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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
  ヒルゼン

第三試験会場は、五つのパネルと印を組んだ手の像のある広間だった。そこに火影を中心とし、合格したチームの担当上忍、及び試験官のみたらしアンコ、森乃イビキに月光ハヤテ、追加で医療班代表ヒルマと火影についてきたユナトが並んでいる。

「まずは、第二の試験通過おめでとう!」

 第二試験通過人数は二十四人。本当は一桁にするつもりだったんだけどなあ、思いつ彼女は集まった下忍たちを眺める。驚いたことに年配の忍びは殆どいない。木ノ葉からは去年のルーキーが一組、今年のルーキーが四組、比較的年上な(それでも二十代前後の若者だ)が一組、砂からは兄弟であるらしい、いずれも若い下忍達が一組、それに音からも一組。今年の若者はどうやら中々優秀なようだ。

「では、これから火影さまの説明がある! 各自、心して聞くように!」

 三代目火影は数歩進み出ると、うぉっほんと咳をしてみせた。

「これから始まる第三の試験。それが始まる前に、お前たちに一つ、はっきり告げておきたいことがある。――この試験の真の目的についてじゃ。……何故同盟国同士が合同で試験を行うのか」

 そこで火影は一旦言葉を切って、火影の笠の位置を下ろした。

「“同盟国同士の友好”、“忍びのレベルを高めあう”。その本当の意味を履き違えてもらっては困る。この試験はいわば」

 そして火影はまた言葉を切った。咥えていたパイプを手に取り、ふうっと煙りを吐く。

「同盟国間の戦いの縮図なのだ」

 その言葉に下忍達は目を見張る。はじめは試験参加前に、父にも姉にも似たようなことを教えられていたから大して動じたわけではないが、それをまさか火影に告げられるとは思ってもいなかった。はじめはずっと、その試験の意味は自分で探るものと思い込んでいたというのもある。
 
「歴史を紐解けば今の同盟国とは即ち、かつて勢力を競い合い争い続けた隣国同士。その国々が、互いに無駄な戦力の潰しあいを避ける為に、敢えて選んだ戦いの場。それがこの中忍選抜試験の、そもそもの始まりなのじゃ」
「な、なんでそんなことやらなきゃならねーんだってばよ? 中忍を選ぶためじゃねーのかよ?」

 戸惑ったような声を出すナルトに、確かに、と火影は頷いてみせる。

「この試験は中忍に値する忍びを選抜するものであることに、否定の余地はない。だがその一方、国の威信を背負った忍びが、命がけで戦う場という側面もあわせ持つ」

 いよいよ話がこんがらがってきた。未だに目覚めぬユヅルは既に第三試験リタイア決定である。因みにハッカは世界一周とは言わずとも、火の国一周には成功したらしく、彼がどっさり持ち帰った薬は今現在使えるかどうか見当中だそうだ。

「この第三試験には、我等忍びに仕事の依頼をすべき諸国の大名や著名の人物が招待客として大勢招かれる。そして各国の隠れ里を持つ大名や忍び頭がお前たちの戦いを見ることになる。国力の差が歴然となれば、強国には仕事の依頼が殺到する。弱小国と看做されれば、逆に依頼は減少する。と同時に、隣国各国に対し、我が里はこれだけの戦力を育て有しているという脅威、つまり外交的な圧力かけることも出来る」

 だからってなんで命がけの戦いをする必要があるんだ、とキバが抗議したが火影は動じない。
 
「国の力は里の力。里の力は忍びの力。そして忍びの本当の力とは、命がけの戦いの中でしか生まれてこぬ。――この試験は時自国の力を見てもらう場でもあり、見せ付ける場でもある。本当に命がけで戦う試験だからこそ意味があり、だからこそ、先人たちも目指すだけの価値がある夢として、中忍試験を戦ってきた」

 命がけ、確かにそうだ。ナルトも、サスケも、リーも、はじめも、皆音忍達と命がけの戦いを戦って、中忍試験を勝ち残ってきたのだ。ユヅルだって今は生死の淵を彷徨っている。この試験で死んだ奴もいるかもしれない。
 質問、とマナが手を挙げた。

