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箱庭に流れる旋律

作者:biwanosin
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歌い手、和む

 で、来てみたらその瞬間に逆廻君に二つの木製の桶が直撃した。
 ・・・うん、どんな状況?

「あ、奏さん。そのコートはどうしたのですか?」
「あ、これ?この時間に外に出ると寒いから、ってサンドラちゃんが準備してくれた」

 で、なんで黒ウサギさんは投げ終わったそのままの体勢で質問ができるのだろう?

「次にこっちから聞きたいんだけど、これはどういう状況?」
「このコミュニティには変態しかいないのかしら、という状況よ」
「ああ、そういうこと」

 髪を払いながら向ける飛鳥さんの視線の先には、握手をする白夜叉さんと逆廻君が。
 おおかた、みんなの服装について変態的な発言をしたのだろう。

「あ、皆浴衣似合ってるね。飛鳥さんや春日部さんはやっぱり日本人だからしっくり来るし、黒髪や茶髪以外の髪色で浴衣を着ると違和感がうまれることもあるけど、黒ウサギさんやレティシアさんはそんな違和感もなく着こなしてるし」
「聞きましたか、十六夜さんに白夜叉様!この健全な感想を!」

 黒ウサギさんが急に声を上げるからビックリした。
 大したことを言えてない自信しかないんだけど・・・

「おいおい奏。これだけの綺麗どころが風呂上りの火照った肌に浴衣を着てて、思うことはそれだけか?」
「黒ウサギや飛鳥の豊かな乳房、耀にレティシアの健康的な肌に何も感じないと?」
「・・・まあ、それに何も感じないとは言いませんけど、わざわざ声に出すのはどうかと思いますし、そこまで細かい感想は抱きませんよ?」

 なるほど、これはあの二人が怒って桶を投げつけるのもわかる。そして、ジン君と店員さんがなんだかむなしい哀愁を分かち合っているのも。

 そして、このあと、今回の件についての説明、さらには参加者の中に魔王のコミュニティの残党が紛れ込んでいる可能性などを話し、解散となった。
 とりあえず、帰ったらサンドラちゃんに報告しておいたほうが良いだろうし、早く帰るとしよう。



♪♪♪



「と、これがさっきサウザンドアイズで話してた内容。一応、サンドラちゃんにも報告しておいたほうが良いかな、と思って」
「そう・・・ありがとう、奏」

 サンドラちゃんに報告したら、何かを覚悟するような表情でそう返してきた。

「今回の誕生祭に、“幻想魔道書群(グリムグリモワール)”の残党が・・・」
「えっと・・・あんまり気負わないでね、サンドラちゃん。まだ確定って訳じゃないから」
「ううん。残党じゃないなら、滅びた魔王のコミュニティの下部と繫がる名前を名乗っても、何の得もない」
「じゃあ、残党なら名乗ることで何かしらの得があるの?」
「自分達がまだ滅びていない、と言うことを主張できる」

 なるほど。確かにそれは見方を変えれば得だ。

「だから、何かしらの行動を起こしたら、そのときは私が・・・」
「でも、主催者顕現については、もう対策をうったんでしょ?」

 僕は、あの場で見せてもらった羊皮紙の内容を思い出す。

「たしか・・・コミュニティ間でのゲームの開催禁止。“主催者権限”を持つ人は、この都に入るためにホストの許可が必要。“主催者権限”の使用禁止。参加者以外の進入禁止。だっけ?」
「うん。白夜叉様の主催者権限を使って追加した、今回の誕生祭のルール。でも、ここは箱庭だから・・・」
「何が起こっても不思議ではない、と?」
「うん。だから、できる限り警戒はしておくべき」

 おそらくだが、階層支配者としての責任も感じているのだろう。どう考えても、その歳で背負うには重すぎる責任を。
 そして、一つ気になることがあったので、ここで質問してみることにした。

「そういえば、白夜叉さんから今回のルールについて聞いたときにも思ったことがあるんだけど、質問しても?」
「うん、どうぞ」
「じゃあ遠慮なく。このルールって、僕みたいに条件を満たしたら“主催者権限”を持つ人はどういう扱いになるの?」
「もちろん、対象外。わざわざ手に入れることができるかもしれない、位の人まで対象にしてたらきりがない」
「いや、そう言うことじゃなくて」

