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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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新たなる力へ
  Trick61_私ギブアップ



信乃が塗装修理を完了した日の翌日。
時間は太陽が昇りきる前の頃。

信乃は常盤台中学のグラウンドに立っていた。
その正面には相対するように美琴が立つ。

校舎の日影には白井、美雪、美玲がいた。

ちなみに美玲の腕には、信乃が作成した義手が着けられている。
本来なら義手のリハビリが必要だが、そこは電撃使いとして生体電流の使い方が上手く、
昨日の半日で義手と分からない程度に動かす事が出来るようになった。
出す所に出せば、相当驚かれるスペックを持っているが、今はリミッターを掛けている。詳しくはここではふれないでおこう。

また、昨日の常盤台中学生には美玲が美琴に似ているとは気付かれなかったが、
美琴の事を良く知っている白井にはすぐに気付かれた。

適当な嘘として、美玲は美琴のハトコ(祖父母の兄弟姉妹の孫)と説明し、
似ているのは偶然と説明し、納得してもらった。


「それで琴ちゃん、ルールはどうする?」

「口調が普段と同じってことは、本気を出してくれるんだね、信乃に―ちゃん」

信乃の丁寧口調はキャラ作りだと本人が言っていた。
キャラ作りをしていない素の信乃がそこにいる事に美琴は少し嬉しかった。

「力の差を思いっきり知りたい。だから信乃にーちゃんに任せる」

「俺に任せる、ね。・・・俺に対するハンデのつもりか?」

「どう受け取っても構わない」

「そう」

臨戦態勢の信乃は、いつもの口調(キャラ)ではなく、西折信乃として準備していた。

美琴も隙を無く構えている。信乃に任せる事はハンデのつもりは無い。
信頼している。そして平等なのも知っている。
だから美琴は自分から言わず、信乃が決めた互いの能力を充分に出せる
ルールにしたかった。

それに、美琴は自分が勝ているとは思っていない。
自分が超能力者(レベル5)である事は否定しないが、それでも信乃が勝つと思っている。

「模擬戦のルールは簡単にしようか。
  1つ、移動範囲はグラウンドのみ
  2つ、時間無制限
  3つ、道具の使用と攻撃の無制限
  4つ、相手に負けを認めさせた方が勝ち。ただし相手の死亡は負けとなる

 これでどうだ?」

「・・・わかった。正直、死亡とか無制限とか恐いとは感じたけど、
 でも信乃にーちゃんのルールだから」

「信用し過ぎだろ」

「信頼しているのよ」

「・・・よくいうよ」

パチンと、A・Tの止金具を付ける。信乃の準備は完了した。

「これでOK。琴ちゃんの方は?」

「大丈夫よ」

「OK。美雪、合図をくれ」

「ん♪」

両者、それぞれ戦いやすい構えをとる。

「レディー♪・・」

美雪が弾いたコインが回転しながら落ちていく。

キィン

地面への落下音と同時に美琴は仕掛けた。

「いっけーーーー!!」

電撃の槍を飛ばす。
攻撃によりグラウンドから大きな土煙が上がった。

「やったの・・かな?」

土煙からいつ出てきてもいいように迎撃を忘れない。だが。

「チェック」

首筋に金属が当たる感触がした。A・Tの工具に使っているスパナを背後から当てられていた。

振り返り、信乃を見る。その眼は碧色(あおいろ)に変わっていた。

「裏の世界を知らない人間、ってことで・・・・そうだな。
 10回目までは大目に見てやる。11回目はマジ死ネよ、琴ちゃん」

全く気付けなかった。土煙から出たとは思えない。
土煙が上がる前? 電撃を完全に回避していたの?

