“銃”を使わない“銃使い”
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その男とその仲間
「え~と……“レインボーブリッジ南方にある、人工浮島に『東京武偵高校』はある”……っと、覚えた覚えた」
何やらぶつぶつ呟きながら、フードの男は歩いている。
先程の銀行強盗事件から、わずか数分しか経っていないが、男はすでに数キロ以上も遠ざかっていた。ちなみに、フードを被ったスタイルはそのままだが、パーカーとズボンは別の物に変えている。大方ばれないようにする為であろうが、一体何から身を隠しているのかは見当がつかない。
と、不意に彼のパーカーのポケットから音がする。取り出したそれは携帯電はだったが、かなり型の古いタイプで、今じゃあ余りお目にかかれない“ボタンが小さく折りたためない”ケータイであった。塗装は殆ど禿げている。
彼は通話ボタンを押し耳にケータイを当てた……その途端、
『Alex!!!』
「ういっ―――」
少々ハスキーな女の声が、それこそ他の通行人にすら聞こえるほどの怒鳴り声が、いきなり響いた。予想をしていなかったのか、フードの男は耳を痛そうに押さえている。
『東京に来ていきなり人を殺すなんて……一体何をやっているんの貴方は!!? お陰でもみ消すのに苦労したのよ!! おまけに貴重な人材を動員しなければいけなかったのよ!!』
「あ、もみ消したのか、アイツを使って。ありがとさん」
『黙りなさい!! 事の重大さをよく分かっていないようね、貴方は!!』
「そんなに怒鳴るな。周りに人が居ないからいいモノの……居たら間違いなく変に思われるぞ、ミス・黒無」
『怒鳴る原因を作った人が言わないで! Alex!!』
Alex―――それがフードの男の名前らしい。
Alexは、ミス・黒無と呼んだ人物に、如何でもよさげに話しだした。
「向こうがこっちを殺しにかかってきたからな、いわば正当防衛って奴だ。だからしょうがなかったと思うぜ?」
『あんなとんでもない体質を持つ人が何を言っているのかしら……?』
底冷えのする様なミス・黒無の声が電話越しに聞こえるが、Alexは肩をすくめるのみで怯えてすらいない。
「で、今どんな感じになっているんだ? あの事件は」
『……“武偵との戦闘中に、強盗二人はお互いの弾で自滅、他の強盗も武偵により拘束された”………彼女を使って、事件の記憶を改ざんしたわ。……言っておくけれど―――』
「最低でも一年と半年は間をおかないと同じ事は出来ないから、厄介事は起こすな、だろ」
『その通りよ。それで……分かっているわよね? 貴方、そして私達の目的の事を』
「おうよ」
一つ間をおいた後、Alexは不気味に笑いながら答えた。
「目的を達成する為にも、まずは“東京武偵高校”に入学……そして―――――だ、分かっている」
『ならいいわ……もう厄介事は起こさないで、いいわね? それじゃあ』
ミス・黒無しのその言葉と共に、ケータイはきれた。
Alexは空を仰ぎ、そしてまたニヤリと笑う。
「一体どんな奴が居る事やら。……ヒハッ、楽しみだ」
Alexは誰も居ない通路を笑いながら歩いて行く。
―――後に残るのは、彼の不気味な笑い声のみであった。
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