌底攻撃。当たったら痛そう。他人事みたいに思いながらこの身に受けてしまった。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
シャルちゃんがゼフィちゃんの攻撃を受けて大きく吹き飛ばされて、「え・・・?」海に落ちちゃった。私は「シャルちゃん!」っと叫びながら、シャルちゃんの落ちた海へと駆け寄ろうとした。早く助けないと。助けたいのに。今すぐ助けたいのに・・・。
「次は君だよ、なのは」
「っ・・・!」
ゼフィちゃんの冷ややかな声で私の体が震えあがる。怖い。背を向けたくない。そんな時、「行って、なのは!」って、ユーノ君が私とゼフィちゃんの間に立ち塞がった。
「ユーノ君!?」
「僕が何とかしてゼフィを食い止めるから、なのははシャルを助けてあげて!」
「そんなダメだよ! ユーノ君が、今度はユーノ君がシャルちゃんみたいに・・・!」
そんなやり取りをしてる中でもゼフィちゃんがこっちに向かって歩いてくる。両手のグローブには蒼い魔力が迸っていて、少しずつナイフのような形になっていってる。震える両手だけど、それでも“レイジングハート”の先端をゼフィちゃんに向けようと頑張る。ゼフィちゃんが両手の指の間に挟んだ魔力のナイフを、私とユーノ君に向かって投げようってした。
「ストップだ!」
「「「っ!?」」」」
そこに突如現れた男の子が、ゼフィちゃんに向かって停止を呼びかけた。ゼフィちゃんも突然現れた男の子に驚いたのか歩みを止めてる。
「時空管理局、執務官クロノ・ハラオウンだ! 今すぐ戦闘行為を止めてもらおうか。それに詳しい事情を聞かしてもらうぞ」
クロノと名乗る男の子が私にも向かってそう言ってきた。でも、時空管理局って何だろう。
「時空管理局? 私はそのようなものは知らない。邪魔をしないでもらえませんか、クロノ・ハラオウン執務官?」
ゼフィちゃんも知らないのかそんなことを言ってる。私とユーノ君を1度チラッと見たクロノ君。
「管理局を知らない? 君も魔法を使っているじゃないか。なら魔導師のはずだ、知らないわけがないだろう?」
クロノ君はデバイスを向けながらゼフィちゃんと向かい合う。なんか、まずい雰囲気みたい。えっと、どうしよう。そわそわしてると、今度は後ろの海から大きな音がした。あ、シャルちゃんだ。次々と変わる状況に一瞬忘れてた・・・ごめんね。
「よくもやってくれたわね・・・!」
――炎牙崩爆刃――
「しまっ・・・!」
シャルちゃんは海から飛び上がった後、ゼフィちゃんの背後に着地。そのまま炎を纏わせてた“キルシュブリューテ”を振るって、大きな炎をゼフィちゃんにぶつけて大爆発を起こさせた。今度はゼフィちゃんが爆発によって吹き飛ばされた。
黒煙でよく見えないけど、海に落ちた音がしないから、ゼフィちゃんはあの煙の中にいるのかな。というか死んでいないよね? 大丈夫だよね? すごい爆発だったけど・・・。一応の敵であるゼフィちゃんの命の心配をしてると、足元にカツンと何かが落ちた。
「ん? あれ? これってゼフィちゃんの・・・仮面?」
私の足元にあったのは、所々がひび割れた黒く輝く仮面だった。
†††Sideなのは⇒フェイト†††
「ど、どうして起こしてくれなかったの!?」
私はついアルフを怒鳴ってしまった。
「フェイト・・・。あ、あたしもフェイトを起こそうって言ったんだよ。でもルシルが、フェイトは休ませるって聞かないんだよ」
アルフが悲しそうな顔を浮かべた。そう、だよね。ルシルならきっとそう言うと思う。私は「ごめんね、アルフ。私・・・どうかしてた。ごめんね、ごめんねアルフ」って謝りながら、俯いてるアルフを抱き寄せる。
「ううん、あたしの方こそルシルを止め切れなくてごめんよ」
今回は間違いなく私が悪いのに、アルフも謝ってきてくれた。
「ねぇアルフ、ルシルはどこに行ったの?」
「海鳴臨海公園ってところに行くって言ってたよ」
海鳴臨海公園。ルシルと初めて会った場所だ。結構広い公園だけど、結界が張られていればすぐに判るはず。
「うん、判った。バルディッシュ、調子はどう?」
≪Recovery complete≫
“バルディッシュ”も昨日のダメージを完全に回復させていた。それなら大丈夫。“バルディッシュ”をそっと撫でて、「頑張ったね、ありがとう」って労いの言葉を掛ける。
「それじゃ、ルシルのところへ行くよ、アルフ!」
「あいよ!」
そうして私とアルフは、ルシルの居る海鳴臨海公園へと向かうことにした。どうか何事もなく無事でいて、ルシル。
†††Sideフェイト⇒なのは†††
シャルちゃんが魔法でゼフィちゃんを吹っ飛ばしたのを見て、クロノ君が目を点にして口をあんぐり開けて茫然としてたけど、シャルちゃんの「まあああね」と頷いたのを見て再起動。クロノ君が「君は!」って怒鳴りながら、シャルちゃんのところへ駆け寄っていく。
「君は何をしているんだ!? いきなり現れて攻撃するなんて何を考えている!?」
「ハァ? あなた誰? ていうかうるさいわよ。それに、いきなり現れたのはそちらでしょう? 私はずっと居たのよ」
(うわぁ、今度はシャルちゃんとクロノ君がまずい雰囲気だよ!?)
