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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  百十四話:カボチ村の寄合で

「じゃあ、着替えるから!見張り、よろしく!」
「わかった」
「……覗かないでね!」
「……わかった」
「……絶対だからね!!」
「わかったって。疑ってるのか?」
「……違うけど!」

 事故で着替えを見られた以外で覗かれたことは無いし、全く疑っては無いんですけれども!
 さっき事故が起きたばかりだから、また何かありそうという、漠然とした不安が……!

「……通りすがりの誰かにぶつかられて馬車の中に倒れ込んでくるとか!急に忘れ物を思い出してうっかり踏み込んでくるとか!そういうの!やめてね!!」
「……なんだそれ。どんなだよ。無いだろ、それは」
「ならいいの!じゃあね!着替えるからね、今から!!」
「わかったって」


 と、ヘンリーに散々念を押して。

 そんなことをした割に特に何ということも無く、普通に馬車の中で着替えを終えます。

 はー、どうも過敏になっていたようだ。
 朝から妙なラブイベントみたいなのが続いて、動揺しすぎていたようだ。

 気分の問題で下も地味な下着に取り替えて、上は当然、(さらし)を巻いて!
 男装が完了して、すっかり気分も落ち着きました!


「お待たせ!じゃあ、行こうか!南の、カボチ村に!化け物退治の依頼を、解決に!」
「おう」
「あーあ。ホントに、着替えちゃったんだー。可愛かったのに、もったいないなー」
「コドラン!私は、今から男だから!わざわざウソ言わなくてもいいけど、女だって言うのもやめてね!」
「りょーかい。また変なヤツに、ドーラちゃんにベタベタされたくないもんね!それも、しかたないか!」
「ありがとう!それじゃ、本当にもう行こう!」
「はっ」
「ピキー!」


 そんなわけで、ようやく。
 たった一晩と少しの時間を過ごしただけのはずなのに、嫌に長かった気がするポートセルミでの滞在を切り上げて、カボチ村に向かいます。

 さっきまでヒラヒラした格好をしていたせいか、やけに動きやすい気がする男装に浮かれながら、順調に戦闘をこなし。


 日が傾き始めた頃、無事にカボチ村に到着しました。

長閑(のどか)なところだね。サンタローズと比べても、いかにも農村って感じ。立地の問題もあるのかな」
「そうだな。あそこは、町と町の中継地点になるからな。薬師もいるし」
「んー。田舎なのは、まーいいとして。なんてーの?活気がないっていうの?なんか、暗いなー」
「正体不明の化け物に悩まされているとあらば。無理も無かろう」
「ピキー」

 と、話しながら村に踏み込んだところで視界の端を素早く走り去る影を認め、思わず大声を上げる私。

「モ!……も、モンスター、かな!?」

 ……危ない、ついモモって呼びそうになった!

 まだダメだ、碌に姿も確認できなかったし!
 断定できるだけの情報が無いのに、何で判ったのかっていう!
 妙な疑惑のタネを、蒔いてしまうわけには……!

「……()()(ひな)びた村とは言え、人里に魔物が踏み込んでくるなどということが、ありますかどうか。……()りとて、あの身のこなし。他の何かとも、考えにくうござりますな」
「でもさー。おいらたちに気付いて、逃げてった感じだけど。あぶないヤツなら、それもおかしくね?襲うよな、人とか見たら」
「ピキー」
「ふむ。やはり、ドーラ様のご懸念の通り。邪悪な意思に支配されておらぬ可能性も……」
「……そうだね!決め付けるのは早いけど、まずは村で話を聞いてみようか!」

 私の無理矢理な誤魔化しから都合良く推測を重ねてくれたみんなの話に乗っかって、村で一番大きな建物、恐らく村長さんの家に向かいます。


「ごめんくださーい」

 ノックに返事が無いので、田舎の広い家ならこんなもんか、と声をかけながら家に足を踏み入れると。

「オラ、反対だ!」

 ポートセルミで会った村人さん、カールさんと同世代くらいの、若い村人さんが激昂して叫んだところに出会(でくわ)しました。

 こちらに気付かれた様子も無いし、どう見てもお取り込み中なので、少し待つことにします。

「どこの馬のホネとも知れねえ余所者に、村のことを頼む!?騙されて、礼金だけ持ってかれるのがオチだべ!」
「だども。ポートセルミの酒場には、なかなか腕の立つ戦士たちが出入りするって話だ。それに実際、おらが会ったのは」
「都会の酒場でたむろしてるような、どうしようもねえもんに!化け物が、退治できるわけがねえ!」

