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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
  サクラ

「次は……僕の番だ」

 袖をまくって、機械を取り付けた腕を見せ付ける。リーの体はまだあの技の反動から回復していない。振られる腕を一歩下がって咄嗟に避けるが、しかしドスの腕にはリーの言った通りネタがある。ぐわん、と目の前が不意に歪んだように思えて、そして痛みが左耳を襲った。
 目の前のドスの波打つように歪み、その声質もかわって聞えた。彼が何をいっているのかはよくわからない。水の中で話される声を聞いているかのようだった。
 リーは膝から崩れ落ちた。眩暈と痛みが酷い。
 なんてことだ、とリーは思った。サクラのピンチを救いに来たはずが、自分もピンチに陥ってしまっている。
 ふと脳裏にチームメイトの顔が浮かび上がった。そういえばもう集合時間だった。彼等は心配しているだろうかと、一瞬関係のないことを考えた。
 そしてリーは、吐いた。あの時のカブトと同じように。左耳から血が流れ落ちるのを感じる。

「リーさん!」
「ちょっとした仕掛けがあってね……交わしても駄目なんだよ、僕の攻撃はね……」

 ドスの腕の機械は音を発することが出来る。拳をかわせても、音は見えないからかわせない。音は震動だ。音が聞えるというのは空気の震えを鼓膜がキャッチするということ。人間の鼓膜は百五十ホーンを越える音で破れる。その更に置くにある三半規管に更に衝撃を与えると、全身のバランスが崩れる。それが音であるとわからせない為には、人間には聞えないくらいの高音を発すれば問題はない。

「君は当分、満足に体を動かすこともできない……」
「俺達に古臭せー体術なんて通じねーんだよ……まー途中まではよかったが、オレの術まで披露したんだ、そう上手くは……っ」
「声東撃西!」

 そんな声がして、咄嗟に振り返ると目の前に銀色の光が迫っていた。咄嗟に地面に伏せてそれを回避すると、逆手に握った刀でこちらを攻撃してきていたはじめは刀を手の中で回転させて、順手に持ち返る。

「東に声して西を撃つ……私がお前のチームメイトと戦っているからと油断するのはよくないな」

 すっと刀を振るい、ザクを攻撃すると見せかけ、順手から逆手に握り替えてリーの前に立っているドスの片腕に命中させる。刀が肉を破る、気持ち悪い音がした。

「っく……! やってくれますね!」
「チッ……オレの能力は超音波と空気圧を自由に操る能力……古臭ぇ剣術でどうにかできると思うなよ!」

 ザクとドスが同時に攻撃を放った。はじめは体を屈めて空へ飛び上がり、木の枝に飛び移ると口寄せを解いて刀を消す。確かに彼等の力は剣術でどうにかなるものではないだろう。紅丸もキンから離れて枝に飛び移る。はじめは記憶を辿って、一度も使ったことのないその術の印を組みだした。

「ふん……そっちは任せたよ、ザク、キン。次は君だぁああああ!」

 言うなりドスは身を翻してサクラに襲い掛かった。
 咄嗟にクナイを構えるサクラとドスの間に、リーが割って入る。バランスを失っているはずなのになぜそんなことが出来るのだろうかと目を見開くドスに向かって木ノ葉旋風を放とうとするリーだが、しかしさっきの攻撃が利いているのだろう、足に力が入らない。

「さっきの攻撃……やっぱり利いていたみたいだね! 少々驚かされましたが――あの閃光のような体術が、面影もないじゃないですか!」

 そしてドスの拳がリーに向かって飛ぶ。咄嗟に左耳を庇うリーだが、ドスの腕から出る音は彼自身のチャクラによって方向を決めることが出来る。スピーカー作用を持つその腕から放たれた音はリーの左耳を穿ち、絶叫をあげてリーは前に崩れ落ちた。

