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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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妹達
  Trick58_「響くぜ!」「手遅れだぜ」



「呼んだか、琴ちゃん?」

その声は暴風の方から聞こえた。

正確に言えば、暴風よりもさらに上。上空からの攻撃と同時に発せられた声だ。

風爆の道(ゲイル・ロード)

 Trick - Pile Tornado TREE HEAD DRAGON "Ghidorah"!! -


瞬間、圧縮されていた空気が爆ぜ、3本の竜巻へと代わり、その全てが一方通行へと振りそいだ。

「なァッ!?」

自分が作り出した超電離気体(プラズマ)を蹴り抜き無効され、同時に自分への攻撃に変えた。
この事にさすがの一方通行も驚いて攻撃に、3本の竜巻に呑み込まれた。

信乃は体のバランスを取るために、腹を中心に回転しながら音も無く着地した。

「さて、今の状況だけど・・・・」

辺りを確認した。その見渡す眼は、既に碧空の色に変わっていた。

倒れている御坂と同じ姿の少女、彼女がおそらく妹達(シスターズ)
頭からも血を流し、全身に打ち身、切り傷がある。
そして左腕はなく、力ずくで吹き飛ばされたような傷口からは大量出血が出ている。

妹達の隣に座り込み、左腕の傷口をハンカチか何かを使って止血している御坂美琴。
彼女は見た限り怪我は負っていない。体に付いている血は妹達のものだろう。

3人目に怪我だらけで立っている上条当麻。
足元に血だまりを作ってはいたが、致死量ではない。
妹達に比べれば少ない。大丈夫だ。

最後に(トリック)を喰らっていた白い男。
この男だけ、信乃は知らない。

だが、事前情報から予測は出来た。
絶対能力者進化計画(レベル6シフトけいかく)の要となる人物。

学園都市最強、一方通行(アクセラレータ)
能力はベクトル操作。能力の通称名称も一方通行。

つまりは、今回抑えるべき相手だ。

信乃が確認をしていた十数秒の間に、一方通行は竜巻の中から出てきた。

「あァン!? なんだオマエは!?」

「そこにいる子の兄貴分」

右手の親指で、後ろにいる御坂を指さす。
言葉自体はふざけているように感じる。でも声は凍える程に低かった。

「琴ちゃん、一応聞いておく。

 目の前にいる白いのが一方通行。学園都市最強で、実験とやらの被験体。

 血まみれに倒れているのが、通称妹達と呼ばれている実験のキーパーソン。

 白いのを倒して、怪我人を病院に連れていけばOK?」

「う、うん! それでOK!  って、信乃にーちゃん、実験の事を何で・・」

「なぜ知っているかは後で話す。今は1秒でも早くあいつを倒す事が優先だ」

「ま、待ってくれ! あんたは誰だ?
 いや! そんなことよりも、御坂妹を早く助けてくれ!
 俺の事は放っておいて構わないから!」

「上条さん、男らしくてかっこいいと思いますけど、その怪我で無理に動くと「違う!」 ?」

「俺は、実験を止めたいんだ! そのためには能力者があいつと戦ったらダメだ!