 カールさんの反論に若い村人さんはさらに声を荒げ、村長さんらしきちょっと偉そうなおじさんが仲裁に入ります。

「落ち着くだ。そりゃオラとしても、酒場にたむろするようなのはどうかと思うだども。お前たちに、あぶねえ真似をさせるわけにはいかねえ。ここはひとつ、ものは試しだ」

 カールさんはともかく、さっきから興奮してるお兄さんのほうは、そこまで強くも無さそうなんですけれども。
 やはりカールさんは、村人Aとしてはあり得ないハイスペックなのか。
 まあ若い働き手というだけで、あのお兄さんも十分に貴重ではあるんだろう。

 しかしいちいち酒場でたむろとか、普通に宿でごはん食べてただけなのに。
 カールさんに絡んできたゴロツキどもはともかく、仕事の後に酒場で飲んでる人たちだって、悪いことしてるわけじゃ無いのに。
 いいけど、別に。

 とか思ってる間に、お兄さんが憤懣やる方無いといった様子で立ち上がり、捨て台詞を吐きます。

「とにかく!オラは、反対だ!オラは、言っただからな!んじゃ、オラは仕事があるで!」

 他の人たちの返事も待たず、脇目も振らずに入り口に、つまりこちらに向かってくるお兄さん。

 折角なのでイベントを再現しておこうかと待ち構える私に、ぶつかる直前でお兄さんが気付き、キッと睨み付けます。

「なんだ、あんたは!退()いてけろ……っわ、わ、と!と、と!!……ぐふっ」

 ゲーム通りに突き飛ばされる予定だったんですが、お兄さんが勢い良く私に肩をぶつけようとしたところで、またすかさずヘンリーに引き寄せられて。

 勢い余ってバランスを崩し、立て直せなかったお兄さんが、そのまま扉に激突して呻いてます。

「あのー。大丈夫ですか?」
「……馬鹿にしてるだか!?あんたに心配される筋合いはねえ、放っといてけれ!!」

 怒りで顔を真っ赤にし、怒鳴り付けるように言い捨てて、足音も荒々しく立ち去るお兄さん。

 なんという、理不尽な扱い。
 突き飛ばされることには失敗したが、ある意味ゲーム通りと言ってもいいでしょう!

 私に理不尽な扱いをしたお兄さんの消えた方向を、ヘンリー他仲間たちが忌々しげに睨み付けていますが。

 いいんだよ、予定通りだから。
 イベントを、消化してみたかっただけだから。

 ……まあ、でも。
 私は待ってただけで、あのお兄さんをけしかけたわけでは無いし。
 別にフォローしてやる必要も、無いか。

 ということで、仲間たちのお兄さんに対する怒りはそのままにして、カールさんの元に向かいます。

 私の接近に気付いたカールさんが顔を上げ、パッと表情を明るくして駆け寄ってきます。

「あんたは、ドーラさん!そうか、来てくれただか!やっぱり、あんたを信用したおらの目に、狂いは無かっただ!」
「ど、どうも。あの、ちょっと近いんで。離れて」

 またしても至近距離に迫って喜びを露にするカールさんから()り気無く距離を取ろうとしたところで、またガッチリと手を握られ、ぶんぶんと振り回されます。

「あ、あの。ちょっと」
「いや、えがった!ドーラさんが来てくれたら、百人力だ!これで、化け物も」
「おい。その辺にして、早く話を聞かせてくれないか」

 振り回されてた手をヘンリーが掴んで止め、そのまま力尽くでカールさんの手を引き剥がし、さらに体を割り込ませて私とカールさんを引き離します。
 私の手だけは痛まないように、力任せにという感じだったので、カールさんの側はちょっと痛そうでしたが。

「あ?ん、んだな。……いやー、あんたもなかなか、強そうだなや!あんた、ドーラさんの仲間だか?おら、カールだ!あんたは?」
「……ヘンリーだ」
「ヘンリーさんだな!うん、ドーラさんと違って、見るからに強そうだ!これなら、万一もねえ!んだ、まずは村長さんに、話を聞いてけれ!」

 全く気にした様子も無く、話が進んでいきました。

 おおらかというかおおざっぱというか、また微妙に失礼なんだが。
 私の見た目は弱そうとか。
 本物の男じゃないし、いいけど。別に。

 カールさんの促しに応じてカールさんから離れ、今度は村長さんのところに向かいます。
 その少しの移動の間もヘンリーが常に私とカールさんの間にいて、絶対に近付かせないといった様子でしたが。