「それなら何故友好など綺麗ごとを並べるんっすか? もし友好だのレベルを高めあうだのと綺麗ごとを並べ立てるだけなら、上役だけのこととして過去の闇に葬ってしまったって誰も気付きやしないのに。どうせ受験生にべらべら述べ立てるようなことなら、別に友好だとか言わなくてもいいっすよね。これは各国の戦いの縮図だから、国の威信がかかってんだから心していくよーにって言えばいいだけの話でしょう、それなら第一試験の第十問で勇気の無い人間を削り取る必要もなかったはずだ」

 マナがこのような質問をしたことに、マナを知るものは驚いた顔つきになった。火影の顔が険しくなる。だからはじめに言ったであろう、意味を履き違えてもらってはこまると。そういう声は幾分不機嫌そうだ。

「命を削り戦うことで、バランスを保ってきた慣習、これこそが忍びの世界の友好。己の夢と里の威信とをかけた戦いなのじゃ。それとマナ、言ったじゃろう、これは無駄な戦力の潰しあいを避ける為に選ばれた戦いの場じゃ。そのことを忘れてもらってはもっと困る。同盟国同士で仲良く試験をしよう、というわけではない。お互いに牽制し合い、そして自分の里の利益を得るためであるという背景を忘れてもらってはいけない、だからこそわしはここで今一度そのことを語ったまでのこと」

 それから彼はまた息を吸った。

「そして先ほども言った通りこれこそが忍びの世界の友好だ。これは各国の戦いの縮図であるから、などと言ってしまっては互いの里同士結束したり、試験開始早々互いに敵意を向き始めるなどという可能性もある。我々の目的はそんなことではない――もっともこれからの試験は己の里も他人の里も関係なくなってくるわけじゃから、ここで語ることにした、ということじゃ。納得したかね?」
「……んー、成る程、こんな形でもあくまで友好は友好っつーことっすね。はい、理解しますた。では続きお願いしまーす」

 ふむふむと頷くマナにうむ、と頷いて火影が続けた。

「――ではこれより、第三の試験の説明をしたいところなのじゃが実はの」

 その空せきに応じるように、一人の特別上忍が火影の前に降り立ち膝をついた。

「――畏れながら、火影さま……ここからは、審判を仰せつかっているこの、月光ハヤテから」
「任せよう」
「皆さん、始めましょう」

 そしてその男性が立ち上がってこちらに向き直った。目元には隈があり、全体的には若そうなのが隈の所為で疲れきりやつれているような印象を受けた。

「皆さんには、けほ、第三の試験前に、けほ、やってもらいたいことがあります……えほっ、えほっ、」

 咳を繰り返す彼を、受験生は半ば呆気に取られて眺めている。

「えー、それは本戦の出場をかけての、第三の試験、予選です」
「予選って、どーゆー意味だよ!?」
「先生、言っている意味がわからないんですけど。なんで今残っている人達で予選をやらないんですか?」

 シカマルが突っかかり、サクラが問いかけた。ハヤテは顔色一つ変えずに続ける。

「ええ。……今回は、第一、第二の試験が甘かった所為か……少々人数が、残りすぎてしまいましてね。中忍試験規定に乗っ取り予選を行い、第三の試験への進出者を、得だす必要があるんです」
「そんなあ!」
「先ほどの火影さまのお話にも会ったように、第三の試験には、沢山のゲストがいらっしゃいますから……ダラダラと試合は出来ず、時間も限られてくるんですね」

 落胆の声をあげたサクラに、ハヤテは続けて語る。

「というわけで、体調の優れない方……げほっ、えほっ、えほっ、けほっ、えほっ、」

 言いかけて彼が咳をしだした。激しいというほどでもないが、大丈夫と言い切れるほどでもなさそうである。「寧ろこの人の方が体調優れてないな」とはじめが呟いた。

「……失礼。これまでの説明でやめたくなった方、今すぐ申し出てください。これから直ぐに予選が始まりますので」
「これからすぐだとぉ!?」
「さっすが中忍試験、全くもって鬼畜だぜ……この中には今さっき到着したばっかってやろーもいるだろーにさあ……」
「鬼畜とはなんだ?」