「リーさん!!」
「先輩!!」

 気を失ったリーには目もくれず、ドスはサクラに向き直る。次はサスケを殺る気だ、そう悟ったサクラの目が見開かれた。

「させないわ!」

 一気に三本のクナイを投擲するが、それは全て防がれてしまう。ドスが腕を振り上げて迫ってきた。はじめは振り向いて、自らに変化した紅丸に合図を出す。ポーチの中から出したハッカ特製・ミント味の兵糧丸を口に含み、サクラとドスの間に飛び降りた。
 はじめの目の前から水が湧き出る。それがぐるりと仲間達全員――当然、四人が寝ている、野宿用に使っていた大樹も含む――をぐるりと囲み、上からこられないように上部をドーム状に封鎖する。

「水陣壁!!」

 水の無い場所でチャクラを水に変えて、七人を囲んで守り、尚且つ水が崩れないよう維持し続けるのは、はじめのような下忍如きには高等すぎる技だ。出来たくらいでも奇跡だろうし、はじめはこの技に必要な最低限のチャクラ量が掴めていない。だからハッカ特製の、一般よりもチャクラ増量の多い兵糧丸を食べてでもかなりのチャクラを消耗してしまうくらいだ。

「はじめ……!」
「マナだけでも起こしてくれ! それだけで随分違うはずだし、私のこの術もそうはもたない……」
「わ、わかったわ」

 サクラはマナの体を揺らした。暫くするとマナが体を起こして、ぼんやりと目を擦りだす。もっと早く起きなさいよと叱咤しつつサクラは襲われている現状を説明し、リーがつい先ほど倒れたこととドス、ザクの能力について説明している。
 後ろで女子二人なんで起こさなかったんだだの起きなかったそっちが悪いなどと騒いでいるのが聞えるが、今はそれどころじゃない。水牢の術を発動させようと試みるが、三人分は今のチャクラ量では結構きつい。

「マナ! 兵糧丸を三つくれ!」
「おーけー、持ってけドロボー」

 ミントの爽やかな味が口内に広がって、口の中がすうっと涼しくなるのと同時に、体が燃え上がるように熱くなった。三つもハッカ特製の兵糧丸を食べて無理矢理チャクラを増量させたのだ、体へかかる負担は大きいかもしれないが――これも皆を守るため。

「水遁・水分身!」

 水陣壁の外部に現れた三人のはじめが、無表情のままに腰を落とす。水分身のはじめが無表情なのに対し、本体はかなり顔色が悪い。

「水車輪!」

 一気に投擲されたそれらは目くらましに過ぎない。本当の目的はそれを避けようとしたドスたちが、新たに作成された三人の水分身に背後から術を喰らう時。

「水牢の術!!」

 三人が三つの巨大化した水球のようなものの中にそれぞれ閉じ込められる。中も水というわけではないのでちゃんと呼吸も出来るようになっているから、ちゃんと生きていけるだろう。はじめが水陣壁を解き、六人になっていた水分身の内、三人を水に戻す。

「古きものは即ち基礎……古臭いと貶めているだけで、古きから極めようと思わないお前等は、どんなに新しきを極めても強くはなれない……!」

 息絶え絶えになりながらも、はじめは水牢の中の三人に向かって叫ぶ。水牢の中の彼等の顔が怒りと恥辱に歪んだ。

「……とは言え、これは流石に厳しいな……っ」

 水陣壁・水分身・水車輪に水牢を使ったのだ。兵糧丸を食べていたとは言えチャクラ消耗は激しいし、兵糧丸を食べ過ぎた所為で体の具合もおかしくなり始めている。元々兵糧丸というのは食べ過ぎると体に毒という。食べる量については個人差があるが、はじめの場合四つは多すぎたらしい。頭がギンギン痛む。

