箱庭に流れる旋律
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笛吹き、登場する
さて、今僕達は“造物主たちの決闘”が始まるのを運営側の特別席で待っている。
僕やリリちゃんは、僕がここからBGMを歌う関係で、他の“ノーネーム”のメンバーは一般席が空いていなかったのでサンドラちゃんが取り計らってくれたのだ。
ちなみに、僕が歌うのはゲーム開始前の予定だったのだが、“音響操作”を常に使える状態にしておけば、不審者をすぐに見つけられるかもしれないという希望的観測により、BGMへと変更になった。
『長らくお待たせいたしました!今回の火龍誕生祭のメインゲーム・“造物主たちの決闘”の決勝を始めさせていただきます!なお、司会及び進行は“サウザンドアイズ”の専属ジャッジをしております、黒ウサギが務めさせていただきます♪』
そして、下では黒ウサギさんが司会を頑張っている。今回の主催者である、白夜叉さんとサンドラちゃんから正式に依頼したのだ。
まあ、それは普通のことだろう。昨日追加したというルールは、これで破ることができなくなったのだから。
でも・・・
「うおおおおおおおおおお月の兎が本当に来たあああああああぁぁぁぁああああああ!!」
「黒ウサギいいいいいいい!お前に会うために此処まで来たぞおおおおおおおおおお!!」
「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおお!!」
あれはやめて欲しい。
黒ウサギさんの耳もヘにょってなってるし、何よりリリちゃん達の教育によくない。
ついでに言うと・・・
「そういえば白夜叉。黒ウサギのミニスカを絶対に見えそうで見えないスカートにしたとはどういう了見だオイ。チラリズムなんて趣味が古すぎるだろ」
「フン。おんしも所詮その程度の漢であったか。そんなことではあそこに群がる有象無象と変わらんぞ」
「・・・へえ?言ってくれるじゃねえか」
あの会話も辞めて欲しい。絶対に教育上よくない。
「あの・・・奏さん?何も見えないのですが・・・」
「リリちゃんは見ちゃ駄目だ。教育上よろしくない」
「はあ・・・」
というわけで、僕はリリちゃんの目をふさぎ、あの会話が聞こえないよう“音響操作”を使って二人の会話だけを遮断している。
「見るな、サンドラ。馬鹿がうつる」
「あ、マンドラさん。よかったらサンドラちゃんにあの会話が聞こえないようにしましょうか?」
「ああ、頼む」
「承りました」
マンドラさんから頼まれたので、サンドラちゃんにも聞こえないようにする。
そんなことをしている間に二人は双眼鏡を取り出し、黒ウサギさんのスカートの裾を追っていた。
正直に言うと、ここから蹴り落としたいです。もちろんしませんが。
そして、対戦者の紹介とステージの設定が終わったので、そろそろ僕の出番だ。
『では、ゲームの開始の前に今回のゲームのBGMを歌う方の紹介をします!“ノーネーム”所属の、“音楽シリーズ・歌い手”のギフト保持者、“奇跡の歌い手”の天歌奏さんです!』
黒ウサギさんのノリノリの紹介や、僕の名前を覚えてくれている人が意外といることに少し驚いたが、それは表面に出さずに全体を見渡せる位置まで進む。
「皆さんこんにちは。只今紹介に預かりました、“奇跡の歌い手”の天歌奏です。ところで白夜叉さん、このステージではどのようなゲームを行うのですか?」
「前もって何も言わずに話を振ってくるか、普通・・・うむ。今回のゲームは、迷路になっておるステージのゴールを目指す、“アンダーウッドの迷路”じゃ!」
白夜叉さんがそう宣言すると、参加者の二人・・・春日部さんと、相手はアーシャさんだったかな?の手元に“契約書類”があらわれ、観客から見えるスクリーンにも同じ内容だと思われる文章が映し出された。
『ギフトゲーム名“アンダーウッドの迷路”
・勝利条件 一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る。
二、対戦プレイヤーのギフトを破壊。
三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)
・敗北条件 一、対戦プレイヤーが勝利条件をひとつ満たした場合。
二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。』