 キバが声を荒げ、いのが折角第二試験を通過したのにと落胆し、めんどくせーなとシカマルが吐き捨てる中、マナはドン引きした目付きになっていた。すぐ後ろではじめが首を傾げている。そんなはじめにはフルパワーで何時間も働き続ける人への褒め言葉だと返しておくことにしておいた。

「また、今回の参加者の中、木ノ葉のいとめユヅルくんは既に強制で辞退を余儀なくされています。……ああ、えー、いい忘れていましたが、これからは個人戦ですからね。自分自身の判断で、ご自由に手をあげて辞退してください」
「ゆ、ユヅルが!?」
「ええ……塔についてもう二日ですが、未だに昏睡状態が続いております」

 ナルトが目を見開き、どうりでいなかったのねーといのが口を覆う。
 ――痛みの波が、どんどん短くなってきた……!
 同じく呪印をつけられたユヅルのことを思い出したからだろうか、首の付け根を針で刺してくるような痛みが襲う。ぎゅっとそこを握って、せめて気持ちだけでもその痛みを和らげようとしていると、サスケくん、とサクラが心配げな声を出した。
 その光景を見たアンコは唇を噛み締める。あの呪印はチャクラを使用するだけでも反応して、無理矢理に力を引き出そうとするような代物だ。本来ならとっくに死んでいても何らおかしくはない。犬神の精神力を持つユヅルでさえ昏睡状態に陥っているのに彼が未だ耐えているのは、本当に不思議なことだった。

「――サスケくんがなんと言おうと、私、痣のこと先生たちに言うわ。そうすれば……!」

 痣――サスケの呪印に対する不安と恐怖に浮んでいた涙を拭って、サクラは真っ直ぐにサスケを見つめ返す。予選に何がなんでも出ようと意地を張っているサスケをなんとか休ませるにはもう強行手段しかない。サクラは手を挙げようとした。

「ほう……」

 しかしそれよりも先に、カブトが手を挙げた。火影の興味深そうな視線が、中忍試験に今回で七回出場となる青年に向けられる。出鼻を挫かれたように、サクラは咄嗟に手を下ろしてカブトを振り返った。

「あの、僕はやめときます」

 明るい笑顔で言い放つ彼に、「か、カブトさん……?」とナルトが目を丸くする。

「えーっと……? けほ、――木ノ葉の、薬師カブトくんですね……?」

 ハヤテが手にしていたボードを持ち上げ、その上に留められた紙を捲り確認をとる。

「……では、下がっていいですよ」
「はい」
「――カブトさん!? なんで、やめちゃうの、ねえ! なんでだってばよ!?」

 笑顔を崩さぬままに去ろうとするその後姿にナルトが声を張り上げる。マナとキバが音忍に襲われそうになった時は身を挺して守ってくれ、サクラと巻き物を開きそうになってしまった時には制止してくれ、塔に到着するまでの間行動を共にし、幻術使いのマンセルに遭遇したときは一緒に戦ってくれたカブトを、ナルトは心から尊敬していたし、サクラもナルトもカブトに対してかなりの好感を持っていた。キバも同調して叫ぶ。

「折角ここまで来たんじゃねーか!」
「すまない、ナルト君、それに――ええと、君はキバ君だったかな。けど、僕の体はもう、ぼろぼろなんだよ」
「でも……っ!」

 尚も食い下がろうとするナルトに、カブトはキバとマナに視線を馳せてから、「実はこんなこといいたくないんだけどね」と殊更申し訳なさそうな声で言った。

「実は、第一の試験の前に、音の奴等と揉めた時から、左の耳が全く聞えないんだ。とても今すぐ戦うなんて……。それも、命がけって言われちゃあ、僕にはもう……」

 自分たちを庇ったときのことだ、と気付いたキバは罰の悪そうな顔をして俯いた。マナも申し訳なさそうな顔になり、二人して謝罪の言葉を小さく呟くと、「いいんだよ別に」とカブトの声が返って来る。そしてカブトは周囲にはとても聞えない低い声で同じマンセルのヨロイと二言三言言葉を交わしたかと思いきや、ナルト達ににこやかに手を振って会場を後にした。