自分の敗因を分析している間に、信乃は再び距離を取る。

「2本目行くぞ」

「2本目?」

「まさか、今ので負けを認めるつもりは無いよな?」

「!? うん!!」

勝敗は「相手に負けを認めさせること」だ。
確かに信乃の勝ちだが、自分の負けを認めるには戦い足りなかった。

「これなら、どうだ!」

先程よりも大量の電撃を、信乃を狙わずに前方にランダムに飛ばした。
一点に集中すれば簡単に避けられると思ったゆえの策。

「まだ避けられるよ」

信乃は上へと高く飛んだ。

「高い! でも空中なら避けられないでしょ!」

早速、電撃を飛ばす。が、その電撃よりも信乃が早かった。


翼の道(ウイング・ロード)
  Trick - Pile Tornado!! -


手で空気の面に触れ、集め、蹴り抜く!
その威力は学園都市のレベル4に相当する巨大な竜巻を発生させる。

「キャッ!」

迎撃のつもりが反撃されてしまい、美琴は防御も間に合わなかった。

しかし、竜巻は直撃せずに美琴の側を抉った。

「2殺」

攻撃は外れたのではない。信乃の意図的に外されたのだ。
美琴もそのことに気付き、悔しそうな声を出す。

「く、まだまだ!!」

一度、頭をリセットする。
攻撃的にせめていたが、それでは隙を突かれる。
ならば防御を中心にして隙を見つける方法に切り替える。

巻き起こるは電磁力、巻き上がるは砂鉄。
己を中心に高速移動する大量の砂鉄で防御を張る。

信乃は再び手を動して空気を集める。それは先程の竜巻と同じ初動作。

「同じ技。それなら!」

防御のため、砂鉄の量を前方に増やす。


翼の道(ウイング・ロード)
  Trick - Pile Tornado!! -


同じ(トリック)。美琴の予想通りだ。

ここまでは。

「よし!」

「前方以外は御留守ですね」


"血痕の道"(ブラッディ・ロード)
  Trick - Falco Fang × 30 -


右左後ろから放たれた“牙”は、前方に集中したせいで薄くなった他の方向からぶち抜かれた。


「3殺」

「な、なら! 砂鉄の量を増やす!」

自分の近くの砂鉄だけで無く、常盤台中学のグランドから全ての砂鉄を集める。

その美琴に向け、3度目になる空気の圧縮。

そして蹴り抜かれる技。


翼の道(ウイング・ロード)
  Trick - Pile Tornado!! -


先程より少しばかり大きな竜巻が蹴り抜かれた足から発せられる。

一瞬、先程と同じように前方の砂鉄を強くしようと思ったが、
失敗を反省して全面防御に徹した。

「あと、砂鉄の防御ですけど・・・・」

声は、竜巻の中から聞こえた。


CHAIN
  Trick - Limitet Express!! -


「竜巻の内側から!?」

信乃は竜巻の内壁を"レール"として走る。

高速移動に美琴は反応が遅れたが、分厚い砂鉄の壁が信乃を遮る。

しかし


"風爆の道"(ゲイル・ロード)
  Trick - Implosion Gun -


零距離から信乃の蹴りだした風の塊が、砂鉄の壁を軽々と撃ち抜いて美琴の横を通り過ぎる。

「4殺」

蹴りあげた足をそのままに信乃冷たく言い放った。

「・・・あ!? ま、まだ負けてないわ!」

自身を持っていた防御が簡単に破れた事に一瞬呆けていたが、復帰して前髪から火花が出る。
続いて放たれるは大量の電撃。最初よりも威力と量は比べ物にならない強力な電撃だ。

信乃は後ろへと跳び、幾度も襲ってくる電撃をギリギリでかわす。
だが美琴にはギリギリで避けているのも、本当は信乃の演出ではないのかと疑心暗鬼に陥っていた。

「なんで、なんで当らないのよ・・」

電撃とは電気、つまりは光速。人間に感知できる速度ではない。
放たれた後に避けるのは不可能だ。
自分の目の前にいる人は、それを平然と何度もやってのける。

電撃使いの美琴には信じられない光景だった。

「じゃあ何か? 避けなければ、その電撃は有効なのか?」

ふと信乃が止まる。同時に両足から大量の炎が吹き出る。

「!?」

「いいぜ、撃ってこいよ。自慢の電撃とやらを」

「くっ! それならくらいなさい!!」

美琴が電撃を繰り出す一瞬前、信乃は足を振り炎の壁を作り出した。


"炎の道"(フレイム・ロード)
  Trick - Fire Wall -


単純にして明解。電気の攻撃を拒む防御壁(セキュリティ)

「電気の天敵は“熱”。即ち『炎』だ」

磁力は一定温度(キュリー温度)に達すると消失する。
これを熱消磁(ねつしょうじ)という。
熱せられたことによって原子核の振動が活発になり自由電子の動きを妨げ電流が流れにくくなる。