クロノ君が「うるさいって。まぁいい」と呆れながらも、話を続けようとする。でも「僕は時空管理局執務官クロ――!?」と、最後まで言うことが出来なかった。
「話は後! 今はゼフィをどうにかしないと!」
シャルちゃんがクロノ君の口を手で塞いで、次第に晴れていく煙の方を見る。そこには夕日を背にして、手すりの上に立っている・・・あれ? もしかしてあの子って、温泉で会った、銀色の髪の男の子?
(あれ、あれれ? えっと、ゼフィちゃんって女の子じゃなかったの?)
私は軽くパニックを起こしてる。目の前に居るのは温泉で会った銀髪の男の子だった。でも声が女の子で、体は男の子で・・・。
「ついにバレてしまったか。正直、俺の正体は最後まで隠し通すつもりだったんだけどな」
声が男の子になっちゃった。やっぱり男の子なんだ、そうなんだ。男の子であんなに綺麗って・・・。今この場で考えることじゃないんだけど、女の子としてはちょっぴり複雑です。
「君は一体なんなんだ? 声がさっきとは違うが?」
「そんなことはどうでもいいだろう? 悪いけど、ジュエルシードを持ち帰らないといけないんだ。全員しばらく、気を失っていてもらおうか!」
ゼフィちゃん、じゃなくてゼフィ君が私たちを倒すために構える。臨戦態勢に入ったゼフィ君を見たクロノ君が驚きの表情を浮かべた。
「やめるんだ! 管理外世界での戦闘は禁止されている! 罪状が増えるだけだぞ!」
「ああもう、うるさい! 少し静かにしていなさい黒いの!」
反論すべきゼフィ君を放置して、シャルちゃんがクロノ君に怒鳴ってる。シャルちゃんとクロノ君の相性はあんまり良くないのかもしれない。
「クロイノ、じゃない! ク・ロ・ノ! 僕はクロノ・ハラオウンだ!」
「あ~はいはい、クロノね。悪いけどあの子との決着だけは邪魔しないでもらうわよ」
「だから! 管理外世界での戦と――ああもう、人の話を聞け!」
「そのまま言い争っていてくれた方が都合がいいんだけどな。我が手に携えしは確かなる幻想。穿て、ディバイン・・・バスター」
言い争っている2人の間に、ゼフィ君からの攻撃が放たれる。ゼフィ君の人差し指から放たれたのは桜色の閃光。
(というか、あれ? うそ!? あれって私の魔法だよ!?)
桜色は私の魔力光だし、魔法も私のだし。ゼフィ君っていったい何者なの?
「え!? 何でゼフィがなのはの魔法を使ってるんだ!?」
「さぁ、次行くぞ。フォトンランサー、ファイア!」
今度はフェイトちゃんの魔法だった。ゼフィ君の周囲に9つのスフィアが展開されて、槍のような射撃魔法となって放たれた。それに対してシャルちゃんは「調子に乗るな!」って、“キルシュブリューテ”の刀身に真紅の雷を纏わせた。
――雷牙神葬刃――
“キルシュブリューテ”を振るうと、ものすごい音とともに放たれた雷の斬撃がゼフィ君に向かってく。
「なのは! あなたも早く手伝いなさい! 殺す気で砲撃を撃ちまくって! いいわね!?」
「えぇぇぇぇ!? そんなの無理だよぉ!?」
殺す気って。私、まだ9歳の子供なのに、殺人なんて大きな罪を犯したくないよ。
「おい! いい加減にしろ! そっちの君もだ! さもないと逮捕す――うげっ?」
あ、シャルちゃんがクロノ君の首の後ろを刀の峰で殴った。もうクロノ君が眼中にないシャルちゃん。ゼフィ君は「あはは」って、シャルちゃんとクロノ君を見て笑いながらも「ディバインシューター!」私の魔法を使って攻撃を続ける。倒れた後、ゼフィ君の攻撃の衝撃で「わぁぁ~~~!?」吹っ飛ぶクロノ君。
「え~と、こういうのはなんて言うんだっけ・・・? あ、そうそうカオスだ」
「いっっったぁぁ! 何をする!?」
「・・・チッ」
すぐさま立ち上がるクロノ君を見て舌打ちするシャルちゃんはもう立派な悪役です。
――カット カット カット カット カット――
ゼフィ君は2人を見て笑いながらなんか呟いている。
――開幕直後より鮮血乱舞、烏合迎合の果て名優の奮戦は荼毘に伏す――
「ネズミよ回せ! 秒針をサカシマに! 誕生をサカシマに! 世界をサカシマに!」
ルシル君が真っ黒な影のような姿になっちゃった。
