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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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妹達
  Trick57_助けてよ



私がこの都市伝説を聞いたのは、○○頃。

その時は気持ちの悪い都市伝説としか思っていなかった。

それに自分で言うのは何だが、学園都市の大三位だ。噂話の一つや二つは当たり前だった。

そして、その噂が目の前に現れたのは何の前触れもなくだった。

自分のクローン。

目にしたときは鳥肌が立った。

まったく自分の同じ姿が目の前にある。
背筋が凍るほど寒気が走った。

そして知った。

自分の分身を量産と言う実験を。
更には絶対能力者(レベル6)為の実験材料(モルモット)


実験をどうにか止めようとして、サイバーテロもどきや、研究所に直接殴り込みもした。

それでも、実験を止める事は出来なかった。

なら、どうしたら実験を止める事が出来るのかな。

そうだ。ツリーダイアグラムの結果が、この実験の中心になっている。
それなら、ツリーダイアグラムの結果を変えてしまえばいい。

だが、ツリーダイアグラムの通信施設は正常に稼働していなかった。
直接施設に入ったから間違いない。
数週間は人が入った気配がなく、衛星であるツリーダイアグラムと通信した履歴、結果が無い。

これでは、稼働していないのでは、ツリーダイアグラムの結果を変えても無意味だ。

もう、他に手は無い。

私の命で実験を中止させるしかない。

私と一方通行が戦った場合、137手で一方通行の勝つとツリーダイアグラムは計算していた。

だけど、現実は私が137手もせずに負けるとしたらどうだろう?
最初の1手目で勝負がついてしまえば、研究者たちはどう思うだろうか?

本当に実験を続けて成果が出るのか疑問に思うじゃないか?

私が負ける。この実験に置いての負けるは、死を意味する。
正直言って恐い。でもあの子達は、今もこうしている間に実験終了(しんでいる)かもしれない。

DNAマップを無責任に提供した私の間違いだ。自分の間違いは自分で正さないといけない。

小さい頃はママや雪姉ちゃん、そして信乃にーちゃんが私の知らない間に問題を解決してくれた。

今回はそうも出来ない。でも、後戻りもできない。

今から私は負け(死に)にいく。

その覚悟を止めたのはアイツだった。

いつもムカつく事ばかりしているくせに、今日は一段とムカつく。
アイツは真剣に私を心配してくれていた。

ムカついたから、いつものように電撃を飛ばした。
それなのに、こんなときだけは能力が効かないなんてことが起こらない。

だから癇癪を起した私の電撃を正面から当たった。それでもに、アイツは・・・・・

行ってしまった。『必ず御坂妹は連れて帰ってくる。約束するよ』と言って。

私は止められなかった。止めなくちゃいけなかったのに。

アイツなら私に出来ない事でも、当たり前のようにこなしちゃうんじゃないか
・・ていう予感があったから。

でも・・・そんなもの何の根拠もないし、一方通行のベクトル操作を破る術なんて
理論上この世には存在しない。

『お前が来たら2人がかりであいつを倒した事になっちまう。
 だからここにいてくれ』

アイツはそんな事を言って私をこの場に引き止めた。

一方通行を倒すなんて、そんな事できる訳・・・

それにやっぱり他人任せにできない理由がある。

まずは自分の気持ちと向き合わなきゃいけない。

アイツから数分遅れて、私はあの子が居る場所、アイツが向かった場所に走った。


うそっ!? と最初に見た光景は信じられなかった。

一方通行は私なんかとは次元が違う。世界中の軍隊を敵に回しても
ケロリと笑ってられるような化物。

その一方通行を相手にして押していた。

学園都市最強が相手なのに
 何の関係もない赤の他人なのに
  逃げ出したって誰も責めないのに・・・

ふと、辺りを見渡した。あの子がいた。
あの子は怪我だらけで、軍用ゴーグルも壊れて倒れていたが、
微かに体が呼吸で上下しているのが見えた。
よかった。あの子はまだ生きている。