 実験は『一方通行』が最強ってのを前提としてシュミレートされている。
 だけど学園都市最弱の無能力者(レベル0)なんかに負ければ、
 その前提は覆される。

 お前みたいな能力者が参加したら、結局ダメなんだ! 実験がまた始まっちまう!」

「なるほど・・・そういう事か」

理解した。上条が言った事の意味を。
つまりは第10032次実験の中止ではなく、絶対能力者進化計画の中止が目的。

「上条さん、その前提を覆す方法ですが、武器を持った無能力者が参加しても大丈夫ですか?」

「それって・・・」

「時間が無いので単刀直入に聞きます。

 無能力者の俺が乱入しても、問題は無いか? って聞いているんです」

「無能力者!? だってお前、さっきの竜巻は・・・」

「時間が無いって言ったでしょ? 『はい』または『YES』で答えろ!!」

「イエス、サー! って両方とも意味が同じじゃないか!?」

「了解了解。俺が乱入して問題ないんだな」

上条を無視して、信乃は一方通行へと歩き進む。

「ンだよ? てめェはさっきからよぇ?
 俺を無視して話してんじゃ≪パシュン≫ねぇ・・・ぞ?」

時間が無い。その理由から、最速の方法を自分に催促する。

まずは相手の能力の把握。
能力が一方通行であることは実験の情報にあった。
情報の内容がどれほど適切かを確認するために、一方通行が話しているのをを無視して、
足元の石を蹴りあげ、蹴り飛ばす。

高速な動作の攻撃だったが、一方通行の能力が発動して石の軌道が逸らされた。

「やっぱり能力は常時発動している。本人の動体視力とかは本当に関係無いんだな」

今の攻撃、一方通行自身は気付いていなかった。

能力が最強であっても、人間としての運動能力は常人と大きく変わらない。
むしろ一方通行の体付きは細いので、常人よりも低い可能性が高い。

強すぎる能力ゆえ、能力に頼り過ぎて自分自身は衰えていたのだろうと信乃は予想した。

「じゃ一方通行、次はお前から攻撃してこい」

信乃が一方通行を軽く挑発する。
何度も言うようだが、時間が無い。信乃は一秒でも早く倒す方法を模索する。

体は半身、左足と左腕を前に出す。右手は腰の位置に置き、胴体に隠れて一方通行から見えない。

(あン? あの右手に隠し武器でも持ってんのかァ?
 まぁ、関係ねェがな)

新しく手に入れた能力の使い方。大気の圧縮による超電離気体の生成。
妹達がやられている今、一方通行の大気操作を邪魔するものはいない。

妹達(ソイツ)が動かない以上、オレの大気操作を邪魔する奴はいねェ!」

「大気操作・・・か。なんだか暴風族(ストームライダー)のお株を奪う
 能力を持っているみたいだけど」

三度目の正直、とは言えなかった。信乃は消えると同時に、再び上空に
駆けあがった。生成前の超電離気体は、空気の塊。
風の塊だ。

風系のA・T使い(ライダー)にとって、これほどおいしいものは無い。

「一方通行、てめぇは風に干渉する能力を持っているみたいだけど、
 風については理解していない。
 こんな大雑把で力ずくの効率の悪いものは見るに耐えられない。

 と、いうことで(それ)は俺が貰う」

手のひらでA・Tに風を送り、力を凝縮、開放する。

「最速で終わらせてやんよ、一方通行(さいきょう)さん!」

絹旗との戦いでA・Tが破壊した。
その代わり組み上げたのが、汎用性が高く最強とも言われる玉璽(レガリア)

発動するのは最も空に近い道、それを補助するは玉璽

  Moon struck drop 『バグラム』

風を送り込み、後輪が2枚羽のように変形する。

「一方通行、お前の(かぜ)も俺の(かぜ)変えてやる」

尋常ではない威圧感を出す信乃に、一方通行は≪龍≫を幻視した。

放たれる(トリック)は翼の道の最上位。
怒り狂う風の神がその翼の下に展開させた無敵の不死軍団。

翼の道(ウィング・ロード)
 無限の空(インフィニティ・アトモスフィア)
  無限の風(インフィニティ・エアード)

   Moon Struck Numberless Grappler(名もなき 狂躁の 格闘士ども)

技は周りを巻き込み、小石を吸い込み、瓦礫を取り込み、力を増していく。
巨大な竜巻でふっ飛んでくる様々な破片は、コンクリートや鉄板でさえも
安々と粉砕する“死神”となる。