「けほっ、えーでは、辞退者はもう、いませんね」

 ハヤテの言葉に、サクラが慌てて手を挙げようとするも、サスケは素早くそれを押さえ込んだ。サスケの目的は中忍になることでもなんでもない。彼は復讐者だ。彼が知りたいのは、自分が強いのか強くないのか、それだけ。強い敵が、何人もここに残った二十四人の中にいる。
 砂漠の我愛羅、木ノ葉の日向ネジにロック・リー、そして音のドス・キヌタ。音も立てずに自分の傍に現れていた我愛羅、自分を閃光のような体術で叩きのめしたロック・リー、そしてそのリーに木ノ葉の下忍最強と言わせしめた日向ネジ。それから見切って避けたはずのカブトを吐かせた、音を操るドス・キヌタ。戦って価値ある者ばかりだ。同期たちも前よりずっと進歩しているかもしれない。いずれにせよ、サスケは辞退する気などない。例え相手がサクラでも、もし自分から復讐の道を奪うようなことなら許しはしないと、サスケは今一度サクラに向かって宣言した。
 七班内でこのようなトラブルが起きている中、火影とアンコの間にもひと悶着あった。火影はサスケを続けて試験に参加させてみて、もし力が暴走したらただちに止めろとの意見だがアンコは納得していない。呪印のことを一番よく知っているのは自分だ。下手したらサスケだってユヅルのような昏睡状態に陥ってしまうかもしれない。

「ですがっ、火影さま……!」
「アンコさん、火影さまの聡明なご決断に何か意見があるとでもです?」

 ジト目で割り込んできたユナトの白腕に、目に見えるくらいの膨大なチャクラが貯められ始めているのを見ると流石に「オオアリです」とは言えない。言ったらたぶんこの会場が壊滅するくらいのフルパワーでユナトと一騎打ちをしなきゃいけないことくらいはそのチャクラ同様目に見えている。
 だからユナトは苦手なのよ、とアンコは心中呟いた。まあまあ、と三代目が宥めればころっと笑顔をみせている。猫かぶりじゃなく単なるブラコンならぬジジコンなんだからおそろしい。

「ザク・アブミ君ですよね? わたくしは医療班代表日向ヒルマ――よろしければ傷の具合を見せてくれませんでしょうか? 場合によっては強制辞退となります」

 歩み寄ったヒルマを、ザクはギリギリと歯を食いしばりながら睨みつけた。瞬間、背骨の変わりに氷を入れられるような殺気を感じて思わずゾクリと身を震わす。振り返れば音の担当上忍が、殺気の絡んだ視線をこちらにぶつけてきていた。

「貴方がこの子の担当上忍ですね? 彼のこれは脱臼ですか、捻挫ですか、それとも骨折ですか? 骨折なら強制辞退ですよ」

 辞退するかどうかは基本個人の自由。もう疲れた、戦いたくないという理由で辞退を選ぶ者や、昏睡状態で辞退せざるを得ない者もいれば、このようなとても戦闘出来ない状態で辞退するか、させられる者もいる。ただしこの試験中で戦闘出来ない状態という定義を明確に現すのは難しい。例えば脱臼して戦えない者もいれば、脱臼して尚戦い続ける者もいる。回復の早い者もいれば、回復に時間のかかる者もいる。若しかしたらザクは脱臼したって戦えるくらいの精神の持ち主かもしれないし、回復が早くてもうとっくに治っているかもしれないのだ。

「脱臼だよ! 俺はまだまだ戦える、邪魔すんじゃねえ」

 返答したのはザクだ。獣のような目付きでこちらを睨んでいる。

「怪我したのは何時頃ですか?」
「二日目だ! ちゃんと治療もしてる、問題ねーだろ」

 包帯を巻いているのは治療もしてるとイコールできませんよという言葉は眉をひそめることで代替した。場合によっては瞳術やら、精神的攻撃やらで相手を追い詰め棄権させるような者もいるから、脱臼しているからという理由での強制辞退は出来ない。