「うぅ……っ」

 地面に這い蹲って、それでもなんとか術は維持する。

「ちょっとはじめ、大丈夫!?」
「おい、大丈夫か、はじめ!」
 
 サクラとマナが駆け寄ってきた。視線を巡らすと、樹上にはじめに変化した紅丸が立っている。ということは、救援を呼ぶことには一先ず成功したらしい。一応、十、三、八班に頼んでもらうことにしたが、一体どの班が呼びかけに応じてくれたのだろうか。

「げぉっ、ぐ、おぇぇ……」

 吐き出した胃液の中に混じっていたのはぐちゃぐちゃになった、未消化の兵糧丸の爽やかな空色だ。兵糧丸が吐き出されるのと同時に、燃えるように熱かった体から体温が逃げていくような気がした。すうっと寒気がする。指先からチャクラが逃げていくような感覚。
 そしてはじめのチャクラは、もう水牢と水分身の負荷には耐え切れなかった。

「っく……!」

 拳で地面をどんと叩いても何にもならない。水牢と水分身が水となってばっしゃりと地面に散る。水牢から脱することの出来た三人が、不敵に笑いながらはじめを見下ろした。

「結局、君も古きを極めきれなかったようですね……!」
「か、は……っ」

 出し抜けに振るわれた右腕から発された拳を腹に食らって、吹っ飛んだはじめの体がずるずると地面を削る。更にその腕から発された音に、はじめは耳を押さえて蹲った。つうっと赤い血が耳から流れ出る。はじめの両腕がぶるぶる震えながら持ち上げられ、何かの印を結ぼうとした。しかしその手は印を結び終える前にぱったりと地面に落ち、はじめの頭ががくんと下がった。苦悶の色を浮かべた瞳からしてまだ意識はあるようだが、もう戦える状態ではないだろう。
 これからはもう、マナとサクラと紅丸で戦うしかなくなった。

 +

「はじめ!」
「くっそーてめえら、アタシの仲間と先輩に手ェ出しといてただで済まされると思うなよ!」

 マナの隣にはじめに変化した紅丸が飛び降りて、獣人分身を解いた。いくぞサクラ、と自分より小柄なその少女はクナイを構えて言う。マナが走り出して、クナイに結びつけたワイヤーをドスに巻きつけんとするが、それは簡単にかわされてしまう。ドスが袖を捲り上げて、右腕でマナを攻撃しようとした。そうはさせないと、その注意を逸らす為にサクラは手裏剣を投擲する。
 ――私だって、私だって!
 私にだって戦える。私だって忍びなんだから!
 四枚の手裏剣を連続で投擲するが、それはドスに届く前に、ザクの手に穿たれた穴から出る空気圧に跳ね返された。自分の方へ飛んでくるそれをなんとかかわす。風が止んだと思った次の瞬間、頭皮が引っ張られる感覚に尻餅をつく。
 気付けば後ろに立つキンが、サクラの髪を掴みあげていた。

「あたしのよりいい艶してるじゃない、これ。――髪に気を遣う暇があったら修行しろ!」

 そしてぐらぐらとその手を揺らす。髪が右に左に引っ張られて頭皮が痛い。甘いんですよ、という声が聞えたような気がして、視線を左に流せば、ドスに腕を捻り上げられたマナが身長足らずのために空中で宙ぶらりんになっていた。