「白夜叉さん、ありがとうございました。迷路、ですか・・・では、BGMは“地下の迷路”という曲にさせていただきます!」
どうにか関連のある曲が思い出せてよかった。
さて、後は開始を待つだけだ。
『それでは、以上の項目を“審判権限”の名において。以上が絶対不可侵であることを、御旗の下に契ります。御二人とも、どうか誇りある戦いを。此処に、ゲームの開始を宣言します』
黒ウサギさんの宣誓が終わると同時に、ゲームと僕の歌が始まった。
さて、上手いことアドリブを加えてゲーム終了まで持たせないとね。
♪♪♪
「へえ・・・いい人材が揃ってるわね」
そして、そんなゲーム会場を“煌焰の都”の壁に立ち眺めている人たちがいた。
「確かに、人材の宝庫ですね。脅威になりそうなのは・・・“サラマンドラ”のお譲ちゃんを含めて五人ってところかしらね、ヴェーザー?」
「いや、四人だな。あのカボチャには参加資格がねえ。特にヤバイのは吸血鬼と火龍のフロアマスター。後ついでに、偽りの“ラッテンフェンガー”も潰さねえと」
そこにいたのは、白黒の斑模様のワンピースを着た少女と、やたらと露出の多い白装束を纏う女。黒い軍服を着た、短髪黒髪の男だ。
そして、その背後には巨大な、笛を擬人化したような巨兵もいる。
「ラッテン。今貴方は五人といったけど・・・もしかして、此処にいるの?貴方の探していた存在が」
「はい、マスター♪間違いなく・・・ここに“音楽シリーズ”のギフト保持者がいます」
「本当に間違いないのか、ラッテン?」
黒い軍服の男・・・ヴェーザーは白い露出の多い服を纏う女、ラッテンに尋ねる。
「ええ、間違いないわ。私の“共鳴”のギフトが発動して、私の霊格を高めているもの」
「そう・・・なら、間違いないわね。どれがそうだか、分かる?」
「恐らく、あそこで歌っているのがそうかと。歌と伴奏を同時に歌うなんて、“音楽シリーズ”以外に考えられませんし」
ラッテンがそう言うと、白黒の斑模様の服の少女、ペストは一つ頷き、二人に伝える。
「なら、彼の確保、又は感染を最優先。この都で一番の脅威は、白夜叉でも火龍のフロアマスターでも、純血の吸血鬼でもない。“奇跡の歌い手”よ」
「なら、ラッテンに任せよう。おまえなら、影響を受けないだろう?」
「もちろんよ、ヴェーザー。私だって、“笛吹き”の“音楽シリーズ”ギフト保持者だもの♪」
そう言ってラッテンが掲げるクロムイエローのギフトカードには、
『ラッテン・ギフトネーム“ネズミ捕りの男”“ハーメルンの笛吹き”“共鳴”』
と、そう書かれていた。
「じゃあ、これで作戦は決定。ギフトゲームを始めるわ。」
「おう、邪魔する奴は?」
「殺していいよ。“奇跡の歌い手”と白夜叉以外なら」
「イエス、マイマスター♪」
♫♫♫
ギフトゲームは終了した。
結果としては春日部さんの負けだったけど、かなりいいゲームメイクができていたと思う。僕も、あんなふうに戦えるようになりたいものだ。
そんなことを考えながら、曲にデクレシェンドをかけていると、音の響が少しおかしいことに気付いた。
まるで・・・何かが降ってきているような・・・反射的に上を見ると、黒い“契約書類”が降ってきていた。
「白夜叉さん・・・あれって、まさか・・・」
「何?」
僕が声をかけると、白夜叉さんも上を向き・・・慌てて一つをつかみ、中身を見るので、僕もそれに習う。
『ギフトゲーム名“The PIED PIPER of HAMERUN”
・プレイヤー一覧
・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁に存在する参 加者・主催者の全コミュニティ。
・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター
・太陽の運行者・星霊・白夜叉。
・ホストマスター側 勝利条件
・全プレイヤーの屈服・及び殺害。
・プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスターを打倒。
二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“グリムグリモワール・ハーメルン”印』
「魔王が・・・魔王が現れたぞオオオォォォォ――――!!!」
どうやら、僕は生まれてはじめての魔王とのギフトゲームをすることになったらしい。気を引き締めていこう。
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