安心したが、まだ問題は残っている。一番の問題の一方通行だ。

だけどアイツの“右手”は確実に一方通行への攻撃に通じている。

反射されるはずの打撃が、頬や鳩尾へと撃たれていく。

今もまた、顎へと“右手”のアッパーが当たり、一方通行を後ろへと飛ばした。

最弱のアイツが、最強の一方通行を倒せる。

ツリーダイアグラムの結果が、大きな前提条件の間違いで覆せるかもしれない。


そう思った直後に空気が爆ぜた、一方通行を中心に。


「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかーーーーー!!!!!」

倒れていた一方通行が叫び、周りの貨物コンテナが空気により吹き飛んだ。

「きゃ!?」

離れている私にも余波が届き、近くのフェンスを掴んでなければ飛ばされていたかもしれない。

「何なのよ、急に・・・」

私の目が捉えたのは、アイツだった。
風で飛ばされたアイツだった。

 ゴン! グチャ

「・・・え・・・・は

 ・・・な・・んで・・いや・・・・・・・

 いやああああああッ!!」

飛ばされたアイツは風車の主柱にぶつかり、10mほどの高さから落ちた。
じわじわと広がる血だまりだが、アイツは指先も動かない。

「『空気』『風』『大気』

 あンじゃねェか。目の前のクソをブチ殺すタマがここに・・・」

アイツを吹き飛ばした一方通行は、倒れたままで何か見つけたかのように呟いていた。

「この手で大気の流れる風の『向き』を掴み取れば、
 世界中に流れる風の動き全てを手中に収める事が出来れば、
 世界を滅ぼす事だって可能。

 『学園都市最強』? 『絶対能力者(レベル6)』?

 そんなモンはもォ   ――――いらねェ!

 一方通行を止められるものなンざ
 この世のどこにも存在しねェ!!」

場の空気が変わった。比喩表現ではなく、まさしく空気の『向き』が変わった。

「――圧縮。空気を圧縮、圧縮、圧縮ねぇ。

 イイぜェ! 愉快な事思いついた!!」

一方通行はゆっくりと立ち上がり、アイツを、血だまりに沈んでいるアイツを見た。

「ク・・・ククッ
 なンだよ、そのザマはァ! 立てよ、最弱ッ!!

 オマエにゃまだまだ付き合ってもらわなきゃ割に合わねンだっつの!!!」

空気の『向き』は更に加速(アクセラレート)する。


・・・もう、限界。アイツは私を戦わせたくなかったみたいだけど、限界!

「一方通行!!」

「ア?」

「動かないで!!」

私は右手に弾丸(コイン)を握り、一方通行に向けた。

私も、戦う!!

「や・・・」

「!?」

「・・・・、めろ。みさか」

小さな声は、アイツだった。

「―――やめろ、御坂!」

その声に、私の手はピタリと止まった。
体はうつ伏せで倒れたままだけど、左手が私を止めるように伸ばされていた。

よかった。まだ息がある。急げば・・・・

・・・急ぐためにも、私は戦わなくちゃいけない。

アイツの計画では、『無能力者(レベル0)が超能力者(レベル5)に勝たなければ』
成り立たない。

私が戦闘に手を出した時点で、その計画は失敗してしまう。

一方通行の標的はアイツだ。

私が手を出さなければ、爆風の塊がアイツを押し潰す。
私が手を出せば、アンタは1万もの妹達を見殺しにする事になる。

それでも私は黙って見過ごす事なんて出来ない。

「ゴメン」

だからといって、私はあの子達を見殺しにするわけじゃない。

私にはもう一つの計画がある。私がわざと負ければ、『実験』が止まるかもしれない。

「ゴメン」

だから、最後にアンタには謝っておく。

「ゴメン。アンタの夢は叶えられないけど、私が死ねば実験はそれで終わり」

勝手かもしれない。それでも――――私はアンタに生きて欲しいんだと思う。
アンタがいたから、私はこうして戦える。
すぐに・・・

私は右手を突き出した。

なんでこんな事になっちゃったのかな。
何でもっと違う、ずっと異なる、誰もが笑って誰もが望む、最高に幸福な終わりはなかったのかな。
誰一人掛ける事もなく、何一つ失うものもなく、みんなで笑ってみんなで帰るような、そんな結末はないのかな。

そんな事をぼんやりと私は考えていたけど、一方通行を見て意識は現実に戻された。

横顔でちらりと私を見て、すぐに目線を上げた。

そして一方通行は両手を広げて能力を発動させていく。

瞬間、街中を流れる『風』が一点へ集中した。
そこへ暴風が集められた瞬間、何か溶接したような眩い光が生まれる。

何よ・・・これ・・・

風を一点に集中させて生み出したのは・・・・

高電離気体(プラズマ)

その大きさは直径20mまで膨れ上がっていく。
まさか、この辺り一帯をまとめて消し飛ばす気!?