「回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ!」
――ナイトルーラー・ザ・ブラッドディーラー――
そして圧倒的な暴力が私たちを襲った。
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
シャルとクロノとかいう少年。あの2人を見ていると、かつての俺とステアを思い出す。懐かしく思い、少し手を抜きそうになる。だが、フェイトとアルフの幸せのために、あの子たちを倒す。
「回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ!」
とある吸血鬼より複製した能力を発動。俺は暴力のカタマリとなってシャル達を襲った。周囲を蹂躙した後、静かに地上に降り立つ。そして立っているのは俺ひとり、じゃないな。シャルは“キルシュブリューテ”を、クロノはデバイスを支えにして未だに立っているが、もう戦えないだろう。なのはとユーノは完全に気を失っているようだ。直撃だけは避けたので衝撃波による昏倒だろう。
「君は・・・本当に・・・何なんだ?」
「質問に答える義務はない」
クロノの質問を両断する。とそこに、2つの魔力反応の接近を察知。フェイトとアルフが来てしまったようだ。フェイトが起きるまでに帰るつもりだったが、思った以上に時間が掛かった。
『ルシル! 大丈夫、みたいだね。それはそうと仮面はどうしたの!?』
『フェイトの方こそ、もう大丈夫みたいだな。仮面は・・・攻撃を受けて吹き飛ばされたんだ。まぁ問題ない』
「これ・・・ゼフィがやったのかい?」
アルフが公園の様を見て呟く。至るところに抉れた穴や亀裂がいくつも走った地面。フェイトも今気付いたかのように、この公園の有様を見て驚いている。説明する必要もないと思うから「フェイト、これが今回のジュエルシードだ」と、俺は“ジュエルシード”の暴走防ぐために覆っていた鎖を消し、“ジュエルシード”をフェイトに差し出す。
「あ、うん。バルディッシュ、お願い」
「待て! ジュエルシードは第一級捜索指定のロストロギアだ! それをどうするつもりだ!?」
これは驚いた。この短時間でそこまで回復するか。デバイスの先端を俺に向け、クロノが睨みつけてくる。執務官という大層な肩書きに相応しい実力者というわけか。
「さっきも言ったとおり、質問に答える義務はない」
「ゼフィ、この人は?」
「なぁ、コイツ誰だい?」
「ん? あぁ、時空管理局のクロノ・ハラオウン執務官殿、だそうだ」
「「!!」」
クロノ本人から聞いた素性を伝えると、2人が驚きを見せた。どうやら時空管理局というのはちゃんと実在している組織のようだ。
「くっ、よくもここまでやってくれたわね」
シャルもようやく支えなしで立ち、こちらを睨む。それに“キルシュブリューテ”を構え直している。どうやらまだやる気のようだ。仕方ない。フェイトとアルフを完全に逃がすためにもう一仕事と行こうか。
「フェイト、アルフ、来てもらって早々悪いけど、先に帰っていてくれ、すぐに追いつくから」
「大丈夫、ゼフィ?『本当の本当に大丈夫?』」
「見てもらっている通り、この状況では俺に敗北はない」
「フェイト、ゼフィは大丈夫そうだから行こう『無理だけはするんじゃないよ』」
「・・・うん『待ってるから、早く帰ってきてね』」
『ああ』
フェイトとアルフが“ジュエルシード”を封印し終え去って行った。クロノが「スティンガーレイ!」とデバイスを2人に向け、高速の魔力弾を4発と発射した。
「我が手に携えしは確かなる幻想」
俺は左手で銃の形を作り、人差し指から「スティンガーレイ」を4発と発射し、クロノが放った魔力弾の迎撃を行う。ついでにクロノの足元にも魔力弾を撃ち込む威嚇射撃を行った。
†††Sideルシリオン⇒????†††
足元に撃ち込まれた魔力弾が地面を削り、破片を散らす。なんなんだ、こいつは。先ほどのデタラメな魔法、見たことも聞いたこともない。それに、時空管理局を知らないというのもおかしな話だ。そしてもう1人、僕の横に立ち、あの少年を睨む少女。
(あの少年といい、この子といい、2人揃って妙な魔力を使っているな・・・!)