「なン、だとォッ!?」

「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

その“死神”は、最強(アクセラレータ)に襲いかかった。

「グっ!?」

≪パシュン≫≪パシュン≫≪パシュン≫≪パシュン≫≪パシュン≫≪パシュン≫≪パシュン≫

全身の反射を使い、飛んでくる小石や瓦礫のダメージを跳ね返す。
その一方で、竜巻の風を自分の制御下に置くために演算を開始する。

「なンだよ!? この風は!!」

竜巻の風は、一方通行の演算の隙を見つけてすり抜けるように変幻自在に変わっていく。
先程の妹達が出した風と同じだ。

この無限の空は発動『した』ものではない、発動『している』ものだ。

今もなお、信乃の制御下で精密にコントロールされている。

「例えばの話だ、一方通行。お前の能力の連続使用時間はどのくらいだ?」

「ハッ! 何を言うかと思えばくだらねェことを。
 能力に目覚めてから一度たりとも消した事がねェ!
 年単位の時間なんて覚えているわけねぇだろ!!」

「そうじゃない、そうじゃないよ、一方通行。

 そんな能力を発動しても使われていない≪待機時間≫の事を聞いているんじゃない。
 ≪臨戦態勢時間≫の連続時間だ。

 お前の能力は強すぎるがゆえに、能力が一瞬の発動で決着がつく。
 だから俺は考えた。さすがに1秒の間隔も無く攻撃し続けて、無意識とはいえ演算を続けている。
 お前はどれだけ持つのかな? ちなみに俺は長期戦に自信があるよ」

「!?」

一方通行もようやく気付いた。信乃の言いたい事が何なのかと。

携帯機器にあるバッテリー能力の説明には、連続使用時間と連続待機時間がある。
連続待機時間が500時間以上でも、連続使用時間は2時間と言う場合がある。
その差、250分の1。

一方通行の能力でもそれを当てはめた場合、どうなるか。
能力が全てOFFになるまで使い続けた事など無い。
一方通行、本人も知らないのだ。

そう考えている間も、反射(のうりょく)は使用し続けている。
そして風が一層強くなっていく。

「ぐゥ!?」

「あと、俺から忠告したい事がある。
 1つ。さっき言ったよな。『時間が無い』『最速で終わらせてやんよ』って。

 それなのに、持久戦に持ち込むと思うか?」

「テメェが勝手に言って勝手に意味わからない行動してんじゃねェか!」

「2つ。お前にぶち込まれるのが小石や瓦礫だけじゃねぇぜ?
 ほら、瓦礫よりも“弱い”やつが最速で突っ込んでくる」

「はァ?」

「おっらああーー!!」

「ッ!? バカな・・・っ あの体で!?」

完全に竜巻に意識が向いていた。自分の反射に集中していた。

忘れていた。自分にダメージを与えたのが誰なのかを。
気付いた。攻撃の前に、信乃が右手を隠して何をしていたのかを。
上条へのハンドサイン、と言うよりも手を使って『コイコイ』と合図していた。
それに上条は、なんとなくで理解して竜巻に突っ込んできたのだ。

「ま、さっきの待機時間とかの話、結局は上条さんが来るまでの時間稼ぎなんだよ。

 戯言だけど」

「!? ・・・ァァァァアアア! 三 下 がァァァッ!!」

上で竜巻を作っていた信乃は、上条の突撃と共に、彼が通る場所だけは竜巻の力を消して
逆に追い風を送って加速させていた。

速度のついた彼の動きに、意識を戯言で別に逸らされていた一方通行が間に合う訳がない。

「「歯を食いしばれよ、最強(さいじゃく)―――」」

「俺の最弱(さいきょう)は」「俺の最速に気付いた時には」

「「ちょっとばかり」」

「響くぜ!」「手遅れだぜ」

瞬間。上条当麻の風を乗せた右の拳が、一方通行の顔面へと突きさった。

その華奢な白い体が勢い良く砂利の敷かれた地面へ叩きつけられ、乱暴に
手足を投げ飛ばしながらゴロゴロと転がって行った。



つづく
 
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