 明らかに男と思われてるし、男相手なのになぜかときめいてしまうといった血迷った下心も感じないのに、ちょっと警戒し過ぎじゃないだろうか。
 ヘンリーの過剰な警戒ぶりに、カールさんもなんだか妙な顔をしてるんですけれども。

 なんてことを深く考える前に村長さんの元にたどり着き、重々しく頭を下げられます。

「あんたらが、酒場に通う助っ人の先生だべか。こん(たび)は、オラたちの頼みを引き受けてくれたそんで。まことに、すまんこってすだ」

 一応、礼儀正しい感じだけれども、言葉に見え隠れする思い込みと偏見が。
 偏見とも思ってないから、隠そうという意識も無いんだろうなあ。

 まあ、いちいち矯正する労力をかけるつもりは無いし。
 モモを迎えに行くついでにこなしてるイベントだから、いいけど別に。どうでも。

「いえ。その化け物について、わかっていることを教えて頂けますか?」

 倒す気が無いとか、この人たち相手に匂わせる意味は無いからね。
 悪者にされないように、話を上手く運んで全てを丸く収めよう、なんて気は無いので。

 私はモモと無事に合流することだけを、この人たちは村の平穏を取り戻すことだけを、それぞれ自分の都合しか考えてないのはお互い様なので!
 モモさえ無事なら村がどうなってもいいとは言わないが、結果としてどう思われるかは、割とどうでもいい。
 少しの労力で誤解が解けるならしなくも無いけど、思い込みの強い、狭い世界で生きてる人たちにわかってもらうなんて、少しの労力で済む話では無いから。

 最終的にどう思われても問題が片付けばいいだけなので、手っ取り早く話を進めたい。

「んだな。オラとしても、話が早いに越したことはねえ。化け物のことだが、これがまんず、狼のような虎のような、おっとろしい化け物でしてな。どこに住んどるかは、わからねえんです。ただ、西のほうからやってくる、っちゅうことだけは、みんな知ってますだよ」
「そうですか。私たちも村に着いた時に、それらしい影は見ましたが。あの素早さでは、村で捕らえることは難しいでしょうから。()()を探して、乗り込むことになるのでしょうね」

 私の言葉に村長さんが一瞬黙り込み、また口を開きます。

「……そうですだ。だから、虎の子のあの金を、出しただ。酒場で豪遊する先生方には端金(はしたがね)かもしれねえだが、オラたちには大金だ」
「そうでしょうね。そう、思います」

 だから、酒場で豪遊とか。
 してませんから。
 言わないけど。

「おねげえだ。危険なのは、わかってる。だども、お前様たちは強いんだろ?どうか、化け物の巣を見付けて、退治してくれろ!オラたちを、オラたちの村を!どうか、助けてけれ!!」

 目の前にいて話していた私に、話すうちに興奮してきた村長さんが取り縋ろうとしたところでまたすかさずヘンリーが割り込み、一瞬戸惑った村長さんがすぐに気を取り直してそのままヘンリーに縋り付きます。

「どうか!どうか!後生だから!!」
「……」

 村長さんの懇願に、無言で顔を顰めるヘンリー。

 ……うん、気持ちはわかる。
 美女ならともかく、おっさんにそんなのされてもなあ。
 ありがとう、代わってくれて。

 なんてことを思いつつ、嫌な状況から早くヘンリーを解放するためにも、引っ張らずにさっさと返事をします。

「お話は、わかりました。畑を荒らされて困っている村の様子も見てきましたし、村の方たちを見殺しにするつもりはありません。問題は必ず解決しますから、どうか落ち着いてください」
「本当だか!?」
「ええ、必ず。解決します」

 倒す、とは一言も言ってませんが。

 断言した私に顔を輝かせ、ヘンリーから離れてまた私に向かってこようとする村長さんをまたヘンリーがブロックして、しばしの攻防の後にようやく我に返った村長さんが、咳払いをして重々しく口を開きます。
 そんなんされても、今さら威厳とか感じるのは無理なんですけれども。

「ん、んだば。棲み処を探すには時間も遅いですだに、今日は村の宿で休みなされ。宿には、使いをやっておきますけえ」
「ありがとうございます」

 これは、タダで泊めてくれるってことだよね!
 宿代くらい別に払ってもいいんだが、断るほどのことでも無いし。
 ここは、ありがたくお世話になっておきましょう! 
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