“銃”を使わない“銃使い”
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その男の謎の“銃撃”
「――――?」
他の強盗は勿論、銀行職員や一般客達、野次馬でさえも何が起こったかが分からなかった。
強盗は銃のトリガーに指をかけ、引いた。銃声もした。なのに倒れているのは強盗の方なのだ。
しかし、銃を突きつけて居た強盗の方に穴があき、銃どころか武器すらも持っていない男の方には傷一つ付いていない。
普通は強盗がフードの男に穴をあけるという逆の事が起きる筈、しかし目の前で起こっている事がそれを否定している。
「て、てめぇ……今何しやがった!?」
一足先に我に返ったリーダーが、フードの男に向けて怒鳴る。その切羽詰まった雰囲気とはまるで逆、のんべんだらりとした雰囲気のまま、フードの男は短く答えた。
「撃った」
「は……?」
「そんで穴開けた」
それだけ話すと、フードの男はまた黙ってしまう。そして―――
「んが~…ぐか~…」
僅か数十秒で、再び睡眠を開始した。足元にはいつの間に書いたのか、“終わったら起こして欲しい”と、メモ書きが置いてある。
「……とことんコケにしやがってぇ……!!」
怒りに体を震わせながら呟いたリーダーは、人質を他のメンバーに渡し、何時の間にやら手にしていた剣を右手に、先程までとは違うタイプの銃を左手に持ち、フードの男に向って歩き出した。
そして、三メートルほどまで近づいて足を止め、背の低い強盗が出したモノよりも大きな声を上げた。
「起きやがれ!!!」
「……? ……終わってねぇじゃねぇか、起こすなよ……」
フードの男は再び起きたが、周りの光景を見るなり、また空気の読めない発言をした。
「……さっきは何をやったか知らねえがな、俺は殺せねぇぞ。これでも昔は武偵やってたもんでな、奇怪な術を使う相手とも幾度となくやってきた」
「武偵……武偵……」
「油断もしねぇ、くたばり―――」
「……あぁ、思い出した」
「っ!! 話を聞きやがれ!!」
自信ありげに自分の事を語る強盗のリーダーなど見もせず、フードの男は『武偵』という言葉を繰り返しつぶやいた後、何かを思い出したように顔を僅かに上げた。
「なぁ、“東京武偵高校”って何処にあるか知ってるか?」
またもや空気の読めて居ない発言、否質問をした。そして、強盗から帰ってきた答えは―――
男の頭をかすめる軌道で放たれた一発の銃弾だった。
「殺してやる……!」
低く唸った強盗は、常人の及ばぬ速度で走りだす。ジグザグな軌道をかいて進んでいるのは、フードの男が放った“奇怪な術”の的にならない様にする為だ。
対してフードの男の方は、質問に答えてもらえなかったのがショックだったのか、それとも傍を掠めた銃弾の為か、何のアクションも起こさない。
強盗はにやりと笑い、突如として銃弾を床に向けて放つ。着弾地点から破裂音が響いたと思うと、煙幕が上がり、視界を遮ってしまった。
銃に込められていたのは、どうやら煙幕弾らしい。銃を剣で攻撃する際に隙を作る為のモノとして用いるのが、彼のスタイルのようだ。
(とった!!)
強盗は煙に紛れてフードの男の背後に回り、剣を首に振り下ろす。油断なく、しかし確信を込めた表情で。
「あ……れ?」
しかしその表情は困惑へと変わり、強盗はおかしな声を上げた。 それもその筈、首まで後数mmという所で突然刃が止まったのだ。防がれたような感触は無く、文字通り“止まって”しまっている。
そして煙が晴れ、その不可思議な現象のからくりが明かされる。
「な、おっ……!?」
何とフードの男は、人差指と親指で刃を“摘んで”止めていた。それだけでも十分凄い事だが、フードの男は、刃を摘むどころか見る事ことすら困難な煙幕なのかでそれを行ったのだ。はっきり言えば異常である。
(い、一端距離を―――)
強盗は咄嗟に剣を放し、距離をとろうとした―――その途端、銃声が響き、強盗は何かに胸を押されたように吹っ飛び、転がった。
今の銃声はフードの男の方からしたものだった。が、やはり男は銃など持っておらず、BB弾さえ撃てる筈も無い。 リーダーの胸には“銃”で撃たれたような穴が開いており、その奇怪さに拍車をかけている。
もう訳が分からない……そんな顔をしたまま、実にあっさりと強盗のリーダーは死んだ。
リーダーを殺され、怯える強盗たちにフードの男は近づく。 ガタガタ震える彼等を余所に、フードの男は欠伸をした後、こう発言した。
「なぁ、“東京武偵高校”って何処にあるか、お前ら知ってるか?」
―――それは先程と変わらぬ、場の空気を読んでいない、彼個人の私情から来る質問だった。
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