磁力と電気は密接な関係にある。
当然、熱の、『炎』の影響を受けるのだ。

炎の道で美琴の電撃は完全に打ち消された。

「っ! また通用、しない・・・」

「だな、これで4殺」

声は最初と同じように後ろから。当然のように首にはナイフ代わりのスパナが充てられている。

「・・・信乃にーちゃん、お願いがあるの」

「なんだ? 本当は勝負中にお願いなんて普通は受け付けないけど、試しに言ってみな」

「これ、受けてもらえない」

取りだしたのはコイン。

それ意味するのは美琴の最大の技。

「面白い。その挑発、乗ってやる」

信乃は移動し、模擬戦開始時と同じ距離を取る。
距離は10メートルほど離れている。

動揺している美琴でも必中できる距離。
美琴は目を閉じ、一度深呼吸をしてコインを構える。

そして目を見開いて発射する。

美琴には見えた。信乃の後ろにいる影である双頭の龍を・・・。


発射の数瞬の前に信乃は動いた。

手を前方へと突き出し、堅固な(いぶき)の壁を繰り出す。


"風爆の道"(ゲイル・ロード)
  Trick - The Wind Wall of Refusal -


これで終わりではない。
壁に重ね掛けするように技を続ける。

颯の壁を蹴り降ろし、地面で反射させて気圧を増幅させる。
その瞬間、A・Tの後ローラーが展開し、翼の形容する。

風の玉璽(レガリア)

翼の羽と言える部分は、一つ一つが恐ろしいほどの風エネルギー変換装置。
颯の壁を吸収し、莫大な風エネルギーを発生させて壁を更に強固なものにする。


CHAIN

  Trick - Are Compressor 5065 hPa-


これは以前、棘の女王が対決した際に、嵐の王が出した技。

『威力』があるほど相対して『抵抗』も増す原理を利用する。
44マグナムの弾が水面に撃ち込むと弾き返されてしまうのと同じ。

技が完成した一瞬後、超電磁砲が壁に当たった。

真正面から当たれば勝っていたのは美琴だ。

だがしかし、遥か上空へ超電磁砲のコインを飛ばしたのは信乃の壁であった。

「・・・・・ハハ・・・やっぱり、信乃にーちゃんの壁は、大きいや」

自慢の、自身の象徴でもある超電磁砲が破られたにしては、美琴は落ち着いていた。

それもそのはずだ。これは美琴が望んでいた状況なのだ。

御坂美琴にとって、西折信乃という兄貴分はとても大きな存在だった。
一緒に住んでいたのも1ヵ月ほど。過ごした期間も半年だ。

だが、その半年の期間で能力をレベル1からレベル3に上げていた。
もちろん美琴の努力があってこその成長だが、その成長に信乃が関わっていた。

自分が困った時には助けてくれる。行き詰っていたら的確なアドバイスをくれる。
幼い美琴にはヒーローに感じていた。
と、同時に身近な存在でもあった。学園都市の能力判定ではレベル0。自分よりも下だ。
でも優しかった。勉強を頑張っていた。すごい人たと常に思っていた。

だから美琴は、学園都市のレベルを上げても、レベルの低い人間を見下す事は無かった。
努力を当たり前と考えていられた。

そんな信乃だからこそ、学園都市で7人しかいない超能力者(レベル5)の自分を
負けさせてくれると思っていた。

自分の誇りを、妹さえ満足に助けられない誇り(プライド)を壊せてくれると思っていた。

「信乃にーちゃん、私ギブアップ」

美琴は両腕を軽く上げ、お手上げのポーズで負けを宣言した。

「まだ10殺してないぞ」

「いいよ・・・時間の問題だし、超電磁砲も防がれたし、充分だよ」

「・・・大丈夫か? 自分が望んだとはいえ、プライドとか壊れたけど」

「うん、砕かれた。
 やっぱり、信乃にーちゃん、気付いていたんだ。
 私が全力を出して負けたかった事」

「ま、なんとなくな」

「そっか・・・信乃にーちゃんは、なんでもお見通しだね」

「・・・慰めてほしいなら、美雪の所に行け。俺の役割じゃない」

「ひどいなー。可愛い妹分が落ち込んでいるのに手を貸さないの?」

「俺は厳しくすること専門だ」

「じゃあ、お願いしていい? 厳しくすること」

「何をして欲しいんだ」

「鍛えてほしいの・・・・

 信乃にーちゃん、私にA・Tを教えてください!」



つづく
 
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