高電離気体の余波が、私の皮膚に火傷しそうなジリジリした痛みを植え付けていく。

それなのに、私の背骨は瞬間冷凍したように寒気を訴えた。
ふと、先程の一方通行の横顔を思い出した。

あの顔は、あの目は、私を虫ケラ程度にも気にかけていなかった、あの目。

今の一方通行はきっと、自分の新たな力を試す事にしか興味がない。
例え私がこの場で死んで実験中止命令が下っても、一方通行は止まらない!

どうすればいい? どうすれば・・・

学園都市の『風』を一点に凝縮? なら街中にあるアレを使えば・・・

私はあの子の元に走って行った。
幸い、さっき爆風の影響を受けなかったみたいで、最初に倒れていた位置から変わっていなかった。

「お願い、起き・・て!?」

手が、触れたあの子の手は、冷たい。
こんな状態の、この子に私は一体何を・・・何をお願いしようとしていたのか。

でも、このままじゃアイツは・・・

「・・・お願い・・・起きて・・・

 ・・・・無理を言っているのは分かっている。
 どれだけ酷い事を言っているのかも分かっている」

なんでッ・・・

「でも・・! あなたにやって欲しい事があるの。
 ううん、あなたにしかできない事があるの!!」

なんで、何で私はこんなに弱いの?

「私じゃ・・・・」

常盤台のエース? 7人だけの超能力者(レベル5)?

「みんなを・・守れない・・から」

なにもできないじゃないッ――

「だから・・・お願いだから!

この子の怪我を治す事も、一方通行を止める事も・・・

「アイツの夢を・・・・守ってあげて・・・・・・ッ」

アイツの夢を守る事も―――

ふと、私の手にこの子の手が乗った。

「・・分かりま・・せん・・・」

途切れ途切れの言葉に、この子の怪我が見た目以上にひどい事を知った。

「その言葉の意味は・・・分かりかねますが・・・
 
 何故だが・・・その言葉はとてもひびきました・・・・」

私はこの子の手を握り締めた。


後から考え直してみると、その時の私はかなり言葉足らずだった。

でも、この子は答えてくれた。

私がお願いしたのは、『風』を操る事だった。

もちろん、この子が『電撃使い』であることは百も承知だ。
当然、『風』を操る事はできない。

では、風車ならどうだろうか?

風車は『風』を受けて、モーターが回り、『電気』を作る。

これを逆を考えてみよう。
『電気』を受けて、モーターが回り、『風』を作る。

これが『電撃使い』が『風』を操る方法。

しかし私も『電撃使い』、怪我を負っているこの子よりも私の方が確実に
風を作る事が出来る。

私がこの子にお願いしたもう一つの理由は、この子達だけが持っている
特殊な回線、ミサカネットワークだ。

「ぎィやははははははははは!

 スゲェっ 自分の身体のように! 手足を動かすかのようにっ!
 
 空間すべてを支配していく―――感覚っ!!!」

超電離気体が更に輝きを増していく。

一方通行は、倒れているアイツを一瞥した。

「カカッ!

 強ェ相手と戦んのがレベルアップの近道ってなァ、マジみてェだなァ!

 ええ? 三下ァっ!!

 感謝をこめてオマエは跡形もなく・・・」

(ゴウ)! グニャリ

風のうなりと共に、いきなり頭上に浮かぶ超電離気体の形が崩れた。

待ってた! この風を待っていた!!

1つの風車を回すのなら、私が強く回せる。
でも単純な『風』だと一方通行の能力、演算能力には敵わない。

だからこそ、この子達だけが持っている特殊な回線、ミサカネットワークだ。

必要なのは、強い『風』じゃない。複雑な動きをする『風』。
一方通行の演算能力に合わせて、その演算から逃げるように街中の風の流れが
動きを変えてゆく。

良く見えるように、私は隣にいるこの子に肩を貸して立ちあがる。

今の現象(かぜ)は、この子がミサカネットワークを介して他の子達が発生させている。
あの子達が学園都市中の風車を回して複雑な風を作っている。

この風が一方通行の演算を邪魔し続ければ、高電離気体は完成しない!