 サンドラちゃんが首を傾げるのを見て、少し説明を省きすぎたか、と反省する。

「例えば、僕の場合はこの“共鳴”のギフトのおかげで、これを持つ人が近くにいたり、持ってる人と何かしらの契約で繫がってるとき、霊格があがる。で、“音楽シリーズ”全員と共鳴することで、“主催者権限”を手に入れることができる。ここまではいい?」
「うん。それくらいは、少し知識がある人なら知ってること」

 たまに思うけど、この“音楽シリーズ”のギフトがそこまで有名だと言うことに実感が湧かない。やっぱり、自分のことはよく分からないよね。

「だから、僕の場合はこうして何の問題もなく“煌焰の都”に入れてる。じゃあ、もしも“音楽シリーズ”持ちが、順番にここに入った場合、どうなるか分かる?」
「この都の中で“主催者権限”が生まれる・・・」
「そう。で、“入ることを禁ず”だし、元から入ってた人は対象から外れるんじゃないかな、と」
「それは確かに・・・ううん、でも問題はない」

 少し悩むような仕草を見せたサンドラちゃんだが、すぐに否定して来た。

「問題ない、とは?」
「まず一つ目に、そんな特殊な形で現れる“主催者権限”は“音楽シリーズ”の“歌い手”くらいで、早々ないから」
「あーそっか。レアケースなのか」

 まあ、だからといって他にいないと断言できるわけではないだろう。
 では、何故問題がないのか。

「でも、この理由はかなり不確定なものだから確信はできない。でも、もうひとつの理由ならその方法は意味がなくなる」
「その理由って?」
「参加者は、“主催者権限”を使うことはできない」
「あ・・・」

 先ほど自分で言った中にあるのに、すっかり忘れてた。
 そうだ・・・さっき言ったみたいに裏をかき、入れたとしても使用が禁止されてる。
 そうである以上、僕が言った方法は警戒する必要がない。

「自分で言っておいてすっかり忘れてた・・・うわー、恥ずかしいな・・・」
「別に恥じることじゃない。それに、奏のおかげでやっぱり警戒したほうがいいことが分かった」

 サンドラちゃんはそう言って立ち上がった。

「まだ箱庭に来て間もない奏でも、このルールのひとつの裏をかく方法が思いついた。なら、もっと知識がある人なら全部の裏をかいて使う人がいる可能性は高くなる」

 しまった。余計にプレッシャーを与えてしまった。
 少し考えれば、こうなるかもしれないことぐらい分かるだろ、僕・・・

「だから、もっと警戒しない、と・・・」
「おっと」

 で、サンドラちゃんはフラフラしだしたと思ったら倒れた。
 慌てて支え、様子を見てみるが・・・

「すう・・・すう・・・」
「よかった。寝ちゃっただけか」

 よくよく考えてみれば、この子もまだ十一歳。もう起きているにはつらい時間帯だ。
 もしかしたら仕事の関係で夜遅くまで起きていることに慣れてるのかもしれないけど、今回は初の“主催者”として、それなりに緊張もあったはずだ。疲れはいつも以上に溜まっていただろう。

 僕はそのままサンドラちゃんを抱き上げて、サラマンドラの人に案内してもらいながら部屋まで運んでベットに寝かした。

 そのあと、トイレなどを済ませてから部屋に戻ると、リリちゃんが椅子に座って、こっくりこっくりと舟をこいでいた。
 確か、部屋を出るときには寝てたはずなんだけど・・・

「あ、奏さん・・・おふぁえりなさい・・・」
「うん、間違いなく眠いよね。どうして起きてるの?」
「トイレに行こうと目を覚ましたら奏さんがいなかったので・・・帰ってくるのを、待ってました・・・・」

 せめて書置きくらいはしておくべきだったと反省。
 まさか、帰ってくるまで起きているとは思わなかった。

「ゴメンね、何も言わずに出て行って。じゃあ、一緒に寝ようか?」
「ハイ・・・」

 リリちゃんはもう歩けるとも思えなかったので抱きかかえ、そのまま布団に入って寝ました。

 あと、こんなことを言うのはどうかと思いますし、変な趣味だと誤解されそうですが・・・二人の寝顔は、かなり可愛かったです。
 
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