「いっちょ前に色気づきやがって。――ザク! この色気虫の前で、そのサスケとかいう奴を殺しなよ。ついでに、あのマナとかいうチビもね」
「おーいいねー」

 愉しそうなザクとキンに、ドスは「おいおい……」と言うものの阻止する気は全く無いらしい。寧ろクナイをマナの喉元に構えてそれを実行する気満々である。
 
「動くな!」

 少しでも動こうとすると、直ぐに髪の毛を引っ張られてもとの位置に戻される。
 ――サクラさん……!
 目を覚ましたリーは直ぐにサクラの窮状を見てとったが、体が上手く動かない。どうにかして彼女が脱出してくれるかを望むことしか出来ずに、リーはサクラを見つめる。
 ――体に、力……入らない
 悔しさと悲しさと自己嫌悪と怒りと後悔と、様々なものが交じり合って、そして涙となって零れ落ちた。堪えようと必死になるも、涙は止まらず落ちていく。
 ――私……また、足手まといにしか、なってないじゃない……!
 いつだってそうだった。落ち零れと言われるナルトでさえ自分より頑張っているし、波の国でも、大蛇丸との戦いでもナルトとサスケは各々自分の全力を尽くして戦っていた。
 ――いつだって守られてるだけ。……悔しい……!
 ナルト、サスケ、リー、はじめ。死の森で一体何人の人に助けられたことだろう。
 ――今度こそは、って、思ってた
 自分をいつも守ってくれたナルトやサスケが倒れて弱っている時、今こそ自分が二人を守らなければとそう思っていたのに。結局リーに助けられてはじめにも助けられて、それなのに今はまた、サスケとマナが死ぬのを看ていることしかできない。
 ――今度こそ、大切な人達を……私が守らなきゃ、って
 拳を握り締める。「じゃ、やるか」と残酷な笑みを浮かべて、ザクがサスケのところへと近づいていった。マナが足をばたばたさせてもがき、紅丸がドスの足に噛み付いている。サスケは相変らず苦しそうだ。
 マナの目と一瞬視線が会った。彼女もまた悔しそうに顔を歪めている。足をばたばたさせたって何の意味もないと、きっと彼女だってわかっているはずなのに、彼女は抵抗し続けた。
 サスケを守らなければ。ナルトを守らなければ。マナを守らなければ。
 ――今度こそ、私が皆を守らなきゃ!
 ホルスターからクナイを抜き取って、構える。その動作に気付いたキンが冷たく言い放った。

「無駄よ。あたしにそんなものは効かない」
「何を言ってるの」

 サクラは不敵な表情で振り返った。絶対に負けられない――いや、負けない。皆は絶対自分が守る。

「――何ッ!?」

 そしてサクラは、その場にいた全員――叢の中で様子を伺っていた十班も含む――の驚愕の視線を受けながら、クナイで桜色の髪を断ち切った。
 それはかつて、サスケが長髪の子が好みと聞いて、いのと共に長い時間をかけて伸ばしていた髪だ。切られた髪に沿うようにして、額あてが地面に落ちていく。

 ――私はいつも、一人前の忍者のつもりでいて。サスケくんのこと、いつも好きだといっといて。ナルトに、いつも偉そうに説教しといて。……私はただ、いつも二人の後姿を見てただけ。それなのに、二人はいつも、私を庇って戦っててくれた
 ――リーさんも……はじめも。二人とも必死で戦ってくれた。私なんかの為に
 ――リーさん。貴方は私のこと好きだと言って、私の為に、命がけで戦ってくれた。貴方に、教えてもらった気がするの
 ――私も、貴方たちみたいになりたい

 立ち上がる。桜色の髪が舞い散る桜の花びらのように空を舞う。かちゃんと音をたてて、額当てが地面にぶつかった。
 ――皆、今度は……
 拳を握り締める。
 ――私の後姿を、しっかり見ててください!!

「キン、やれぇ!」

 印を高速で組みだしたサクラの背後に、キンが千本を思い切り突き立てる。しかしサクラの体だと思っていたそれは一瞬にして一本の丸太にかわった。

「変わり身の術……!」
「マナ!」

 ワイヤーに括りつけた木の実を投げつける。それがマナの口に届く前にワイヤーを回収すると、マナの顔色が変わった。

「うらぁああああああああ!」

 食べ物の恨み効果でマナのチャクラが暴走しだし、マナは体を前後に揺らすと、勢いをつけて後ろへ向かって蹴りを飛ばす。ドスの顎に命中したその蹴りに、彼の手が一瞬緩んだ。体を捻って脱出すると、紅丸の体に手を置いて、紅丸を自分の姿に変化させる。その時のサクラはもう、既に次の行動へと移っていた。