「・・・ねえ。

 他の『妹達(シスターズ)』と意思の疎通ができるんでしょ?
 
 何人かここに呼んでちょうだい」

高電離気体が完成しないからと言って、私達が勝ったわけじゃない。
たとえ高電離気体や暴風の制御を乗っ取られたとしても、私達に一方通行の
完全なる防御を破る事が出来ない。

だから、この子をこの場所から離れさせないといけない。

この子を逃がすくらいの隙は私にも作れるはず・・・

「お姉さま。

 ミサカは目標を妨害すれば、目標の注意はミサカに向けられます。
 
 その隙にあの少年とこの場を・・・」

クスッ、この子ったら私と同じ事を考えている。

「ったく。そーいうのは」

ゴォ

「――の役目でしょーが」

「・・・・・?」

この子ったら、私と同じ事考えていた。

出生が違ってもあなたは私の妹、なのね。

「あの、ヤロウ!」

一方通行に気付かれた。
引き裂くような笑みを浮かべて、能力を使い自らを加速させてくる。

「ブッ潰す!!」

「させないわ」

私はこの子を庇うように前に立つ。

「・・・・理解できねェな。

 あっちに転がっている三下もオマエも―――なンで人形を庇う?

 そいつらはオマエの出来損ないの乱造品。

 それをこの世で一番疎ましく思っているのはオマエだろうがよ!」

「・・・・・」

この子は一方通行の言葉に、気まずいそうな顔をした。
自分をモルモットと認識している。だからこそ一方通行の言葉は嫌だったのだろう。

確かに、それに近い感情を抱いていたときもあった。
でも違う。

「自分と同じ顔したのが壊されンのが面白くねェのか?
 だがそンな理由で命を張れるわきゃねェよな。
 
 自分より先に絶対能力者(レベル6)が生まれンのが許せねェのか!?
 それともこンな実験の発端を作っちまった事への罪滅ぼしかァ!?」

罪滅ぼし・・・それもあった。でも違う。今は違う!

「『神様の頭脳』なんてモンに対する興味も、こんな事で罪を償えると思っているわけでも

 ない。

  妹だから

 この子達は私の妹だから。

 ただ、それだけよ」

複雑な事情や感情はあるけれど、今は自信を持って言える。
この子達は私の妹だから。妹を助けるのは当たり前の事だから。

信乃にーちゃんや雪姉ちゃんに助けてもらったように! 私も妹を助ける!!

「ゴメン・・・

 今さらそんな資格ないのは分かっている。

 でも・・・今だけは、この場に立つのを許してくれる?」

「ク・・クク・・何を言い出すかと思えば姉妹ごっこかよ! くだらねェっ!!
 守れるものなら守ってみろよ!!!」

一方通行は笑いながら地面を強く蹴った。
能力が発動して、足元にあった沢山の小石が私達に向かって襲いかかる。

「!?」

腐っても学園都市の第一位。たったあれだけの動作で、これだけの攻撃ができるなんて!
ここ数日の襲撃で私の体力は少なくなっているとはいえ、小石でも十分な攻撃になる!

それを電撃を飛ばして迎撃する。
また攻撃を仕掛けてくる前に、一方通行とは反対方向へ走った。

「はぁ? あれだけ威勢いい事いって、結局は逃げんのかよォ?」

先回りされた。自身の動きにも能力を使えば、怪我をしているこの子を逃がすのは難しい。

「悪い? 私がやるべきことは、この子を守る事よ!」

ついでに私達を追ってこれば、アイツを一方通行から離す事が出来る。

「図に乗ってんじゃねぇぞ格下が!」

今度は近くの線路を蹴りあげる。
1m程浮いた鉄骨を、軽く叩いた。

それだけで私達を襲う兵器へと変わった。

飛んできた3本の鉄骨を、1本目と2本目は私が避けるだけで問題なかった。
でも3本目は、私だけじゃなくあの子も射線上にいた。

「こんのぉ!」

右手に持っているコインを弾き、超電磁砲を放つ。
鉄骨は真ん中から溶けて、私達の左右に吹き飛ばした。

「オマエじゃ、足止めすらできやしねェ」

その声は私の後ろから聞こえた。

「ほ~ら、先に(モルモット)をグチャグチャに殺してやンよ!」

まずい! 前に集中しすぎた!