この子の持っている剣からもまた異質な魔力を感じる。いや、今は目の前の少年こそを優先するべきだ。
「フェイト、行くよ! なに、アイツなら必ず帰ってくるさ!」
「・・・うん、アルフ」
フェイトと呼ばれた少女と、アルフと呼ばれた使い魔であろう狼が“ジュエルシード”を奪い去って行った。追撃しようにも少年から放たれてる魔力波がそれを妨害してくる。
「我が手に携えしは確かなる幻想」
あの少年が何かを呟く。何かの呪文か。その呪文に呼応したかのように彼の背後から、海から水柱が4つ、噴水のように立ち上った。それを目の当たりにした僕は「な・・・!?」開いた口が塞がらない。
「最悪。ここまでするわけ?」
隣の少女が諦めたような声を出している。確かに今の状況を見れば、もう諦めるしかない。
「俺もこれにて失礼させてもらおうか。ハイドロカノン、発射!」
4つの水柱から、高水圧の水流が放たれた。
「あ~、くそ」
愚痴をこぼす。まったく、この少年は一体何なんだ。
・―・―・シャル先生の魔術講座・―・―・
シャル
「今回もようこそ。私の私による生徒のための魔術講座へ。このコーナーの主であるシャルロッテ・フライハイトよ」
なのは
「こんにちはー♪ 前々回ぶりの助手、高町なのはだよ♪」
ユーノ
「生徒のユーノです」
シャル
「ようやく、素顔不明だったゼフィの素顔が見られたわね(私は知ってたけど)」
なのは
「ビックリしたよぉ。女の子だと思ってたら、本当は男の子なんだもん。しかもすっごい可愛いし。女の子の私としては、かなりショックだったよ(涙)」
ユーノ
「いやいやいや、ちょっと待ってよ、なのは! ショックを受けるとこはそこじゃないって! ゼフィって子、なのはやフェイトの魔法を何の苦もなく使ったんだよ!? それに、まっ黒な影のような渦になって・・・あれ、大魔法クラスの威力だよ!」
なのは
「ま、まあまあ落ち着いて、ユーノ君。そこはほら、シャルちゃんが説明してくれるよ。ね? シャルちゃん」
シャル
「まぁね。でも今回はダメ。次回辺りで説明するわ。今回は、このコーナーの主旨通りに話を進めさせてもらうわ。そういうわけで、私が使った魔術を紹介させてもらうわね。
――炎牙崩爆刃――
――雷牙神葬刃――
真紅の炎を纏った刀身から放たれる、爆発力の高い炎刃による一閃、炎牙崩爆刃フェアブレンネン。
高電圧の真紅の雷撃を対象に向けて放つ、雷牙神葬刃ブリッツ・エアモルドゥング。
フェアブレンネンは、焼却、という意味。ブリッツは雷光、エアモルドゥングは、殺害、という意味よ」
ユーノ
「ゼフィって子を1発で海にまで吹っ飛ばした爆発する炎の刃。結構過激だよね」
なのは
「非殺傷設定なんて無い魔術の炎とか雷なんて受けたら、真っ黒焦げになっちゃうよね、きっと。フェイトちゃんのならまだ安心?できるけど・・・。気を付けないとだめだよ? シャルちゃん」
シャル
「同じ魔術師のゼフィだから使うわけで、魔導師相手にはもっと安全?な術式を使うわ。それに、今回の術式でも安全ということを見せてあげるから、よく見ていて。キルシュブリューテに、こう・・・お肉とかネギとかを刺していって・・・」
なのは
「え? 何やってるのシャルちゃん。それってまるでバーベキューの串焼きだよ?」
シャル
「これで安全を示そうというのよ。良い感じに焼けることが出来たなら、それは魔導師にも安全が証明されるでしょ?」
ユーノ
「いやいやいや。生身の人間と食用加工されたお肉を一緒にしない方がいいって、シャル」
シャル
「同じよ。どっちもお肉なんだから」
なのは
「いやぁ、牛さんとか豚さんとか鳥さんのお肉と、人のお肉は一緒じゃないと思う」
シャル
「私にしてみれば大差ないわ。ほら、行くわよ。雷牙神葬刃」
バチバチ☆ジュージュー
ユーノ
「あ、なんか良い匂いがしてきた」
なのは
「あ、電撃でお肉が焼けてるっ♪」
シャル
「電圧や火力を自在に操作できるんだから、人体に影響が出ないようにすることだって出来るということよ」
なのは
「すご――」
パァンッ!
ユーノ
「あの、シャル。お肉とか野菜が弾け飛んだんだけど・・・」
なのは
「もったいない」
シャル
「・・・ま、たまには失敗もあるわ」
なのユー
「こわっ」
シャル
「コホン。えー、さて、では今日はここまでね。ではまた次回、お会いしましょう。ね?」
なのは&ユーノ
「ば、ばいばーい♪」
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