「キン、離れろ!」

 ザクが印を結んで両手をサクラに向ける。風の進路にいたキンに離れるよう命じて、投擲されたサクラのクナイを空気圧で跳ね返す。途中、彼女が変わり身の印を結んだ。跳ね返されたクナイが彼女にぶつかり、そしてそれは一本の丸太に変じる。

「二度も三度も通用しねえって言ってんだろーがよォ……」

 空から落下してくる、変わり身の印を結ぶ少女にザクはクナイを四本取り出す。どうせ変わり身、チャクラを消費してまで己の技を使う必要すらない。

「おめーはこれで、十分だッ!」

 投擲されたクナイが、咄嗟に急所を庇った少女の手や足に命中する。「次はどこだァ?」とあたりを見回していると、不意に右頬が濡れた。赤い血。目の前にふっと影が落ちる。

「なんだとっ!?」

 ――このアマ、変わり身じゃねぇ!
 先ほどの印を結ぶ動作はフェイクだったらしい。自らに突き刺さったクナイを抜いて襲い掛かってくる。咄嗟に顔を庇おうとした右腕に彼女のクナイが突き刺さった。そして左腕にサクラが噛み付いてくる。前方に立っていたキンに吹っ飛んできたドスの体が命中、二人が地面に転がり込む。クナイを両手に持ってドスとキンの方へ襲い掛かったのは二人のマナだ。

「放せこら!」

 クナイの突き刺さった右腕で、必死に噛み付いてくる女の頭を殴る。何度も何度も繰り返し殴っているのに、その顎が緩む様子はない。寧ろ殴れば殴るほど尚更ムキになって噛み付いているようだった。

「くっそ、放せ!」

 額や頬や鼻や顔からだらだらと血が流れ出す。それでもサクラは決してその顎を緩めない。死んだってずっとこの腕に噛み付き続けてやると、そう言わんばかりに。
 叢でその様子を伺っていたいのの心に、数々のサクラとの思い出が浮かび上がる。彼女がいのには負けないと宣言していたのを思い出した。

「サクラ、持ちこたえろ! こっちが済んだらアタシもそっちい――っ!」

 そっちいくから、その言葉が言い終わらない内に、ドスの音の攻撃を受けたマナが地面に崩れ落ちる。

「くそ、サクラ!」

 ザクに加勢しようとしたドスの足に右腕でしがみ付き、ドスのクナイの攻撃を左手に握ったクナイで防ぐ。先刻ザクの攻撃に使用した骨を拾い上げた紅丸は、それを使ってキンの千本と応戦していた。
 サクラが痛みに涙を浮かべても、血をだらだら流してもザクに噛み付いているのに、自分はここで隠れている。サクラもマナも、こんなに必死で戦っているのに、自分はここで隠れている。
 ――サクラ……それに、マナ
 殴られたサクラの口から血が流れる。それでもサクラは必死になってザクに噛み付いた。
 ――私は……私が……!
 不意にその顎が力を失って緩んだその瞬間、ザクがサクラを叩き飛ばす。ギャン、と叫びをあげた紅丸が地面を転がり、二度目の音の攻撃を受けたマナが、あの驚くくらい胃の丈夫なマナが、今度こそ吐いた。そのマナがサクラの直ぐ近くに投げつけられる。
 ――私が……皆を守んなきゃ!

「このガキどもがァ!」
 ザクが両手をサクラに向ける。殴られた左目の瞼が腫れ上がって、左の視界がよく見えない。それでもサクラは、マナと紅丸を守ろうと両腕を広げる。せめて二人だけでも守ろうと。
 そしてその瞬間、目の前を三つの影が覆った。

「へっ。また変なのが出てきたなぁ」

 それは正しく猪鹿蝶――第十班の三人だった。

「……いの?」
「サクラ、あんたには負けないって、約束したでしょ!」

 目を見開くサクラに、いのは笑って見せた。 
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