私は振り返りながら右手をポケットに伸ばした。

でも、超電磁砲は一方通行には通用しなかった。

つい数日前に、無意識で発動してる能力に弾き飛ばされた事実がある。

他に方法は? 電撃が通用しない相手への対応方法は?

『電撃が通用しない相手』は、私は夏休み前に戦った事がある。

信乃にーちゃんに教えてもらった、七色の電撃。

正体もよくわからない。超電磁砲と比べて威力もない。

でも、『電撃が通用しない相手』には有効だった。

だから私には、この選択肢しかなかった。

「くらえ!」

この技に、能力に合わせた正式な計算式は無い。

信乃にーちゃん曰く、イメージする。海面のような、3次元の荒々しい波。
波に合わせて、計算式を作成する。

生まれるのは七色の電撃。

「がっ!?」

一瞬、気を失うかと思うほどの頭痛に襲われた。

この電撃を使うと、ほとんどが直後に頭痛が襲ってくる。
今回の頭痛は、今まで一番強かった。

なんとか意識を刈り取られないように踏ん張った。
生まれた電撃は、私の予想したものよりとても小さなものだった。

七色ではある。でもいつも、今まで飛ばしてきた電撃の10分の1ほどの強さしかない。
もはや電撃とは呼べない小ささだ。

「ッ!? なンだ?」

予想通り、七色の≪電気≫の内、一色は一方通行へと届いた。
予想外に、七色の≪電気≫は威力が無く、一方通行にダメージを与えなかった。

静電気を貰った程度の反応しかない。
だから一方通行の攻撃を止められない。

あの子へと迫る手を、止める事は出来なかった。

 ドン

軽く振られた手からとは思えない音が、あの子と一方通行の間から生じた。

「え・・・・」

私はその光景をただ見るしかできなかった。
あの子は吹き飛ぶ。同時に攻撃が当たった左の二の腕は吹き飛んだ。
血を撒きながら飛ばされ、アイツと同じ風車の鉄柱にぶつかり落ちる。
その風景を。

「いやあああああああ!?」

「チッ! もっと吹き飛ばすつもりだッたのに、シケた攻撃で演算の邪魔しヤがって。
 だから言っただろ。オマエじゃ足止めすらできやしねェ」

落ちる。血が広がる。動かない。

「あ・・・なん・・・で」

「視力検査が2.0までしか測れねェのと一緒さ。
 学園都市にゃ最高位のレベルが5までしかねェから仕方なく
 俺はここに甘ンじてるだけだなンだっつの!」

私はあの子の元へ駆け寄った。自分の物ではないかと思うほど、足が言う事を聞かずに歩いていた。

「ハ、これで邪魔はいねェ!

 もう一度、もう一度だ!!」

一方通行が大気を再び圧縮し始めた。

どうでもいい。

辺り一帯が再び明るくなる。2度目の高電離気体の作成は難しくなかったようだ。

どうでもいい。早くあの子の血を止めないと。

「めんどくせェからオマエラまとめて()っちま・・!?」

どうでもいい。早くあの子の血を止めないと。アイツを病院に連れていかないと。

アイツは、立ちあがっていた。あんな遠くから見ても分かる大怪我の状態で。

助けて。

「・・・面白ェよ、オマエ」

助けて。助けて。

「最っ高に面白ェぞっ!!」

助けて。助けて。助けて。助けて。

アイツは立つのがやっとのようで、目線も定まっていない。
上空の光がさらに明るさを増している。

助けて。助けて。助けて。助けて。誰か助けて。

ようやくあの子の元に着いた。持っていたハンカチを破く。
いつか信乃にーちゃんに教えてもらった破り方で、包帯もどきを作って縛って止血する。

助けて。助けて。助けて。助けて。誰か助けて。誰でもいい、助けて。

「助けてよ、信乃にーちゃん」

「呼んだか、琴ちゃん?」



つづく

 
 

 
後書き
妹達編の最初から信乃が介入していれば、原作とかなり違う展開に
なったと思います。妹想いの兄ですからね、信乃は。

ということで今回は美琴メインで妹達を総集編のようにしてみましたが、
如何でしょうか?

感想をおまちしています。 
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