「……わかりました」
「へっ、話がわかってるじゃねーかよ?」
「ただし余り無茶はしないで。そして棄権終了後、勝っても負けても引き分けても、真っ直ぐわたくしのところにきてください。即行で医療班にいかせます」
「行けばいいんだろ、行けば?」

 嘲るような笑み。ええ、と不服ながらヒルマは頷いた。ヒルマはハヤテに視線を投じる。ハヤテは頷いて、受験生たちに向き直った。

「えー、では、これより予選を始めますね。これからの予選は一対一の個人戦……つまり、実戦形式の対戦とさせてもらいます。丁度二十二名になったので、合計十一回戦を行い、えー、その勝者が、第三の試験に進出できますね」

 二十四名の内、辞退したのは薬師カブトといとめユヅル。カブトが辞退したお陰で数は偶数となったわけだ。

「ルールは一切なしです。どちらか一方が死ぬか倒れるか……もしくは負けを認めるまで、戦ってもらいます。えー、死にたくなければ、直ぐに負けを認めてください。但し、勝負がはっきりついたと私が判断した場合、けほっ、えー、無闇に死体を増やしたくはないので、止めに入ったりなんかします。これから君たちの命運を握るのは――」

 ハヤテは振り返って、アンコに頷いた。アンコが口元につけたインカムに向かって「開け」と命令すると、組み合わされた両手の背後に移っていた五つのパネルのうち、左上のパネルが開いた。

「これですね。えー、この電光掲示板に、一回戦ごとランダムに選出された対戦者の名前を、二名ずつ表示します。では早速ですが、第一回戦の二名を発表します」

【 あかどう ヨロイ
    VS
  うちは サスケ 】

「では、掲示板へ示された二人、前へ」

 歩みでた二人が、それぞれハヤテの右側と左側に立つ。

「第一回戦対戦者、あかどうヨロイ、うちはサスケに決定。依存ありませんね?」
「無い!」
「ああ!」
「えーではこれから、第一回戦を開始しますね。えっほん、対戦者二名を除く皆さん方は、上の方に移動してください」

 ハヤテの言葉に従い、受験生とその担当上忍たちは次々と引き上げていく。ユヅルを除いた九班もまた上に上がり、ガイ班の近くに腰を下ろした。いやいやあ、どうなるか見ものだなあ! とハッカは暢気である。

「やあ、ハッカ」
「おお、カカシ! どうしたどうした? 何か用か?」

 手を振ってにこやかに笑いつつ近づいてきたカカシに、ハッカがハイテンションに振り返る。その相変らずのテンションの高さに苦笑しつつ、カカシがハッカの耳元に何かを言った。

「おお、そんな封印術があったのか!」
「……ちょっとハッカ、お前そんなのも知らないで火の国一周してきたの?」

 呆れ顔のカカシにハッカが照れ笑いをする。カカシは溜息を吐いて、以前の博識で読書好きなハッカを脳裏に浮かべた。あのハッカはもういないのだ。以前のハッカなら確実に知っていたであろうことも、このハッカは知らない。

「基本、本人の意思を基礎としている封印術なんだけど――あとでやってあげようか?」
「うーむ、ユヅルはほぼ四日連続で昏睡状態だそうだからな、意思が通用するかどうか……」
「四日連続で昏睡状態?」

 強制辞退とは聞いたものの、四日間ずっと昏睡状態であることに、流石のカカシも目を見開いた。成る程、サスケやアンコが未だ生きているのはかなりのことだろう。ユヅルがまだ生きているのは笑尾喇の精神力のお陰かもしれない。それすらなければユヅルはきっととっくに死んでいただろう。

「だがまあ、時間があったらやってくれないか? 出来るだけのことはしてやりたいんだ」
「――わかってるよ、ハッカ」

 ハッカはすまないな、と照れくさそうに笑った。ナルトが身を乗り出してサスケとヨロイを眺める。

「それでは、はじめてください」

 そして第三の試験予選が、ここに幕を開ける。
 
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